竜舞う国 予告通り
〈鱗の間〉のホテル三階のラウンジで、エウスは頼んだジュースを飲んでいた。隣にはカルラがおり、同じくジュースと軽い軽食を取っていた。
「…ということなんです。エウスさん、分かっていただけましたか?」
「話しは分かりました。ハルがやりそうなことです…」
エウスの目が少し寂れる。
カルラから聞かされたことは、ハルが今何をしているかだった。
不気味な手紙を受け取り、灰竜の館という得体のしれない場所で用事を済ませている最中とのことだった。さらにシフィアム王国に行く決心がついたのも、このことがきっかけとのことだった。
『少しは相談してくれてもいいと思うんだけどなぁ…』
昔からよくあるのだが、ハルは知らない間に危険な道に首を突っ込んでいることが多かった。
特にハルが力をつけてからは、しょっちゅう危険なことは、全てひとりで片付けたがる癖がついていっているような気がしていた。
『まあ、なんていうか、これは俺のわがままだな…』
どう考えても実力が足りない自分が悪かった。
しかし、こう長年一緒に居るため分かるのは、ハルはみんなを信頼していないのではなく、彼は危険な任務などを見極める目を持っているというころだった。
つまり適材適所である。
今回もきっとカルラのような大国の剣聖に話すぐらいの案件だったのだと容易に想像できた。
「ハルさんは、皆さんのことを心配しておりました。余計な心配を掛けたくなかったのでしょう」
「ふーん」
エウスは、隣で軽食を食べるカルラを見つめた。天性魔法で彼の感情を読み取る。するとそこには何かの迷いがあり、これは長年この能力を使って来たエウスから言わせてみれば、まだ何か隠しているという結果に至った。
「カルラさん、もしかして、まだ、俺に話していないこととかありませんか?」
「え…、ああ、その、あります」
やけに素直にでもどこか言いにくそうに彼は軽食を取るのをやめた。
「あ、別に言えないんだったらいいですよ、ハルとかに止められてるんですか?」
「いえ、ハルさんはエウスさんになら全て話していいと言っていたので」
「ほう…」
そう言ってくれていたのは素直に嬉しかった。しかし、隠していることが何か不穏過ぎて、そっちの不安の方が勝ってしまう。
「聞かせてくれますか?」
「はい、実はハルさんに脅迫文が送られて来ていたんです…これです…」
エウスは一枚の真っ赤な手紙を渡された。
「これ血ですか?」
「そうですね、この街の地上で、珍しく起きた殺人事件の死体に、この手紙が置かれていました。きっと目立つように被害者を殺したのでしょう…」
エウスは、感情を殺しながらも中身を確認した。
「白炎?これって組織の名前ですか?」
「おそらく」
「なるほど、自分たちから名乗って来るような奴らか、相当たちが悪いな…」
ハルに向けて、名を名乗るということは相当自分たちに自信があるか、バカのどちらかだった。
白虎を討伐したハルの噂は、この大陸西部の全域には確実に広まっていた。
それでもこうしてのホテル三階のラウンジで、エウスは頼んだジュースを飲んでいた。隣にはカルラがおり、同じくジュースと軽い軽食を取っていた。
「…ということなんです。エウスさん、分かっていただけましたか?」
「話しは分かりました。ハルがやりそうなことです…」
エウスの目が少し寂れる。
カルラから聞かされたことは、ハルが今何をしているかだった。
不気味な手紙を受け取り、灰竜の館という得体のしれない場所で用事を済ませている最中とのことだった。さらにシフィアム王国に行く決心がついたのも、このことがきっかけとのことだった。
『少しは相談してくれてもいいと思うんだけどなぁ…』
昔からよくあるのだが、ハルは知らない間に危険な道に首を突っ込んでいることが多かった。
特にハルが力をつけてからは、しょっちゅう危険なことは、全てひとりで片付けたがる癖がついていっているような気がしていた。
『まあ、なんていうか、これは俺のわがままだな…』
どう考えても実力が足りない自分が悪かった。
しかし、こう長年一緒に居るため分かるのは、ハルはみんなを信頼していないのではなく、彼は危険な任務などを見極める目を持っているというころだった。
つまり適材適所である。
今回もきっとカルラのような大国の剣聖に話すぐらいの案件だったのだと容易に想像できた。
「ハルさんは、皆さんのことを心配しておりました。余計な心配を掛けたくなかったのでしょう」
「ふーん」
エウスは、隣で軽食を食べるカルラを見つめた。天性魔法で彼の感情を読み取る。するとそこには何かの迷いがあり、これは長年この能力を使って来たエウスから言わせてみれば、まだ何か隠しているという結果に至った。
「カルラさん、もしかして、まだ、俺に話していないこととかありませんか?」
「え…、ああ、その、あります」
やけに素直にでもどこか言いにくそうに彼は軽食を取るのをやめた。
「あ、別に言えないんだったらいいですよ、ハルとかに止められてるんですか?」
「いえ、ハルさんはエウスさんになら全て話していいと言っていたので」
「ほう…」
そう言ってくれていたのは素直に嬉しかった。しかし、隠していることが何か不穏過ぎて、そっちの不安の方が勝ってしまう。
「聞かせてくれますか?」
「はい、実はハルさんに脅迫文が送られて来ていたんです…これです…」
エウスは一枚の真っ赤な手紙を渡された。
「これ血ですか?」
「そうですね、この街の地上で、珍しく起きた殺人事件の死体に、この手紙が置かれていました。きっと目立つように被害者を殺したのでしょう…」
エウスは、感情を殺しながらも中身を確認した。
「白炎?これって組織の名前ですか?」
「おそらく」
「なるほど、自分たちから名乗って来るような奴らか、相当たちが悪いな…」
ハルに向けて、名を名乗るということは相当自分たちに自信があるか、バカのどちらかだった。
白虎を討伐したハルの噂は、この大陸西部の全域には確実に広まっていた。
そんな化け物にこれから自分たち襲いかかりますと言っているのだ、そんなの絶対厄介に決まっていた。
「ええ、わが国でも調べたところ、白炎は精鋭の暗殺集団とのことでした。最近名乗りを上げてきた組織の様で、かなり目立った殺しをしているようです」
「暗殺集団…」
「裏社会の住人のようです」
顔をしかめ、飲んでいたジュースをテーブルに置いた。少しの沈黙の後エウスは呟いた。
「やっぱり出てきたか、そういう連中が…」
「エウスさんは何か知っているんですか?」
「まあ、こう見えても俺は商人なんでいろんな情報が商品と共に入ってくる立場にいます。だから、裏社会のことも全く知らないってことは無いです。ただ、このことは口止めはされています、ダリアス王本人から直接、周りには秘密にしろと、特にハルには…」
「ハルさんにですか?」
「そうです、ハルはレイドでみんなの英雄として心の支えになっています。きっと、ハルが裏社会のことを知れば知るほど、彼の手は人の血に染まります…そうなった時、きっと、誰も止められなくなります。みんなを救う英雄から、ただの殺戮者に成り下がります。だから、ダリアス王は頑なにハルには人殺しをさせてないんです…」
「なるほど、そうでしたか、確かにハルさんに人殺しは似合いませんね…」
人を殺す。
これがどれだけ人の心を知らず知らずのうちに蝕むか、想像もしたくなかった。
魔獣を屠るときでさえ、手に残る感触は最悪で、死体を見ると心に痛みが走るのだ。
生きるために必要な殺すという当たり前の行為を人は法で縛った。
そのため、人々は本来の野性味を失ってしまったのだろう。それは良いことだ。自然界の掟でもある殺し合いをしなくてもいいのだから、相手と意思疎通ができる言葉があるのだから、お互いの妥協点を探ることができる、素晴らしいことだ。
血が流れないことは何よりも重要だった。
生きるということは残酷なことであるが、その残酷を我々は言葉で和らげることができるのだ。
殺し合う必要などどこにもないのだ。
「ところで、エウスさん、お願いなのですが、皆さんをここに連れてきてもらってもいいですか?」
「どうしてですか?」
「ハルさんが留守の間、私が皆さんの護衛を任されているので、その、一緒に行動してもらった方が守りやすいんですよ、だから、今日は一日皆さんと行動させてもらいたいんです」
「分かりました、みんなを呼んできます…」
エウスが席から立ち上がりライキルたちを呼んで来ようとしたときだった。。
カルラが剣を構えるのが見え、エウスの背筋を凍らせるほどの殺気を感じた。
「下がって!!!」
その瞬間、後ろにあった窓ガラスが盛大に割れ壁が破壊される。
エウスはその衝撃で、ラウンジの外に吹き飛ばされた。
「何が起きた……ハッ!?」
さっきまで二人でゆっくりしていた、三階のラウンジは、めちゃくちゃに破壊され瓦礫の山になっていた。
そして、そこには、三体の竜の頭が顔を覗かせていた。
うち一体は突っ込んで来た衝撃で死んでおり、残りの二体の竜の首は胴体から切り離されていた。
「カルラさん!!無事ですか!?」
「あぁ、私は大丈夫だ、それより、エウスさんの方こそ、ケガは!?」
竜が突っ込んでくるとき、カルラに蹴り飛ばされたおかげで、エウスは軽傷で済んでいた。
そして、剣聖である彼に関しては全くの無傷だった。
『なるほど、やっぱり、剣聖ってすごいんだな…』
しかし、関心している場合ではなかった。
「すぐに、皆さんを連れて、ここから避難してください!」
カルラが叫ぶ。
三階に突っ込んで来た三体の竜の背中に誰かがいた。
この場を支配するほどの敵意をこちらに飛ばしており、その者はすでに戦闘態勢に入っていた。
「はい!」
エウスが駆け出す前に少し見えたが、その竜の背中にいた者は、真っ赤な鎧で全身を覆っていた。そして、尻尾があることからその竜で突っ込んで来た者が竜人でることが分かった。装備はロングソードで背中に背負っていた。
しかし、そんな敵の姿を確認している場合などではなかった。
今、最も恐れていたことが起こっている最中だった。
「おい、これ予告通り襲撃じゃねえかぁ!!」