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秘密の告白

 禁書庫の真っ暗な階段を四つの光が照らしながら奥に進む。

 ひとりは小さな光の球を漂わせ、二人は手の上に収まる魔法の炎で、そして、最後のひとりはランタンを持って、闇を照らしていた。


 階段を下り切った先にあった鉄の扉を開けると、そこには闇の中に広がる深い本の森があった。上にあった静かで落ち着く本の森とは大違いでここは、人の心を不安にさせる不気味さがあった…。といった感じではあるが、辺りにつるされたランプやシャンデリアに火を灯すと、たちまち秘密基地のような少年心をくすぐる空間へと様変わりしていた。

 ユーリに関しては驚きの表情でこんな場所があったのかと関心していた。


「それじゃあ、黒龍に関する本、今から持って来ますから、皆さんはそこの椅子にでも腰掛けていてくださいね」


 あの後、寝巻姿からちゃんと私服に着替えたフルミーナが、禁書庫の奥に消えていった。


 ハル、ビナ、ユーリの三人は椅子に腰掛け、フルミーナが帰ってくるまで、先ほど三人で調べていた龍の山脈についての話しで時間を潰した。

 しばらくして、フルミーナが本棚の奥から帰って来た。ただ、戻って来た彼女の手もとにはたった二冊の本しか確認できなかった。


「ごめんなさいね、探してみたんだけれど、黒龍についての本はこの二冊しかなくて…」


「白虎の時に比べて、随分と少ないんですね」


 ハルが二冊の本をフルミーナから受け取って本のページを開いた。


「そうね、この辺りじゃ、黒龍の被害はほとんどないに等しかったからかしら、関連する本は入ってこなかったみたいね…」


 そこでユーリがもう一冊の黒龍の本に目を通し始めたので、ビナは読む本がなくなってしまった。彼女はしかたなく、ハルの傍に寄って彼の読んでいる本を一緒に眺め始めた。

 ハルは黙々と本を読み進めていく。書いている内容は、以前、解放祭の時、軍事施設に招集された際に聞かされた黒龍の説明より、劣化した情報しか載っていなかった。

 そのため、ハルが、ぱらぱらとページを素早くめくっていくと、ビナがもっとみたいといったような顔でいつの間にかハルの腕を抑えて覗き込んでいた。


「ビナ、見ていいよ」


「え、もう、いいんですか!?」


「うん、この本の内容はもう知ってたし、それに古い情報みたいだからさ」


「なんで古いって分かるんですか?」


「それはね…」


 ハルは解放祭で軍事施設に招集された時のことを話した。そこで黒龍についての最新の情報を得ていたことを。


「あのお祭りの時から、ハル団長は、黒龍のこと考えていたんですね…私なんてあの時ずっと楽しくて浮かれてましたよ…」


 ビナが気まずそうに受け取った本を開きながら、少し悲しそうに呟いた。

 ただ、ハルはそこで、ビナに優しく言った。


「それでいいんだよ、ビナ。俺はみんなが楽しく暮らして行けるようにって頑張ってるんだから」


「…だったら、私もそのお手伝いがしたいですよ、ハル団長だけに任せるんじゃなくて、私もあなたの役に立ちたいんです。一緒に傍で戦いたいんです…」


 ビナが本を置いてハルの目を見た。凛々しさに包まれた騎士としてのビナがそこにはおり、真剣に訴えかけていた。


「………」


 ただ、ハルはそこでビナのでこを指で優しく弾いた。


「あいたッ!」


「じゃあ、ビナが俺に剣で勝てたら考えてあげてもいいかな?」


「うええ、それじゃあ、絶対手伝わせてもらえないじゃないですか!!」


「アハハハ、まあ、そう言うことかな」


 ハルがいたずらぽっく笑いながら、それだけ言うと、顔の向きを変えて、これまた隣で真剣にもう一冊の方の本を読んでいたユーリに話しかけ、何が書かれていたか尋ねていた。


「フルミーナさん、ハル団長が意地悪します、助けてください!」


 ビナが隣に座っていたフルミーナにそう言うとハルがまた笑っていた。


「…うん、でも、ビナちゃんにはビナちゃんのできることがあると思うの……」


 フルミーナはさっきのハルとビナの二人の会話を全て聞いていた。


「だから、無理にハルさんについて行かなくてもいいと私は思うわ……」


 ハルが、いいこと言ってくれますね!とフルミーナに向けて言っていた。


「でも、私、ハル団長がこれ以上ひとりで戦うのは嫌なんです…」


「私はビナちゃんが危険なところに行くのが嫌だけどなぁ……」


「フルミーナさん、それだったらハル団長はいいんですか?ハル団長だけが危険な場所で戦って危ない目に遭うのはいいんですか…?元剣聖で白虎までひとりで倒しちゃうからって、また危険なところにハル団長だけを行かせてもいいっていうんですか!?」


「…えっと、それは………」


 ビナの勢いに圧倒されたフルミーナは言葉に詰まってしまった。


「ビナ隊長、失礼承知で意見させて頂くと、少し熱くなりすぎでは?」


 そこでユーリが本から顔あげて、ビナの熱を冷却させた。


「あ、ごめんなさい、フルミーナさん…その私、熱くなっちゃって…」


 ビナが我に返ると恥ずかしそうに下を向いていた。


「ううん、いいの、私も全然配慮してなくて自分のことばっかりになってたわ…」


 四人のいるテーブル席に気まずい空気が流れた。沈黙が薄暗い部屋を支配し始めた。のだが、そこでハルが口を開いた。


「いやぁ、ビナがそんなに俺のこと思ってたなんて嬉しいな!」


「え?なんですか、ハル団長、そのニヤニヤした顔は!?あ、あれですよ、なんだか今のハル団長は、エウスと同じ空気を感じます!!」


「ありがとね、ビナ!」


 ハルが、ビナの頭を撫でまわし始めると、彼女はまんざらでもない顔と恥ずかしさが合わさった顔で、抵抗はせずに、口で抗議し始めた。


「も、もしかして、からかってますね!?ハル団長だからって許し、ゆる…」


「俺は、ビナに感謝してるだけだよ」


「そう言われると、ぐぬぬ、私はどうすれば…」


 ビナは抵抗しようにも、もっと撫でて欲しい自分がどこかにいて、動けずにいた。


『ずるいな、俺も何かハル団長のために…』


 撫でられ感謝されてるビナを、ユーリは羨ましそうに眺めていた。


 いつの間にか変な空気もふざけ合うハルとビナのおかげで元通りになっていた。フルミーナはそのことに感謝したが、複雑な気持ちだった。


『うん、やっぱり、私なんかじゃダメなのかも…いいえ、そもそも、私はただあの人に重ねてるだけだから…』


「…ミーナ……」


 フルミーナを呼ぶ声がした。


「え?」


「フルミーナさん」


 名前を呼んでいるのはビナだった。


「フルミーナさん、ハル団長がまた意地悪してきます、助けてください…」


 腕にすがりついてきたビナの小さな手の温かさを感じ取ると、懐かしい記憶が呼び覚まされた。前にも同じことが確かにあった。


『どっちかというとあの子は意地悪な子だったかしら…とっても優しかったけど……』


「フフッ、そうね、ダメよハルさん、ビナちゃんに意地悪しちゃ、私が絶対に許さないわよ?」


「あ、はい、ごめんなさい…」


 素直にハルが頭を下げて謝ると、フルミーナとビナは笑い合っていた。


 ***


「あの、フルミーナさん」


 ハルたちの座るテーブル席から、二つの本を戻そうと離れようとしたフルミーナに、ユーリが声を掛けた。


「なんですか?」


「ここの禁書庫少し見て回ってもいいですか?」


「はい、いいですよ」


「並んでいる本の中身を見ても?」


「ええ、もちろん、ただ、面白い本は無いと思いますけどね」


 そこでフルミーナは、ビナを見つめてニッコリと笑った。


「見ちゃいけない本とかないんですか?」


 そして、ユーリがそう質問したとき、ハル、ビナ、フルミーナの三人は笑っていた。いつの日か誰かがした質問と似ていたから。


「だったら私がこの禁書庫で一番危険な本を教えてあげますよ。フルミーナさん、あの赤い本ってどこにあるんですか?」


「フフッ、あれなら、この本棚の道を真っ直ぐ行って左に曲がれば保管しているところがあるから二人で行ってみて」


「分かりました!さあ、ユーリ行こう!」


 ビナは、ユーリの手を取って教えられた本棚の奥に駆けて行った。


 蝋燭の炎たちが周囲を明るく照らす。奥に走っていった二人の足音はもう聞こえなくなっていた。テーブル席にはハルとフルミーナの二人だけになった。


「ハルさん、ひとつ聞いてもいいかしら?」


「はい、なんでしょうか?」


 フルミーナが緊張した面持ちで唾をのみ込んだあと告げた。


「ハルさんは、ビナちゃんのことどう思ってるのかしら?」


「もしかして、さっきのことですか?」


 その問いに、フルミーナは大きく頷いた。


「彼女も次の作戦に連れて行くんですよね?」


「ええ、そうなると思います…」


 ハルの声のトーンが一気に下がった。


「…あの、無理なことは分かってますし、私なんかの意見なんか聞かなくもいいことは十分分かっているのですが…どうか、あの子だけは今度の作戦に連れてかないでくれますか?お願いします…私、あの子のためなら何でもしますから、だから…どうか、あの子だけは……」


 フルミーナが鬼気迫る様子で懇願するが、一切動じないハルは首を左右に振った。


「フルミーナさん、それなら、言う相手が間違ってます。それはビナ本人に直接言うべきです。俺は別に彼女に一緒について来るように強制しているわけじゃありません。彼女は俺の任務に同行してくれる大切な仲間ではありますが、彼女は志願兵なんです。ついて来るのも、やめるのも全部彼女の自由なんです。だから、それは本人としっかり話し合って彼女に決めさてあげてください。俺は絶対に彼女の意思は尊重しますから」


 ハルはそこで言葉を区切って、今にも泣きだしそうなフルミーナをしっかりと見つめたあと続けた。


「フルミーナさんもビナと仲良くなったんですよね…分かりますよ、大切になってしまった人を危険な場所に行かせたくない気持ち、俺だってそうです。本当は俺の任務に誰も同行させたくはありませんでした。でも、今、俺のわがままで、俺が傍に居て欲しい人達には、みんな傍に居てもらってます…」


 エウスにライキルにガルナ、そして、ビナの姿が思い浮かび、最後にアザリアを思い浮かべた。


「だから、そんなみんなにはずっと迷惑かけてます…」


 しばらく、禁書庫内はハルとフルミーナを静寂に包み込んでいた。炎の揺らめきだけがその空間の中で唯一動いていた。

 しかし、そんな静寂もフルミーナが口を開いたことで終わりを迎えた。彼女の口から飛び出た意外な言葉で…。


「ハルさん、実は私ね、ビナちゃんのことが好きなの…」


 一瞬それはそうだろうと腑に落ちたのだが、何かが引っかかって問いかけた。


「…それはどういった意味でですか?」


「そのまんまの意味なの、私、女の子が好きで…だから、ビナちゃんのことが好きって意味は、男女の仲っていうのと同じ意味なんです…」


「そうだったんですね…」


 すぐに納得することはできた。ニュアやリーナが、ライキルを溺愛していた前例があるためそこまで驚きはしなかった。

 それに彼女の真剣さから嘘や冗談ではないことがすぐにわかったし、さっき彼女が必死だった理由にも筋が通る。愛する人が戦地に赴くのは誰だって嫌だし止めに入るのは当然のこと。ハルもそのことはよく分かっていた。


「あの、ビナちゃんや他の人には黙っててもらえますか?」


「分かりました、このことは私とフルミーナさんとの間にとどめておきます」


「ありがとうございます…」


「………」


 そこでハルは少し考えたあと彼女に小さな秘密を告げた。


「フルミーナさん、実は俺、まだ公表はしてないんですが、近々結婚するんです」


「え、本当ですか!?それは、おめでとうございます!」


 フルミーナが目を丸くしたあと、すぐに目を細めて、祝福してくれた。


「ありがとうございます」


「お相手の方は?」


「そのことなんですが…」


 ハルは、ライキル、ガルナの二人をお嫁にもらうことを話した。さすがにここでアザリアのことを出すのは目の前の彼女の頭を混乱させるだけなので伏せておいた。アザリアのことも言いふらしたかったが、言えば言うほど気持ちが沈んで、嫌な自分が出てきそうだったからやめておいた。


「そうだったの、二人を娶るのね、とっても素敵だわ。うーん、本当にいいわね、結婚…」


 彼女が羨ましそうに微笑んで見つめてくる。その表情は息を呑むほど綺麗だった。エルフ独特の綺麗な顔立ちなのもあるが、それよりも、いろんな感情がこもっている表情が、彼女をより儚く美しくしている気がした。そんな少し悲しそうな表情だった。


「はい、だから、二人にはいつまでも俺の傍に居てもらい、たくて……」


 そこでハルの顔から段々笑顔が消えていき、顔を下に向けてしまった。まるで幸せの楽園から追放されて地獄に落とされたみたいに沈んでしまっていた。


「どうかしましたか?」


 少し心配そうな顔をで彼女が覗き込んでくる。


「ああ、いえ、何でもないです」


「そう…?」


「はい、ごめんなさい、何でもないんです、ハハッ」


 ただ、次にハルが顔をあげた時は、いつもの笑顔に戻っていた。

 フルミーナは気を取り直して、式はいつあげるのか?と質問してきた。


「それはこの作戦が終わったらあげようと思ってます。あ、この事あんまり広めないでもらえると助かります。エウスやビナには言いましたが、まだ、各国の王たちにも言ってないんです」


「分かったわ、秘密にしておくわ」


「ありがとうございます。よし、これで俺たちは秘密を共有した者同士になりましたね」


 照れ臭そうに笑った。秘密の重要度でいったらハルのはいつか公表するため、薄っぺらかったが彼女の告白はかなり勇気がいるものだっただろう。少しだけ罪悪感を覚える。


「ハルさん、あなたって人は誠実なのね…」


「…え。全然、誠実なんて、違いますよ…俺は、ただ、いつだってみんなと対等でいたいだけです…」


「フフッ、だったらとっても失礼なことになるんですけど、私と友達になってくださらないかしら?」


 フルミーナが手を差し出してきた。


「それなら、もちろん、喜んで」


 差し出された彼女の手をハルは優しく握った。

 ただ、ハルはそこである事に気付いて続けて言った。


「あ、でも、俺はもうフルミーナさんのことずっと前から友達だと思ってましたけどね」


「フフッ、そうだったのね、嬉しいわ。でもね、それだったら、私と親しい仲の人はみんな私をミーナって呼ぶの、だから…」


「なるほど、だったらそれはまず最初にビナに言わせなきゃですね、フルミーナさん!」


「…あ、それもそうね…」


 フルミーナは顔を赤くしていた。ハルもそこから本気で彼女がビナのことをひとりの女性として愛していることが伝わってきた。


「ところでひとつお聞きしたいのだけれど、ハルさんはビナちゃんのことどう思ってるのかしら…?」


 恥ずかしそうに頬を赤らめる彼女は初恋をしている少女のようだった。


「フルミーナさんって案外顔に出ますね」


「え!?そうかしら」


 フルミーナが自分の両頬に手を当て熱を測る。ハルはそんな彼女を微笑ましく眺めてから言った。


「大丈夫ですよ、俺にとってビナは大切な仲間です。そこに俺がライキルやガルナに抱くような…そういう、えっと…はっきり言ってしまえば男女間で、抱く感情はありません…」


 誤解を恐れず正直にビナという女性に抱く感情をフルミーナに伝えた。それは今、恋をしている彼女には必要なことだと思った。


「でも、ビナちゃんはきっとあなたのこと大好きですよ」


 彼女のその言葉を否定は出来なかった。ビナに好かれているハル自身もそう思っていた。自分だってそこまで誰かの好意に鈍くない。そう、鈍くないはずなのだ。多分、きっと…。


「ありがたいことにそうかも知れません。ですが、いつか彼女も分かると思います」


 ハルはそれだけ言った。


「ん、何が分かるのですか?」


 そのフルミーナの問いに答えは返ってこなかった。


「ハルさん?」


「フルミーナさん、ビナのこと本当に好きなら、これからも彼女のことたくさん愛してずっと気にかけてあげてください…彼女がひとりの時も傍にいてあげてください。これは厚かましいひとりのビナの友人としてのお願いです」


 言わなくてもきっと彼女はビナの隣に寄り添ってあげるだろうが、言って約束しておきたかった。そっちの方が確実だから。


「ええ、それはもちろん、私が力になれることなら彼女になんでもしてあげるつもりです…」


「よろしくお願いしますね」


「ええ…」


 フルミーナはその時のハルに何か変な違和感を感じていた。が、ハル・シアード・レイが、ビナまで娶らなくて良かったと、この時、内心で安心しており、気にも止めることができなかった。

 フルミーナは、ビナのことを想うと周りが見えなくなるのはもういつものことだった。


 薄暗い本棚の奥から足音が響く。


「フルミーナさん!ハル団長!ただいま戻りました!」


 元気よくビナが手を振って走って来る。後から遅れてゆっくりとユーリが現れた。


「お帰りなさい二人とも、どうだった?」


 フルミーナが笑顔で二人を迎える。しかし、ユーリは釈然としない様子だった。


「あの赤い本のどこが危険なんですか?別に普通の本でしたよ?もしかして騙しました?」


 フルミーナとビナは顔を見合わせていたずらぽっく笑って、ユーリを呆れさせていた。ハルはというとその三人の和やかな様子を見て微笑んでいた。



 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 


 図書館トロンの禁書庫に何冊もある、題名の無い真紅の表紙の赤い本には、ひとりの女の子の一生が記されていた。それはあるひとりの男の子によって、その女の子の一生が記された原本を模写して作成されたもの。一個一個丁寧に作られたその本たちは誰にも読まれることなく眠り続けていた。ただ、その本はいつか誰かの手に届くのだろう。信じてくれた人達のもとに彼女の物語はきっと…。


 *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** 



 それから、禁書庫を出て、再びフルミーナを交えて図書館で、龍の山脈周辺のことや黒龍についての調べものを続けた。彼女がいると調べたい本がすぐに出てきて、この図書館で調べられることはほとんどなくなってしまった。やはり、黒龍に関しての資料は上にはほとんどないため全くはかどらなかったが、龍の山脈周辺のことについては、だいぶいい本が見つかり事前準備の方は完了したと言っても良かった。

 そして、気が付けば、図書館の窓は一斉に夕日を取り込み室内をオレンジ色に染めあげていた。


「フルミーナさん、今日はありがとうございました。俺たちはこれで失礼させてもらいます」


「また、来てくださいね!」


「…はい、また来ます!」


「あ、それと、もし、黒龍について深く知りたいなら、シフィアム王国に竜に関する専門の図書館があると聞いたことがあります。そこだったら何か黒龍についてだけじゃなくて、龍の山脈についてのことが書かれている書物があるかもしれません、機会があったら是非行って見てください」


「分かりました、もし、行く機会があれば行ってみます」


 ハルは前向きな返事をしたが、シフィアム王国に行く機会は今のところは全くなかった。


「あ、それと、ビナちゃん…少しいいかしら?」


 フルミーナがビナだけを呼び止めた。


「はい、なんですか、フルミーナさん?」


 ビナの宝石のルビーのような赤い瞳に、フルミーナが映る。


「少し二人でお話ししないかしら?」


「今からですか?」


「え、ええ…」


 ビナがハルの方を向いてジッと見つめてきた。それは残ってもいいのか、どうなのかという合図とハルは勝手に受け取った。


「俺とユーリは先に帰ってるよ?」


「はい!ちょっとフルミーナさんと二人でお話ししていきます!ところで話しって何なんですか?」


 純粋な瞳を輝かせるビナが、彼女に向けて問いかける。フルミーナは口をもごもごさせ返答に困っていた。


「行こうか、ユーリ」


「はい、ハル団長」


 ハルとユーリの二人は、まだ閉館まで少しある図書館に二人を残して先に古城アイビーに帰宅した。


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