七騎士物語 冷熱極まる
「間に合ったか!!」
主戦場ではすでにユーリが前に出て戦っていた。戦況はこちらの劣勢、三対四で、相手も手練ればかりとなると、どうしても力負けしていた。ユーリが二人を相手して、あとの味方二人にはそれぞれ一人づつ相手をしてもらい時間を稼いでもらっていた。ただ、こちらの味方の二人では、一人でエリザ組の上位に入る新兵ひとりを相手させるのは荷が重かった。
そのため、先ほどから、味方の新兵たちが次々と脱落していくのを、奥歯を嚙みしめながら見ていることしかできない自分を憎んだ。
だから、右翼場で決着がついたとき、流れが変わるのを感じていた。
『よし、これで、こっちも四人だせる……!?』
ユーリはとっさにほぼ死角になっている視界の端から迫ってきている剣に気づいた。意識の全てをその不意の攻撃に回し、剣を合わせるように努めた。
「このッ!」
なんとか間に合った剣が不意打ちを弾いたがすぐに、三方向同時に敵が迫ってきていた。
誰が攻めてきた?と思ったら、くすんだ金髪にいい感じに日焼けをしたラウロ・コーベットが主戦場に現れていた。
「戦闘中に考え事かい?ユーリ君!?」
ラウロの追撃がユーリの首を捉えそうになるが、そう簡単にやられるユーリでもない。ラウロの振るう剣を後ろにのけぞりぎりぎりで回避した。
「なんでお前が出て来てる?」
主戦場にエリザ組が出せる新兵の人数は四人。途中交代が認められないため、さっきまでいなかったラウロがここにいるのはおかしいのだが、ユーリが周囲を確認した時だった。
エリザ組の新兵がひとり倒れており、エウス組の新兵が二人倒れていた。
『クソッ、幸いが不幸を呼んで来たということか…』
ユーリが導き出した答えはこうだった。エウス組の新兵ひとりが奮闘した結果一人の撃退に成功。しかし、戦場に補充された新たな新兵がラウロであり、エウス組の新兵二人は、彼が出てきたと同時に打倒されたと考えるのが妥当だった。
「オラオラ、オラララァ!!」
ラウロの力任せな剣がユーリを襲う。疲労が残っている今、最も来て欲しくないタイプの最悪の相手だった。
『マズイ、マズイ!三対一でラウロがいるのはきつ過ぎる…』
すぐに味方の新兵二人が戦場に出て来るが、残っているエリザ組の新兵一人に足止めされてしまい、助けを求めるのは困難だった。
ユーリが一旦、後退し、ラウロから距離をとるが、その間に残りの二人のエリザ組の新兵に詰められる。体勢を立て直す間もなく反撃に転じることができない。
「決着をつけようぜ!!」
ラウロが剣を振り回しながら迫り、叫ぶ。
「おい!三対一はずるいんじゃないかぁ!?」
ユーリの口から真剣勝負のこの場に相応しくない騎士道精神に訴えかける卑怯な言葉出てきた。正直、これは自分でも最低だと思ったが、ユーリは、自分というものを貶めてでも、いや、なんとしてでもこの場を切り抜けなければならなかった。
「ユーリ、ここは戦場だ!腑抜けたこと言ってるんじゃねぇ!!」
ラウロの純粋な怒りがユーリにぶつけられた。彼の振るった剣をユーリが防ぐが、あまりの衝撃に数メートルほど吹き飛ばされた。
「戦場は生きるか死ぬかだろ?お前は本当の戦場に出た時もそんな言い訳をして死んでいくのか?俺の知ってるユーリはそんな腰抜けたやつじゃねぇなぁ!?」
相当、ラウロをぶちキレさせることに成功したユーリ、気がつけば戦場の端に追いやられており、あと少し後ろに下がれば失格となり、まさに絶体絶命だった。
「ラウロ、俺は負けられない…」
命乞いをするようにユーリは呟いた。
「はあ…?じゃあ、自分の手で勝利を掴めよ、その持ってる剣を精一杯振るって、俺たちから勝利を奪えよ!」
「ここは一時仕切り直さないか?」
「お前…ユーリ、本当に何言ってんだよ!!」
「落ち着けラウロ、さっきも言ったが三対一じゃ、お前も勝った気がしないだろ?」
「ユーリそれ以上喋んじゃねぇ…」
「お前ら二人もそうは思わないか?」
ユーリはへらへらしながら、ラウロの隣にいたエリザ組の新兵二人に声を掛ける。二人は戸惑った様子でどうしようか悩み始めていた。
「ユーリ、お前には失望したぜ…」
ラウロは、認めていたユーリという男の呆気なさに絶望し、その絶望の深さを怒りに変え、そして、剣でその怒りを体現させた。
ただ、その怒りを爆発させた時、ラウロは目を疑ってしまった。
そこには、情けないユーリの姿はなく、いつもの冷静でキリッと!!」
主戦場ではすでにユーリが前に出て戦っていた。戦況はこちらの劣勢、三対四で、相手も手練ればかりとなると、どうしても力負けしていた。ユーリが二人を相手して、あとの味方二人にはそれぞれ一人づつ相手をしてもらい時間を稼いでもらっていた。ただ、こちらの味方の二人では、一人でエリザ組の上位に入る新兵ひとりを相手させるのは荷が重かった。
そのため、先ほどから、味方の新兵たちが次々と脱落していくのを、奥歯を嚙みしめながら見ていることしかできない自分を憎んだ。
だから、右翼場で決着がついたとき、流れが変わるのを感じていた。
『よし、これで、こっちも四人だせる……!?』
ユーリはとっさにほぼ死角になっている視界の端から迫ってきている剣に気づいた。意識の全てをその不意の攻撃に回し、剣を合わせるように努めた。
「このッ!」
なんとか間に合った剣が不意打ちを弾いたがすぐに、三方向同時に敵が迫ってきていた。
誰が攻めてきた?と思ったら、くすんだ金髪にいい感じに日焼けをしたラウロ・コーベットが主戦場に現れていた。
「戦闘中に考え事かい?ユーリ君!?」
ラウロの追撃がユーリの首を捉えそうになるが、そう簡単にやられるユーリでもない。ラウロの振るう剣を後ろにのけぞりぎりぎりで回避した。
「なんでお前が出て来てる?」
主戦場にエリザ組が出せる新兵の人数は四人。途中交代が認められないため、さっきまでいなかったラウロがここにいるのはおかしいのだが、ユーリが周囲を確認した時だった。
エリザ組の新兵がひとり倒れており、エウス組の新兵が二人倒れていた。
『クソッ、幸いが不幸を呼んで来たということか…』
ユーリが導き出した答えはこうだった。エウス組の新兵ひとりが奮闘した結果一人の撃退に成功。しかし、戦場に補充された新たな新兵がラウロであり、エウス組の新兵二人は、彼が出てきたと同時に打倒されたと考えるのが妥当だった。
「オラオラ、オラララァ!!」
ラウロの力任せな剣がユーリを襲う。疲労が残っている今、最も来て欲しくないタイプの最悪の相手だった。
『マズイ、マズイ!三対一でラウロがいるのはきつ過ぎる…こうなったら、やるしかねぇ…』
すぐに味方の新兵二人が戦場に出て来るが、残っているエリザ組の新兵一人に足止めされてしまい、助けを求めるのは困難だった。
ユーリが一旦、後退し、ラウロから距離をとるが、その間に残りの二人のエリザ組の新兵に詰められる。体勢を立て直す間もなく反撃に転じることができない。
「オラオラ!このまま、終わらせてやるぜぇ!!」
ラウロが剣を振り回しながら迫り叫ぶ。
「おい!三対一はずるいんじゃないかぁ!?」
ユーリの口から真剣勝負のこの場に相応しくない騎士道精神に訴えかける卑怯な言葉出てきた。正直、これは自分でも最低だと思ったが、ユーリは、自分というものを貶めてでも、いや、なんとしてでもこの場を切り抜けなければならなかった。
「おいおい、ユーリ、ここは戦場だぁ!腑抜けたこと言ってるんじゃねぇ!!」
ラウロの純粋な怒りがユーリにぶつけられた。彼の振るった剣をユーリが防ぐが、あまりの衝撃に数メートルほど吹き飛ばされた。
「戦場は生きるか死ぬかだろ?お前は本当の戦場に出た時もそんな言い訳をして死んでいくのか?俺の知ってるユーリはそんな腰の抜けたやつじゃねぇなぁ!?」
相当、ラウロをぶちキレさせることに成功したユーリ、気がつけば戦場の端に追いやられており、あと少し後ろに下がれば失格となり、まさに絶体絶命だった。
「ラウロ、俺は負けられない…」
命乞いをするようにユーリは呟いた。
「はあ…?じゃあ、自分の手で勝ちを掴めよ、その持ってる剣を精一杯振るって、俺たちから勝利を奪い取ってみせろよ!!」
「ここは一時仕切り直さないか?」
「お前…ユーリ、本当に何言ってんだよ…」
「落ち着けラウロ、さっきも言ったが三対一じゃ、お前も俺に勝った気がしないだろ?」
「それ以上喋んじゃねぇ…」
「お前ら二人もそうは思わないか?」
ユーリはへらへらしながら、ラウロの隣にいたエリザ組の新兵二人に声を掛ける。二人は戸惑った様子でどうしようか悩み始めていた。
「ユーリ、お前には失望した!!」
ラウロは、自分が認めていたユーリという男の呆気なさに絶望し、その絶望の深さを怒りに変え、そして、剣でその怒りを体現させた。
いつもクールで落ち着いているユーリは、いつもうるさく熱い自分とは正反対の人間だった。
ユーリは剣の試合ではいつでも一、二位の争いに顔を出していた天才。剣の試合でラウロが優勝したとき必ずユーリは他の誰かに負けていた。ラウロがどれだけ噛みついても唯一、一回も敵わなかった相手それがユーリだった。だから、この状況がラウロからしたら、酷く最悪な展開だった。まるで、自分がひとりではユーリという男に敵わないと言われている気がして腹が立った。
正反対の彼に自分が否定されている気がした。
「ここで負けて死んでけやぁ!!!」
ただ、その深い怒りの感情を爆発させた時だった。
「!?」
ラウロは目を疑ってしまった。
そこには、情けないユーリの姿はなく、いつもの冷静で凛とした顔で佇む彼がいた。そして、こちらをただ、静かに見据えていた。
「なんだよ、それ…」
ラウロの灼熱の怒りが一瞬、緩んだ時だった。
戦場に化け物が投入されていることに、ユーリの前に立っていた三人は気づくことができなかった。
ラウロの剣が振り下ろされる前に、化け物が三人に突っ込んでいた。
「な…おま……ガハッ!?」
刺突の構えで突っ込んで来たアストルがラウロの脇腹を捉える。衝撃を防具が吸収してラウロを守ってくれるがその限界を超えて残った衝撃が彼に痛みを与えると同時に吹き飛ばす。
ユーリの前から三人が横なぎに吹き飛んで姿を消し、アストルだけが残った。
「アストル…」
「ユーリ、遅れてごめん」
「いいんだ…ただ、そんなことより、アストル、お前…」
ユーリの目から見てもアストルが戦える状態ではないことが一目で分かった。全身血にまみれ顔も身体も晴れ上がっているところが何箇所もあり、辛そうな呼吸から痛みを我慢していることが分かった。そして、決定的なことに左腕が大きく腫れ上がりだらりと下げて力が入っていないことから、骨折していることが目視で確認できた。
「もう、ダメだろ…こんな……」
「ユーリ!」
痛々しい身体の傷をユーリが見渡していると、アストルの声が響いた。
「大丈夫だから、俺、最後まで戦うから」
「………」
「みんなが頑張ってやっとここまで来たんだ。この繋がりを途切れさせたくない、だからさ…」
ユーリは彼の言葉を受け入れるしかなかった。なぜなら、彼はその時、笑っていたからだ。
「勝ちに行こうよ!」
大きな希望に触れてユーリは柄にもなく涙が出そうになったがぐっとこらえた。
「ああ…そうだな…もちろんだ、任せろ、俺が導く!!」
***
そこに吹き飛ばされた痛みが和らいだラウロが周囲を確認した。
「何が起きた?確か、アストルが…」
そこでラウロが前を確認すると、視線の先には戦場を仕切る白い線があった。
「ああ、すまない…俺のせいだ……」
吹き飛ばされた三人は戦場の外に吹き飛ばされて失格となっていた。ラウロはその白線の外にいる自分に絶望していた。そして、一緒に道連れにしてしまった仲間たちに見せる顔が無かった。
「いいってラウロ、気にしないでよ」
「そうだ、お前のせいじゃねえって、俺たちが甘かっただけだ…ほら、立てよ」
ラウロが二人の手を借りて立ち上がった。視線の先にはユーリとアストルが背を向けて主戦場の中央に駆けていくのが見えた。
「俺は…ひとりで熱くなって…お前らまで終わらせちまった……」
悔しかった、この試合のために何時間も何百時間も多くの時間を掛けてきた。それがものの数分であっけなく終わってしまったことが…。それも自分のミスのせいで他の仲間も巻き添えにして終わらせてしまったことが、情けなかった。
「すまねぇ…」
ラウロが二人のエリザ組の新兵に謝った。
「ラウロ、俺たちのことは良いよ、ただ、泣くな…お前に涙は似合わない、そうだろ?」
片方の新兵がラウロを元気づけるが、もう一人が言った。
「いや、いいんじゃない?だって、ラウロずっとこの日のために本気で稽古してたんだから、泣く権利くらいはあると思うよ」
「…そっか、そうだな……」
ラウロは二人の肩の間で悔し涙を流していた。
どれだけ積み重ねても、一瞬で崩れ去る時がある、その衝撃が今までの自分を否定せざる負えなくなる。悲しみの果てに砕けた自分が沈んでいく…。だけど、そうなったとき、そばでその崩れたかけらを拾ってくれる者がいる。
それを我々は仲間と呼ぶのだろう。
ラウロに肩を貸す二人は、ラウロの頭の上で話していた。今のラウロは話す元気がないといった感じでずっとうなだれていた。
「っていうよりさ、そろそろ試合が終っちまいそうだよな…勝てるかな、俺たちのチーム?」
「え!大丈夫だよ、俺たちにはまだあの二人が残ってるじゃん!」
「ああ、そういえばそうだったな、まだ俺たちには猛獣が二人残ってたな」
「相性は最悪だけどね…」
「確かに、相性悪すぎてもう逆に面白いけどな、あいつら」
「あ、見て、来たよ」
主戦場にエリザ組から万全の状態の新兵がひとり投入されていた。
その満を持して戦場に送り出された金髪碧眼の青年はにやりと笑って呟いた。
「さてさて、決着つけようか?」