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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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会議

 次の日、ハルは一人で図書館に出向いて日没まで情報を集めた。


 三日目には、ハルにライキルがついていき、ハルがフルミーナにライキルを紹介した、その後二人で調べものをした。


 四日目には、ハルとエウスとビナが図書館を訪れ、エウスのことをフルミーナに紹介した。その後三人で調べものをして、昼に切り上げて城に戻った。帝国のフォルテが城に訪れており、ハルを探していたということでハルは図書館に戻り、それをやり過ごし、日没後帰ったら城の前にいたフォルテと出くわし、下の街まで逃げてまいて帰ってきた。


 五日目、エウスとライキルが図書館でばったり会った。エウスがライキルに、だる絡みしていたが、ライキルは適当に受け流して本を読むのに集中していた。その途中ビナがやってきて、三人で協力して情報を集めた。


 六日目、ハル、エウス、ライキル、ビナの四人で朝から晩まで図書館で調べものをした。


 七日目の朝、帝国との会談の日になった。


 昼過ぎ、レイド王国とアスラ帝国とその他関係者での会議が開かれた。


 場所は古城アイビーの会議室で行われた。


 レイド王国は、ハル、エウス、ライキル、ビナ、デイラスが出席した。


 冒険者ギルドからは主に、パース支部支部長のディアゴル・オリバーなどが参加していた。


 アスラ帝国はフォルテ、ルルク、ベルドナ。


 そして帝国の宰相ガジス・デルヒア・アマリスが出席した。


「今回この議会に集まっていただきありがとうございます、私は…」


 ハルがそう自己紹介しようとしたら、帝国の宰相ガジスが言った。


「無駄なあいさつはよい、本題に入れ」


 ガジスは綺麗な白髪頭で、立派な白い顎髭があり、かなり歳をとっている見た目をしているが、彼の威厳は年老いていても衰えて見えず、むしろ歳をとるにつれて増しているように見えた。


『やりずれえ…でも協力してもらう帝国には下手な態度はとれないからな』


 ハルは心の中でそう思い、気を取り直して会議に臨んだ。


「分かりました、今回の作戦内容を改めて言います、この街パースから南の大森林にある【霧の森】の神獣白虎の巣を私が攻撃する際、その巣や森から逃げ出した、魔獣などを討伐して欲しいのです」


「あー、君がひとりで行くのか神獣の巣には?」


「はい、そうです」


「君一人に何ができるのかね?」


 帝国の宰相が嫌味ったらしく言った。


「巣にいる神獣の群れは私が全て引き受けます、そこからすり抜けた魔獣などを足止めしてもらえるだけでもいいんです」


 帝国の宰相がハルのことを知らないはずがなかった。


『他の五大国にこの作戦は伝え、全ての国から許可はもらった、アスラ帝国の皇帝からも……まあ、その中のすべての人が賛成ってわけにはいかないか…当たり前だな』


 ハルが思考を巡らせた。


「そんなことがまかり通ると思っているのか?貴様一人のせいで大勢の人々が命の危機にさらされるのだぞ」


 ガジスが言った。


「そのことは誰よりも理解しております、それでも私は必ず人々の命を守り抜いて見せます、そのために……」


 そうハルが言葉を続けようとしたとき。


『ハル?お前が人を救う?』


 突然聞こえてきた、あのおぞましい声。


 その声にハルの呼吸は一瞬止まった。


 嫌な汗が一つ流れ、少し息を荒そうにして、下を向いてしまう。


「…ハル?大丈夫ですか?」


 ライキルが心配しながら言った。


「どうした、大丈夫かね」


 ガジスもハルの様子がおかしいのに気づいた。


「すみません、なんでもありません」


「そうか」


 下を向いてしまったハルはガジスのほうを再び見る。


「………………」


 ライキルも心配そうに静かに下がった。


「神獣が今にも暴れだし、襲ってこないとは限りません、レイド王国のときのように」


 ハルは気を取り直しって言った。


「そうだな、その通りだ、君は今、帝国がどういう状況にあるか存じているのかな?」


「はい、アスラ帝国は長い間、活発になった魔獣などの脅威に一番、さらされています」


「そうだ、【龍の山脈】と霧の森に挟まれている帝国は他の国よりも魔獣などの被害が大きい」


「でしたら、この作戦に協力すべきはずです」


「貴様に何がわかる!!」


 ガジスは突然怒鳴った。


 全員ガジスに注目した。


「貴様ほど力がある者が、神獣の巣に行き、帝国に誘導しないと誰が保障できる」


「それは…」


 ハルも何も言い返さなく言葉を失ってしまう。


「この作戦に問題があるとなぜ思わなかった?貴様が強いからか?『私に全て任せてください』などということをなぜ言った?貴様はレイドで一番重要で、大切な存在ではないのか?貴様一人いれば、他の五大国など一瞬で瓦礫の山になるのに、なぜ今回このような危険を冒してまで五大国含め、すべてを救うような真似をしている?レイドだけ救えば良かったのではないか?君の本心聞かせてはくれないか、そうでなければ協力も信用もあったものじゃない!」


 ガジスはまくしたてるように興奮して言った。


 彼の発言の後、会議室にしばらく静寂がこだました。


「…私は生命(いのち)あるものすべてを愛しています」


 ガジスは黙ってその言葉を聞いた。


「人も獣も、姿形が違えど皆、同じ生命です」


「なら、魔獣や神獣を殺すのはどうなのかね?」


「本当なら私は生きとし生けるもの全て、誰も殺したくはありません。これがばかばかしい理想論だということは分かっています。しかし力を持ってしまった以上は、力を持たない人のために使わなければいけません。力を持たない弱い立場の人々のために、誰かが彼らのために力を振るわなければなりません、それがただ、私だったということだけです」


 ハルは少し下を向いた。


「それが誰も殺したくはない、ハルという臆病で愚か者の使命だっただけです…」


 城の外で吹く小さな風の音だけが窓から室内にむけて響いていた。


 その後、会議室はとても静かになった。


 そして静寂を破ったのはガジスだった。


「帝国は君の指示に従う、あとで詳細な作戦報告書を私のところまで送りなさい、私からは以上だ」


 ガジスが静かに立ち上がり言った。


「はい、ありがとうございます」


 ハルは立ち上がり頭を下げて言った。


 ガジスは部屋から出て行った。


 帝国の人たちもガジスに続いて出て行った。


 黙って聞いていたフォルテも静かに立ち上がり何も言わず部屋から出て行った。


 最後に帝国の副団長ルルクという男が口を開いた。


「すみません、レイド王国と関係者の皆さん、初めから帝国はこの作戦に賛成でした。皇帝陛下からも直々の命令をもらっています。どうか安心してください、作戦当日は必ず帝国も協力しますので気を悪くしないでください」


 ルルクがハルにアイコンタクトをした。


 ハルは軽く頷きそれに答えた。


「それでは失礼させていただきます」


 ルルクは丁寧にあいさつし、静かに扉を閉めて出て行った。


「おつかれ、ハル」


 エウスはハルに声をかけた。


「ああ、ありがとう」


 それから、冒険者ギルドの支部長たちとも改めて作戦の大まかな内容を話し、今回の会議は終わった。



 *** *** ***



 会議が終わった後のその日の夜。アスラ帝国の軍が泊まる宿のとある部屋にて。


「爺さん邪魔するぜ」


 フォルテがそう言いながら、広い豪華な部屋に入った。


 その後をルルクとベルドナも続いて入室した。


「遊びに来ましたよ」


 室内でも全身鎧のベルドナが言った。


「今日はご苦労様でした」


 ルルクも入室と同時にそんなことを言った。


 そこには一人の老人が椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「ん、お前さんたちどうしたんじゃ」


 その物柔らかな優しい声はガジス本人の声だった。


「爺さん、今回、かなり喧嘩ごしだったがどうしたんだ?」


 フォルテが気さくに話しかける。


「ふぉふぉふぉ、老人の悪い癖が出ただけのことよ、歳をとるとすぐにカッとしてしまう」


 そういうガジスは優しい笑顔を作っていたが、どこか悲しさも含まれた笑顔だった。


「本当か爺さん、あんなに感情的になったの久しぶりだろ」


「そうだったかのぉ」


「そうだよ」


 フォルテが自信を持って言った。


 ガジスが自分の長く白い顎髭をなでる。


「ハルという男は強すぎた、彼一人だけでこの大陸にあるすべての国の歴史に終止符をうつことなど朝飯まえだろう、神獣の群れもきっと簡単に倒す」


 ガジスが静かに息を吸って言った。


「爺さんの言ってることは間違っちゃいないな、だけどハルはそんな奴じゃないぜ」


「ふぉふぉ、わしも知っておるよ、ハルさんが立派な剣聖だったということは、ただ…」


 ガジスは自分で用意したお茶を一口飲んだ。


「ただ、知りたかったのじゃよ、そんな力がある者が何を考え、どうして今回の神獣討伐に名乗りを上げたのか?」


 ガジスはカップの底を覗き込みながら言った。


「わしのような弱い者には、強い者の気持ちが分からない。だが、わしは長い間生きてきて、強い者は弱い者のことを知る義務があるとわしはそう思っている、特に上に立つものはみんなそうじゃ、そして彼はちゃんとそれを理解しているとそう感じたよ」


 ガジスはカップをテーブルに置いた。


「ガジスさんのそういうところがあるから、帝国国民のみなさんはガジスさんのことが、好きなんですよね」


 ルルクもお茶を持ってきてガジスの隣に座って飲みながら言った。


「わたしもガジスさんが好きですよ!」


 ベルドナもルルクに続いて言った。


「爺さん俺もあんたを最高に尊敬してるぜ!」


 フォルテもとびきりの笑顔をつくっていた。


「ありがたいね、人から愛されるってことは、これはわしの宝物だよ、ふぉふぉふぉ」


 ガジスはみんなを見回し、ニッコリ笑いながら言った。


 その日の夜、老人の一室はいつもに増して、とても賑やかだった。















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