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帝国のみんな、そして出発

 アスラ帝国の皇帝と謁見を済ませ、竜の山脈に入る許可を得たライキルたちは、急いで王城イラスヘルムを出発しようとしていた。

 謁見の間を出たライキル、エウス、ビナ、ガルナが城の玄関に向かおうと使用人に案内されている時だった。


「皆さん、待ってください!」


 謁見の間から飛び出して追いかけてきたのは黒髪童顔の甘いマスクを持ったルルク・アクシムだった。あの場に彼もいたようで、ライキルたちは気づくこともできなかった。ただ、それはお偉いさんたちや皇帝、皇族たちを前にしていたからで、あの場で知人を探すために辺りを見渡すことは難しかった。


「お久しぶりです、霧の森以来ですね!」


「ルルクさん!!」


 ライキルとエウスが友人を見つけて嬉しそうに彼に駆け寄る。


「お久しぶりです。すみません、私たち挨拶も無しに出て行こうとして…」


「そうです、俺たち自分たちのことばかりで、帝国の皆さんにもご迷惑をおかけして…」


「そんな謝らないでください。陛下は皆さんのこと分かってくれていたと思います。じゃなきゃ、竜の山脈に行く許可なんて絶対出しませんから」


 ルルクが謝る二人に大人の対応をしていると、後ろから声が掛かって来た。


「おいおい、ルルクさんよぉ、陛下の心中を勝手に推し量るんじゃねえよ、そこらへんにいるうるせえ貴族たちに聞かれたらどうするんだ?不敬だって言われて首が飛ぶぞ?」


 後ろから気怠い感じで語りかけて来たのは、帝国の第二剣聖のフォルテ・クレール・ナキアだった。


「うるさいな、お前は黙って見回りでもしてろ、俺は今こちらにいる皆さんと話してるんだ。邪魔しないでくれ」


「なんで副隊長ごときのお前が剣聖の俺様に指図してんだ……どわぁあ!」


 とそこで威厳を放っていたフォルテを吹き飛ばし、後ろから巨大な甲冑を来た騎士が割り込んで来た。


「ああ!皆さん、お会いしたかったです!!ライキルさん、エウスさん、ガルナさん、あ、ビナ姉様!!」


 でかい甲冑の騎士がビナめがけて走って行く。


「ギャアアアアア!なんですか!?誰ですか!?」


 追いかけられたビナがガルナの後ろに回り込む。


「私ですよ、ベルドナです。ベルドナ・スイープです。ほら、今鎧取りますね」


 頭の銀の兜を取ると、艶々の黒髪ロングの可愛らしい顔つきのエルフが現れた。それにしても、ビナと並ぶと巨人と小人だった。


「おいベルドナ気をつけろ…最近、お前筋肉がついて来たんだから…」


 吹き飛ばされたフォルテが地面に伸びながら口を動かす。


「フォルテさん、そんなところで何してるんですか!?大丈夫ですか!?」


「アハハハハハハハハハハ、フォルテ、みっともないぞ」


 ルルクが腹を抱えて笑っていた。


 先ほどまでの緊張が嘘みたいに謁見の間の扉の前では大いに盛り上がる。

 古城アイビーに居た時のように穏やかで楽しい時間が流れている。

 だけどどうしようもなくひとり足りない。

 ここに彼がいればきっとライキルだって笑えていたのだろう。


 そこでふとライキルが半開きになっている謁見の間の扉を見るとそこにはひとりの女の子が立っていた。半身になってこちらの様子を静かにうかがっていた。

 その少女は半身だけだったが雪のように真っ白いふわふわした髪を揺らしては綺麗な黒い瞳をのぞかせていた。

 彼女は何度もこちらに来ようとしては思いとどまるといった行為を何回も繰り返していた。


『あれって、確かもうひとりの剣聖の…』


 ライキルがまじまじと見つめていると彼女と目があった。すると、するするとしゃがみ込んで目をそらして何もない足元を一生懸命見回していた。


「ルルクさん、彼女って…」


「え、ああ、彼女はそうだ紹介するよ、ちょっと連れて来るね」


 ルルクが扉に張り付いている彼女と少し何かを話すと手を繋いで引き連れて来た。


「彼女帝国の守護的な任務が多いからこの王都に引きこもりがちで人と接する機会が少ないんだ。でも、みんなのことは話してたから、名前は知ってるんです」


「し…シエルです…」


 オドオドとした様子で、ルルクの手を必死に握り、今にも逃げ出しそうな勢いだった。謁見の間で堂々とした姿をしていた人とは別人と思ってしまうほど震えていた。


「初めまして、エウス・ルオです。お会いできて光栄です」


 エウスが礼儀正しく頭を下げると、彼女はルルクの後で小さな声でよろしくと呟いていた。


 ライキルはルルクとシエルの二人を呆然と見つめていた。二人の間柄がとても親しく見て取れて羨ましく思ってしまった。だからか自己紹介もすっ飛ばして二人を見つめてしまっていた。

 それを見たエウスが失礼のないように慌ててライキルを紹介した。


「こちらがライキルで、あっちにいるおっきのがガルナで、ちっこいのがビナです」


「見ただけで誰が誰だか分かりました。みなさん、イメージ通りの方々でしたから…」


「え、イメージってどんな感じですか?」


「え、えっと皆さん、賑やかで楽しい人たちだと」


「そうですか、いい印象を持ってくださっていたようで良かったです」


「私が皆さんのこと変に話すと思ってるんですか?」


 ルルクが途中で口を挟む、エウスは笑顔で確かにそうですねと誤魔化していた。


「でも、シアード様だけは聞いていた話とは違いました」


「違うってどういう風にですか?」


「え?ああ、えっと、ルルクからは強くて優しい人だとは聞いていたんだけど、彼はずっと怖かった。私、目も合わせるのも怖かった…」


 シエルがそう言うとルルクが横から言った。


「ハルさん、何か思いつめたような顔してました。こっちに滞在していた三日間ほども面会謝絶で、誰も会えなかったんです。彼に何かあったんですか?」


「実は…」


 ライキルはそこでシフィアム王国に行っていたことを話した。


「居たんですかあの暴動の中に…」


「はい、シフィアム王国のサラマン王に挨拶をしに行ってて、その際に私たちも襲撃に遭って…」


「ですが、ハルさんがいたんですよね?」


「それが襲撃に遭った日、ハルは用事があってひとりで出かけに行ってしまって、私たちとは別行動だったんです」


 ライキルだってあの日を境にこうして会えなくなるなどとは思ってもいなかった。


「そうだったんですか…でも、皆さんご無事で本当によかったです」


「ありがとうございます。ただ、事件があった日から一週間ほどずっとハルの行方が分からなかったようで、やっと帰って来たと思ったら、私たちに顔を合わせることなく神獣討伐に行ってしまって…」


「なるほど、それは皆さんが必死に追いかけるのも当然ですね…」


「すみません、ご迷惑をおかけして」


「とんでもない、それは追って彼に理由を聞いてみるべきです。その行方不明の間何かあったのかもしれません」


 するとそこでフォルテが会話に混ざって来た。


「おい、ルルク、それだったら、竜でみんなを飛ばしてやれよ、それが一番手っ取り早いだろ。俺とシエルはあいにくここの守備があるからついてはいけないが、こいつなら黒龍一匹狩る程度の実力はあるから大丈夫だ」


 フォルテが隣にいたルルクの肩をバシバシと叩く。


 するとそれを見ていたシエルが彼の手をルルクの肩から払った。そして、さっきまでの引っ込み思案な性格はどこに行ったのかと思うぐらい強気で喋り出した。


「ちょっと、フォルテ、何勝手に決めてんの?ルルクと私はこれからお茶をするのよ!」


「バカ、こいつとお茶なんてお前毎日飽きるほどやってるだろ?」


「いいからルルクはダメ、連れてくなら他の人を連れてってよ」


「今手の空いてる奴なんてお前の子守してるこいつしかいねえんだよ」


「ルルクは私が指名した優秀な側近の騎士なの、私の護衛なの、外されちゃ困る」


 シエルがルルクを離さないようにべったりと抱きつく。


「なんで帝国最強のお前に護衛が必要なんだよ」


「うるさいとにかくダメなの」


 二人がいがみ合っているとルルクが割って入った。


「こらこら、二人とも喧嘩しないで、ダメだぞフォルテくん、シエルちゃんをいじめちゃ」


 ルルクがあからさまに二人を子供扱いすると、フォルテは額に青筋を立てていた。


「その喋り方むかつくからやめろ」


 そんな彼を無視してルルクはシエルと向かい合い彼女に言った。


「ごめん、シエル俺は彼らを送って行くよ。みんなハルさんに少しでも早く会いたいと思ってるから、その手助けをしてあげたいんだ」


「でも、竜の山脈まで行くのに竜での移動は禁止なんだよ」


「大丈夫、そこはちゃんと裏から回って行くから近道はしないから」


「…むう……」


 シエルは思い悩んでいたがライキルたちの顔を見るとわかったと頷いてくれた。


「あ、だったら私も同行します!」


 そこで手を上げたのはベルドナだった。


「却下だ」


「ベルドナちゃんは絶対だめよ」


 しかし、彼女の提案は二人の剣聖によってすぐに取り下げられた。


「なんでですかぁ…」


「未来の剣聖を危険地帯に送り込むわけにはいかない」


「その言い方だとルルクさんは良いんですか?」


「ルルクは黒龍との戦闘に関しては経験がある。それに十人程度ならこいつがしんがりを務めればみんなを安全に逃がせる時間は稼げる。ただ、そこにベルドナなんかの護衛対象が加わるといろんなリスクが跳ね上がっちまう。そんな無駄なことはしない方がいい」


「ベルドナ・スイープはこれでも騎士なんですけど、私って護衛対象なんですか…」


 フォルテはがっかりしたベルドナに「まだな」と付け加えていた。


 そして、誰が行くかが決まるとルルクの掛け声をかけた。


「それじゃあ、決まりですね。さっそく出発しましょう!」


 みんなが出発の準備に取り掛かった。



 目的地はハルがいる竜の山脈の研究所へと向かうこと、その際の同行者としてルルクの他にエルガー騎士団の精鋭騎士たちが数人ほどついて来てくれることになった。

 王城イラスヘルムの敷地内に帝国が飼育している竜たちが人数分用意される。

 ライキルたちは竜を扱えないので、それぞれひとりずつエルガーの精鋭騎士たちの後ろに乗せてもらった。

 出発する際には大勢の人たちが集まってくれた。ベルドナやフォルテ、シエルはもちろん、他のエルガー騎士団の人たちや、見送りしてくれる使用人たち、そして、そこにはアドル皇帝やガジス宰相もおり、その周りには貴族たちがいた。そして、皇族もエステラ・フューリード・アスラを除いた全員がいてみんなで見送ってくれていた。


「皆さん、それにビナ姉さまどうかご無事で!!」


 ベルドナが大きく手を振っている。


「おい、ルルク、しっかりみんなを無事に届けろ、失敗したらハルに殺されるからな!」


 フォルテが縁起でもないことを叫ぶ。


「ルルク、帰って来たらお茶だからね!!」


 全員が思い思いのことを叫ぶ。


 その時、アドル皇帝も大きな声をあげていた。


「みんな、ハルくんをよろしく頼んだよ!」


 竜たちが翼を広げて飛び立つ。一気に空を昇って行き雲を突き抜ける。見送ってくれた人たちはもう見えなくなってしまった。

 天にはまだ日が高く昇っており、日没はまだまだ遠い。


 目指すは竜の山脈の第一エリアにある研究施設。


 ただ、ひとりの青年に会いにライキルたちは空を駆ける。

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