パーティー 前半
譲位式が終わった後に、王城ではパーティーが開かれた。豪華な食事が運び込まれ、上流階級の人々は、ダンスや会話を楽しんだ。
その中でも、多くの人々が集まっていたのは、新剣聖となった、カイ・オルフェリアの周りだった。貴族はもちろん、他国の国賓が周りを囲んでいた。
その次に、多かったのは、やはり、ダリアス王の周りが多かった。こちらには主に上位貴族たちが日ごろの感謝など、気に入られようと必死になっていた。
元剣聖となったハルの元にも、それなりに貴族の人が挨拶に来てくれたが、現剣聖のカイに比べると、少なかった。
ハルの中でも、それが少し寂しくもあり、それと同時にカイへの贖罪になったような気がした。
何十年も、その適役が現れなかった、剣聖という地位。次期剣聖にカイがなるのではと、王国騎士団のなかでも話題になっていた時に、ハル達が王国にやってきて、王国を危機から救ってしまった。
そのあとも、度重なる功績をハルの実力が、もぎ取っていったため、王様もそれを認めざる負えなくなり、何十年も空白だった剣聖の席に、ハルが座ることになった。
だから、ハルはカイに対して悪気のようなものを感じていた。今のカイの多くの人に囲まれてる姿は当然で、そうあるべきだとハルは感じてやまなかった。
ハルが一通りの貴族とあいさつを交わし終え、外の空気を吸いに席を立った。見渡す限り、みんな笑顔で心地の良いこの空間はハルには少し眩し場所になってしまったのかもしれない。
謁見の間のバルコニーに出て、手すりの前まで行き景色を眺めた。上空には満天の星空が相変わらず輝き、その下には城下町があった。
普段はこの時間はとっくに真っ暗の城下町も、この時は、夜の空を、照らし返そうとしているように見えるほど輝いていた。
「眠らない三日間」
ハルが後ろを向くと、そこにはライキルの姿があった。
「はい、これ、飲み物、持ってきましたよ」
「ありがとう」
ハルはライキルのドレスの姿に少し見とれてしまった。普段から鍛えられ、絞られた体に吸い付くような青いドレスが、肉体美を際立たせていた。
さらに後ろの背中は、がらりと開いていて、その鍛えられた背中は、パーティー中の貴族や騎士たちも、振り返ってしまうほどだ。
「ライキル、よく似合ってるよ、そのドレス」
「ありがとうございます」
ライキルが嬉しそうに微笑み言う。
彼女もハルの隣で、グラスを揺らした。
「ハルも立派な剣聖の最後でした、素敵でしたよ」
「そうか、ライキルに言われると安心できるな」
「………」
「………」
二人は、城から見える、いつもと違う夜の景色に目を奪われていた。
「綺麗ですね」
ライキルが、ぽつりと言う。
「ああ、この三日間は、この景色がずっと見れるな」
「ええ、ずっとこんな夜が、続いて行って欲しいです」
ハルも今、ライキルが言った通り、そう願わずにはいられなかった。こんな平和で誰もが幸せな日々が続けばいいと。だが、それでも心の奥底で、知らない奴の気味の悪い声が言った。
『進め』
聞こえてきた声に、なぜか、ハルの体が固まり、意識が揺らぎ、眩暈がした。突然のことにハル自身何が起こったのか分からず、パニックになって、声も出せなくなってしまった。しかしそれは、ライキルが語りかけて来てくれたと同時に消えていく。
「ハル、覚えてますか、ハルとエウスが私のいた道場に押しかけてきたときのこと」
昔の話を持ち出され、ハルの意識が現実にはっきり戻り、その異変を悟られないように、すぐに答えた。
「あの時は、悪かったな、ずいぶん迷惑をかけたと思っているよ」
「ふふ、本当ですか、でも今のハルの姿を見たら、師匠も褒めてくれると思いますよ」
ライキルの優しい目がさっきの恐ろしい声を癒してくれる。
「だといいんだがな、あの師匠のことだから、お前はまだまだ青臭いガキじゃ、とか言って認めてくれないね」
「そう思いますか?そしたらハルは、結構、師匠の本音、聞きそびれていたのかもしれませんね」
「褒めてたってこと?」
以外そうに言う、ライキルは穏やかな表情に少し笑って、答える。
「ええ、特に道場を、私たち三人で出ていくとき、遠回しですが、すごい褒めてました」
「そうか、そしたら、次あったとき、お礼の一言でも、言わなきゃな」
「そうですね」
二人はまた外の景色を眺める。静かなバルコニーと、謁見の間からは、賑やかな笑い声が、絶えまなく耳に飛び込んでくる。
こんな状況をハルは心地よく感じた。
ライキルもハルと同じように、この場所の心地よさに満足しているように見た。