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竜籠からの脱出

 六大国がひとつ【シフィアム王国】。遥か昔から竜と共に共生してきた竜人族が築いた竜舞う国。

 シフィアムの街で空を見上げれば常に竜が飛び交い、その背には竜人が乗り、彼らは一心同体空を支配していた。まさに人と竜が交わる場所であり、竜の楽園であった。

 そんなシフィアム王国の王都【エンド・ドラーナ】にある王城の王座の間では、日課の国営に関わる報告会が行われている最中だった。

 王座の間は、謁見の間やパーティー会場、祭典の際の儀式場所などを兼ねており、とても広い造りになっていた。何本もの巨大な太い柱が天井を支えており、周囲は大きなガラスが張られ、室内を明るく照らしていた。王座の間の入口から王座までは赤いカーペットが伸びており踏むのに抵抗があるほど上等な布を使っていた。


「それで四大神獣の方の件はどうなっているのかな?あと、どれくらいであの英雄さんは作戦を実行に移してくれるのかな?」


 そんな王座の間の最奥で大きな黄金の椅子に腰掛け、白い衣を纏った男がいた。その男がまさにシフィアム王国の現在の国王【サラマン・ナーガード・シフィアム】本人であった。


 竜人族の国の王はもちろん竜人族である。したがってサラマンも竜人族だった。


 竜人族であるサラマンは両腕、両足は竜のような鱗に覆われていた。これは竜人族の特徴であり、鱗の色は、髪の色の様に、親から子へと受け継ぐことがほとんどだった。

 サラマンの顔には左側だけに少し鱗があった。彼の鱗の色は美しい水色で、艶があり輝いていた。


 竜人族は、両腕両脚に鱗があり、鱗に覆われた尻尾があるのが基本の身体の作りであった。顔や首周辺は鱗が無い者もおりそこは人によって個人差があった。


 ただ、サラマンを象徴するものとして、上げるならそれは美だった。彼の水色の髪は、深い森に流れる清らかな川のせせらぎ様に、どこまでも透き通っており、顔も眉目秀麗で、まさに美しさの塊のような男だった。

 どちらかと言えば、王様というよりは、物語に出てきそうな若い王子様という言葉が似合っている容姿をしていた。


「ハッ、その件は、以前、お伝えしました。数週間前にレイド王国の作戦本部から避難区域の拡大の連絡が各国にあり、ただいま、その準備で作戦実行予定日には遅れが出ております。そのため、黒龍討伐に乗り出すのは、夏の終わりごろになるかと…」


 報告者である文官が返答した。


「そうか、まあ、あれだろ?その避難民の受け入れは、レイドとアスラとイゼキアがやってくれるんだろ?」


「はい、我が国は避難民の受け入れ先には該当しておりませんので、その点は何も心配はいりません」


「ならいいんだ、だが、全く困ったものだよ作戦本部には、彼らはいったい何を考えているんだろうね?」


 サラマンが、王座のすぐそばで控えていた杖を持った二十代くらいの若い女性に、意見を求めるように、流し目で見つめた。


「ん、なんじゃ?」


「だから、避難区域を広げる意味だよ、話し聞いててよ、バラハーネさん」


 サラマンが、会話しているのはこの国の宰相の【バラハーネ・ムル・ナー】だった。バラハーネはゆっくりとした口調で彼に言葉を返した。


「ああ、黒龍の脅威から少しでも人々を遠ざけたいのじゃろう。なんせ、かの偉大な英雄はお優しいお方と評判じゃからな」


「バラハーネさん、言っておくけど彼は危険人物なんですよ?」


「フフッ、そうじゃな、五つの大国が揃って彼をレイドに閉じ込めておくほどじゃからな」


 彼女は臆病者とでも言ってるかのようにいたずらに笑う。


「全く、バラハーネさんは、あの四年前の剣闘祭に来なかったから分からないでしょうが………ていうか、白虎をひとりで討伐している時点で、彼はもう、化け物ですよ、人間じゃない」


 サラマンは自分のさらさらの長髪をくるくると指を回しながら触っていた。


「そうさね…でも、私たちは人間じゃない竜とも仲良くしていけてるだろう?」


「いや、それとこれとはまた話が別で……」


 サラマンとバラハーネがなんとも和やか時間を過ごしている時だった。

 王座の間の扉が勢いよく開いた。

 その時、何事か?と王座の間で待機していたシフィアムの精鋭騎士たちが剣を抜こうとしていたが、入ってきた二人の女の子を見て、彼らは一斉に剣を下ろした。


 無礼にも程がある入り方をしてきた二人の女の子が、なぜ、許されたのかというと。


「お父様!!」


 二人の少女は声を合わせてサラマンに向けていった。


「おお、ウルメア、キラメア、どうしたんだい?」


 王座の間に突撃してきたのは、サラマンの二人の娘である【ウルメア・ナーガード・シフィアム】と【キラメア・ナーガード・シフィアム】であった。


 ウルメアとキラメア二人は双子の姉妹であり、ウルメアが姉でキラメアが妹であり、二人とも歳は十六歳と王家の人間ならば淑女に育っていてもおかしくはないのだが、二人の性格は破天荒で特に妹のキラメアはかなりの問題児だった。

 そんな二人は国民からはその美貌を持って愛されていた。

 姉のウルメアは、深い緑色の長髪を後ろでひとつに結び、青い瞳に、身体の鱗は緑色だった。

 一方、妹のキラメアはこれまた水色の長髪を後ろでひとつに結び、白銀色の瞳に、身体の鱗は水色だった。

 二人の容姿は、完全に両親から色濃く受け継いだものであり、親であるサラマンも二人の可愛さには参ってしまっており、彼女たちの前ではいつも親バカだった。しかし、最近は、二人の将来のことも考えて、父親らしい威厳をみせ淑女としての道を歩ませようとおもっているのだが、効果がないのが悲しいところだった。


「お父様、この手紙にスタンプしてくれない?」


「え、スタンプ?」


「そう、ここにお父様のスタンプが欲しいの!」


 キラメアから受け取った手紙にサラマンは目を通した。

 そこにはレイド王国の都市パースにある古城アイビーに入るため許可を願う内容が記されていた。


「ん、ん?」


 サラマンの頭の中は疑問で埋め尽くされた。なぜ、娘たちが作戦本部がある古城アイビーの入場許可を乞う手紙を用意しているのか?サラマンの理解の範疇を超えていた。


「お父様、早く、早く」


「ちょっと待ちなさい、この手紙をどうするんだい?」


「どうって、決まってんじゃん、お父様!その古城アイビーってところの門番さんに見せて城の中にいれてもらうの!」


「…その城に行って何をするんだい?」


「ハル・シアード・レイに会いに行くに決まってるじゃん!もう、お父様ったらそれぐらい考えれば分かるでしょ!」


 サラマンの思考が完全に停止する。今、さっき、バラハーネとハルは危険人物だと語り合っていたばっかりなのにこれである。


「最強の剣聖の実力実際にこの目で見て見たいの、ねぇねぇ、いいでしょ?」


「…い………」


 可愛らしい愛娘の表情に一瞬、いいよ、と言ってあげそうになったが、サラマンは何とか踏みとどまる。


『落ち着け、私、ダメダメ、パースはレイド王国で各方面から人々を受け入れてる交易の街、治安も悪いはず、そんなところに行かせるっていうか、この国から出させてたまるか!!』


「いいや、だめだ。いくら二人の頼みでも、それはダメだ。今、二人をこの国から出すわけにはいかない。今、外ではたくさんの怖いことが…」


「それは、何回も聞いたよ、お父様…」


 ウルメアが少し悲しそうな表情で訴えかけて来る。その表情をみたサラマンは胸が苦しくなったが、ここも何とか耐えきった。


「そ、そう、何回も言ってるからね…」


 ウルメアの表情がさらに落ち込んで、サラマンの心にも限界が近づいてくる。


「私たち、ずっと、このドラーナから出られなくてとっても悲しい…」


「そう、私たちだって、たまには他の国や街に行ってみたい、お父様だけいろんな国に行ってずるいよ…」


「ハア、グググッ……」


 二人の愛娘の沈んだ顔を見てサラマン身もだえする。隣ではバラハーネがその光景を見てニコニコ微笑んでいた。


『ダメだ、今は大事な作戦中なんだ。どこの国も浮かれているように見えて、ピリピリしてる。白虎が討伐されたことで、レイドとアスラ、特にレイドの国力は防衛の面から跳ねあがった。もしかしたら、黒龍を討伐せずにこちらにそのままあの悪魔を送り込んでくる…』


 王座で身もだえしながら頭をフル回転させるサラマン。そんな彼にしびれを切らした二人は叫んだ。


「もう、お父様、なんか知らない!!!」


「え………」


 ウルメアとキラメアの二人は、王座の間から走って出て行ってしまった。


「ああ………」


 王座から悲しそうに手を伸ばしているサラマンの隣ではバラハーネがニヤニヤしていた。


「バラハーネさん、も何か言ってやってくださいよ…」


「サラマンよ、可愛いからっていつまでも鎖でつないでおくのは良くない…」


「ですが…」


「それに、あの娘さんたちを止めるのは無理だと思うね」


「どうしてです?」


 バラハーネは声を出して笑った後確信を持って言った。


「なんせ、あの子たちは、お前さんとヒュラの娘だからじゃよ」


「…ど、どういうことですか…?」


「昔のお前さんとヒュラにそっくりってことじゃ、止めても止まらない、めちゃくちゃなところがじゃ。まあ、だからワシがひとつ手を打っておいたから安心して、お前さんは報告会を続けてくれ」


 それだけ言うと、バラハーネは立ったまま目を閉じて眠っていた。



 ***


 ウルメアとキラメアのふたりは、王城内の長くて広い廊下を駆けていた。


「お父様にもちゃんと伝えたし、ウル姉、早くパースに出発しよ!」


「うん、でも、キラちゃん、手紙はちゃんと持った?」


「もちよ、バラハーネさんからもらった手紙ちゃんと持ったよ」


「そっか、じゃあ、急ごうか」


 二人は王城を抜け外に出て、竜を飼育している【竜籠(りゅうかご)】と呼ばれる、鳥かごを巨大にしたような場所に入っていった。シフィアムでは竜籠がいたるところにあり、竜たちが飼育されていた。王城にあるのは、その中でも一際大きい籠ばかりで、その中にいる竜たちも大型や希少種など特異な個体の竜ばかりが集まっていた。


「うちはダーダーちゃんに乗って行くけどウル姉はどうする?」


 ダーダーとはキラメアが銀色の鱗の翼竜に勝手に付けた名前で特に意味はなかった。ただ、その銀色の翼竜はこの竜籠の中では一番早く飛ぶことができる竜であった。

 その銀の翼竜の体長は十二メートルほどで、無駄な筋肉がないスマートな身体をしていた。


「私はべヒちゃんに乗ろうかな、ちょっと遅いけど…」


 ウルメアの目の前には赤と黒の鱗で、気性の荒そうな目つきの鋭い翼竜がいた。体長二十メートルはある筋肉質でゴツゴツした身体をしており、スピードよりは力に自信があるタイプの竜だった。


「ベヒでもいいと思う、だって、荷物持ってもらう子も連れて行くし、結局、遅くなるからね」


 二人が乗る竜の他に、もう一頭、荷物を持ってもらうために連れて行くことは決めていた。すでに今日の早朝に荷造りは済んでおり、後はその荷物を持っている竜を見つけるだけだった。


「うっしゃー、じゃあ、その荷物の子を見つけ次第、出発だ!」


「りょうかーい」


 キラメアとウルメアが自分たちの竜にまたがった時だった。

 ひとりの男が二人のもとに歩いてくる。


「お嬢様たち、その旅行に私も連れていってはくれませんか?」


「え?」


 ウルメアとキラメアが、その声をした方を見ると、二人の表情はたちまちに明るくなっていた。


 そこにいた男は…。


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