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純粋なあなたと醜い私それでも一緒に 前編

 中庭で昼食を取っていたとき、偶然、訪問してきたエリザの騎士たちは、今、去っていった。

 すると、早速、エウスとビナが仲良く続きの罵り合いを始め、日傘の下は賑やかになる。なんだったら、エウスはさらに無意識にガルナが確保していた肉に手をだしてしまい、そこで喧嘩になり盛り上がりは熱を増す。

 そんなごたつきにハルが介入していくが事態はそう簡単には治まらない。ハルが二人の意見をそれぞれ聞きながら両方をなだめて、より良い方へ話を持って行こうとする。そんな彼の姿を見ていると、ライキルはいつも思う。あなたはいつも損な役回りだね…と。


『だからきっとみんなに愛される』


 二人にどっちの味方をするのか迫られ困ったように笑う優しい彼を見た後、ライキルはそんな賑やかな場所から視線を外した。そして、ただ、ジッと帰って行く三人のエリザの騎士の後姿に目を向けた。


『マイラさん、シオルドさんはいい人だった…だけどあの男…』


 澄ましているライキルの拳には徐々に軽い力が加わり始めていた。


 そして、その男がゆっくりと振り向いたので、ライキルとその男は互いに遠かったが目が合った。


 その時のライキルは、まるで、草食獣を狩る肉食獣のように、ただ、ジッとその男のことを睨んでいた。


 男は慌てた様子ですぐに前を向き、早歩きで逃げるように去って行った。


 ライキルは邪魔者を追い出したと思ったあともその男の姿が中庭から消えるまで視線を外すことは無かった。


 ライキルが先ほどあの男から感じたのは嫌悪感だった。名は確かグゼン。歳はハルやエウス達と同じくらいに見えた。容姿は、金色の髪を揺らす鋭い目つきの男で、顔もそれなりによく、荒々しい雰囲気のシュッとした顔が女性ウケしそうであった。背もハルほどではないがすらっとしていて、騎士であるため身体には厚い筋肉がしっかりついていた。

 服装もエリザの騎士服を羽織っているが、その下に来ている上着や下のズボンは支給されたものではなく派手でおしゃれな私服であった。


 そんな彼は、ファッションには疎く、清らかでふわふわしているハルとは別種類の人間で、例えるならグゼンが肉食獣で、ハルが草食獣といった感じだった。

 もちろん、ハルと全く正反対のようなタイプの人間だからといって、初対面で嫌うようなそんな無礼な女では、ライキルは決してなかった。中には荒々しくも好感を持てる人はたくさんいる。そんなことしっていた。


 しかし、今回、ライキルが遠くからエリザの騎士を眺めている中で、グゼンという男が、ガルナのもとに向かった時から、不穏な予感がライキルの中をよぎっていた。それはいつも王都やパーティーなどで女性に嫌な感じで、すり寄って来る男たちと同じ様に見えてしまったのが始まりだった。

 最初は同僚なんだし当たり前と気にも留めなかったが、ふと二人の方に目を向けた時、グゼンという男は何かガルナに対して焦っている様子だった。

 ライキルが何度も経験してきたからわかることだったが、相手が自分の思い通りならないと、怒ったり、焦ったりする人たちが多かった。

 彼からもその人たちと同じ雰囲気を見ていて感じたのだ。



「…ラィ…キ………ル………ねぇ……」


 何か聞こえると思い、すこし後ろを向くと、ハルの顔が自分のすぐそばにあった。


「どわぁあ!!!なんですか!?ハル……」


「あ、驚かせちゃった?ごめん、ごめん、でも、ライキル、なんかボーっとしてたからさ」


 気が付いたら、喧嘩が治まり、ビナ、ガルナも、ライキルを心配そうに見つめていた。


「ライキル、大丈夫?」


「大丈夫か、ライキルちゃん、変なものでも食べたか?」


 ビナとガルナが声を掛けてくれる。

 エウスだけが奥で何も気にせず悠々と食事を続けていた。


「ううん、二人とも大丈夫です。ちょっと暑さにやられただけです。ハルもありがとう」


「ほんと?だったら午後は休みなよ」


「あ、ハル、私に甘いですね、ダメですよ、そんなんじゃ」


「そんなことない、具合が悪かったら、誰だって休むべきだ」


「フフッ、ありがとう、でも、もう治ったので午後も出ますよ」


 元気な証拠にライキルは彼に笑って見せた。戸惑いながらもわかったとハルは席についた。彼が席に着くとガルナとビナもそれぞれ自分たちの席について残った食事の続きを再開した。


 時刻は正午を過ぎたあたり、テーブルの上の食事も少なくなっていた。そうすると、みんなは食べることよりも話すことがメインになって来る。

 ライキルの隣では、ハルがガルナと何やら話していた。少し耳を傾けると、すでに今晩の夕飯に何が出て来るかを真剣に話し合っていた。ライキルはその会話を聞いて気が早すぎると笑ってしまった。


『なんか、いいな、二人は…』


 少し前の自分だったら二人を見ていたら、嫉妬のあまり、話しに無理やり割り込もうとしていただろう。けれど、今のライキルの心は穏やかで平穏だった。夏の熱い空気を吸っては吐いて、たまに吹きつける涼しい風に身をゆだねて、みんなが笑ったり、話したりするのを、優しい眼差しで眺めていた。


『いい時間だな、こんな時間がずっと続けばいいのに…』


 再びボーっとしていると、また、ハルとビナとガルナに心配された。だから、ライキルは正直に「みんなの幸せなところを見てたんです」と正直に言うと、エウス以外の三人が照れくさそうに笑っていた。ただ、エウスと目を合わせると、彼は目を閉じて肩をすくめ、『はいはい良かったですね』といった具合に気取った態度を取って、相変わらず腹が立つなぁと思ったが、彼らしいとも思った。


 そんなこんなで、しばらくして。


「よし、じゃあ、そろそろ、後片付けしようか」


 と、ハルの一言で、みんなは昼食の後かたずけを始めた。


 その後は、いつも通りみんなそれぞれ自分たちが午後にやることに戻って行った。

 ハルとエウスは第一運動場で新兵たちに指導。ビナは図書館に向かうと言っていた。ライキルもいつも通り自分の立てた訓練のメニューをこなすために、室内運動場の施設がある区画に足を運んでいった。


 訓練中、新兵のフィルと会って、彼のいつもの仲間であるアストルとウィリアムとも短く挨拶を交わした。

 それから、ひとしきり身体を鍛えたライキルが、三人に挨拶してから施設の外にでて、ランニングを始めた。古城アイビーの敷地外、つまり城壁内の街を日が暮れるまで走った。さすがに城壁外へ繋がる橋の向こうには出なかった。別に出ても構わないのだが、外に一人で出ると危険も増えるからだ。いくら鍛えているといっても、世界は広くどんな人がいるかは分からない。余計なトラブルに巻き込まれないためにも、比較的、エリザの騎士が頻繁に巡回している安全な城壁内だけを走って回った。


 ライキルが、古城アイビーに戻って来ると、門番はすぐに門を開けてくれた。

 門番に礼を言って、古城アイビーの本館の前にある噴水広場まで続く緩やかな坂道を歩いていく。

「いつも汗まみれで門番さんに絶対臭い女だと思ってる。だから顔パスなんだ…」

 入るとき、門番に名前を言ってリストに載っているのか確認を取ったりするのだが、ライキルは顔パスされていた。ただ、理由としては、別に汗まみれだからとかではなく、これは、ライキルがほぼ毎日外に出てるからというのもあったが、ハルと一緒だったからというのが大きいのだろう。エウス、ビナ、多分、同じ理由で顔パスのはずだ。


 卑屈な冗談を呟いたところで、ライキルはそれから噴水広場から城の本館へ、そして、自室に戻ってシャワーを浴びる用意をして、西館の男女しっかり分かれたシャワールームに向かった。

 一日かいた汗をしっかり洗い流し、髪の毛と身体は、それぞれの場所に対応した石鹸を使って自身の清潔を保たせる。

 シャワーを浴びてさっぱりしたライキルは、用意した新しい服に着替えて、女性更衣室を後にした。

 西館から再び自室に向かう途中、タオルで頭を拭きながら、明るいローソンの明かりが灯った城内の中を進んだ。

 通路の窓の外はすっかり暗くなっており、夜空には星が瞬き、ちょうど雲の切れ間から月が顔をだしていた。


 自室に戻る前に、城の中庭に顔を出すと、昼と同じくハルたちがいてさきに夕食を食べている途中だった。


「ライキル、お帰り!」


 一番に気づいてくれるハルに手を振ってただいまと言う。ガルナとビナにも同じこ挨拶を繰り返し、エウスも今日はいつもより遅かったなと労ってくれた。


 ライキルはそこで少しみんなと話し、中庭に訪れた使用人に一人分の夕食を頼むと、自室に荷物を置きに行き、再び戻ってきた。

 遅れての夕食だったが、ハルとビナはまだ食事をしており、ひとりだけということはなかった。むしろ、結局、ライキルの方が早く食べ終わることになってしまうほど、二人はいつも大食いだった。


 夕食後も変わらず、みんなでくだらない会話をしたりしながら中庭を片付けた。

 片付けが終ると、夜の寝る前の自由な時間がやって来て、それぞれ、中庭で解散することになった。


「あ、ガルナ…」


「ん、どうしたライキルちゃん?」


「ちょっといいですか?」


「いいよ、いいよ」


 ライキルはみんなが本館に向かうなか、彼女だけを呼び止めていた。


 ガルナと二人きりになると、ライキルは切り出した。


「えっとですね…今日、その、ちょっと二人でお話でもしませんか?」


 キョトンとした顔をしたガルナだったがすぐに、嬉しそうに笑った。


「もちろん!喜んで!あ、でも、私の部屋汚いからライキルちゃんの部屋でいい?」


「はい、構いませんよ」


「わかった、でも、ちょっと待ってて、私、水浴びしてくるから!」


 水浴びとは、ガルナの中では、シャワールームに行くという意味だった。彼女はライキルと一旦別れを告げると急いで本館を右に曲がって走っていった。きっと自分の着替えでも取りにいったのだろう。



 ライキルは中庭にひとりになると夜空を見上げた。


「ずいぶんと星の位置も変わったなぁ…」


 季節が完全に夏になったことをライキルは実感していた。そして、空を見ながらライキルは続けて呟いた。


「いろいろ話せるといいなぁ、ガルナと、素直に…大丈夫かな?私…」


 ライキルは中庭から本館に入り、自室に戻って行った。








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