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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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夕暮れ

 エウスとアストルはそのあとも空が夕暮れに染まるまで剣を振るった。


 辺りがオレンジ色に染まりあがるなか、アストルは疲れ切って、城と広場を区切るなだらかな芝生の土手に寝っ転がった。


 エウスは訓練用の防具を脱ぎ、アストルの横に座った。


「やっぱり、エウス隊長は強いです…」


 アストルは息が上がっていた、それと対照的にエウスの息は全く上がっていなかった。


 そのエウスの姿を見て、アストルは自分は全然だめだと実感させられた。


 結局、何回エウスと剣をかわしてもエウスの体に剣がかすりもしなかった。


『どうして、俺はこんなにダメな奴なのだろうか、これではアリスに胸を張って…』


 そうアストルが自分の腕を顔に押し当てぐったりしていると。


「アストル、今自分がダメな奴だって思わなかったか?」


 エウスはアストルの方を向いて言っていた。


「え!ええ…結局何度やっても、エウス隊長に一本も当てられませんでしたから…」


 内心を言い当てられて、びくっりしたアストルは体を起こしながら言った。


「分からなくもないんだ、お前の気持ちが…」


 そういうエウスの顔はアストルにはもの悲しそうに見えた。


「俺もそういう時期があったから…」


「エウス隊長にもうまくいかない時期があったのですか?」


「あったさ、誰にだってあるさ、それに俺の隣にはずっとハルがいたんだぞ、絶望的だろ」


 そういうエウスの顔はいつの間にか笑顔になっていた。


 その表情は、自分の友達を自慢する子供のような顔をしていた。


「た、確かにハル団長と比べられるとなると大変そうですね」


「ははは、わかってくれるか、それで、俺は悔しい思いをいっぱいしたよ…でも」


 エウスは遠くを見つめて言った。


「でも、その悔しさや、自分がダメな奴だと思うことも、ちゃんと今の自分の力になってたんだ。そう思うことは全然無駄な時間じゃなかった…」


 エウスはアストルの方を向く。


「だからアストルそんなに落ち込まなくていい、これからだ」


「は、はい!ありがとうございます!」


 アストルは少しだけ目頭が熱くなった。


 エウスは立ち上がり、剣や脱いだ防具を拾った。


「あ、あと言っておくけど、お前の上達は早すぎる方だからな、昔の俺なんかよりよっぽどいい戦いかたをする」


「本当ですか!」


「ああ、本当だよ、さあ、日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうぜ」


「はい!」


 二人は防具と模造剣を片付け、そのまま広場で解散した。


 エウスは城の中にあるシャワー室でシャワーを浴びた。


 シャワーは水魔法などで貯めた水槽の水を上に設置し、それに小さい穴を作り、栓を開けると水が出てくる仕組みのものだった。


 石鹸はエウスがエリー商会から自分で持ってきたものをつかった。


「やはり、シャワーは気持ちいいな」


 エウスは、体を洗い終わると、シャワー室の脱衣所で服を着た。


 荷物を自室に置いたあと、そのまま城の正面の噴水の近くにあるベンチに座って涼んだ。


「アストルが強くなれるのは、アリスという存在がいるからだろうな…」


 噴水をボーと眺めながらそんなことを呟く。


『キャミル…』


 エウスの前を何人かの兵士や使用人が通り過ぎて行った。


「あれ、エウスじゃん」


 エウスが横を向くとそこには、ライキルとビナが馬に乗って、ハルがそれを引いていた。


「エウスこんなところで何してるんですか?」


 ライキルがハルに続いて言った。


「あ、エウスここで寝てたんでしょ」


 ビナが無邪気に言った。


「お前らなんか家族みたいだな」


 エウスは適当な言葉を口にした。


「え?それってどういう意味よ!小さい私が娘ってことか!」


 ビナが馬の上で憤慨していると。


「なに意味の分からないこと言ってんだエウスさんよ!」


 ハルはエウスに組み付きながら言った。


 ビナも馬から降りて来て、ハルに締め上げられてるエウスの腹に連続パンチをお見舞いしていた。


「いだだだだだだ、いだい、いだい、いだ、っておい、ビナ、お前ちょっと本気で殴ってんじゃねえか!」


「ふふ、エウスはバカですね」


 ライキルは馬のうえからその光景を眺めながら、嬉しそうに小さく笑いながら言った。


 そこに一人の人影が近づいてきた。


「おや、みんなお揃いで」


 そう言いながら現れたのはデイラス・オリアの姿があった。


「デイラスさん助けて…」


 エウスは悲痛そうな叫びでデイラスに助けを求める。


「はははは、相変わらず仲がいい」


 デイラスはニコニコしながら言った。


「ハル剣聖、君の兵士たちを呼んできてくれ、宴の準備ができている」


「分かりました、デイラス団長」


 ハルがエウスを放すと、ビナが全力で逃げ、それをエウスは追っかけまわし始めた。


「場所は、城の裏手のホールですか?」


「うむ、その通り、そこに集合だ」


「はい、すぐ呼んできます」


 ビナがエウスにつかまってほっぺを両手で伸ばされていた。


 ハルたちは、兵士たちを呼んできて、自分たちの身支度を整えたあと、城の裏手の広場に出て、右の方にあるホールに向かった。


 辺りはすっかり暗くなっていたが、ホールの中は多くの明かりで昼間のように明るかった。


 たくさんの丸いテーブルが並べられ、その上には各国から集まった食材で作られたごちそうが乗っていた。


 さらに縦長のテーブルの上にもごちそうが乗っており、自由に好きな量の料理をとることができた。


 さらに、飲み物は、ワインやジュースのボトルが丸いテーブルに置いてあり、ホールの端のテーブルには、使用人が立っており、ワイン以外のお酒を用意していた。


 この城にいるエリザ騎士団の兵士や、ハルの兵士たちがホールに入ってきた。


「それでは、無事ハル剣聖たちが到着したことを祝って、カンパーイ!!!」


 エリザ騎士団団長デイラス・オリアの祝いの言葉と共に宴が始まった。


「カンパーイ!!!」


 ハル達は会話や食事を楽しんだ。


 周りの兵士たちもこの空間を楽しんでいた。


 夜はどんどん更けていく。


「…そういえばさ、ハル」


 食事の途中、エウスはふと思い出したようにハルに言った。


「エリザ騎士団の副団長まだ見てないな」


「え?」


 ホールの扉が勢いよく開かれた。




















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