竜舞う国 残留思念とシフィアム王国
竜の背に乗って空を飛ぶのは気持ちがいい、雲の隙間を縫うように飛んで、向かい風を身体いっぱいに受ける。竜の背から身を少し乗り出して下を見下ろせば、見た目よりもとっても小さくなった丘や森や川や町が次々と視界の外に流れていた。
やはり、前にも竜に乗ったことがあるが、こんなに気持ちがいいなら、相棒に竜を一匹飼うのもありかなと思った。が、自分なんかに、なついてくれる竜がいるか分からなかった。いや、多分、いない。
「ハル、雲を突き抜けるよ、私に掴まってて」
なぜ自分だけに言うのかハルは少しムッとした。ただ、もちろん、そんなこと表には出さない。これから行く王女様の機嫌を損ねたりなんかしない。場合によるが。
「ガルナ、ビナ、ちゃんと掴まっててだって、雲を抜けるから」
ハルが乗るのは、ベヒと名付けられた赤黒い鱗が威圧感を与える筋肉質な竜だった。
この竜には人が乗るための鎧がついていなかった。あれには座席と身体を縛りつけるベルトと手綱がついていた。しかし、シフィアムの三人はもともと少数で来る予定だったため、鎧など竜に着せていなかった。そのため、ハルたちは竜に直接複数の紐を巻き付けて、簡易的な手綱を作り、竜の背に直接またがって、空の旅を楽しんでいた。
「みんなそろそろ上がるから手綱をしっかり握ってね」
ウルメアはみんなに聞こえるようにちゃんと警告したあと、さらにもう一度確認をとってからゆっくりと竜を雲の中に潜り込ませていった。それならさっきの無駄なイライラを返して欲しかった。というより、なぜ自分だけがウルメアの腰に手を回さなきゃいけないのかが不服だとハルは思っていたが、もちろん、心の奥底にとどめておいた。
竜がゆっくりと斜め上に傾き羽ばたくと、ハルたちの姿勢ものけぞっていく。傾きは約三十五度くらいで手綱を離していても落ちる心配はなかった。それでも、多少揺れるため手綱を握るに越したことはなかった。
白い雲の中に入り、視界が真っ白になる。
こうなると嫌な記憶が蘇った。それは視界の悪い真っ白な森の中で、血の匂いがする最悪の場所だった。ハルは一気に気分が悪くなって、雲の中に入ったとたん、ウルメアに抱きつく力を強めてしまった。これは身体が勝手にやったことで自分の意思ではなかった。そして、ここで分かったことは、当分、真っ白な霧がかかったような場所には絶対に入らないことだった。
「ハル、大丈夫?」
「何が?」
「手震えてるよ?」
ハルは気のせいだとウルメアに言った。
「怖かったらもっと密着してもいいよ」
そう言われたハルは逆にのけぞって後ろにいるガルナの方に身体を寄せた。
「ガルナ、少しもたれかかってもいい?」
彼女はもちろんというとハルを片手で抱き寄せた。
「手離しちゃダメだよ、そしたら、二人で地面に真っ逆さまだからね」
「分かってる、分かってる」
身体をガルナに寄りかかったハルは、ウルメアの腰から手を離した。彼女に寄りかかった瞬間、ハルの手の震えは止まって、過呼吸気味だった息は整い、落ち着いた。
「ありがとね」
「ああ、いつでも私に寄りかかれ、歓迎する」
雲の中、視界が真っ白で何も見えない最中、ウルメアがこちらを振り向いて睨んでいるのをハルは見た。だが、ハルは特に気にしないで愛する人の腕の中で目を閉じた。
しばらく目を閉じた後、瞼の裏に光が当たることを感じたので目を開けた。するとそこには、雲海が広がっていた。
深い青空と白い地面だけが広がる世界にハルたちは浮かんでいた。少し離れた場所にはライキルとキラメアが乗る銀竜が飛んでおり、遅れてカルラとエウスが乗った竜が雲を突き抜けてきた。
「うわあ、凄いです、雲の海です」
ガルナの後のビナが興奮していた。
「あれだよね、七王国物語、四章の冒頭に出て来る雲の海」
「ハル団長、まさにその通りです。シフィアム王国に向かうのだってまんま一緒ですし、なんだか物語の中に入ったみたいで感激です」
「ああ、そうだね」
ジョン・ゼルド作の小説の話しだった。ハルとビナの愛読本である彼の書いた作品はこの大陸でいまだに現役で読まれている現実味と空想が織り交ざった没入感のある物語が人気だった。それに子供向け、大人向けと多種多様人たちに合わせた小説を何本も世に出しているので、幅広い年齢層に読まれており、話題づくりなら彼の書いた小説の話しを持ち出されることもしばしばあった。
「ビナ、シフィアムに着いたら小説の舞台になったところも見て回らない?」
「いいんですか!?」
「もちろん、それでガルナもどうかな?」
「私もよく分からんが、ついて行くぞ!」
ハルが良かったと安心すると、ウルメアが自分に声を掛けるのはまだかなといった感じでちらちらとこちらの様子をうかがっていた。
「その時は、ウルメアもどうかな?」
「絶対について行きます。私もジョン・ゼルドの小説、読んだことあるので、なんなら知っている場所なら案内できます」
「本当!?よし、こうなったら、もう、みんなを誘ってジョンゼルドの世界に引き込もうかな」
しばらく、ジョン・ゼルドの本の話題で盛り上がった。彼の全ての小説を網羅しているビナは熱く語る。ハルもガルナに後で一緒に読まない?と提案すると彼女は嬉しそうに首を縦に振っていた。ウルメアの好みの本を聞くと彼女は【アマカケルアカ】と言った。その小説は、空を飛ぶ女の子のお話で、ジョン・ゼルドが女性に向けて書かれた本と言われていたが、ハルが呼んでも十分に楽しめる作品で、【七王国物語】の次くらいには好きな小説だった。
そうして、雲の上を飛んでいると、なんだか、ハルはふとこんな景色をどこかで見たような気がしていた。深い青空と白い雲の地面がどこまでも続く世界を。
『そっか、夢の中と同じあの場所に似てるんだ…』
夢の中に出てくる、深い青空が広がり雲海のような地面がどこまでも続く世界。それが今いる雲の上と非常に酷似していた。違いと言えば、浮かんでいる雲に足をつけて立つことはできないという点だけ、それを除けば後は一緒だった。
『君がいたりしないかな…』
少しくすんだ白い髪に健康的な褐色の肌に、引き込まれるようなピンク色の瞳。知的で大人しそうな見た目とは反するやんちゃで、がさつな、でも、大人びていて、もたれかかりたくなるような女性。そして、もう、この世にはいない女性だった。
『いないさ…』
ハルたちを乗せた竜たちは雲の海を北東に向けてしばらく飛んだのち、昼食をとるために再び雲の下に潜り込んだ。空は深い青から、くすんだ白や銀色になり、地面には緑の草原や森が広がっていた。
そこでハルがレイドの国境からもう出たのかとウルメアに尋ねると、あともう少しと答えた。
昼食はヒルデさんが作ってくれたお弁当だった。時間が経っても美味しい肉やサラダを挟んだパンが弁当箱の容器いっぱいに敷き詰められ、数本の酒のエールのボトルも入っていた。
ハルたちが下りた場所は、レイド王国の国境の終わり際のリーベ平野の北部にあたる位置だった。まだ国境内なのであれば、ここからさらに進めば、レイド王国の国境沿いにある古びた塔などが見えて来るだろう。その塔は戦争があった時代などに使われた監視塔で、国境を越えて来る敵国を見張っていたが、今は、ただの大きな廃塔となって、使われていない建物だ。
みんなで草原に円を作って、昼食を取った。
***
昼食の最後で、エウスは最後にひとつ残ったパンを、ビナと取り合いになり喧嘩をした。そして、一方的に敗北したエウスは、悔しい気持ちを払拭するために残っていた酒のボトルを持って、少し離れた場所で喉に流し込んでいた。
「くそ、ビナめ、食い意地張りやがって、ていうか、投げ飛ばすことは無いだろ、ここが草原じゃなきゃ、俺の頭はかち割れてたぞ」
ぶつぶついいながら、エウスは少し離れた場所に座って、昼食を取り終わって休憩に入っているみんなを見渡した。
自分からパンを奪い取ったビナは、ガルナに半分分けてあげる優しさを見せていた。それなら、俺にもわけろよと思うエウスだったが、喧嘩に負けて施しをもらうほど、男として情けなくも落ちぶれてもいなかった。
次に目が言ったのはカルラ剣聖とウルメア王女だ。
カルラに関しては人が良すぎてこっちまで善人になった気がするほどだ。いや、エウスは善人なのだが、一般庶民と比べたら、どうかと問われると、底の方にはいるが善人であると勝手に自分で結論付けた。
これでも、エリー商会という大きな組織の会長を務めていたのだ。常にどちらをとっても非難される難しい選択肢が山のように降ってきたことだってあった。ただ、それでもそのたびに、自分が信じた道をしっかりと選んで、突き進んだからここにいるんだと誇りに思えることもあった。
自分は多くの人に支えてもらってここにいる。エウスはそのことを忘れていなかったからこそ、エリー商会をレイド王国の中で一番の商会に育て上げられたとも思っていた。
『まあ、でも、あの剣を抜いたときは驚いたよな…反応できなかった…』
善人でも時として腰の剣を抜くのだ。そう考えると、善人とはなんと難しいことか、全人類生まれながらにして悪なのではと極端に考えたくもなってしまった。
とまあ、こんな感じに彼について考えると、善悪について思考してしまうぐらいには喋っていて人の良さを感じ取ることができた。
そんな彼の隣で、上品にけれどどこかあどけなさを感じさせる笑顔を浮かべていたのが、ウルメア・ナーガード・シフィアム、これから行く、シフィアム王国、別名竜舞う国の王女様だった。
エウスはあまり彼女と会話をしたことはなかったが、どことなく人との距離が遠い人だとは感じていた。ただ、少し声を掛けると丁寧に接してくれるため、優しい人なんだなということは遠目でハルやライキルたちと話しているところを見ると、よくわかった。
『まあ、妹とは大違いって感じだよな』
エウスがそのまま、視線をハルたちがいる方に移す。相変わらず、ハルさんの前では、ライキルとキラメアが醜い言い争いをしていた。もちろん、おふざけの範囲ではある。というより、そのハルに関してもめることによってそのたびに二人は仲良くなっている様に見えた。
「フフッ、ハル、相変わらず、困ってんなぁ…」
親友が、女の子二人の取り合いになって、慌てふためいているところを見るのは良い酒の肴になった。
遠くで、ハルが二人の仲裁に入った。ライキルとキラメアがどっちの味方なの?とお決まりのセリフ口にしていた。
「うーん、いい喜劇だ」
エウスが追加の酒の栓を抜くと、そのまま、直接口をつけて飲み進めた。
ハルが、ライキルの傍によって抱きつく、どっちの味方かははっきりしたらしい。
「全く、ハルは、ブレないな」
しかし、それを見たキラメアもハルとライキルに抱きついて一件落着となって、エウスはなんだそりゃと呟いて、酒を飲んだ。
遠くから草をかき分けてエウスの頬を風が撫でていった。今日は夏の日差しも気温も厳しくなく、風もよく吹くため、過ごしやすかった。
エウスがボーッとしていると、さっきの喜劇のことを考えた。
『それにしても、キラメアは、どこまでハルのことが本気なんだ?そんでハルもどう考えてるんだろうか?』
気になったエウスは、ハルが今どんな感情を抱いているのか遠くから顔を見て確認した。彼は、とても、困ったように笑って、幸せそうだった。
「まあ、それはハルが自分で決めることか…」
エウスは、その場に寝転んで、空を見上げた。
そして、エウスはなんとなく深い空を見上げながら、天性魔法を使ってみた。エウスの天性魔法は人の感情が見える、類のものだった。天性魔法の能力を行使した状態で、見た人の喜怒哀楽が色で直感的に把握することができた。感情の起伏が激しかったり、強い感情を抱いていると、色は濃く深くそして、その人の周りに大きく現れた。逆に感情の動きが小さかったり平常心だと、色は現れなかった。
エウスはこの力を幼い時に身につけたが、今まで生きてきた人生の中でハルたちに使って来た回数はとても少なかった。というよりも、彼らといる間、この力は何の役にも立たない無用の長物だった。ハルやキャミルたちなんかの大切な人達の感情は、直接能力に頼らないで、自分の目で判断したい。例えそれが間違っていたとしても、エウスにはそのような思いがあった。
もちろん、危機が迫っている時や、重要な時、エウスはこの天性魔法をふんだんに使ってピンチを乗り越えるのだが、ハルたちと過ごしていくうえで、この生まれ持っていた体質は余計なものだった。
ちなみに、エウスのこの天性魔法のことを知る者は、彼の人生の中で二人の女性しかいなかった。
そんな天性魔法を持っているエウスではあった。が、しかし、エウスの性格からして、この天性魔法を冗談で使うときもある。例えば、そう、こうやって酔っぱらったときなど、無駄に天性魔法を使ってしまう癖などがあった。だから、飲んでるとすぐ身体が疲れたりする。
今だって、そう、夜空を見上げながら、天性魔法を使って……。
「はぁ?」
勢いよくエウスが上体を起こした。
「なんだ?」
そして、再度、天性魔法を使って、人がいるみんなの方を向いた。
「…………」
エウスの目に映るのは、ほぼ夕暮れ時と変わらない不気味な薄暗さの中、みんなが普段通り休憩をしている姿がそこにはあった。
エウスの中から嫌な汗が噴き出る。
「誰だ…」
誰も怪しくはない。けれど、この異常すぎる感情を生み出している者がこの中にいた。
こんなに強く深い感情はエウスも初めてだった。身体が震え出す。これほどの感情を抱く者との会話の選択肢を間違えれば、最悪、殺される危険まであった。
息を吞み、慎重に誰が発信源か見極める。しかし、よく見れば、この空間を薄暗くした張本人の感情はすでに平常心に戻っていた。
『疑うべきは、誰だ?』
エウスにはこの気味の悪い感情をまき散らした者の正体を特定することができないまま、疲労の限界が来て、気絶してしまった。
***
ハルは気持ちよさそうに酒を飲んで草原で眠っていたエウスを起こしに彼のもとに行った。
「エウス、起きて、ほら、出発するよ」
「…んあ?」
「うわ、二本も開けるからだよ、ほら、瓶かして、みんな竜に乗ってるし、後エウスだけなんだからな」
「ハルか…そうだ、俺、どれくらい眠ってた?」
「え、そうだな、ビナにぼこぼこにされた後ぐらいだったから、二十分くらいかな?」
「二十分…あ、そうだ!」
エウスが、一か八かでもう一度、天性魔法を使って感情の残留を確認してみるが、すでにそこには何もなかった。
「どうした、まだ寝ぼけてるのか?ビンタでも一発いっとく?」
「ビンタはいい、ハルのは普通に死ぬから…」
「いやいや、殺さないよ、まったく、失礼だな!もう、いいから寝転がってないで立ってよ、みんなエウスを待ってるよ」
ハルが、エウスに手を差し伸べた。彼は悪いというと手を握って起き上がった。
「なあ、ハル」
「何?」
「…いや、なんでもない」
エウスは何か言いたそうな顔をしていたが、口をつぐんでしまった。
「ハル、エウスはもうここにおいて行きましょう!」
ライキルがハルの後ろから顔を出し、酷い提案をする。
「ライキルのお願いでも、それは却下で」
「分かりました、じゃあ、エウス、さっさと目覚ましてカルラさんのいる竜に乗ってくださいね?」
「ああ、悪かった…」
それだけ言うと彼女は、ハルの腕を引っ張ってウルメアが操る赤黒い鱗の竜の方に歩いていった。
エウスのもとにも、カルラが竜を移動させてくれたおかげで、スムーズに乗ることができ、さっそく出発となった。
***
ここから一気にレイド王国の国境を抜けて、シフィアム王国の領土内に入って行くことになった。
今度はメンバーを少し入れ替えて、キラメアが操る銀竜には、ガルナ、ビナが、赤黒い鱗でウルメアが扱う竜には、ハルとライキルが、そして、茶色い竜にはカルラとエウスが乗っていた。
ハルの前にはウルメアの腰に掴まるライキルがおり、ハルは手綱の方を握っていた。
「ウルメアの操る竜は安心しますね」
「フフッ、そうね、あの銀竜は速いし小型だから、いろんな大技ができるから」
お昼前の飛行で、ライキルの乗る銀竜が、キラメアによって何度も宙返りしたり、急降下急上昇をして、暴れまくっていた。ただ、お昼の時にライキル本人が言っていたことなのだが、楽しかったようでまたやりたいと言っていた。
「この子はあんな大技はできないから、ちょっと退屈?」
「そんなことないです、こうやってのんびり飛ぶのも好きだな」
「良かった、私も、こうして、ゆっくり飛びながら景色を眺めるのが好きなんだ」
隣では、ガルナとビナを乗せた、キラメアの銀竜が急上昇と急降下を繰り返しては宙返りをしていた。ガルナは笑っていたが、ビナは絶叫していた。
「ハルも乗ってみたいですか?」
ライキルが振り向いて尋ねてきた。
「そうだね、乗ってみたいけど、俺はあの銀竜に嫌われてるから、無理かな…」
こんなことなら最初に怖がらせなきゃよかったと思ったが、それでも、こうして、ライキルと一緒に空の旅ができているため、後悔はしていなかった。
「あ、でも、俺も、こうしてゆっくりとライキルと景色見ながらの方がいいかもなぁ…」
「え、なんですか、それ!嬉しいこと言ってくれますね!」
「当然だよ、俺はライキルといる時間が一番幸せだからね」
「…待ってください、それだと…」
「何?」
「いえ…その…」
ライキルが素直に喜べないでいるようだった。なぜ?
「あ、そろそろ、レイドの国境ですよ」
ウルメアの平坦な声が響く。
「え、本当!?どれどれ」
ハルがライキルの肩を持って、身体を前に傾ける。三人の視線の先には、ボロボロの高い塔が建っていた。ハルたちを乗せた竜はその塔にあっという間に接近して、横を通りすぎていった。
ハルはそこで生まれて初めてレイド王国の領土から外に出た。
国境を越えた時、あまり心が動かなかったが、やっと外に出られたんだなと思うと、解放感のようなものはあった。
『悪くない』
ハルたちは、そのまま、目的地であるシフィアム王国の王都を目指して北東に直進した。
そして。
数時間経って、日が落ちる前の夕暮れに、ハルたちは竜舞う国シフィアム王国の王都エンド・ドラーナに到着することができた。
「すごい、これがシフィアム王国の王都か…めちゃくちゃ広いな…」
ハルの視界には、最初に、王都の中央にそびえ立つ巨大な王城が見えた。さらにその王城の敷地の周りは誰も徒歩で入って来られないように地面がえぐり取られており、王城と城下町が完全に分断され独立していた。
王城を中心にぐるりと放射状の街が広がる。
王城周辺だけじゃなく、いたるところに、大きな深い穴が開いてる場所が、このシフィアムの王都の街中にはいくつもあった。その大穴の中の側面にはなんと建物や、人々が歩く橋などが掛かってあったりと、人々の営みが存在していた。
そして、最後に何と言っても、街中のいたるところに飛んでいる翼竜の数の多さだった。様々な竜が人を乗せて飛んでいた。まさに竜舞う国、その光景は圧巻だった。
「ハル、見た?これがうちらの国だよ、凄いっしょ」
「すごい、本当に、凄いよ」
ハルはまだまだ見たことが無い景色があることにわくわくした。
「すごい…」
目の前ではライキルもその光景に目を奪われていた。
素晴らしい光景を見て目をキラキラさせている彼女を見たハルは、一緒のものを見て同じ様に感動していることが嬉しくて、でも、やっぱり、ちょっとだけ寂しかった。
ハルがライキルの手を握ると、彼女はこちらを向いてほほえみ、握り返してくれた。
ハルたちを乗せた竜は、夕陽に染まる王城に向けて、滑空していった。