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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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誰もいない図書館

「あれ?」


 ビナが第一声を上げた、扉にかかった看板にでかでかと休館日と書かれていることに絶望しながら。


「今日は、休みだったみたいだな、ビナ」


「うう、ちゃんと明日もやってるか見ておけばよかったです」


「ハハハハハ、また明日だな、今日は戻るか」


 ハルも拍子抜けして笑った。


「はい」


 ビナがしょんぼりしながら言った。


 ハルとビナが帰ろうとした時に、図書館の扉が開いた。


「あら?ビナちゃん?」


「え?」


 そこには大きな背のした女性がほうきを持って出てきた。


「フルミーナさん!!」


「来てくれていたのね、ごめんなさいね、今日が休館日だっていうの昨日忘れていたの」


「いえ、私も気が付かなくて」


「ふふ、あら、そちらの方は?」


 フルミーナはハルのほうを見ながら言った。


「ハル・シアード・レイと申します」


 右手を開いて自分の胸に当て、左足を軽く後ろに引き、左手は下の方を維持したまま、左手の手のひらを相手の方に向けて軽く頭を下げる、これを同時に素早く行いながらハルは自分の名前を述べた。


 これは、初めて会ったエルフやエルフの国の公の場でする正式なあいさつの仕方であった。


 しかしこれを日常生活でする人はあまりいない。


「ふふ、丁寧な方なのね」


「正しかったですか?」


「ええ、完璧よ」


 彼女はハルの挨拶に感心していたが、彼の名乗った音節の数と名前に違和感を覚えた。


「レイ?三音…」


 彼の方を見るとビナにせがまれ、さっきの挨拶のやり方を教えていた。


 ビナの挨拶はかなりぎこちなくて、ハルが笑い、ビナにたたかれていた。


 フルミーナはそこで気づく、目の前にいる人がとんでもない人だということに。


「あ、あなた、もしかしてあの、剣聖なの、レイド王国の?」


「ええ、元剣聖ですけどね」


 フルミーナは驚いた表情をしたまま、ビナのほうを見た。


 フルミーナはビナがただの引っ越してきた子供だと思っていたからだ。


「ビナちゃんあなた一体何者なの?」


「え!私ですか、私は今、ハル団長の部隊の騎士で、前はレイド王国の騎士団にいて…」


 頭の整理が追いつかない彼女はさらに驚いて、空いた口が塞がらなかった。


 フルミーナはとにかく二人を図書館の中にあげた。


 図書館の中は、もちろん、三人以外誰もいなく、静謐な空間が広がっていた。


「そこのテーブルにある椅子に座っていてください、お茶を持ってきます、朝ご飯は食べましたか?」


「はい、食べてきました」


 ハルが答えると、フルミーナは頷き、ほうきを持ってカウンターの奥に消えて行った。


「ビナ、彼女とどうやって知り合ったんだ?」


「昨日、知り合ったんです、図書館で届かない本をとってもらったとき」


「へー、確かに、ビナにはほとんどの本が届かないからな」


 辺りを見渡しながら言った。


「ハル団長のバカ」


「はっはっはっ」


 そうじゃれていると、カウンターの奥から丸い板にお茶を三つ乗せたフルミーナが戻ってきた。


 二人の前にあったかいお茶がおかれる。


「本当は、館内に飲み物の持ち込みは禁止なんだけど、これは内緒ね!」


 フルミーナはニコッと笑った。


「フルミーナさんありがとう」


「ありがとうございます、休みの日なのに」


 二人が礼を言った。


「いいのよ、人と会うのが好きだから」


「そういえば、どうしてフルミーナさんはここにいるんですか、休館日なのに?」


 ハルは疑問を投げかけた。


「それは、私がここに住んでいるからかしら、館長の特権みたいなものをつかってね」


 彼女はいたずらっぽく笑いながら言った。


「そうだったんですね」


「あなたたちなら、いつでも歓迎するから、いつでもいらっしゃい」


「はい、足を運ばせてもらいます」


「それで今日は何を調べに来たの?」


「私は、ここら辺の地理と魔獣や神獣について調べに来ました」


「ビナちゃんは?」


 熱そうにお茶を飲んでいたビナに尋ねた。


「あ、アツ、えっと、私も魔獣や神獣についての本が読みたくて」


「分かりました、先にお茶を飲んでしまいましょうか」


 三人がおしゃべりしながらお茶を飲み干すとフルミーナが関連書籍を持ってきてくれた。


 ハルとビナはそれぞれ本を読みながら、分からないことはフルミーナに聞いて、さらに分からないことは新しい本を持ってきてもらって対応した。


「魔獣や神獣は昔、魔物や魔龍、悪魔、神様、災い、呪い、いろんな国や地域で呼び名がちがったの、今でも一部の部族なんかは悪魔や神様って言ってるところもあるのよ」


「へー、でも今はみんな魔獣とか神獣って呼び方、共通ですよね?」


 ビナが感心して疑問を口にした。


「そうね、魔法というものが発見されたあたりから、大国が呼び方をまとめたのよ」


 二人は本のページをめくりながら会話を続けた。


「ところで、ビナちゃん魔獣と神獣の特徴の違いが言えるかしら?」


「えっと、体の大きさが違うのと…」


「そうね、それが一つの大きな違いね、神獣は魔獣よりも大きくて、その大きさを四段階に分けられるわ、小型、準中型、中型、大型、大型になるとお城よりも大きいと言われているわね。神獣はそんな魔獣の体の大きさの違いなのよね」


「あとは…えーと、なんだっけ」


 ビナがちょっと悩んでいるとハルが答えた。


「マナの貯蔵量が魔獣と神獣では違うということですよね」


「正解です」


 ビナが机に突っ伏し、悔しそうにもがいていた。


『知ってたのに…』


「魔獣や神獣は、魔法を使うためのもととなるマナを、体内に貯めておける特殊な臓器を持っているのが特徴ですね、ちなみに神獣の方が遥かに多くのマナを貯めこめる臓器を持っています」


「ええ、だから魔獣や神獣はマナが無い場所でも魔法が使える」


 ハルが言った。


「そうです、エーテルがなくなってから、人間が魔法を使える範囲はとても狭くなりましたが、かれら魔獣などは変わらず魔法が使えますものね」


「魔獣を狩る仕事の依頼料も昔と比べて桁違いにあがったと聞いたことがあります」


「そうですよ、昔は今よりずっと安く魔獣の討伐を冒険者ギルドに依頼できました」


「やはりエーテルがなくなったのは人類には致命的な出来事でしたね…」


「そうね…あの子…も…」


 フルミーナが何か呟き、一瞬見せた表情はとても悲しそうな顔をしていた。


「フルミーナさん、大丈夫ですか?」


 ビナがフルミーナの表情の変化に気づいて尋ねた。


 フルミーナはしばらくビナの顔から目が離せない感じだった。


「どうしたんですか?」


 ビナは心配そうに見つめる、フルミーナの綺麗な緑色の瞳にはビナの顔が映り込んでいた。


「あ、ごめんなさい、なんでもないの…」


 フルミーナはいつもの優しい表情に戻っていたが、少し寂しさが残った笑顔をしていた。


 それからハルとビナとフルミーナは、日が暮れるまで三人で本を読んだ。


 ハルとビナがフルミーナに別れを告げた後の帰り道。


「フルミーナさんいい人だったな」


「ですよね、みんなに紹介したいです、今度連れて行きましょう」


「そうだな」


 ハルとビナは城に帰るまで、今日読んだ本の知識を教え合った。

















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