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七騎士物語 初陣

 円陣を組み終えた両チームは、一度全員自分たちのチームのテントに戻って、初陣を飾る選手たちを送り出すための準備や最後の作戦会議の時間となった。


 そして、数分後。


 エウス組とエリザ組の両チームから最初に選ばれた選手たちが、第一運動場の各三つの戦場、主戦場、右翼場、左翼場に、装備を整えて入場した。

 彼らは手に刃の無いショートソードを握り、各チームの色が入った動きやすい軽装鎧を着ていた。エウス組は青色で、エリザ組は赤色と敵、味方が見やすくなるように色付けされていた。


 選手が現れると観客席からは両チームへの声援が上がり、会場は夏の暑さに負けない盛り上がりを見せた。

 戦場に出たエリザ組の新兵たちも周りの応援に気分を良くしたのか気持ちが高まりやる気になっていた。


「よっしゃー!いっちょ俺たちが最初にかましてやろうぜ!」


 テントから出てきた初陣を任されたエリザ組の新兵が声をあげると周りの仲間も声をあげていた。


「さて、相手は誰かな…」


 しかし、その時、エリザ組の選手たちの誰もが相手選手を見て動揺し驚きの表情を浮かべることになった。


「…おいおい、お前らが最初って、マジかよ…」


 エウス組のテントから装備を整えて出てきた選手の中には、ユーリ・メルキ、アストル・クレイジャー、ヨアン・ハワードの三人の姿があった。

 相手チームの最高戦力が最序盤に姿を現しているのだから呆れてしまってもいた。

 通常ならば、実力者たちは試合の後半まで体力を温存し、戦場の状況に応じて強者を投入していくのが最善の策なのだが、エリザ組が警戒していた三人が初陣からいるのは、全員完全に想定外であった。


「本当に、お前らがこんな最初からでいいのか?勝つ気はないのか…?」


 驚きのあまり相手の新兵たちはこちらの心配までしてしまう。


「御心配どうも、だけど、相手の心配じゃなくてお前ら自分たちの心配したらどうだ?言っておくが俺たちは一切手加減しないからな」


 ユーリの視線は、優しい新兵たちをも遠慮なく突き放すように鋭かった。それも当然、ここからは一時の間、お互い勝利を奪い合う敵同士になるのだから。


「ああ、そうだな、俺たちも全力で行かせてもらう」


「そうしてくれ」


 それから、最初に出てきた選手たちだけが、運動場の真ん中、正確に言えば主戦場の真ん中で、向かい合い一列に並ぶと、お互いに挨拶と握手をして、自分たちが戦う戦場に移動して位置についた。

 主戦場に立つユーリの左右には同じエウス組の新兵が、そして、少し離れた場所には相手チームの三人がいた。

 そして、主戦場の左隣つまり左翼場にはヨアンと仲間の新兵が、右隣の右翼場にはアストルと仲間の新兵がいて、向かいにはエリザ組の二人組がおり、左右の戦場では、二対二の状況が成立していた。


「選手の皆さんは位置に着きましたね。あとは待機する選手たちを、ビナさんとマイラが連れて来てますね…」


 そこでシオルドが左翼場と右翼場のコートの近くに立っているビナとマイラを見た。ビナは左翼場にマイラは右翼場にそれぞれ、各チームの待機選手を連れて立っていた。

 この選手たちは、各戦場で自分たちのチームの選手が負けた時に、すぐに交代できるように待機している選手たちだった。三つの戦場に出る選手たちは事前に自分がどこの戦場に出るか決まっており、途中でこれを変更することはできなかった。選手たちの背には数字が書かれた布がついているため、ビナとマイラが手に持っている資料を見ながら、正しく決められた人と人数を戦場に送り出してくれることになっていた。そうじゃなければ、自分たちのピンチの戦場にいくらでも自由に人を送り込んで、その場しのぎができてしまうからだ。ルールが決まっている以上、そのような不正が起きないように、ビナが左翼場をマイラが右翼場を、そして、シオルドが主戦場に後から出る新兵たちの管理することになっていた。


「よし、皆さんの準備は完了ですね…」


 シオルドが大きく息を吸った後、第一運動場にいる全員に聞こえるように宣言した。


「それでは、これからエウス組、対、エリザ組の試合を始めます。戦場にいる者はみな構え!」


 各三つの戦場に立つ新兵たちが各々剣を構える。


「始め!!!」


 シオルドの掛け声と共に戦場にいた新兵たちはその手に勝利を掴むために走り出した。



 ***



 最初に観客を驚かせたのは主戦場にいるひとりの赤毛の青年だった。その青年が試合開始の合図と共に剣を前に突き出しながらひとりで突進していった。彼の味方の二人はただその場で静観するだけで、状況的には、それだけで三対一の構図が出来上がり赤毛の青年は圧倒的不利を背負っていた。


 しかし、その序盤の戦場の様子をエリザ組のテントから見ていたグゼンはひとつため息をついた。


「あれは、終わったな…」


 グゼンの視線の先では早速、赤毛の青年の刺突によってエリザ組のひとりが場外に飛ばされていた。



 ひとりを場外に吹き飛ばしたユーリのもとに、左右から敵が迫っていた。しかし、ユーリは剣を構えないで戦闘の意思なく、ただ呆然とその場に突っ立っていた。まるで、自分のやるべきことは終わったかのように…。

 その姿に残りのエリザ組の新兵二人はユーリのことを警戒したが、そこでニヤッと笑ったユーリがひとこと呟いた。


「どこ見てんだよ」


 二人の敵がユーリの言葉の真意に気づいたときにはもうすでに遅かった。


 ユーリの味方の新兵二人が遅れて刺突体勢のまま突っ込んで来て、残りの二人を呆気なく撃退した。

 ユーリの左右には刺突を放った仲間の二人が緊張からかもうすでに肩で息をしていた。

「二人ともいいタイミングだった」


「緊張したぜ、ユーリ、お前構えもしないんだからよ」

「ほんとだよ、もし俺たちが失敗してたら、ユーリやられてたかもしれないんだぞ?」


 仲間の新兵二人が汗ダラダラで言うと、ユーリは汗ひとつかかずに爽やかに返答した。


「まあ、そこは仲間のことを信じたってやつだよ」


「ユーリ…」


 仲間の新兵二人が、嬉しそうな表情を浮かべて、感動していた。が、そんな友情を深め合っている間もなく、次の相手選手たちが三人主戦場の中に入って来た。入って来るなり、こちらに斬りかかって来た。

 ルール的には、試合は常に続行されている状況なので、戦場に入った瞬間に選手たちは戦い始めることになっていた。そのため、倒しても倒しても相手チームの待機選手がいなくなるまでは、戦場にいる選手たちに休みはなかった。その都度すぐに戦場に補充されるからだ。


「二人とも構えろ、次の相手がすぐ来る。あともう、さっきの同じ手は使えないから、俺の指示通りに頼む!」


「了解!!」


 仲間の新兵二人も剣を構えて返事を返していた。



 ***



 エウス組の方のテントにいたエウスが、ものの数秒で最初の三人を破ったユーリたちを見て、にやりと悪い笑顔を浮かべていた。


「よしよし、さっそく、決まったようだな、これは幸先がいいぜ」


 そして、周りでまだ出番が来ないエウス組の新兵たちも喜びの声をあげ自分たちのチームに声援を送っていた。


「エウス隊長、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」


 そこで待機していた新兵のうちのひとりが声をあげた。


「いいぞ、なんだ?」


「どうして、最初にあの三人を行かせたのですか?」


 あの三人とはユーリ、アストル、ヨアンのことで間違いなかった。彼らはこのエウス組の中でも頭ひとつやふたつ抜けている優秀な新兵たちだった。そんな彼らを捨て駒のように最初の試合に出すなど誰も提案しない案のひとつともいえたからだ。疑問が浮かぶのも無理はなかった。しかし、エウスが用意していた答えは単純なものだった。


「なんでってそりゃあ、あの三人だったら最初に出しても最後まで持つから…なんだが……」


 エウスは稽古のとき途中から、ユーリ、アストル、ヨアンの三人には、複数の相手と戦うように練習を設定していた。最初は三人とも複数戦の経験が浅く同じエウス組の新兵たちに度々負けを重ねていたが、少しづつコツを教えてあげていると、たちまちに三人は成長し負ける数を減らしていた。そして、この試合までには、三人がそれぞれ、エウス組の新兵たち二十人ほどと互角になるくらいまでには成長することができていた。


「まあ、あれだ、お前ら次第だよ、あの三人をどこまで持たせるかは…」


 そこまで言うと、新兵たちは、頑張ります、任せてください、と元気に返事をしていた。


 視線を試合に戻すと、主戦場ではすでに入れ替わった三人とユーリたちが戦っていた。


「焦るなよ…」


 試合を見守りながらエウスは小さく呟く。主戦場ではユーリたちが互角の試合をしていた。


 正直、相手がそもそも全員自分たちより強いため、軸となるユーリ、アストル、ヨアン三人がいなければ話にならない可能性があった。だから、今回三人を最初から出したというのが一番の理由ともいっても良かったのだが、始まってみれば…。


『…みんな最初の頃とは違っていい動きしやがる。そうか、そうだよな、この短い間でもちゃんと成長してんだな……ああ、これだったら、三人を温存させても良かったかもな…』


 少しの後悔が胸の中にポツンと残ったが、それと同時に、新兵たちの成長を、彼らの戦う姿からしっかりと感じ取れ、嬉しく思っている自分がいた。


 見守る視線の先の戦場では、さらにアストルとヨアンも最初の相手の二人をそれぞれ右翼場と左翼場で撃破していた。


「さあ、勝ちに行こうぜ…みんなで…」


 エウスは小さく呟いた。










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