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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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優秀な三人

 目の前に自分がいる。


 大太刀と呼ばれる種類の刀を両手に持っていた。


 刀はある国、特有の剣であった。


 刀と呼ばれるものは、ハルたちがいる大陸【レゾフロン】から海の先にある島国から渡ってきたと言われている。


 その大太刀は、新兵一人が持てるかどうか怪しい重さで、刀の長さも相まって、決して常人が片手で振るえる代物ではなかった。


 そんな刀を目の前の自分は軽々しく持ち、縦横無尽に振るっていた。


 まるで小枝を振るうように。


 彼が振るうのをやめ、腕を伸ばし、それぞれの刀を斜め下に向けて、構え完了といった感じだった。


 自分はショートソード、一つ持って彼に挑む。


 辺りは真っ白な空間で何もない。


 ただ大きな白い箱に入れられたような場所にいた。


 彼がゆっくり歩いて近づいてくる、二つの刃は動かさず、その威圧感は圧倒的だった。


 凄まじい殺意が自分を包み込む。


 常人なら気を失い、兵士なら動けなくなるほどに。


 しかし、自分もまた彼、そんな殺意ものともせず構え、彼の動きを見極める。


 そしてその最初の一撃が振りかざされようとしたとき…。


 ハルは現実世界に戻り、目を開け、振りかざされた剣を避ける。


「おい、フォルテ」


 顔を上げるとそこには帝国の剣聖フォルテがいた。


「さすがは最強の剣聖と言われているだけある、俺の本気を避けるとは」


「いやいや、おかしいでしょ、瞑想している奴にいきなり剣振り下ろす奴があるか」


 そうハルが言ったが、真っ先にガルナの顔が浮かんでなんとも言えない気持ちになってしまった。


「しかし、ハル、お前もたまには生身の強い剣士と戦いたくないのか?」


 フォルテは何事もなかったかのように質問をした。


「いや、フォルテ、お前弱いじゃん」


「ハル、それを言ったら各国の剣聖がみんな雑魚扱いだぞ」


 フォルテが目を細めながら言った。


「まあ、ハルからしたら実際、剣聖なんぞ全員雑魚以下なんだがな、ハハハハ」


「それ自分で言っちゃうのか」


「事実だからな、ハハハハ」


 そんなフォルテの顔をなぜか嬉しそうに笑っていた。


 ハルはその勢いに調子が狂わされる。


 しかしハルはいいことを思いついた。


「そうだ、フォルテお前と稽古してやってもいいぜ」


 その言葉を聞いた途端フォルテの目の色が変わった。


「ほ、本当か!!」


「いいぜその代わり、条件がある」


「条件とは?」


「ある奴と戦ってもらう」


 ハルが不敵に笑うと同時にフォルテは首を傾げた。



 *** *** ***



 新兵たちは城の裏にある大きな広場で走らされていた。


「走れ、走れ」


 声を出して彼らを走らせているのはエウスだった。


 しかしそのエウス自身も新兵たちと一緒に走っていた。


「がんばれ、これが終わったら休憩だぞ」


 黙々と走る新兵たちを追い越しながらエウスは周りの新兵を鼓舞していく。


 魔獣と対峙した時、必ずしも万全な体調で戦えるとは限らない、疲れた時に襲われたらいつものパフォーマンスが出せなくなる。


 さらに軍隊にとって機動力の高さは、とても重要なものであった。


 戦場にいち早く着けなければ、いくら強くても何も守ることができない。


 そのため、軍ではあらゆる機動力を持った動物や使役魔獣の乗り方を覚え、長距離を移動できる体力をつけ、必要があった際に迅速に動けるようにしていた。


 しかし誰もがそう簡単に体力がつくわけがなく、これは訓練を何回も積んでいくしかなった。


「魔獣に襲われたとき、体力がなくて戦えないのが一番まずいぞ」


 エウスが走りながら言った。


「ほら、水を飲め、水を、走ってるあいだ汗かいてるんだぞ」


 新兵たちはエウスの声に励まされながら、何とかエウスの後ろに食らいつくものもいた。


 その中で、全くペースを落とさず、エウスの後ろにぴったりと、くっついていく者たちがいた。


 それが、


 アストル・クレイジャー


 ウィリアム・リベルテ


 フィル・トロプトル


 の三人だった。


 走り終わる新兵たちにビナが水を配っていた。


「お疲れ様です、はい、水です、水だよ」


 走り切った新兵たちは疲れてその場に倒れこんでいた。


 アストル、ウィリアム、フィルの三人も倒れこみ大量の汗をかいていた。


「アストルさすがだな」


 金髪を汗で濡らしたウィリアムがアストルに声をかけた。


「…そっちこそ、体力あるんだな」


「昔から走り込みはしてたからな…」


 二人が息をゼイゼイ言わしているなか、フィルはビナが配っていた水を飲んでいた。


「ハアー、生き返る、さあ二人とも昼飯が待ってるよ!」


 そういうフィルに二人は呆れた顔をした。


「よくこの状況で飯を食おうと思ったな」


 ウィリアムが言った。


「ふふ、腹が減っては魔獣も倒せないよ、ウィリアム君」


 そういうフィルは新兵の中で一番体格が良く、大食いであった。


「おーい、そこの三人」


 そう呼んだのはエウスだった。


 彼は走った後だというのにあまり汗もかいてないし、息も上がっていなかった。


 ウィリアムやフィルはエウスのその姿に少し驚いていた。


「はい!」


 三人は声をそろえて返事して駆けつけようとした。


「いいよ、そのままで、三人に頼みがあるんだ、ちょっといいかな?」


「はい、大丈夫です」


 アストルがそう言うと他の二人も同じ返事をした。


「君たち三人には作戦当日、パースの街の守備にあたるエリザ騎士団の従者をしてもらいたいと思っているんだがどうかな?」


 その言葉に三人は顔を合わせた。


「はい、ぜひやらせてください」


 ウィリアムが言うと二人も同じ返答をした。


「少しでも実践を積んでもらいたいんだ、君たちが本気で騎士を目指すならだけど」


「はい!」


 それぞれ、エウスの顔をしっかり見て返事をした。


「そうか、よかった、君たち三人は新兵の中でも特に優秀だからな」


「ありがとうございます」


 三人が感謝の言葉を述べる。


「おう、それじゃ、詳細な情報は日が近づいたらまた教えるから」


 エウスは城のほうに行ってしまった。


 アストルはその後を追ってエウスに声をかけた。


「エウス隊長」


「どうした、アストル」


「作戦当日、エウス隊長たちはどこにおられるのですか?」


「ああ、俺たち隊長クラスの騎士なんかはもちろん、霧の森の手前までだ、森に入るのはハルだけ、だけどな」


「やっぱり、そうだったんですね…」


 アストルは心配そうな顔をした。


「ハハハ、心配するな確かに俺はたいして強くないが、作戦当日は帝国の剣聖もいるし、ガルナ副団長も近くにいる」


 エウスはアストルの不安を取り除くように言った。


「いえ、そんなことは…」


「それより自分のことを心配したほうがいい、アストル、当日は何が起こるか分からないからな」


 新兵と隊長という関係だが、エウスはアストルのことを友人のように思っていた。


「はい、エウス隊長!」


「よし」


 エウスとアストルが二人で会話していると、遠くから誰か歩いてきた。


 その姿は、ハルと帝国の剣聖フォルテだった。
















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