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エリザ騎士団

 古城アイビーの城の裏手には三つの広場がある。どれも騎士たちが訓練するために用意された場所だった。

 城から一番近い第一運動場は、現在、ハル・シアード・レイが率いる新兵たちが訓練に使っている場所であった。

 その第一運動場から土手を挟んだ向かい側の第二運動場では、レイド王国のエリザ騎士団の騎士たちが訓練をしていた。



 エリザ騎士団は、国の管轄内にいる騎士団で、王の命令と、軍の総帥である大団長の命令で動く、軍隊であった。国内の騎士団の中でも、三番目の強さと言われるほど、強力な騎士団であるエリザ騎士団。

 王都にいる第一位のライラ騎士団や、第二位のアリア騎士団に肩を並べるほどである。

 そんなエリザ騎士団が、なぜ、このパースの街に配属させられているのかというと、パースの街は軍事的観点からも立地が良く、さらにレイド王国にとって、この街は大きな価値を生み出しているからだった。

 交易が盛んなこのパースでは、各国と大きな王道と呼ばれるとても整備された街道で繋がっており、そこから送られてきた商品がそのまま、国内へと流れていた。そのおかげで、国内での生活の質はどんどん上がっており、生活が豊かになっていた。

 さらに、パースの街は、街から正式に許可を得れば誰でも種族、国籍問わず、この街で商いをすることができる仕組みになっているため、徴税によって大量のお金が落とされ、国の資金源にもなっていたのだ。

 もし、ここが他国に狙われれば、レイド王国の損害は大きい。そのため、わざわざ、国内でも第三位と言われるほど強力な軍隊を置いていたのだ。


 ちなみに、この騎士団の強さは剣聖を除いた強さであった。なぜそのような基準があるのかというと、彼らが入れば、それだけで、強さのバランスが簡単に崩れてしまうためだ。

 剣聖一人で、その騎士団と同等またはそれ以上の強さなんてこともざらにあったからだ。



 エリザ騎士団は、他国からの侵略、または魔獣退治など、このレイド王国の重要な街ともなっているパースを守るために日々訓練を積んでいるのであった。



 さて、そんな第二運動場では、今、午後の訓練も半分を過ぎたところであった。

 エリザの騎士たちは、運動場でそれぞれ、互いに試合をして、剣術を磨いていた。その最中、複数のエリザの騎士たちが、ひとりの女性を相手に剣を振るっている姿があった。

 それは線でくくられた決められた中で戦うという剣の練習試合で、安全のためエリザの騎士たちが持っている剣は、刃の無い鉄の剣であり、みんな体には軽い防具をつけていた。


 そんな練習試合で、一対五の構図の試合展開。


 五人に囲まれているのは、エリザ騎士団副団長ガルナ・ブルヘル、彼女はこのエリザ騎士団の中で実力トップの精鋭騎士であった。


 その彼女に、五人が息を合わせて、一斉に飛びかかっていく。


 戦力はエリザの精鋭騎士三人と普通の騎士が二人。

 同時に斬りかかられては、防ぎようがない。しかし、次にガルナがとった行動はまさに一対多数で戦う時にもっとも有効な戦術だった。

 同時に斬りかかって来る五人のひとりだけに狙いを定めたガルナが、そのひとりの騎士を蹴りで簡単に決められた仕切りの場外にまで吹き飛ばした。

 円に穴が開くとそこからガルナはするりと包囲を突発して、集中攻撃を回避した。慌てた四人の騎士たちはガルナに詰め寄るが、対戦の構図としては、一対多数が崩れ、一対一の状況に持ち込まれてしまっていた。

 しかし、戦っている四人のエリザの騎士たちも精鋭であり、そんなことは分かっていた。


 分かってはいたが…。


「マイラと俺でガルナを止めるそのうちに…二人は…!?」


 先ほど吹き飛ばされて四人になったエリザの騎士たち。しかし、すでにガルナの追撃の蹴りでもう一人が場外に飛んでいった。

 これでエリザの騎士は三人。


『全く、さすがだな!まだ、この試合で剣も振るってないじゃないか、やっぱ、いいよ、ガルナ!君ってやつは!』


 嬉しそうにエリザの精鋭騎士である【グゼン・セセイ】は心の中で彼女を賞賛していた。


「俺がガルナに剣を振るわせる!シオルド!マイラ!お前たちは左右に展開しろ!」


 グゼンが、残った二人に声を掛け、攻撃に転じさせる。


「了解した、グゼン!」

「了解よ!」


 グゼンと同じエリザ騎士団の精鋭騎士である、【シオルド・イノセン】と【マイラ・ダースリン】が返事を返し走り出す。

 その一瞬の間、グゼンがガルナを見据えると、彼女はやっと剣を前に突き出し構えてくれていた。それはグゼンという男がエリザ騎士団の中ではガルナの次に腕の立つ実力者だったからだろう。


「はああああ!!」


 掛け声と共に駆け出し正面から思いっきり両手で握られた剣が全力で振るわれる。だが、グゼンの全力はガルナの片手で振るわれた剣に防がれ弾かれてしまった。


「クッ…!」


 ギィンと鈍い音が鳴り響く。

 そして、あまりの重いガルナの剣撃にグゼンは後ろによろめいてしまった。


『全力で打ち込んだのに、これなんだよなぁ!ああ…やっぱり、俺の見込んだ女は最高だぜ!!』


 またもや嬉しそうに、にやけるグゼン。

 しかし、そんな思いにふけって、一瞬の気を許した彼には、容赦のないガルナの前蹴りが炸裂した。


「あ………グハァ!?」


 間の抜けた声の後、悲鳴を上げて、グゼンはそのまま戦場の外に吹き飛ばされ失格となってしまった。


「え、グゼンさんあんたがやられてどうするんですか!」


「俺が代わりに注意を引く、マイラ合わせてくれ!!」


 とっさにシオルドが機転を利かせ、展開するのをやめ、ガルナに剣を構えて突撃して行った。


 だが、その後の試合結果は散々なものだった。最初から五人で挑むほどの相手二人になれば結果は見えていた。

 シオルドが何発かガルナに剣撃を叩きこみ善戦している様に思われた。が、それはただの誘い込みで、ガルナ真の狙いはタイミングをうかがって斬り込んで来ようとしている後方のマイラだった。

 結局、マイラが隙だと思って飛びこんだガルナの懐は罠だらけ。彼女が身を軽く翻すと、ちょうど、シオルドとマイラが剣を振って衝突する形に誘導された。

 二人は互いの剣をぶつけ合いつばぜり合いという形で受け身を取るが、直後、剣を地面に捨てたガルナがシオルドの顔面を反応できない速さで殴って一撃でダウンさせ、続いて、マイラの腕を掴んで剣を封じ込んだあと、そのまま彼女を背負い投げて、場外に飛ばし、決着はついた。



 グゼンは、沁みる痛みをひしひしと感じながら、なんとか立ち上がって、この訓練から出て行こうとするガルナのもとに駆け寄った。


「ガルナ!相変わらず、お前は強いな!どうだ、今から俺に稽古つけてくれないか?二人であっちのすみなんてどうだ?」


「すまんが、私はこれから用事があるから、今日のところはここまでなんだ」


 グゼンの誘いを断ったガルナの顔つきは何かを楽しみに待っているような、そんな表情をしていた。


「…なあ、頼むぜ、ガルナ。お前はさ、全然、相手してくれないからさ、俺はこういう機会をのがしたくねぇんだ」


 ガルナはエリザ騎士団の副団長に席を置いているが、彼女は以前からこの古城アイビーのエリザ騎士団に顔を出すことは滅多になかった。それはガルナが大陸中を移動して武者修行の旅やら任務やらに単独でかりだされていることが非常に多かったからだ。

 おかげでエリザ騎士団には副団長代理が常に副団長の仕事をしていた。というよりは副団長代理がみんなの中では副団長であった。それぐらい彼女はこの城にとどまっている期間は短かった。

 さらに、ガルナは白虎討伐前の数か月間は、ただひたすらひとりで訓練するか、ビナ・アルファと言われるあのライラ騎士団の精鋭騎士と訓練するかの、それだけで、エリザの騎士たちとは交流がほぼ無かった。


「今日はダメだ、これから大事な約束がある!」


「…何だよ、その約束って…」


 グゼンは苦い顔を浮かべる。


「ハルとこれから稽古があるんだ」


 ガルナは足を進めて、副団長代理のもとに向かっていた。訓練を抜けることを伝えるのだろう。


『ハル?ああ、ハル・シアード・レイか、あの英雄の…そういえば、ガルナの奴、あそこからへんと仲いいがどういう関係なんだ?』


 グゼンは頭を悩ませる。そもそも、ガルナが今までどこで何をしていたかなど、エリザのほとんどの騎士は知らない。唯一知っているとしたら、この騎士団の団長のデイラス・オリアだけだった。


『つうかなんだよ、ハルって随分仲よさそうに呼ぶじゃねぇか…』


 ちりちりと変な怒りがグゼンの中にこみあげていた。


「なあ?ガルナ」


「なんだ?」


「おまえ、あのハルさんたちとはどういう関係なんだ?」


「ハルたちとの関係?そうだな、大切な友人たちだな!ライキルちゃんにビナちゃん!うん。まあ、エウスは、どうでもいいがな!アハハハハハハハ!」


 ガルナが高笑いしながら冗談だ、冗談とひとりで笑う。


「………何だよ、楽しそうに…」


 グゼンは小さく呟く。彼女のことが把握できなくてイライラしていたのだ。なぜそんな気持ちになるかは自分でも分からなかったが…。


「じゃあ、私は行くから」


 ガルナはそう言うと、訓練をしていた副団長代理のもとに走って行ってしまった。


「え!?あ、おい、待てよ…」


 去ってしまった彼女をグゼンは寂しそうに見つめていた。


「………」


 そんな哀愁漂う背中をたたく者が二人いた。


「お疲れ様、グゼン、どうかした?ガルナさんと何かあった?」


 銀髪で陽だまりのような優しい笑顔を浮かべているシオルド。彼はグゼンと同い年の二十三歳で気の合う友人だった。


「グゼンさん、また、ガルナさんに振られましたね?」


 赤髪で、悪戯っぽく笑っているマイラという少女。こちらはグゼンとシオルドの後輩で年齢は二十歳と若い。

 三人は若くしてエリザ騎士団でもトップクラスの実力者であり、互いに仲が良かった。


「別に何にもねえよ、ていうか振られてねぇから!」


「はいはい、でも、噂ではガルナさん、あのハル・シアード・レイさんとできてるって話しですよ!」


 マイラがそっと耳元で囁いて来るが、そんなくだらない噂話を、グゼンは聞き流した。それは別の有力な噂を耳にしていたからだ。


「はいはい、でも、俺はあの元剣聖とライキルって美人の女の子ができてるって聞いたぜ」


「ああ、その噂もありますね!もしかして二人ともゲット!なんて強欲な感じかもしれませんよ?」


「はあ、ありえないね、そもそも、そんなことしたら互いの女が黙って…」


 そこにマイラが得意げな顔で、グゼンの口を遮って続けた。


「知らないんですか?男の人で権力があるとたくさん妻を囲えるんですよ?ちなみに女性でも夫をたくさん囲えます!」


「…え?…まじ?」


「まじです。近年の王室や貴族があまりやってないだけで、その法律は残ってますし、一夫多妻のところはありますよ」


「なにぃ!?許せん!今すぐそんな法律、俺の剣で粉砕して無効にしてやるわ!」


「アハハハハ、相変わらず、グゼンさんって脳みそが筋肉でできてますよね!」


「うるせえ、ほっとけ!」


 二人がじゃれ合っている間に、シオルドは、噂のハルとガルナが二人で合流しているところを発見した。


 二人は土手の道で仲睦まじい様子で、第三運動場に下りていっていた。


『へえ、あながち噂は間違えじゃないのかもね。今度エウスさんに聞いてみようかな…』


 シオルドは隣で二人が仲良くケンカしている最中にそんなことを考えていた。


 今日の活動時間も、大半が終わったといったところであった。












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