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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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獣女と帝国剣聖

「ハルとフォルテどうしたんだ?」


 エウスが二人に声をかけた。


 二人が横に並んで歩いているのは珍しかった。


 お互い、いつも出会うと同時に駆け出し、消えて行く。


 それにフォルテの表情はどこかワクワクした印象を与えていた。


 小さな子供がおもちゃを買ってもらう前のように。


「エウス、ガルナ見なかったか?」


 エウスは先ほど走っているとき、広場の隅っこで正座をして、瞑想のようなことをしていたことを思い出した。


 いつもハチャメチャに暴れているイメージがある、ガルナだが、その時はどこか別の意味で近寄りがたく、彼女の周りの空気の流れがいつもとは違って見えた。


 そんな静かな姿勢に目が惹きつけられてしまいそれが印象に残っていた。


「いたよ、確かこの先の、あっちの端で瞑想してた気がする」


 エウスが指で彼女がいたと思われるホールの近くの広場の方向を指しながら言った。


「ありがとう、エウス」


「なあ、どうしたんだ、二人とも一緒にいるのは珍しいんじゃないか?」


「いや、フォルテとガルナ、二人の勝った方と俺が一戦、剣を交えようかと思ってさ」


 ハルはエウスの問いに簡単に答えた。


「そのガルナとやらも相当強いのだろ、負ける気はせんがな」


 フォルテはやたら強気だった。


 それもそのはず、ここで帝国の剣聖が負けたら、面子が潰れるからであった。


 帝国二大剣士を背負う身として勝手にその片方が簡単に瓦解するわけにはいかない、ハルを除いて。


「そうか、その二人の試合は勉強になるかもな、アストル」


「はい、正直とても興味があります」


「それじゃあ、新兵たちにも見てもらうか」


 ハルとフォルテ、エウスとアストルは裏の広場に戻り、ガルナを探した。


 そこにホール近くで正座を組んで瞑想しているガルナの姿があった。


 どこか話しかけづらいオーラを放っていたが、ガルナがぱっと目を開くとこっちに走ってきた。


「遅いぞハル、ずっと待っていた」


「いや、俺は行くとは一言も言ってないぞ」


 フォルテがガルナを見つめる。


「彼女がそうらしいな」


「そう、彼女がガルナ、エリザ騎士団の一応、副団長」


 ハルがそう紹介するとガルナが不服そうな顔をした。


「…副団長だぞ一応ではない」


 ガルナがぽつりとつぶやく。


「ガルナさんすまないが俺と戦ってくれないか」


「その後ハルが戦ってくれるならいいよ」


 ガルナが率直に述べた。


「そのことなんだが、どちらか勝った方がハルと手合わせできるんだ」


「本当か!ハル!」


 ガルナの瞳が光を帯びて、その真っ赤な瞳に力が入っていく。


「本当だ、ただし勝った方とだけだからな」


「よし乗った!勝負!勝負!」


 エウスは新兵たちを集めて、彼らの試合を見学するように言った。


 フォルテとガルナが互いに持っていた自分の武器をハルに渡し、広場の真ん中に行って、訓練用の木製の剣を持って、互いに向かい合った。


「ハル、模造剣じゃないのか?」


 エウスが尋ねた。


「あれはダメだ、全然切れないが、それでも二人が使うと切れ味が増しちまう」


「そっか、防具もつけないみたいだしな」


「まあ、お互い加減はわきまえてるだろ、やばかったら俺が止めるよ」


 ハルが二人を見守るように立って見ていた。


「二人とも、魔法はダメだ、以上始め」


 そんな気の抜けた声で二人の戦いの幕が上がった。


 最初に仕掛けたのはガルナだった。


 木製の剣は大剣ではなく、互いにショートソードを使っていた。


 そのため、ガルナの剣技は感覚の違いからうまく扱えないと思っていたが、その予想は完全に外れることになる。


 ガルナの最初の一撃は、他の新兵たちには完全に見えなかった三人を除いては。


「おい、今、なんだ?」


 新兵たちがざわついた。


 それぐらい素早く振られる剣はもはや木でできた剣の出す音ではなかった。


 高速で打ち込まれる斬撃にフォルテはあっさり対応する。


『彼女なかなかやるな』


 ガルナの目は獲物を狙う、猛獣の目になっており、その赤い瞳は相手から返ってくる反撃をいともたやすくかわしていた。


「やっぱり剣聖に引けを取らないガルナはすごいな」


 エウスが感心して言った。


「まあ、まだフォルテの奴は様子見だろう、全然本気じゃない」


「ガルナはどうなんだ?」


「あいつも相手がどこまでできるのか探ってる状態だ、本番は相手の力量が分かった時だ」


 ガルナが打ち込むのをやめて相手と距離をとった。


 フォルテも一つ息を吐き、彼の綺麗な白金色の髪を片手で後ろにかき分けて、構えなおした。


「すごいですね、二人とも」


 いつの間にかハルの横にはビナの姿があった。


「そうだな、二人のレベルは高いよ、戦闘狂と剣聖だからな」


 今度はフォルテから仕掛けた。


 フォルテがガルナにまっすぐに向かい、剣を横に振る。


 ガルナがそれに合わせて剣をぶつけて瞬間にガルナの脇に鈍い痛みが走った。


「がああ」


 一瞬痛みで息が止まりかけた。


「え?今、ガルナさん横振りの剣、受けましたよね」


 ビナも何が起こったのか分からず混乱する。


「ああ、受けたな、だが、あれは避けたほうが良かったが、いずれ当たってただろう」


「どういうことですか?」


「フォルテはガルナに自分の剣の技量をあさらせたんだよ、そして相手にこの程度と分からせた、そしたらあとは簡単、相手が思い込んでる剣の技量以上の技を出せばいい」


 そうハルが解説していると、フォルテの腹にガルナの重い突きの一撃がめり込んでいた。


「まあ、そういうこと、ガルナも隠してたってこと、一対一の時はいかに相手を欺くかが勝負の決着を決めるんだよ、本当にそういう点ではあの二人はその才能がある」


「へー、魔獣退治とは違うんですね」


「そうだね、魔獣はある程度やり方が固定されるけど、対人戦はそうはいかない」


 エウスは感心しながらハルの説明に耳を傾けて試合を観戦していた。


 フォルテが予想外の一撃を食らったのか動きに鈍りが見えた。


 ガルナは容赦なくそこに襲いかかっていく。


 その後フォルテはガルナに押されっぱなしだった。


 ガルナが右手の剣でフォルテの頭めがけて凄まじいスピードで振りかざす、次の瞬間フォルテは左手で持っていた剣を逆手に持ち替えて振りかざされる剣に合わせて、剣を合わせたまま、地面を蹴って飛び上がり、その相手の振り下ろす勢いを利用して、剣が交わる点を中心として体を半回転させ、ガルナの横顔に膝蹴りを食らわせた。


 ガルナはその予想外の膝蹴りをもろに食らうが、強靭な精神力でフォルテが着地した瞬間を姿を見ずに感覚だけで足払いを繰り出し相手の体勢を崩した。


 ガルナがとどめを刺そうと剣を振ろうとしたが、さっきの膝蹴りが効いてきたのか、ふらついてしまった。体勢を立て直したフォルテはその一瞬を見逃さなかった。


 ガルナの振りかざした剣をよけ、剣で下か上にガルナの腹を打ちつけた。


 剣聖の名は伊達ではなく、ガルナが起き上がれないがケガもさせない絶妙な威力で剣を振った。


「ぐあああ」


 ガルナがそう言って崩れ落ちて試合に決着がついた。


「はい、フォルテのかち」


 ハルの気の抜けた声で決着がついた。


 フォルテも少し息が上がっていた。


「ガルナ惜しかったぞ、お前かなり強くなってたな」


 ハルが駆け寄ってガルナの頭を雑になでる。


「ハル、私は悔しい…」


 ガルナはそのまま伸びていた。


「お前、相手は剣聖だぞ、知ってたかお前は剣聖と戦てたんだぞ」


「まじか」


 ガルナは痛みで悶えてたが、そのあと嬉しそうに笑い始めた。


「ふふ、また私は強くなってしまった」


 そのようなことをぶつぶつ呟きながらガルナはまた同じ場所に行って瞑想を始めた。


「ハル、ガルナ大丈夫だったか?」


 エウスが言った。


「ああ、今の試合を思い出して反省でもしてるんだろう」


「な、なるほど凄まじいな」


 試合を終えたフォルテがハルのもとに来た。


「約束守ってくれるのだろうな」


「当たり前だろ、その代わり明日だ、万全の状態で来いよ、じゃなきゃ意味がないだろ」


「そうだと助かる、今日は俺も反省しなくてはならない課題が増えたし、剣も磨いておきたい」


 フォルテはそう言って帰って行った。


 フランベルジュを置いて。


「あいつ、それでいいのか」


 ハルが呆れて剣を持ってフォルテの後を追っていった。















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