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竜舞う国 王座に座す

 王城内を逃げ惑う人々、そんな慌ただしい〈輪廻の間〉で、対峙する者たちは沈黙していた。


 互いの視線が混じり合い、緊張が高まる。


 この場に必要だったものは、揺るぎない強い意思だけだった。相手を打倒すという、力だけが全てだった。


 ことは順調に運んでいた。

 作戦通り、ジャバラが三階を襲撃したのだろう、鱗の間の渡り廊下から人々が逃げ惑い始めていた。

 そして、その中に、本命であるエウス、ライキル、ビナ、ガルナを見つける。

 彼らはすぐにこちらに気付き、武器を構え始めていた。

 そのため、こちらも、武器を構える。


「よし、みんなで相手してあげようか、じゃあいくよ、準備して…」


 イルネッタが、ゆっくりと腰にある剣を抜こうとした時だった。イルネッタの脇腹に強烈な衝撃が走った。


「!?」


 突然の出来事で何が起こったか分からなかったが、吹き飛ばされている際に、隣に居たリップを見てわかった。イルネッタは彼女に蹴り飛ばされていたのだ。


『はぁ?あの野郎よくも、血迷ったか?』


 しかし、次の瞬間だった。


 円環の間に衝撃が走った。


「………」


 吹き飛ばされたイルネッタが目撃した光景は肝を冷やすものだった。


 ぶ厚い赤い大剣が、円環の間を支える巨大な柱のひとつを砕いていた。

 粉塵が舞い上がり、柱の破片が飛び散る。

 その破壊音を聞き、逃げ惑う人々の視線も集中する。


 砂煙の中からひとりの獣人の女性が現れる。


 瞳に怒りを宿し、肩を震わせ吐く息にも怒気が漂う。


 周囲の空気が変わる。


 誰もがこのわけの分からない騒ぎの状況から一気に、その獣人から離れることを選択し始める。


「おい、待て待て、あいつこんなに強いのか!」


 イルネッタが慌てて剣を構える。剣を交えなくてもわかった。イルネッタでは彼女には到底敵わない。ものの数秒で肉の塊になるのが目に見えていた。


「なにあの破壊力…完全に私たちを殺す気じゃないですか…」


「ですね、これは骨が折れそうです…」


 イルネッタの傍に居たスマとギリユもだいぶ獣人の化け物に取り乱されているようだった。

 ウルメアからの情報だとハル以外で手こずるような強者はいないと言っていた。

 しかし、それは、ウルメアの視点から見てのことだということを白炎のメンバーは気付くことができなかった。

 だから、今回の作戦は、ハルを隔離して、カルラを引き剝がせばあとは楽な任務だと思っていた。


 しかし、現実は非情で化け物が紛れ込んでいた。


「あの女…私たちを騙したな……」


 気に食わないこの国の王女様の顔が浮かび上がり、イルネッタはまずその女に殺意が湧いていた。


「くそ、本当にどうする…ここはゼノさんが来るまで…!?」


 そこでイルネッタの目には、獣人が姿勢を低くし、赤い大剣を振りかぶり構えている姿を捉える。


 彼女の次の攻撃態勢が整う。


 圧倒的な存在感がそこにはあった。


 白炎のメンバーは、彼女を挟み撃ちにしているにもかかわらず、誰も彼女の領域に踏み込むことができなかった。

 それはまるでこの国で一番恐れられている剣聖カルラの得意技の抜刀の構えのようで、まるで隙がなかった。


 しかし。


「ここは俺が行く!」


 そう声を張り上げ、斧を持って、大剣を構えているガルナに突撃して行ったのはゴベドラだった。


 そして、リップもそのゴベドラに続くと彼女がイルネッタたちに告げた。


「イル、この獣人は私とゴベで止めるから、あんたたちは、あっちの三人をやって!」


 リップが示す方向にはターゲットである、エウス、ライキル、ビナがいた。

 イルネッタたちが彼らの名前を知っているのは、気に食わない王女様が教えてくれたからであった。

 彼女はこの短い間で随分と、彼らと楽しく過ごしていたようで、様々な彼らの情報を知っており、白炎に流してくれていた。

 それでも、一番重要なガルナという獣人の戦闘力だけが抜け落ちているのは許せなかったのだが、それでも、彼らがどういう人間なのかはだいたいは把握できていた。

 戦闘において些細な情報でもそれは大いに役に立つ。

 その人の性格や傾向を知ってれば、それはそのまま戦闘で表面化し、相手の動きを読みやすくなったりと、恩恵は大きい。

 もちろん、ウルメアのように逆に豹変するようなタイプの前では無意味だが、たいていはその人の性格や癖を知っていれば戦闘で有利に働くことに間違いはなかった。


「スマはビナを、ギリユはエウスを、私はライキルをやるから、それでいい?」


 ゴベドラとリップが、圧倒的な動きを見せるガルナに苦戦するのを横目で見ながら、イルネッタはそう提案した。


「うん、それでいいよ」


「分かりました、それで行きましょう」


 スマとギリユも賛成してくれる。

 小柄なスマは、小柄なビナと相性がいいと思ったし、策士のギリユもずる賢いエウスとなら謀で勝ると考えた。

 そして、なんと言ってもイルネッタは、ライキル・ストライクという、英雄の庇護をたっぷりと受けているであろう彼女を、この手でズタズタにしておきたかった。


『見るからに、顔だけで選ばれた女だな…』


 イライラした。ライキルという女はイルネッタの嫌いなタイプの女だった。

 現実を知らず、ただその美だけを振り回してのうのうと生きてきたであろう彼女のような、騎士のなりそこないの女が武装しこのような命のやり取りである戦場に立っていること自体が不快であった。

 偏見と言われればそうなのだろう。イルネッタだって自分で自分の顔は美しいと思っているし、ライキルにだって負けてないと思っていた。

 しかし、そこではない、問題はどうにも彼女は愛する人と結ばれているようなのだ。英雄という普通ならそこら辺の小娘が届くはずもない領域の人間と、別にイルネッタ自身ゼノという生涯追い続ける相手がいるため、何にも羨ましくはないのだが、それでも、ただ、甘い蜜を吸い続けて寄生している、彼女のような権力に群がる害虫が許せなかった。


『剣の腕もたいしたことなさそうなくせに…フン、その高い鼻へし折ってやるわ』


 役割は決まった。

 剣を構え疾風のごとく走り出す。イルネッタの狙いはもちろんライキルただ一人であった。


「覚悟しろ、このなりそこないがぁ!!」


 ライキルに飛びかかると、彼女の身体が緊張で震えているのが分かった。これは彼女が人との殺し合いに慣れていない証拠だった。


『やはり、こいつ人を殺すことには慣れてない、やれる』


 イルネッタが剣を振り下ろす。初撃で決着はつきやすい、相手が緊張していればなおさらだ。


「死ね!」


 しかし、イルネッタの振るう剣は、ライキルにまでは届かなかった。


「おいおい、姉ちゃん、死ぬ気か?」


 イルネッタの剣はエウスに止められる。そのまま、鍔迫り合いに持っていかれ、斬り捨てようとしたライキルから離れて行く。


「おまえ、邪魔すんじゃねえよ!」

 ライキルを殺せないにしても深手を負わせるチャンスを逃したイルネッタはその怒りを邪魔したエウスに向けた。


「落ち着けって、あんた何そんなに興奮してんだ?あ、もしかして、殺し合いはこれが初めてか?」


「あ?」


 聞き捨てならない言葉を聞き、彼に対する怒りはさらに増す。

 裏社会でずっと生きてきた者が殺しを知らないわけがない。

 彼がイルネッタのことをよく知らなくても虫唾が走った。


「まったく、俺たちの大事なライキルさんを人殺しにしようとしないでくれよな」


 彼の余裕そうな態度がさらにイルネッタを刺激する。


「お前は聞いていた通り、人の感情を引き出すのが得意のようだな…真っ先にお前を殺したくなったぞ、エウス!!」


「やっぱり、あんたら、俺たちのことを知ってるんだな、しかもそのいい方だと協力者がいるな?」


 彼と話すごとにイルネッタの感情は揺さぶられ怒りが湧き上がり限界に達した。


「うるせえな、その口塞いでやるよ、この剣でな!」


 鍔迫り合いを打ち切り、イルネッタが後ろに後退すると、すぐにエウスに刺突を突き出した。


 近距離の刺突、それに鍔迫り合いで力負けしたエウスはのけぞって体勢を崩している最中だった。そういった場面での死剣は目覚しい効果を発揮し、ほぼ必中となり致命傷を与える。


 が、しかし、これまたイルネッタのチャンスは阻止される。


 エウスの顔めがけて放たれた死剣は、ビナの剣によって打ち上げられた。


「この野郎、次から次へと!」


 だが次の瞬間、払い上げられたイルネッタの胴体ががら空きになり、そこにビナの飛び蹴りが炸裂した。


「グハッ!?」


 イルネッタのみぞおちに深い衝撃と鈍痛が広がり、一瞬息が止まる。そして、吹っ飛ばされたイルネッタの身体は後ろにいたスマとギリユにキャッチされた。


「なんだ、あのちびの蹴り、尋常じゃないぞ…骨が折れたかもしれん……」


 咳き込みながら胸を押さえる。鈍い痛みが引かない。


「もしかしたら、彼女、スマと同じ、ドワーフかもしれません」


 小柄でありながら力強いのはドワーフの証拠でもあった。特に戦闘でドワーフは注意しなければならならなかった。一つ一つの攻撃が重く致命傷になりかねないからだ。


「ギリユ、白をちょうだい…スマはその間あいつらの相手を…」


「わかった、イル、任せて」


 スマが前に出ると、ギリユがイルネッタに白魔法を掛けた。


「ひとりで無茶するからですよ、ほら、動かないでください」


「どれくらい重い?」ケガのあんばいを聞いた。


「確かに手ごたえはあります。あぁ、これはひびが入ってますね。でも、折れてはいませんから負担も少なくて済みそうです」


 ギリユがイルネッタの胸の辺りに手をかざし、送る白い光の情報を感じ取っていた。


「それなら良かった…」


 白魔法にはケガに応じた負荷があった。あまりにも重いと治療した際に、そこで気絶したように眠ってしまう。そうなれば、白魔法とはかけてもらわない方がいい時があった。つまり、白魔法は一瞬でケガを治すがそれだけデメリットも存在していた。ただ、それでも、戦闘での白魔法は強力な切り札として有用だった。


 白魔法を掛けてもらっている間、イルネッタは辺りを見渡した。相変わらず、ゴベドラとリップは苦戦を強いられていた。


『クソ、最悪だな…』


 こんなところで時間を食っている場合ではなかった。彼らを仕留めなければ、あの英雄が来てしまうからだ。

 そうなれば全てが終りだった。


「ギリユ、私の治療が終ったら、すぐに後方支援を頼む、私とスマで前線を張る」


「はい、相手は乱戦を持ちかけて来てますからここは力を合わせた方がいいですね」


「こんなはずじゃなかったのに…」


 イルネッタが、戦闘の前線を見ると、スマがひとりで器用に三人相手に時間稼ぎをしてくれていた。


「さあ、もう大丈夫です」


「ありがとう、ギリユ、それじゃあ、後ろは任せたよ」


 距離を取りつつ拳の武装であるガントレットで戦っていたスマの援護に、イルネッタは駆け出した。




 *** *** ***




 ついに、この混沌極まる竜舞う国の王都エンド・ドラーナで、大規模な暴動が始まった。

 街のいたるところで竜が暴れだし、地下に潜んでいた暴徒たちがその騒ぎに便乗して街を練り歩く。

 王城にいた騎士たちもその混乱を沈めるために、各街に駆り出される。

 何もかもがひとりの女の子の筋書き通り。


 大量の犠牲を払ってたった一人の愛する彼を手に入れにいく。



 王城ゼツランの王座の間にて、深海の底のような深い青色のドレスを身につけたウルメアは、王座に座していた。

 普段は父親であるサラマンがふんぞり返っている場所だが、ウルメアはそこで本を開いてページをめくっていた。


 本を読んでいると王座の間に、ひとりの騎士が入って来た。彼はウルメアの私兵である赤龍のメンバーのひとりだった。


「ウルメア様、報告に参りました」


 ウルメアは本から顔を上げて、跪く騎士に目をやった。


「どうぞ」


「現在、オートヘルのマーガレット様によって、王都全域で竜の暴走並びにその騒ぎに便乗した地下の者たちが暴徒化し、王城の騎士たちの大半もみな外に出払っていきました。いまこの城内は我々赤龍の者たちしかいない状況です」


 王城内の騎士たちの人数を減らし、警備を手薄にする目的で、マーガレットに依頼した竜たちの暴走は、地下の者たちまで引きずり出してくるという良い結果をまねており、それを聞いたウルメアは本を閉じた。

 王城内にいる騎士は全員精鋭騎士であり強者ばかりであった。もちろん、ウルメアからしたら、自分の足元にすら及ばない者たちばかりなのだが、人数が多いとそれだけ、作戦の失敗が跳ね上がる可能性があった。不確定要素の排除は必須だ。


「現在、サラマン王、ヒュラ王妃、キラメア王女、バラハーネ宰相には竜王の間の各部屋にて軟禁状で拘束してあります」


 現在、王城内には赤龍の人間しかいなかった。そのため、彼らたちが外に出ることは不可能だった。それにキラメア以外の者たちは暴動により、王族や特権階級の者たちの身の安全を確保するという理由で竜王の間から出ないようにと言ってあるため、疑いはしないだろう。緊急時、王の身を護るため、騎士たちと立場が逆転することはよくある。それは本当に失ってはいけない人たちを守るために必要なことだったからだ。サラマンもそのため、彼らのいうことをすんなりと受け入れることは多々あった。今回もその流れでしたがったようだった。


「彼らのことはどうしましょうか?」


「絶対に外には出さないで、騒ぎが収まるまで安全に守ってあげて」


「承知いたしました」


 赤龍の騎士が深々と頭を下げた。


「あとは?」


「ジャバラ様が剣聖カルラと交戦中、白炎がシアード様のお連れの者たちと交戦中です」


「そっか、ジャバラさんには私が手を貸そうかな…彼には別件もあるようだから」


 彼の所属する組織の依頼のことも、ちゃんと考えていたウルメアは、戦闘を変わってあげてもいいと考えていた。

 彼がそこら辺の者たちとは一線を画した実力者なのは知っているが、カルラもまた大国の剣聖という実力者であり、両者の戦いは長引くことが予想された。

 だから、思った以上に状況が好転して余裕がある今なら、カルラの相手を変わってあげてもいいと思っていた。


「それとウルメア様、ひとつお耳に入れておきたいことが」


「なにかしら?」


「ゼノ様が謁見したいと申しておりますがいかがしましょうか?」


「…彼、任務中のはずなのだけれど?」


「それがどうしてもお話ししておきたいことがあると、何でもこの作戦に関わることだとか…」


 彼がいない状態であのガルナをどうやって止めるのかとウルメアは思った。

 ウルメアは、一度レイドで彼女と手合わせしたことがあった。もちろん、本当の実力は隠して戦ったが、ゼノが引き連れてきた連中で彼女の戦闘センスについて行ける者などひとりもいなかった。

 ウルメアが白炎で評価しているのはゼノだけであり、他の者などそこらへんに転がっている石ころとなんら変わりなかった。


「具体的なことは聞いたのかしら?」


「それが、直接会って話したいと…」


 赤龍の騎士も申し訳なさそうになっており、ウルメアも気の毒になり、ここは自分が折れてあげた。


「…わかった、彼をここに呼び出して…」


「承知いたしました」


 報告を終えた赤龍の騎士は、王座の間から出て行った。



 ひとりになったウルメアは本のページに目を落とした。

 そこにはいつだって彼女の大好きな物語と彼がいた。


 王座の間、周辺では人々が逃げ惑う騒ぎと、戦闘の轟音が響き渡っては建物を揺らしていた。


 ただ、そんな外の騒ぎも気にも留めない、現実から目を背けた王女様の目に光はなかった。


 もう、何もかもが、自分にとっては関係なく、全て彼だけのことにウルメアの思考は集約されていた。


「早く欲しいな…ハルのこと……」


 完全に自分だけの世界に入り込んだウルメアは、彼と過ごすこれからの幸せな日々のことを想像する。


 きっとこんなことになってはこの王城にはいられないから、人里離れた場所に家を建てて、そこに二人で暮らす。お金はウルメアが裏社会に殴り込んででも手に入れて二人の生活資金にするつもりで何も問題はなかった。

 朝食、掃除、洗濯、あらゆる家事はウルメアに任せて欲しかった。好きな人にはどこまでも尽くしてしまうタイプであると自覚がある自分が彼の身の回りのことをなんでもやってあげたかった。

 だけど、そのかわり、ハルにはただ、毎日、自分だけを見て愛して欲しかった。


 そうやって幸せな日々を繰り返して行く夢の世界に入り込んでいた。


 けれど、その夢は王座の間の扉が開くと一瞬で崩れ去り、現実に引き戻される。


 身なりを整えた悪人ずらの男が歩いてきていた。


 王座の元で彼が跪く。


「手短に話せ」


「ウルメア様、この度はお願いがあり、お会いしに来ました」


 ウルメアは本に目を落とす。


「その前に先にこの作戦に関わることを述べろ」


 ゼノ・ノートリアスがそこでひと呼吸おいた後告げた。


「それは、俺が裏切り者だということです…」


「………」


 ウルメアからしたら、その事実は何も作戦に支障をきたすものではなかった。


「ウルメア様、俺はこの作戦に反対です。あなたとあの剣聖が結ばれることに…」


「理由は何かあるのか?」


 視線は本に落としたまま尋ねた。

 眺める本の中では、竜騎士が大活躍をして、みんなにちやほやされていた。ただ、それをお姫様が、気に食わないといった感じで、もやもやしている描写が描かれていた。


「それは、俺がウルメア様のことを愛しているからです」


 ウルメアはゆっくりと本から顔を上げた。


 そこには真剣なまなざしで、跪きながらこちらを見つめる彼がいた。


「そうか、お前、私のことが好きだったのか」


「はい、身の程はわきまえています。それに叶わない恋だとも…ただ、気持ちは伝えて起きたってそう思ったんです……」


 彼の本音のようだった。


「お前と会ったのは七年前のあの日の夜だったよな?」


「はい」


「私はあの日お前に燃やされた本のことを今でも覚えている。あれは母様から一番最初にもらった大事な本だった」


「………」


「安心しろ私がお前を愛することは一生無い」


 ゼノの頭は段々と沈んでいった。


「去れ、もうお前に用はない、邪魔するならここで殺す」


 ウルメアの背から鱗の触手が伸び始める。


「失礼いたしました。ですが、この作戦には最後まで参加させてもらいます」


 ゼノが振り返り颯爽と王座の間を後にした。


 ウルメアは何事もなかったかのように本に視線を戻しながら、ハルとの幸せなこれからの世界の妄想に浸った。


「待ってるよ…ハル…」


 王座の間の王座でウルメアは独り待ち焦がれる。


 心の底から愛する人のことを。


 例え、愛されなくても、ずっと待つ…。



「こっちに来ちゃったか…」


 ウルメアは全身に自身の天性魔法である鱗の触手をフルプレートの鎧のように巻いた。

 顔から身体、自分のすべてを鱗で覆い、自分がウルメアであるという存在を隠した。


 王座の間にあった全面ガラス張りのガラスが全て一気に割れると、二人の戦士が転がり込んで来た。


 その侵入してきた者たちはウルメアがどちらもよく知る者たちだった。


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