純粋なあなたと醜い私それでも一緒に 中編
醜い心を持って生きてきた。すべてを恨んで生きていた。思い通りにならないことが多すぎていつも不機嫌だった。前を向いて生きろなんて言うけど、それでどうなるの?無理だ、そんなこと。だって、あの日の記憶はこの黄色い瞳に焼き付いて離れないんだから…。
*** *** ***
小さな森の中の小さな村に私は住んでいた。そういうどこにでもある、ありふれた場所で、私はある時まで幼い頃そんな場所で暮らしていた。
その日は、友達といつも通り、村の外で遊んでから日が暮れる前にはちゃんと村に帰っていた。夜は昼よりも危険が多いと教えられてから、私たちはちゃんと友達と教えを守って遊んでいた。幼かったけどしっかりした子供だって村では評判だった。
でも、私たちが戻るといつもより村全体は妙に静まり返っていて。
『じゃあね、また明日ね、ライキルちゃん!』
『うん、また明日ね!』
友達と別れたあと、私は静かな村の中を歩いて、自分の家族が待ってる自宅までスキップしながら帰って行ったんだっけ…。
『お父さん!お母さん!ただいま、今日ねたくさんお花を摘んできたの……あれ……』
自宅の前についたとき、私の家のドアは、粉々に破壊されていた。
『…………』
ただ呆然と壊れたドアを眺めていた時だった。
『ああああああああああああああああぁぁぁぁ……』
『!?』
遠くから誰かの絶叫する声が聞こえてきた。
しかし、すぐにまた村は静寂を取り戻した。
不気味な静寂を…。
『お母さん、お父さん…』
粉々のドアを飛び越えて、温かな我が家に帰ったときだった。
三人が仲睦まじく過ごしていたリビングは真っ赤な液体に染まっていた。
そして、小さな我が家に、二匹の魔獣が、私の大切な両親をくわえて引きずっていた。
叫びたかったけど、声は恐怖で全くでなかった。だけど、身体は動いた、私は幼くても賢かったから誰かを呼んでくればすぐに、私の家族を救ってくれると思ったからだ。
この世にはどんな傷でも治せちゃう魔法があることも知っていたから、誰かその魔法を使える人を呼んでくれば助けてくれると思ったんだよね…。
でも、ダメだった。
私が助けを呼んで来ようと駆け出した時、大きな物音をたてながら動いちゃったんだよね。そうだよ、幼かった私が、死剣の中にあるような足音や気配を殺す技術を扱えるわけないし、その二匹の魔獣に気づかれるのは当然だったんだよね。
必死に駆け出したよ、転びそうになっても転んだらそこで自分も死んで家族を助けれらなくなるから、とにかく転ばないように逃げたんだ。
だけど、もちろん、幼い少女が魔獣の足を振り切れるわけがなく、家を出た時にはもうすぐ後ろに迫ってた。
『嫌、いやああぁ!誰かぁ!助けッ!?』
もうダメだって思った時、私の身体は浮いて、間一髪のところで、魔獣の牙から逃れられたんだ。
私が上を見上げると、そこにはひとりの老人がいて、私を片手で掴んでた。
その老人が私を地面にゆっくり降ろすと、動かないでと一言いった。私はただ黙ってうなずいていた。そして、その老人は、二、三メートルはある二匹の魔獣相手に刀って呼ばれる剣で斬りかかっていった。
そこからは呆気なかった。二体の魔獣は数秒もかからないで、老人によって手際よく斬り刻まれていって、首を落とされ解体されていた。
私はその鮮やかな剣さばきに見惚れていた。その瞬間だけは恐怖を感じなかった。悲しみは耐えがたいほど私の心を蝕んでいたけれど、恐怖だけはなかった。
『ありがとうございます…』
私の口から自然と感謝の言葉が零れた。
だけど、その老人は焦った様子で言った。
『お前さん、どうしてここに?家族は?』
『あ、お父さんとお母さんが、その家の中で倒れてて…』
『…村の奴らは全員逃げたって…ああ、そうか……』
その時、老人は涙をぼろぼろこぼして泣いていた。
『あの、お父さんとお母さんを助けて欲しいんです…』
『……すまねぇ………』
老人が涙を流していると、すぐにその老人の若い仲間が数人駆けつけてきて私は彼らに預けられた。
『お前たち、この子の保護とその家の中にいるケガ人の救出だ急げ…』
数人が家の中に入って行き、残った仲間が老人に尋ねていた。
『師範はどうされるのですか?』
『村の中に残ってる魔獣を狩って来る』
『分かりました』
『それとその子はうちで預かる。その子はもうこの村では生きていけない…』
『!?』
老人の仲間が驚いた表情を浮かべたあと私を悲しそうな目で一瞥した。
『……人減らしですか……』
『かもしれない、とにかくこの子はうちで預かる』
『…分かりました。おい、聞いたか、この子はシルバで預かる、行け』
『はい、了解です』
私は老人の若い仲間の一人に大事そうに抱えられながら村を後にした。
私は抱えられている最中に、さっきの助けてくれた老人が刀一つで駆け出す背中を、その姿が見えなくなるまで見つめていた。
その老人の後ろの姿は、私が今まで見てきたものの中で何よりも力強く美しく、私の大切な記憶に残り続けていた。
*** *** ***
トントン!
部屋の扉をノックする音が響いた。
「ライキルちゃん!来たよ!入っていい?あれ、いないのか?」
「…ん?」
ライキルが目を覚ますとそこは古城アイビーの自室だった。ベットの上ではなく、テーブルに手をついて椅子に座っている状態だった。
「あれ、寝てた…?」
トントン!トントン!
「ライキルちゃん、私だ、ガルナだ。返事がないがどうした?おーい、そうだ、ちょっとこの扉け破らせてもらうぞ!!」
ライキルは一瞬いろいろ状況を把握できなかったが、すぐに反射的に声をだした。
「あ、待って!今開けます!」
ライキルは急いで椅子から立ち上がって扉に駆け寄り、部屋の扉を開けてあげた。
「おお、良かった無事だったのか、あと少しで蹴破って入るところだった。アハハハハ」
「ごめんなさい、ちょっと疲れたのか、うたた寝をしてしまって…」
「それは本当か?ううん…でも、疲れたなら寝た方がいいよ?」
「心配ありがとう、だけど、私、ガルナと今とっても二人で話しがしたいの…えっと、その、今、あんまりひとりになりたくなくて…」
悲しい夢を見たからだろう。今のライキルはすっかり弱気になっていた。
「わかったじゃあ、一緒にいよう」
「はい、ゆっくりしていってくださいね」
ライキルとガルナ、二人の長い女子会が始まった。