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七騎士物語 勝利を目指して

 エウス組五十四名とエリザ組五十三名の両組が、第一運動場に対立するように東西に分かれて集まった。そして、各組のリーダーである。エウスとグゼンが前に出てきて握手をする。


「グゼンさん、今日はよろしくお願いしますね!」


 エウスがにっこりと微笑む。


「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 グゼンも笑顔で応える。


 *この握手のときまで二人の接点はあまりなかった。ただ、二人ともこいつとは仲良くなれなさそうだなとこの時は思っていたらしい。


 今となっては信じられないけれどね…*


 二人は笑顔でいつまでも手を握り合って、心にも無い会話をして、相手の腹を探りあっていた。両組の新兵たちも二人のバチバチした雰囲気を感じ取って苦笑いしていた。

 そんな気まずい雰囲気を破壊してくれたのは、エリザ組の新兵たちにとってはすっかり兄貴分になっていたシオルドだった。


「ちょっと、グゼン、なんでそんなに似合わない笑顔を浮かべてるんですか?エウスさんに失礼ですよ」


「シオルド、お前はどっちの味方なんだよ…」


「もちろん、今回はエリザ組ですよ、ですけど、今回の主役はお二人ではなく後ろのみなさんでしょう?」


「…そうだったな、エウスさん、すみませんね」


 グゼンが考えを改めて謝ると、エウスも頭を下げた。


「いえいえ、こちらも大人げなかったです。すみません」


 シオルドが二人を仲裁すると、観客たちの前に再び出ていき、二つの組を観客たちに紹介していた。グゼンのことはみんなある程度知っていたが、エウスをハルの友人で騎士だと紹介をすると、驚きの声をあげる者たちも観客のなかには何人かいた。きっと、その者たちは、この古城アイビー以外の場所に所属している騎士や使用人たちなのだろう。古城アイビーの中で、エウスのことを知らない者は今ではいないぐらい彼は有名になっていたのだから。


 観客たちに説明を終えてシオルドが、エウスとグゼンのところに戻って来ると、二人に告げた。


「それじゃあ、さっそく始めようか」


 エウスとグゼンが頷いて、互いに自分たちのチームに向き直った。そこには自分たちのリーダーに寄せる厚い信頼の眼差しがあった。


 エウスはみんなの前で言った。


「よし、お前ら円陣を組め!」


 その一言でエウス組は一斉に東側の運動場に広がって近くの仲間たちと肩を組み合った。左翼場のコートがある第一運動場の東側にエウス組五十四名の大きな円ができ、その真ん中にエウスが歩いて行き、真ん中で立ち止まった。


「お前たちに言いたいことがある。それはさ、短い期間だったが、よく俺の厳しい稽古について来てくれたってことだ、礼を言うよ…」


 エウスはみんなに向かって一度頭を下げた。そして、言葉を続けた。


「ただ、俺は、きっとお前たちがこの俺、エウス隊長にも礼を言ってくれると信じている。ああ、エウス隊長、いや、エウス様ありがとう、俺たちをこんな短い間でここまで強くしてくれて、未熟だった俺たちをここまで鍛え上げてくれてありがとうございます!とな…」


 彼の言葉でエウス組の中に笑いが起こり、みんなの強張っていた表情が一気に緩んで、緊張が上手いことほぐれていった。


「いいか、お前たちは最初から強かった、最強だった。そして、エウス組のもとで己を信じて鍛えたことで、さらに高みにのぼった。そして、そんな孤高のお前らの瞳には今、何が映ってる?」


 エウス組のみんなが隣にいるお互いの仲間の顔を見合った。


「そう、仲間だ。いつだってお前らの隣には仲間がいた。俺の蹴りをくらって場外に飛ばされたとき、すぐに隣に同じように仲間が転がってきただろ?そういうことだよ」


 みんなは自分たちがエウスにボコボコされているところを思い出しそんなことがしょっちゅうあったなと笑い合った。


 *幸せな思い出は、想ってしまえば、すぐそこにちゃんとあって、ああ、なんて懐かしいんだろうか…*


「けどよ、その時、お前たちは自分よりその仲間のことを心配しなかったか?」


 みんながエウスの言葉に耳を傾ける。


「いつの間にか、自分の強くなる理由が、自分から、仲間のため、チームのためって変わっていかなかったか?隣にいる奴のために少しでも自分が強くなろうって思わなかったか?いや、絶対にどこかで思ったはずだし、騎士になるんだったらその気持ちを絶対に忘れちゃだめだ。誰かのために振るう剣が何よりも力ずよく美しいってことをお前らには忘れないで欲しいんだ…」


 エウスがみんなに真剣に語りかけると、みんなも真剣な眼差しを彼に返して応えていた。エウス組の気持ちが一つになっていく、信頼し合える仲間が隣に居てくれる。それだけで、どこまでもみんなは頑張れる気がしていた。


 *大切な人のためならどこまでも強くなれた…*


「俺からは以上なんだが、まあ、なんだ、最後に言うことがあるとすれば…」


 *そこでエウスの顔がほころんで、彼がにやりと笑ったのを今でも覚えている。その笑顔は本当に無邪気でそっちの笑顔の方が似合ってるって思ったんだ…*


「お前らせっかくだから楽しんでいこうぜ!!!」


 彼が片腕を天高く上げ叫ぶと、エウス組のみんなが一斉に雄たけびを上げた。そして、一気に円陣は解かれエウスのもとに集って、天に向かって伸びている彼の腕を中心にみんなも同じように片腕を上げて気持ちをひとつにした。


 *全部、覚えてる、忘れたことは一度だってないんだ…*





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