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七騎士物語 連戦連勝

「先にアストルだ、アストルを止めれば右翼場の流れはこちらに戻って来る。いいか、俺の剣に息を合わせてくれ、いくぞ!」


「おう!」


 エリザ組の新兵二人が駆け出す。右翼場の状況的にはもうアストルひとりに十人ほどが蹴散らされている状況だった。これ以上右翼場で負けが込むとエリザ組の負けが濃厚になってくる。エリザ組に優秀な新兵が集められたからといって、アストルは新兵たちのトップ二十の上位に食い込む新兵だ。五位から上やトップをとった者たちは格が違う。

 二人の息の合った剣がアストルを捉えようと猛烈な勢いで襲いかかる。何度も二対一の剣戟の音が周囲に響く。しかし、攻め続けるもアストルを捉えるどころか、二人は何度か反撃をもらい。それぞれ、腕や胴に一撃もらってしまった。その一撃は重く、腕にもらった方の新兵は剣を握ることが難しくなっていた。それでも、剣を落とせば失格で退場となってしまうので、剣だけはしっかり握っている状況だった。剣は自分で最後まで握ってさえいれば地面に剣が触れても何も問題はない。ただし、相手の攻撃を受けて落としたり、何かのきっかけでうっかり落としても失格即退場になってしまう。


「大丈夫か?お前は腕か…」


「ああ、利き腕じゃないだけましだが、ちょっと片腕だけしか使えそうにない」


 どれだけケガをしても後ろでは大勢の白魔導士が待機しているため、骨が折れようがどれだけ重い負傷を負っても、白魔法をかけてもらい次に目が覚めたときにはすっかり元通りであるため、今、負うケガに関しては何も心配はいらなかった。ここでケガなどで騎士の道が閉ざされてしまうことなどは無かった。しかし、もちろん、死ぬこと、つまり即死だけは避けなければいけないのだが、そこは新兵でも剣を扱う者、死の境界線は皆心得ていた。そこはもう彼らも素人ではなかった。


「お前はどうなんだ?さっき一撃もらってただろ?」


「俺は胸だが、鎧があるからそこまでだ…それでもかなりきつかったがな…」


「よし、だったら、俺がおとりになる。この腕じゃ、アストルの剣にはいつまでたっても届かないからな…」


「おいおい、でも、それじゃあ、お前が」


「アストルを止めれば、右翼場は俺たちが勝ったようなものだ」


「…わかった、お前の作戦に従うよ…」


 二人は少し言葉を交わしたあと、剣を構えてアストルを見据えた。上位者である二十人に一度も入ったことがなかった二人がそれでも自分たちもそこそこの実力はあるということを自負していた。だからここで自分たちが何も成し遂げられずに終わるのは絶対に避けたかった。


 片腕を負傷した新兵が捨て身の覚悟でアストルに突撃する。


『アストル、下手に俺を負傷させたこと後悔させてやるよ…』


 窮地に追い込まれた者は、時に自分の実力以上の結果を招く、負傷した彼らもそうなのだろう。


「おらぁ!」


 威勢のいい掛け声と共に剣を振るいアストルの注意を全力で引く片腕の新兵。その勢いは凄まじいが、それは最初だけで、負傷した傷がうずくと動きが鈍った。その一瞬の隙をアストルは見逃さない。一気に隙に付け込み、下から剣を振り上げて相手の顎をかち割ろうとした。

 しかし、アストルのその攻撃は、負傷した新兵からしたら想定通りの動きで、むしろアストルにそう行動するように誘導させるように剣を振るっていた。これは二人の作戦であった。


 顎めがけて迫って来る剣を負傷した片腕の新兵は防ぐのでもなく避けるのでもなく、そのままアストルめがけてさらに身体を前に進め突進した。剣さえその手から離さなければなんでもありの戦場。片腕の新兵はこのままアストルを押し倒し、後ろで様子をうかがってもらっているもう一人の味方にアストルの剣を蹴り飛ばしてもらい、彼を無力化する作戦だった。


『よし、決まった』


 片腕の新兵は心の中で成功を喜んだ。もう止まれない自分とアストルが目の前におり、衝突寸前だった。


 しかし。


「!?」


 目標のアストルと衝突寸前、横から凄まじい衝撃が片腕の新兵を襲った。


「がはッ!」


 何事かと吹き飛ばされながら片腕の新兵が、衝撃の方を見ると、そこには相手チーム、つまりアストルの味方の新兵が同じく捨て身で彼を守りに来ていた。刺突攻撃というよりはほとんど剣を持っての突進で痛みはなかったが、衝突した二人は倒れた拍子にどちらも剣を落としてしまった。そのため、二人は失格となり負けとなった。


「ああ、終わっちまった。はあ、それにしても、いいのか、お前の出番もこんなに呆気なく終わっちまったぞ…」


 自分にも返ってきてしまう言葉だったが、アストルの仲間の彼はずっと後ろで見ているだけだったから、それでいいのかと言ってやりたかった。それではこの試合に出てもつまらないのではないかと思ったのだ。

 だが、突進して来た彼は嬉しそうな笑顔で答えた。


「活躍できた…俺がアストルを守った。チームに貢献できたんだ!」


 無邪気に喜ぶ彼を見て、片腕を負傷した新兵は悔しそうに微笑んだ。


「なるほど、そういうことか…」


 片腕を負傷した新兵は立ち上がって、突進してきた彼に手を貸した。


「いいタックルだった」


「ありがとう、君も片腕をやられたのによくあんなに片手で剣を振るえるね、あれだよ、後ろで見てたけど、普通にやったら俺じゃ君には勝てなかったよ…」


「ハハ、そうかもな…」


 片腕を負傷した新兵が、戦場を見ると味方がアストルに打倒されていた。


『勝ちを急ぎ過ぎたな……いや、違うか、アストル以外を甘く見ていたのが敗因か…』


 片腕を負傷した新兵は、突進してきた彼と別れ、アストルに打倒された、自分の一緒に戦ってくれたパートナーに肩を貸しに行った。


「大丈夫か、立てるか?」


「ああ、何とか」


 二人で肩を組み戦場から退場するために歩き出す。


「みんな成長してるのか…」


 その途中、片腕の新兵はひとり呟いた。


 それを聞いたパートナーの彼は少し笑っていて言った。


「大丈夫だ、俺たちだってまだまだ、強くなれるよ、これから頑張ろうぜ!」


「…ああ、そうだな!」


 二人はエリザ組のテントに戻っていった。


 二人の後ろではアストルが次のエリザ組の新兵二人とひとりで戦っていた。


 ***


 エウス組の快進撃は止まらない、ユーリ、アストル、ヨアンの振るう剣、それに伴ったエウス組の新兵たちの決死のサポートがエリザ組の反撃を一切許さないまま、試合展開は、エウス組残り三十九人、エリザ組残り二十二人、と大差をつけてエウス組が大幅にリードしていた。


「いい調子ですね、エウス隊長、もしかしたらこのまま俺たちが余裕で勝っちゃうんじゃないですか?」


 テントにいる新兵の中のひとりが言った。


「ん?ああ、そうだな…」


 エウスは適当な返事というよりは、試合の動向や戦っている新兵たちの様子を注意深く見つめるのに集中していた。


「エウス隊長?何か心配なことでもあるんですか?」


「ううん、まあ、ちょっとな…」


 エウス組のテント内は、試合に勝っていることもあり、みんなの士気が上がって、暑い日差しにも負けないほど盛り上がって周囲は熱を帯びていた。新兵たちは全力で自分たちのチームを応援していた。

 ただ、そんな中、エウスひとりだけは、非常に冷静に戦場を眺め続けていた。


『まずいな、三人の消耗が激しい…』


 遠くから見ても肩で息をしている主力の三人。エウスが想定しているよりもずっと早く消耗していた。それはなぜかというと単純に、エリザ組の新兵たちもエリザ騎士団の騎士たちに鍛え上げられたからというのが一番の答えでそれ以外ありえなかった。前よりもひとりひとりの動きが見違えるほどよくなっていた。

 そのため、三人の消耗が激しく、苦戦しているようだった。そこでエウスは盛り上がっているテントの中にいる新兵たちに告げた。


「お前たち、少しいいか?」


 エウスがテントにいる新兵たちのみんなを呼びかけると、すぐに彼らは耳を傾けた。


「まず最初に戦い終えた奴ら、ありがとな、お前たちのおかげで今、俺たちは相手より、一歩先に勝利に近づけてる」


 人数差からいえばかなりリードしていた。これは主力である三人のピンチを身体を張って守ったりしてくれた仲間たちのおかげだった。

 しかし、これからはそれだけでは乗り越えられない壁が迫っていることもみんなに伝えなくてはならない。


「相手チームは半分を切ったが、まだ、あっちにいる上位二十名に名を連ねていた奴らはひとりも出てきてない、これがどういう意味か、まあ、分かるよな…?」


 静かになったテントを見渡すと、辺りには緊張がはしり、息を呑んでいる者もいた。


「つまり、これからが本番ってことだ。おまけに今、出っぱなしのユーリ、アストル、ヨアンの三人は予定より早く限界が迫ってるようにみえる。だから、勝つためにはお前たちの力がこれからもっと必要になってくる…」


 きっと、二十人近いリードもトップ二十の新兵たちが出てくればすぐに覆される可能性が高いとエウスはすでに判断していた。それならば、この状況でやることは一つ、人数差を利用して三人を休ませる時間をなんとかして生み出すことだけだった。


「だから、今度はお前たちも前に出ていって欲しい。そうだな…いってしまえばここからは人海戦術で三人の休む時間をなんとか稼いで欲しいってことなんだが、みんなできそうか?」


「ハイ!!!」


 そこで新兵たち全員が元気よく返事を返してくれた。


「よし、それじゃあ、頼んだぞ、みんな…」


 エウスも新兵たちの力を心から信じていた。エウス組が勝つためには三人が生き残ることは必須の条件だったため、トップ二十の新兵たちが出て来る前で潰れてしまうとその時点でほぼ敗色は濃厚になってしまう。それだけは避けなければならなかった。


『なんとか持ちこたえてくれよ…ユーリ、アストル、ヨアン、ここがお前たちの踏ん張りどころだぞ…』


 試合は後半戦に突入し、三つの戦場は激しさを増していく。















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