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七騎士物語 開催 

 新兵たちの二組のチームに分かれての剣の大会が、古城アイビーの第一運動場で開催された。

 大会当日である今日の朝からの天気は、晴れで、風は穏やかで気持ちよく、まとまった大きな雲がときおり古城アイビーの第一運動場の上空をのんびり通り過ぎていた。朝が早いにもかかわらず、真夏の暑い日差しが、第一運動場の気温を上げるが、そこには多くの観客が集まっており、会場は賑わいを見せていた。

 ただし、観客といっても身内で行われているものなので、外部からの人間は少ししかいない、あとはほとんど噂を聞きつけたエリザ騎士団の騎士たちと、休暇をもらっている使用人たちなどで占められていた。

 観客たちは第一運動場にある土手や事前に用意された運動場の中にある観客席に腰を下ろしていた。

 一部では日傘が開かれているところもあるが、試合観戦の邪魔になるため、運動場の中の観客席には日傘はなかった。しかし、それでも、観客たちの周りには、暑さ対策のために、使用人たちがキンキンに冷えた飲み物を、無料で用意したり、倒れた際の処置がすぐに施せるように準備も万全といった感じだった。


 観客たちはそんな快適な場所で、今回の主役である新兵たちの登場を今か今かと待ち望みにしていた。



「知ってましたか、噂じゃ今年の新兵たちはなかなか強者ぞろいってこと」


「ああ、強者?でも、所詮新兵なんだろ」


「そうですけど」


「新兵の試合なんて見てても面白味もねえよ、きっと」


 第一運動場の観客席に腰を下ろしている中年ぐらいのエリザ騎士二人が朝から酒を飲みながら話していた。


「まあ、先輩のその考えも否定はしませんが…」


 まだまだ未熟な新兵たちの剣の試合、エリザの騎士である二人からすれば、刺激が足りないと思うのも無理はなかった。


「じゃあ、なんで、先輩はここに来たんですか?」


「そりゃあ、お前、こうしてただ酒が飲めるからだよ、お前だってそうだろ?」


「へへ、まあ、そうなんですけど…でも、俺は少しは新兵たちが熱い試合をしてくれるって信じてますよ、だって、ほら、もしかしたら、将来、ここから剣聖が現れるかもしれないじゃないですか」


「バカ、なにが剣聖だよ、お前だって知ってるだろ、優秀な新兵はもうとっくにライラに引き抜かれてるよ、ここにいる奴らは全員、残りカスだよ」


「アハハハ、先輩、言い方がきついっすよ」


 先輩騎士が酒を飲み干すと、近くで飲み物を配っている使用人に声をかけておかわりをもらっていた。


「真実を言ったまでだ、聞くところによるとこの試合魔法も禁止らしいじゃねえか」


「魔法がありになると、使える子と使えない子で差が出るからじゃないですか、あと、安全面でも問題がありますし…」


「それじゃあ、盛り上がりにかけねえか?なんだったら、俺たちエリザの騎士が試合した方が盛り上がるんじゃねえか?それか、俺、対、新兵全員とかな!ガハハハハハ」


「いや、先輩、そんなに強くないじゃないですか…」


「なんか言ったか?」


「いえ、何も」


 二人が酒を飲みながら土手で退屈を持て余していると、運動場の中央に一人の騎士が現れた。


「あ、シオルドさん、じゃないですか」


 後輩騎士が呟くと、先輩の騎士が露骨に嫌な顔をしたが、ひとつため息をついて諦めた顔つきをしていた。


「優秀っていうのもなかなか辛いものだな、休日もこうして何かの役割に徹しなきゃいけない、それに比べて俺たちは酒が飲めてる、最高だ」


「俺たちは優秀じゃないですもんね」


「ふん、そうだな、だが、精鋭なんて若くしてなるもんじゃないし、そもそも、なれないくらがちょうどいいんだよ、そっちの方が騎士になるんだったら絶対に幸せだよ」


「まあ、その考えには俺も賛成するところはありますね…」


 運動場にいるシオルドが周りにいる観客たちに静かにするように呼び掛けると辺りは一瞬で鎮まり返った。それもそのはず、ここにいるのはシオルドからすれば、部下や雇入れている者たちがほとんどなどだ。いくら休日とはいえど、醜態をさらす者などはいない。


「見に来ていただいた皆様には感謝しています。どうか、最後まで付き合ってもらえると光栄です。これからここで剣を交える者たちは、将来、我々の同胞となる者たちです。どうか、温かく見守ってあげてください」


 シオルドは周囲にいた大勢の観客たちに語りかけたあと、今日の大会でどのようなルールの試合をするのかという、試合の内容を語った。


「皆さんに試合の内容を説明しておきますね。知っている方も多いと思いますが、今回は三場戦というルールで新兵たちには戦ってもらいます」


 三場戦とはその名の通り三つの戦場で戦うということだった。


「戦場には三つの呼び名がついております、【主戦場】【右翼場】【左翼場】です。その三つの戦場はそれぞれ独立した戦場となっております。各チームはその三つの戦場に自分たちの中から誰を何人送り込むかを事前に決めておくことができます。そして、事前に決めた新兵たちでその各戦場で相手と戦うのです。ここで、途中から他の戦場に送り出すことはできません。一度決めたら勝つまで他の戦場に移動することはできません」


 シオルドがさらに先に重要なことを説明する。


「あ、そうですね…先に勝利条件を言っておきましょう。チームの勝利条件は、主戦場にいる相手を先に全員打倒した方が勝利となります。そのため、各チームは主戦場を第一に考えて人や人数を選ばなくてはなりません。なぜなら、いくら右翼場、左翼場で勝っても、主戦場が突破されれば、その時点で相手の勝利が決まってしまうからです。これでは主戦場だけに人を集中させた方がいいですよね?」


 ここだけ聞くと、右翼場と左翼場に人を送る意味がないと思ってしまうが、そこが三場戦の重要なポイントだった。


「ただ、ここでひとつもう一つ大事なことを説明させていただくと、主戦場に一度に出せる騎士の人数は三人までです。そして、右翼場と左翼場は二人までです。右翼場と左翼場の主戦場以外の場所で、相手を全滅させ、その戦場で勝利すると、生き残った人たちを援軍として、主戦場の待機メンバーとして補充でき、さらに、主戦場で戦う騎士の数を一人増やすことができます。つまり、三対四の数的有利を作り出すことができます。そのことを考えれば、右翼場と左翼場も落とせない重要な戦場であることがわかると思います」


 つまり両翼の戦場で負けると、主戦場で、三対五という不利を背負わされることになるのだった。


「大まかなルールはこのような感じです。ここからは細かいルールを話して行きますね」


 シオルドがそれから細かいルールを簡単に説明した。


「試合はこの第一運動場にある三つのコートでやります。真ん中が主戦場、東側が左翼場、西側が右翼場となります」


 運動場には、白い色のついた粉のようなもので線が引かれており、四角く区切られた三つの戦場があった。


「それと、新兵たちは刃の無い模擬剣を使用し、身体能力をフルに使ってもらうため、防具は軽装とさせてもらいます。しかし、安心してください、今日は白魔導士の方たちがたくさんお越しいただいているので、ケガの方で心配することはりません、もちろん、皆様の中で具合が悪くなった方がいらっしゃったらあちらの白いテントにお申しつけください」


 シオルドが古城側にある方を一瞥すると、そこには二十名ほどの白装束の人達が集まっている白いテントがあった。


「ええ、続けて説明しますが、騎士たちの負けの条件、つまりやられたという条件は、気絶、場外に出る、剣を落とすの三つです。あとはどれだけ、傷つこうが本人が負けを認めなければ試合は続行です。あ、もちろんですが、死にそうになったときは我々が止めに入るので、そこも安心を…」


 シオルドがそこで締めに入った。


「最後に、戦場内は勝ち残り制で、途中交代は不可能です」


 それだけ言うと、シオルドは、大きく息を吸って言った。


「それでは、皆さま、どうか心行くまで楽しんで言ってください、選手たちの入場です!」


 シオルドが運動場の中央から立ち去って行くと、代わりに赤を基調とした服を着た新兵と青を基調とした服を着た選手たちがそれぞれ、古城アイビーの中庭の階段から下りてきた。


 青を身に纏っている者たちはエリザ組の新兵たち、赤を身に纏っている者たちはエウス組の新兵たちだった。


 そして、その新兵たちの最後尾には青を纏うグゼン・セセイと、赤を纏うエウス・ルオの姿があった。


 夏空のもと人々の歓声が上がり、彼らの物語の幕がいよいよ上がる。




 これはある騎士たちの戻れない輝かしい過去の出来事であった。










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