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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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城の屋上

 会議から数日たって、作戦内容をまとめた報告書を帝国兵士に渡した。


 作戦の実行は一か月後という期間を書いた。


 この期間は事前にレイド王国と決めていた。


 この作戦に、もちろん国は準備期間が必要だった。


 情報交換は伝鳥(でんちょう)という特殊訓練を受けた鳥を使って、両国と連絡を取りたいため、帝国の軍の伝鳥を数羽分けて欲しいという内容も書いておいた。


 早朝、ハルが自室のベットの上で目が覚めると、椅子に誰か座っていた。


「おお、起きたかハル」


 そこにいたのはガルナだった。


「ガルナ、なんでここにいるんだ?」


「扉が開いてた」


 ハルが自室の扉の方を見ると鍵穴とドアノブが両方破壊されていた。


 更にハルのクローゼットが荒れており、ガルナはハルの服を勝手に着ていた。


 おまけに手でボロボロこぼしながらガルナは朝食を食べている。


 床に食べかすが大量にこぼれていた。


「飯作ってもらったのか?」


「うん、うまいぞ」


「そっか」


 ハルは慈愛に満ちた眼差しで言った。


「なあ、ハル朝の稽古してくれないか?体がなまりそうだ」


「部屋掃除するから飯食ったら出てけよ、あと俺の服あとでいいから返せよ、お前の服は使用人さんに洗ってお前の部屋に置いておくように頼んでおくから」


「飯食い終わったら、私、外で待ってるぞ」


 全くかみ合わない会話が展開される。


 ハルがベットから起きるとベランダに出て、朝の空気を吸った。


「今日もいい天気になりそうだな」


 空はとぎれとぎれの小さな雲の塊が朝日に照らされて輝き、薄く霧がたちこむ、涼しい朝だった。


「ハル、外で待ってるよ!」


 ガルナが元気よく外に飛び出して行った後、ハルは床に落ちた食べかすを掃除し、乱れたクローゼットの中身を片付け、ちょうど通り過ぎて行った使用人にガルナの服を預けた。


 ドアの壊された部分をハルが確認していると、ライキルが寝巻姿で出てきた。


「あれ、ハルそんなところで何してるんですか?」


「ん、ちょっとドア壊しちゃってな」


「ふふ、ドジですね」


「ハハハハ…」


 ハルは小さく苦笑いしながら、その場をやり過ごした。


 その後、ハルはライキルと食事をとり、ガルナを無視して、城の屋上に向かった。


 ハルは屋上から景色を眺めた。


 庭園や花園、城壁内の街、どれも小さく見えた。


「やっぱり、屋上はいいな、気持ちがいい」


 そのまま背伸びをしたあと、座って、目をつぶった。


 この城に来てからハルはここで戦闘のイメージトレーニングや瞑想をしていた。


 ハルと互角に渡り合える者がおらず、このような方法でしか、戦闘のセンスを磨けなくなっていた。


 いつもハルが相手しているのは己自身だけ。


 そして、その集中力は凄まじく一回これを始めると何時間も時間が過ぎていることがあった。


「…………………」


「ハ……さ……」


「ハルさん」


 声がして目を開けるとアスラ帝国のエルガー騎士団副団長のルルクがいた。


 彼は黒髪で童顔のハルたちより少し年上だった。


「ルルクさんどうしてここに?」


「ライキルさんから聞きました」


「ああ、それでどうしました?」


「作戦の報告書の内容はあれで良いと宰相が言っていました、ただ実行日は本国の準備の進行具合によって変更したいと」


「分かりました、ところで宰相は今どこに?」


「彼は、本国に帰りました。仕事が溜まってるとぼやいてましたね」


「そうでしたか…」


 ハルは帝国の宰相としっかり話し合いたいと思っていた。


「ハルさん、彼はあなたのこと認めてましたよ」


「え?」


「あの会議ただの内容の確認とすり合わせだったのに、あんな感じで乱して宰相も悪いと感じていました」


「いや、あれは俺の案がそもそも現実的ではないのが…」


「そうですか?私は理にかなっていると思いますよ」


「ルルクさん、それ、ちょっとひどいですよ」


 ハルが少し悲しそうに言うとルルクは笑った。


「ハハハ、それほど、私はあなたの力と人柄を信頼しているんです。最初にあなたを見た、あの日の光景は忘れられません」


「あれで本当に良かったかは、今でも俺は疑問ですけどね…」


「確かにそうかもしれませんね、あの時にハルさんの強さが広まりましたからね」


 ルルクは優しい笑顔で言った。


 ハルは過去の出来事を思い出していた。


 屋上に心地のいい風が吹き、ハルとルルクの頭を優しくなでていく。


「そうだ、ガジス宰相のことですけど、彼、とっても愛国者なんです、それでどうしてもこの作戦が不安だったらしくて、彼を許してはくれませんか?」


 ルルクが彼に変わって申し訳なさそうに言った。


「許すも何も、俺はみんなの命を預かっているので、当たり前の反応だと思いました。みんながみんなこの作戦に賛成ではないと」


 ハルが街を見渡しながら言った。


「そう言っていただけるとありがたいです、ただ」


 真剣な顔つきになってルルクは言葉を続けた。


「この神獣討伐は、いつかは誰かがやらないと、もっとひどいことになると私は思っています」


「そうだといいんですが…」


「そうだと思いますよ」


 その後、少しだけ世間話をしてルルクは宿に帰ると告げた。


「ハルさん」


 ハルがまた瞑想しようとしたらルルクが呼びかけた。


「本来、こっちの帝国の軍の全責任は私が任されていました。だから何かあったら私に言ってください」


「分かりました」


「それではまた」


 ルルクの姿が見えなくなると、気持ちのいい朝の中、ハルは瞑想に戻った。











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