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竜舞う国 宴

 シフィアム王国、王都エンド・ドラーナ。その街の中央にある、王城【ゼツラン】は、周囲を深い大穴で断絶された陸地の上に建っていた。放射状に広がる街から徒歩での王城への入場は不可能だった。なぜなら、街から王城へ、一本も橋が架かっていないからだった。


 そんな、ど真ん中で孤立した王城ゼツランにハルたちはいた。


 謁見を終えてから【(くち)の間】と呼ばれる食堂に招かれていた。

 縦長のテーブル席が人数分次々と並べられ、白いテーブルクロスでひとつの巨大な縦長のテーブルに早変

 わりしていた。


 サラマンが上座である一番奥のみんなが見渡せる場所に座った。そして、左側には順にハル、ライキル、ガルナ、エウス、ビナが座り、右側には王妃のヒュラ、キラメア、ウルメア、宰相である【バラハーネ・ムル・ナー】が座っていた。


 カルラに関しては、他のシフィアムの精鋭騎士たちと一緒に、サラマン王の後に立って、彼の警護に当たっていた。彼とも一緒に食事をしたかったが、王を守るのは剣聖の役目でもあるため、これは仕方がなかった。


 全員がテーブル席に着くと、使用人たちが、果物が乗ったお皿や、日が落ちてきたため灯りとなる燭台、銀のナイフとフォークなど必要なものを次々と用意された。


「さっきは取り乱してしまってすまなかったね、ハルくん」


「いえ、誤解が解けて良かったです」


 ハルの右斜め前にいるキラメアがこちらを睨んでくるが、困った笑顔でその場をやり過ごした。


「ふむ、私は、君に少し危険な印象を持っていたが、こうも物分かりがいい男だと、一緒にいい酒が飲めそうだ、ハルくん、竜酒は飲めるかね?」

「はい、私は飲めますが、彼らには竜酒以外を出してもらっても構わないでしょうか?」


 ハルは、左側に座るレイドのメンバーのためを思って提案した。普通、竜酒は竜人族以外は飲めないからだ。


「もちろん、飲める人だけ、竜酒は振舞わせてもらおう。ああ、君たち晩酌の用意を急ぎで頼むよ」


 サラマンが近くにいた使用人たちに声を掛けると、竜人の使用人である彼女たちはかしこまりましたと言って、去って行った。


「陛下、改めてこの度は私たちを、この国へ招待して頂きありがとうございます」


「いいんだ、娘たちが早く戻って来る理由にもなった。これは喜ばしいことだ。私もそこは君たちに感謝しているんだ」


「そ、そうでしたか…」


 どこまでも愛する娘たちのことで、彼の頭の中はいっぱいのようで、ハルも彼がどんな人物なのかある程度分かって来た気がした。


「そうだとも、いや、結婚の話が出た時は何事かと思ったが、こうして誤解だと分かれば私も一安心といったものだよ」


 そこでキラメアが、諦めてないけどね、と呟くと、サラマンの目の色が一瞬変わった。また、彼が我を忘れて暴れ出す前にハルが次の話題を振った。


「それと陛下には私からまだまだ感謝しなければならないことがあります」


「ん、何かな?」


「それは、シフィア王国が今回の黒龍討伐のために、騎士と竜を貸し出してくださることに関してです」


「ああ、そのことなら感謝などいらん。当然だ、我が国でも黒龍の被害が無いわけではないのだからな。ふむ、そうだな、もう、一か月ほどくらい前か?後ろのカルラと精鋭騎士たちが、シフィアムの領土内で一匹の黒龍を狩ってくれているんだ。その時は手負いで弱っていたらしいが、中型クラスの黒龍だったらしいな?」


 サラマンが後ろを振り向いて尋ねると、カルラが後ろで静かに「ええ、そうです」と言って頷いていた。


「というわけで、我が国もハルくんの作戦に兵を出すのは当たり前のことだから、気にするな!」


「分かりました。ただ、それでも、感謝は申し上げさせてもらいます。シフィアム王国からのご助力感謝いたします」


 実際、被害が一番小さなシフィアム王国が大量の兵を準備してくれているだ。感謝を告げないわけにはいかなかった。


 サラマンは、ハルの感謝に、にっと爽やかな若々しい笑顔を見せた後、続けた。


「我が国は黒龍の被害が少なく、竜を愛してはいるが、それは私たちと共に生きていける竜だけだ。黒龍のような人とは絶対に相容れない凶悪な存在は速やかに排除しなきゃならない。彼らが存在しているだけで、周辺国家は常に黒龍の脅威に怯えている。いつ襲ってくるか分かったものじゃない大きな脅威にね」


「そうですね…」


「ただ、ここには白虎を討伐したハルくんがいる。私はキミという可能性にかけてもいいかな?」


 サラマンの白銀色の瞳とハルの青い瞳が合う。


「ええ、当然です。このハル・シアード・レイが必ず黒龍も殲滅いたします」


 ハルが優しく微笑んだ。そう、いつもみたいに他人を安心させる優しい微笑を浮かべたはずだった。


「ハハッ、君は怖い顔をするね。なるほど、これは期待できそうだ」


「…え……」


 ハルは慌てて、自分の頬を手でおさえた。


「おっと、諸君、酒が来たぞ、さあ、とことん飲もう、遠慮することは無いぞ、宴は楽しく行こう!」


 鏡もなく確認しようのない顔をハルはしばらくそんなはずはないと思いながら触っていた。


 ボケっとしていると、ご機嫌なサラマン自らハルにジョッキを渡して、竜酒を注ぐように使用人に告げていた。


 ハルのジョッキの中に、大量の竜酒が注がれていく。


 全員のもとに酒が行き渡ると乾杯をして、食事が来るのをおしゃべりの続きをしながら待った。

 やがて、豪華な料理がテーブルいっぱいに並ぶと、宴が始まった。


 結局、途中からサラマンの命令でカルラも参加することになり、バラハーネの隣に座ってエウスたちと話をしていた。




 それから、宴は夕日が沈んでからも続き、お酒も回って、後半になるにつれて、みんな好き勝手席を移動したりして、礼儀もあったものじゃなかったが、各々、みんな、楽しく談笑していた。


「ハルくん、君は本当に人族なのかい?実は竜人族の血が流れていたリしないだろうな?」


「俺は人族ですよ、ちょっとお酒が強いだけです」


 ハルはそう言って竜酒八杯目のジョッキを空にした。


「ふ、ふむ、なるほど、そ、そうか…しかし、まだ行けるのかね?」


「ええ、俺もだいぶ来てますが、サラマンさんはどうですか?いけますか?」


「む、若いもんには、まだ負けんわ!」


 サラマンも八杯目のジョッキを空にした。


「あなた、無理するのは良くないわ、もう、限界のはずよね?」


「そうだよ、お父様、いつもそのジョッキの七杯目でフラフラだったじゃん、この酔っ払いめ!」


「そ、そんなことは無い、私はまだまだいける、さあ、ハルきゅん続けよう、注いでくれい!」


 語尾のおかしい、サラマンのジョッキに竜酒を注いで、サラマンもハルのジョッキに竜酒を注いだ。


「じゃあ、ハルくん、乾杯!」


「乾杯!」


 ハルとサラマンがジョッキを軽くぶつけて、喉に流し込んでいった。



 宴が終わるころにはすっかり夜が深まり、辺りはシャンデリアや燭台などの炎で室内を照らしていた。

 ハルとサラマンは飲み比べをして、僅差でハルが勝ったようだったが二人ともべろんべろんに酔っぱらっていた。


「ハルよ、見事であった。私の負けだ、さすがは英雄といったところか…」


「いえいえ、サラマンさんこそ、いい飲みっぷりでした、これはもう引き分けですね」


「フフッ、そうか、ハル、お前さんはいい奴だったんだな、毛嫌いしていて、悪かったこれからはひとりの友人として対等な立場でやって行こうじゃないか」


「対等は困ります、ただ、酒の席でなら友人になってあげますよ」


「これはまた、なんというか、君はできた奴だな……」


 サラマンがうつぶせになってそのまま目を閉じて酔いと共に眠ってしまった。

 そこにカルラと精鋭騎士がやって来て、サラマンを寝室に運んでいったようだった。


 サラマンがいなくなるのをじっと待っていたかのような素振りをみせていた王妃のヒュラ・ナーガード・シフィアムが話しかけてきた。


「ハルさん、主人の相手をしてもらってありがとうございました。大変だったでしょう?」


「いえ、楽しめましたよ」


 揺れる焦点を、頑張って王妃に合わせる。


「フフッ、それなら良かったのだけれど、ところでひとつ質問いいかしら?」


「はい、なんでしょうか?」


「王座の間での挨拶の時、心に決めた人たちがいるっておっしゃっていましたが、重婚をお考えなのですか?」


「…はい、そうなります」


「お相手は誰か聞いてもよろしくて?」


 ハルの目の色が変わる。その時のハルの顔から、いっさいの酔いが消えていた。


「こちらにいる二人です」


 ハルがすぐ傍に居る二人を示すと、彼女はやっぱりねと言った。


「あちらの赤髪の女の子は違うのかしら?」


 ヒュラが、エウスとバラハーネと話す、ビナに視線を移す。


「彼女は違います。こちらのライキルとガルナだけです」


「そうなのね、あれから、ずっと気になってたから聞きたかったの、答えてくれてありがとう」


「いえ、構いません」


 ヒュラが穏やかに笑い、席を立ちその場を立ち去ろうとした。その際、彼女は二人の娘たちのおでこにキスをしていった。


「キラメア、ウルメア、二人とも皆さんに失礼の無いようにね。ウルメア、キラメアを頼みましたよ?」


「はい、お母様、安心してください、ちゃんと私が見張っております」


「ちょっと、お母様、それにウル姉も、わたひは大丈夫らから、もんらいないっ……フヒ」


「ウルメア、後はよろしくね」


「はい」


 ヒュラが去るのをしっかり確認すると、酔っ払ったキラメアがハルの隣に椅子を持って移動してきた。


「よくもうちをだしにして、お父様と親しくなってくれたわね!…はっ、まさか、そういうことなの!?」


 あらゆる彼女の言い分を否定する意味で、違うよ、とだけ言った。


「照れなくてもいいんよ」


「キラメアも、もう、部屋に戻ったら」


 彼女はだいぶ酔いが回っていた。


「ええ、だめだよ、ハルと離れるの寂しい、あ、そうだそれなら」


「キラちゃん、やっぱり、もう、お部屋戻ろっか」


「うわあ、ウル姉、いつのまに後ろにいたにょ?」


「また、明日、みんなと会おうね」


 ウルメアが有無を言わさず、キラメアに肩を貸した。


「私はキラメアを連れて行きます。ハルたちの部屋も用意しているので、気が済んだら使用人たちに声をかけてください、案内してくれるはずです」


「わかった。いろいろ、ありがとう、ウルメア」


「いえ、それではお先に失礼しますね」


「ハル、待ってるからな!後でうちの部屋に」


「キラちゃん、ほら、行くよ」


「え?ああ、うん、わかったよ…もう…」


 ウルメアとキラメアが手を振って食堂を後にするのをハルたちは見送った。






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