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竜舞う国 竜襲

 何気ない、いつも通りの朝になるはずだった。


 竜たちと過ごす幸せな一日がまた今日も始まるとそう思っていたのに。


 今、王都中に、悪が集い、悪意が伝播する。


 誰もが救いを求めるために手を伸ばすことになるだろう。


 ただ、そんな都合よく救ってくれる英雄は現れてくれるか?


 信じて待つしかない。



 *** *** ***



 今日もせっせと竜たちのお世話をするジュキは、荷車で竜たちの食べる餌を運んでいた。


「ふぐぐぐん、乗せ過ぎたか?いつもより重い気がする…」


 小柄なジュキは力いっぱい荷車を引く。荷車の上には山のように肉が積まれていた。大変だったが竜たちが餌を食べる姿を見るのが、日を増して行くごとに好きになっていた。

 だから、すぐにでも竜たちに餌を食べさせてあげたかった。


 カーン…カーン…


 遠くからは珍しく鐘の音が聞こえて来て、ジュキは耳を澄ました。


「珍しい、こっちまで鐘の音が聞こえてくるなんて…なんか今日はいいことがありそうだ」


 変わり映えしない幸せな生活に満足していた。こんな何気ない日々が続いてくれれば、いなくなった人たちも安心してくれるはずだ。


「頑張るぞ!」


 荷車のスピードが上がる。普段から引っ張っていたおかげで、筋力もついていた。

 汗を流しながら竜舎まで一直線に向かう。


 影が落ちてきたのはその時だった。


「ん?」


 何かがジュキと太陽の間に割って入って、影を落としていた。


「なに?」


 荷車を止めて自分の頭上を見ると、一匹の竜が飛んでいた。


「あれ、どこかから、はぐれて来たのかな?あ、もしかして、お腹が空いてるとかかな?だったら、このお肉少し食べてもらおうかな…重いし」


 そう考えたジュキは、お肉を取り出すために荷車から出て後ろに回ろうとした。


 その時だった。


 頭上を飛んでいた竜がこちらに急降下してきた。


「え!?」


 そのスピードがあまりにも速く、明らかに荷車の前で止まる勢いではなかった。

 竜が降りてきた。荷車を粉々に破壊して、餌にするはずだった肉が辺りに散らばった。


「なに、なんで…」


 この時、竜の目を見ると、完全に瞳孔が開いて、彼らが狩りをするときの目だった。こちらを捕食するため、狙ってきていた。

 そして、竜が牙を剥く。

 ジュキの中に眠っているドミナスという組織で受けた訓練が活きる。全く恐れずに冷静に、竜が嚙みついて来る初撃を、軽々とバク宙でかわした。


 こういう時、人は恐怖で上手く身体が動かせないのだが、ジュキはすでに感情の切り替えを習得していた。

 普通は、感情がある人間が、感情を抑えることで素早く戦闘態勢に入れるような訓練を積むのだが、ジュキの場合は、空っぽだった感情にみんなから愛を注がれ人間にしてもらったので、手順が逆だった。


「この竜、どこの竜だ……」


 ジュキが、首に付いてるはずの、番号札を見るために、駆け出す。

 その数字で軍の竜か、街で飼っている竜か、など識別することができた。幸い、竜の首には首輪がついているため確認することができそうだった。


「壊された荷車の金払ってもらわないと…」


 駆け出すジュキをその竜は、ジッと目で追っていた。


 そして、周囲をぐるぐる駆けていたジュキが一気に、竜との距離を縮めた。それは番号札が竜の首上の付け根にあるため、背に上るかしないと見れないためだった。


 ジュキが接近してくると、竜も十メートル以上はある巨体を、素早く動かし襲いかかって来た。

 大きな口が開かれたあと、素早く噛むと、竜の口の中に肉の感触が広がった。仕留めたと思った竜が満足げに咀嚼するが、その時、竜は背に違和感がしていた。


「どれどれ、後ろ側の数字で見るんだよね…ふむ、なるほど、軍の竜だったか、それで所属はどこだ?きっちりお金を巻き上げないと…」


 竜が咀嚼していたのは、竜舎の竜にあげる予定だった餌のお肉だった。一方のジュキは身軽に竜の牙をよけ、舞い上げた砂ぼこりに紛れながら、背中の方へ移動していたのだ。


「ふーん、第一竜舎の竜か、確かあそこって、精鋭騎士団が管理してたよね、これはがっぽりふんだくれそうかも!」


 その時だった。


 ブォン!!!


 何かが空間を切り裂く音が聞こえた。

 ジュキの足元が暴れ出す。


「うわあ、ごめんごめん、すぐ降りるからね…それにしてもどうやってこの子捕まえようか…」


 ジュキは背中に乗ったことで竜が怒ったのだと思った。

 しかし、それは違った。

 竜の首には深々と大量の剣が突き刺さっていた。


「…え?」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 そこに見慣れたおっさんがかけて来て、竜の首に深々と突き刺さっている複数の剣の中の適当な二本を、両手で掴むと一気に体重をかけて、竜の首回りをかき切った。

 大量の血が流れ落ち、さっきまで元気だった竜は勢いを失った。


「………」


 あまりの突然の出来事に啞然としていると、ヨルムが焦りながら心配してきた。


「無事だったか、ジュキ!」


「ヨルム…なにしてんだよ、この子、第一竜舎の竜だぞ!」


「良し、ケガはないな、良かった。するとお前さんのところの竜舎は無事なのか!?」


「なに、どういうこと?」


「おまえら急いであそこの竜舎を確認しろ!急げ!暴れるようだったらすぐに殺せ!」


 ヨルムの後ろから、彼の騎士団のメンバーが慌てた様子で駆けていく。


「ヨルム、説明して!殺すってどういうこと!?」


「ジュキ、いいかよく聞け、これから俺たちは竜狩りに街に出る」


「竜狩りって…」


「ハヴェン!竜に乗ったら、ジュキをここの中央施設にまで運んでくれ、その後俺らの後を追ってくれ」


「了解です!」


 ジュキがわけの分からないまま話は進んで行く。


「何が起こってるの…?」


 ジュキがお世話していた竜舎の竜たちが次々と飛び立っていく。


「ジュキ、中央についたら外に出るな、あそこが今一番安全だからな!」


 ヨルムの前に無人の竜が連れてこられると、彼はすぐに竜の背に乗って空に飛び立った。


「ジュキちゃん、俺が説明するんで急いで乗ってください」


 ハヴェンという精鋭騎士で、ジュキの優しいお兄ちゃん的存在の彼が竜の背から手を伸ばした。ジュキも急いでハヴェンの手を取って竜に乗り込む。


「ハヴェン!ジュキちゃんのこと、中央に着くまでに絶対に守れよ!」


「はい、ナターシャさん!」


 横を通り過ぎていった竜の背にはナターシャが乗っていった。そして、そう声をかけた彼女は、ジュキにウインクすると、ヨルムの後を追う形で飛び立っていった。


 ハヴェンも続いて、竜を空に舞わせた。


 空高く上がると、視界が広がり、十二番街の現状を目の当たりにすることができた。いたるところから火の手や煙が上がり、平穏とは程遠い街の景色が広がっていた。


「ついさっきなんです、我々にも緊急召集がかけられたのは」


 ハヴェンも十二番街の悲惨な現状を見渡しながら、苦虫をかみつぶした表情をしていた。


「我々、バハム騎士団がボロスに集まったときには、すでに各街で竜たちや暴徒たちが暴れ回っていたんです…」


 十二番街にあるボロスはシフィアム王国の中枢の軍事施設であった。ジュキはそこの中央の要塞に連れられていた。【龍壁】と呼ばれる要塞だ。そこでシフィアム王国の軍事に関わる指揮が執られていた。

 つまり、この国で一番安全な場所だ。王城よりも守りは固い。


「なんで、こんなことになっているんですか?」


「わからないんです。ただ、今は救える人を救って、被害を押さえるしかないんです…」


 下を見渡すと、ボロスの中でもいたるところに竜の死体や騎士たちの死体が転がっており、凄惨な光景が広がっていた。


「ボロスで凶暴化していた竜たちはほとんど殺し終えたので、大丈夫ですが、それよりも街中で同じ現象が起きてることが問題なんです。それにさっきも言いましたが竜だけではなく暴徒たちもいます。だから、ジュキちゃんは、中央で待っていてください」


「私も何か、みんなのために…」


「ジュキちゃんはもう十分活躍してくれました。こうして、我々は竜に乗れているのですから」


 ハヴェンがこちらの気持ちを察してくれた。


「正直、ジュキちゃんの竜舎がダメなら我々は困り果てていたところでしたよ、だから本当に良かったです」


「でも、なんで私のとこの竜舎だけ、無事だったんでしょうか…」


 ふと疑問に思った。下を見る限り、ボロスにある竜舎は全滅している様子だった。


「………確かに…なんでだ……」


 ハヴェンも考え込んでいると、あっという間に中央の龍壁という要塞に到着した。

 大きな建物で、石造りの頑丈な要塞だったが、いたるところに竜の死体が転がって破壊の後があった。


 その要塞周辺では人々がせわしなく動き回りパニック状態で、いたるところから怒号が飛び交っていた。何が起きているのか状況が把握してきれていないので当然ではあった。急にこんなわけの分からない襲撃を受ければ対処のしようがなかった。なんせ内側からの攻撃なのだから…。


「それじゃあ、俺は行くけど、医務室があるからそこに避難しててください」


「分かりました、ハヴェンさんもどうかご無事で…」


「ありがとう」


 ジュキが竜の背から降りると、ハヴェンは竜を走らせすぐに空に飛び去っていった。


 要塞の前では慌ただしく人々が行き交っている。


「私も何か手伝わなくちゃ…」


 ジュキは急いで要塞の医務室に走って行った。

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