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午後の訓練

 午前に比べ暑さもよりいっそう激しさを増してきた頃。

 新兵たちは主に第一運動場で、自分の足りない部分を補うための訓練をしていた。

 彼らは主に二つ種類の訓練に分かれて自分を鍛えていた。


 一つ目は、やはり身体づくりであった。騎士になるために必要な要素である筋力、体力、機敏性など、それらの基本的な身体機能を向上させるための訓練を積んでいた。

 トレーニングの内容としては、重りのついた剣の素振りや、これまた重りのついた鎧を着てのランニングなど、身体に負荷をかけて午前中にやっていた訓練の再演のようなことが中心であった。


 二つ目は、実戦戦闘の訓練であった。これは午前中に新兵たちが行っていた剣の試合の続きで、新兵の大半がこの訓練に参加していた。

 やはり、新兵たちの中でも剣を用いての実戦に寄せたこの訓練は人気で、第一運動場では彼らの剣を交える姿がよく見られた。

 ただし、この午後の剣の実戦訓練は、午前中の一番最初に行う、体力テストの基準を満たしている者しか参加できなかった。

 それでも、今回の新兵の中に基準を満たしていないものはいないため、参加できない者はいなかった。


 新兵たちの午後はこのように日暮れまで訓練が続く。

 午後は各自の自主的な練習の時間ではあるが、そもそも、まだ、彼らは新兵であり、先人たちがこなしてきたような形式の定まっている基礎的なメニューをこなしていった方が成長の余地がまだまだあるため伸びやすい。

 しかし、みんながみんなそんな基礎に忠実なわけではなく、なかには変わった考え方を持った者や人とは違った視点を持っている者がいることも忘れてはならない。

 そのような者たちは、変わり者というよりはこの場合秀でていると言ったほうがよい。

 本来、午後の訓練はその独自の視点を持った者たちに着目するのが狙いであるからだ。

『エウスが幼い頃の師範を真似して、さぼりたいわけでは決してない…』

 そのため、ある程度体裁が整えられた午後のその二種類の訓練メニューではなく、独自のメニューで己を鍛えている者たちも当然いた。

 その彼らは事前に申告してどこで何をやっているのか詳しく報告しているため、エウスもその者たちの行動は把握しており、全て紙にまとめているようであった。


 そのような形で、新兵たちは午後の訓練にそれぞれで励んでいた。


 そして、今、エウスとハルは、第一運動場に訪れて、その新兵たちが訓練している様子を眺めていた。

 運動場の広場の中では、重りや鎧を身に着けた新兵たちが外側の円を走っており、中央では多くの新兵たちが午前中と同じ形式で試合をしている。


「というわけだ、ハル、この第一運動場では、みんな体力作りや、剣の実戦訓練に励んでる。もしハルがこの時間でもあいつらに指導してくれるなら、この試合してる奴らが中心になるかな。あっちの身体や体力作りしてる奴らはひたすら走って、ひたすら筋肉鍛える以外ないから特に気にかけなくてもいいと思うし、それに新兵たちがハルに期待してるのは剣の指導だと思うからさ」


 ハルは、エウスのその言葉に新兵たちを眺めながら、そうだねと同意して小さく頷いた。確かに、ハルの得意とするのはさまざまな戦闘経験から学んだ生きた知識。立派な身体のつくり方に関しては自信なんてちっともなかった。そこはハルも最初はみんなと同じ道を通って来たからだった。


「なあ、エウス、ここ以外にいる子たちは何をやってるんだ?」


「そうだな、第一運動場の他には、室内の訓練施設で身体を鍛えてる奴もいるし、道場で体術を鍛えてる者もいるな、なんだったら、他の運動場でエリザ騎士団の訓練見学してる奴もいるし、この城の外の図書館に行ってる奴もいるぜ」


 訓練中なのに図書館や食堂とはどういうことなのか?それを許してもいいのか?とハルが心の中で思っているとエウスがその疑問に答えをくれる。


「あ、図書館とかを許してるっていってもちゃんとあの午前中の走り込みで上位にいるやつとか、実戦形式の試合で結果を残してる奴だけだけどな。じゃなきゃ、みんな図書館で午後は昼寝なんてこともあり得るからな、あくまで、自分の成長のために必要なことを調べるためってことで、許可してる」


「意外とそこらへんはきっちりしてるんだね」


「あいつらには強くなって欲しいからな。それにハルもそう思ってるから今回手を貸してくれたんだろ?」


「ん、ああ、もちろん、そうだ。短い間だけど俺が教えられることは全部教えて、そのことが少しでも彼らの助けになってくれたと思ってる……いろいろ今更で遅すぎる気はするけど……」


 最後の方のハルの言葉は小声で聞き取りずらかった。


「遅い…?なにがだ?」


「ううん、なんでもない…」


「…そうかい?」


 以前から直接指導して、自分の持っている力を周りのみんなに広げていればもっと貢献できていたのではないかという後悔の念がハルにはあった。

 そうしていれば、レイドの現剣聖のカイなんかも今よりももっと強くなっていたのではないか?とすら思う。が、それはさすがにあまりにも傲慢な考えであったとハルはすぐに自分で頭を冷やす。

『いや、それはさすがに思い上がりすぎた。そもそも、カイは今でも強いし、それにそこまで、俺は教え上手じゃない…まったく何を考えてんだ俺は…』

 だが、ハルは少し空を仰いで、理想の自分を宙に思い描く。そこには、みんなの先生になって積極的に周りに剣の指導している姿があった。


 ただ、過ぎ去ってしまったことは、もう仕方が無いので、ハルはこうして切り替えて、新兵たちやエウスなどの周りにいる大切な人たちのために今は全力を注ぐことだけを考えていた。

 身体は強くても、心はまだまだとハルは思う。そこらへんは自覚していたが、人間誰にでもその人だけが抱えている悩みや弱点はあり、ハルだって例外ではなかった。


『俺もまだまだだな…』


 そう思っていると、新兵たちのいる運動場の広場の中央に歩き出したエウスが口を開いた。


「じゃあ、ハル、そろそろ、見て回ろうぜ!その間にできる限りあいつらを紹介していくからさ」


「ああ、わかった、よろしく頼む!」


 ハルは、エウスの後をついて行った。



 ***



 それからハルはエウスと午後の新兵たちの訓練を見て回った。

 試合をしているところに二人が訪れると、試合をしていない新兵たちがたちどころに挨拶をしてくれたため、ハルも彼らに丁寧に挨拶を返していく。

 この光景は午前中とあまり変わらない。


「エウス隊長は、今日のこの試合には、参加はされないのですか?」


 ひとりの新兵がエウスに声をかけてきた。彼の言い方から、午後はエウスもこの新兵たちの試合に参加していることが分かった。


「ああ、今日は、この通り、ハルをお前たちに紹介しなきゃいけないからな」


 エウスが、半身でハルの方に振り向き、その新兵に示した。


「おお、それは光栄なことです。エウス隊長、私も名を名乗ってもよろしいでしょうか?」


「もちろん、いいぜ」


「ありがとうございます!」


 ハルの前に一人の青年が来た。少し長めでさらさらのストレートの金髪が揺れており、顔立ちはとても高貴な生まれを感じさせる顔つきだった。しかし、その彼から高貴さを感じるところは顔立ちだけではなく、動きの仕草や丁寧な言葉遣いなどからも感じられた。


「ああ、私は以前からハル団長殿のことは存じておりましたが、そうですね、ここは…」


 金髪の青年は一呼吸入れたあと丁寧に自己紹介をした。


「初めまして、私の名前はビンス・ラザイドと申します。これでも貴族の生まれなのですが、騎士になることに憧れて軍に入隊しました。正直、あのハル・シアード・レイ様にお会いできるとは思ってもいませんでした!!」


 ビンスと名乗った青年は、目を輝かせながら、こちらを凝視していた。


「初めまして、俺は…ってそうかもう、知ってるのか」


「はい、当然です。知らぬ者などいないでしょう!」


「アハハハ、ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」


「いえいえそんな!私の方こそ、こうしてあなた様と言葉を交わせているだけで光栄の極みです!」


 貴族の子だけあって、相手を褒めるのや世渡りが上手で、ハルの気分も舞い上がってしまうが、自分がみんなにとってはただの先生であることを忘れてはいなかった。


「ありがとう、ビンス。だけどひとついいかな?」


「はい、なんでしょうか?」


「俺のことはハル団長だけでいいよ、なんだったらハルでいい、もっと気軽に接してくれて構わないよ」


「そんな、それは無礼に当たります…」


 貴族の出ならば、位の上の者への接し方を子供の頃から叩きこまれているのだろう。それは正しい。

 だが、ハルにも思うところがあった。


「大丈夫、ここは貴族たちの社交場でもなんでもないから、もっと気楽にいこう!それで一緒に強くなっていこう、肩の力を抜いてくれてた方が俺も緊張しないですむからさ」


 ハルが子供っぽい無邪気な笑顔で語りかける。


「…あ、はい!」


 数秒遅れて返事をしたビンス。先ほどから少しぎこちなかった彼の表情が緩み始める。やはり、どこかで彼が緊張していたことはハルから見て取れていた。

 そんな状態では、これから、一緒に訓練していくのも大変だとハルは思っていた。だからまずは自分から彼らの警戒を解くことから始めていくことに決めていた。


「これからよろしくね!」


 ビンスもよろしくお願いしますと先ほどよりも砕けた表情で返してくれていた。

 それから、しばらく彼と話していると当然周りの新兵たちも寄って来て、あっという間にハルは囲まれてしまう。

 収拾がつかなくなってくると、エウスが、それぞれ、今、ここにいる者だけを整列させざっと名前だけ名乗らせていった。

 当たり前だが、そんな一気に紹介されても全く覚えられるきがしなかった。結局、ここでハルが覚えれたのは、ビンスという青年だけだった。


「じゃあ、お前ら訓練に戻れ、ほら、満足しただろ?今日はまだハルはお前たちに教える段階じゃないんだ、見に来てるだけ、戻れ、戻れ」


 エウスが集まっていた新兵たちをどんどん訓練に戻らせるように散らしていった。


「よし、ハル、もう次に行こうぜ、次に」


 ハルはわかったと返事をし、第一運動場にいた新兵たちに別れを告げ、他の新兵たちがいる場所に移動した。



 ***



 それからハルとエウスは立て続けに移動を繰り返した。

 城から一番遠い、第三運動場の近くにある室内運動場が集まる区画(以前、アスラとレイドの騎士たちが親善試合をした道場の近く)に筋肉を鍛えるためだけの専門の施設があり、そこにハルとエウスが顔を出す。

 その施設の建物の中はとても広く、新兵たちだけではなく、他のエリザ騎士団の者たちも訪れているようだった。

 ハルとエウスがしばらく施設を歩き回っていると、三人ほどのハルも見たことのある顔ぶれがいた。


「お、いたいた、よお、お前たち、ちょっといいかい?」


 エウスがその三人に声をかけ


「エウス隊長!」


 声をかけられた三人の内、ひとりは長椅子に寝転んで両端に重りをつけた鉄の棒を持ち上げていた。もう二人はその鉄の棒を持ち上げている補助役として、両サイドからその鉄の棒を支えていた。

 だが、エウスに声をかけられるとその三人はその筋トレを一旦中断して、こちらに駆け付けてきた。


「お疲れ様です!」と三人がそれぞれ口にする。


「お疲れ、呼び止めて悪かったな」


「いえ、そんなことはありません」


 金髪の青年が代表して口を開く。


「お前たちに改めて紹介したいと思ってな、ちょうど今日はここに三人集まってるって思ったからさ」


「紹介…?ああ、そう言うことですね!」


 金髪の青年がエウスの後ろにいるハルのことに気づく。


「そう、みんな知ってると思うがこちらが、俺の古くからの友人でもあるハルだ」


 紹介されたハルは三人の前に出てきて口を開いた。


「ハル・シアード・レイです。どうか今後はよろしく。三人のことはちょくちょくエウスから聞いていたんだけど改めて顔と名前を一致させたいから名乗ってもらってもいいかな?」


 三人はもちろんというと、それぞれ、一人ずつ名乗っていった。


「俺は、ウィリアム・リベルテと申します!」


「君は確か午前中の剣の試合で一番優勝してる子だよね?」


「ええ、ですが、今日、ユーリってやつに並ばれてしまいましたけどね」


「うん、でも、あの決勝の試合はほんとに良かった。君は他の子たちより剣術に工夫うと洗練さがあった。前から誰かに特別な指導を受けてた?」


「はい、父が騎士だったもので、小さいころから剣には触ってました」


「通りで、君の剣さばきは新兵の中でも熟練度が違うって思ったんだ」


「ハル団長にそう言ってもらえるとやっぱり嬉しいです!」


 金髪碧眼でなかなかの好青年であるが、どこか砕けた印象が残る彼にハルはとっつきやすそうなイメージを抱いた。

 そして、少しハルとウィリアムが言葉を交わしたあと、次はガタイのいい穏やかそうな青年が名乗ってくれた。こげ茶色の髪で、少し全体的にふっくらとしている彼だが、痩せた時にはどこか化けそうな顔つきをしていた。


「フィル・トロプトルです。よろしくお願いします!」


「あ、君はライキルからいろいろ教えてもらってるみたいだね、彼女からよく話を聞くよ」


「は、はい!ライキル師匠からは身体の鍛え方を一通り教わってる途中です!」


「うん、確かに君は背も大きいし他の子たちより一つ飛びぬけて筋肉が付いてるみたいだね」


 ハルから見ても彼は他の新兵たちより、立派な体つきをしていた。


「はい、それはライキル師匠が組んでくれたメニューのおかげです。今日もそのメニューをこなしてる最中でした」


「そっか、師匠か、どう?師匠のライキルは怖くない?」


「そのちょっと怖いところはあります!!」


「アハハハ、そっか、君は正直だね」


 ハルは少しだけ笑ったが、エウスは後ろで大笑いしていた。


「でも、ほんとはライキルはとっても優しい人だから誤解しないであげて欲しいな」


「はい、大丈夫です。そこは自分もしっかり理解しています!」


「良かった、ありがとね」


 ハルは優しく微笑んで、最後の彼の方を向いた。

 最後の子が一番エウスから話題が上がる彼のお気に入りの子だった。


「お久しぶりです、ハル団長。俺の名前はアストル・クレイジャーと申します!」


「うん、君のことは一番エウスから話を聞いていたよ。面白い子がいるってね」


「あ、ありがとうございます…」


 アストルはそこで少し顔を俯かせてしまった。


「ん、どうした?」


「実はそのハル団長には言いそびれていたことがありまして…」


「言いそびれてたこと?それは何かな?」


「その、以前俺たちが王都からこの古城に向かう時に魔獣に襲われたことがありましたよね…」


 確かにそんなことがあったと数か月前の記憶をハルは呼び起こす。


「俺、そこでハル団長に助けられたんですけど、まだその時のお礼が言えてなくて…」


 パースの手前の小さな森の中で魔獣の白虎の襲撃に遭っていたことをハルは思い出した。そこで、エウスと新兵が魔獣に襲われそうになっているところを救出していた。


「ああ、あったね。パース街にあとちょっとで到着ってところでみんなで魔獣たちに襲われたね」


「はい、あの時は助けていただいて本当にありがとうございました」


 アストルが深々と頭を下げて感謝の意を示した。


「いいよ、こっちこそ、君の命を守れて良かった」


 ハルは彼に手を差し出す。


「ほら、頭を上げて、これからよろしく、アストル、一緒に強くなろう!」


 顔を上げたアストルはガッチリとハルの手を掴んで、こちらこそよろしくお願いしますと告げていた。



 ***



 ハルとエウスはその後すぐに、その三人と別れた。筋トレ中の彼らの邪魔をするわけにはいかなかった。それに、他にもまだまだ散っている新兵たちを見て回る必要があった。

「今日で、全員のところは回れないな、なんせ城の敷地内にバラバラに分かれてるからな」

 エウスが持っていた板に貼り付けられた紙をめくりながら言った。

 二人は、室内運動場の区画内から抜けて、第三運動場の近くの道を歩いている最中だった。


「できる限り今日中に回れないかな?」


「何か急ぎの用でも?」


「まあ、明日ガルナと訓練の約束があるのもそうだけど、早く、新兵のみんなと訓練したくなってね」


「ハハッ、そりゃあ、ハルさんらしいぜ、わかった。じゃあ、もう、ちゃっちゃと終わらせるか」


 それからハルとエウスは、他のばらけている新兵たちがどこで何をやっているのかを急ぎ足で、ちゃんとその目で確認しにいった。

 独自に午後の訓練をしている者たちは、やはり少し変わった訓練方法試していた。食堂で食事をしている者、武器庫で自分に合った武器を探して手の空いているエリザの騎士に教えを受けている者、プールで訓練している者など、とにかく自分が強くなるためと思ったことに挑戦している新兵たちがいた。

 ただ、食堂も図書館と同じで制限つきだがなとエウスは言っていた。たくさん食べることも激しい運動をする者たちであるため、悪くはないが、基本的にエウスとしても午後も身体を動かして欲しいのが本音のようだった。


「ただ、強制しちまったら、意味が無い。ある程度自由のある時間ってのは訓練の中でも大切だと俺も思ってる休憩だけじゃなくてな。そこで本当に強くなるための気づきを得られる俺は信じてる」とエウスは言う。そのことから自分の課題探しという点をエウスは大切にしていることがよくわかった。

 ハルもそう思う一人であった。教わるのも大切だが、自分で設定した目標や壁を越えていくのは何より達成感があるのをしっていた。それはハルが道場にいたころに学んだことだった。

 しかし、ハルは冗談交じりに、「さぼりたいわけじゃないよね」とこぼすと、ハッハッハッ!と大きな声でエウスが豪快に笑い「あのジジイと俺は一緒じゃないぜ」と彼は師範代のことを言っていた。だけどハルはちゃんと師範代の教えは良い形でエウスにも受け継がれているんだなとしみじみ実感するのだった。



 ***



 結局、ハルとエウスは今日中に全ての新兵たちの様子を見て回ることはできなかった。それでも、残りあと数か所のところまでいけたことで、今日のところはこれでお終いということになった。

 第一運動場に戻るころには、空は夕焼け色に染まり、辺りには自分たちの寮や自宅に帰る者たちで溢れていた。

 ハルとエウスはその第一運動場の近くのところで別れた。エウスは新兵たちに撤収するようにと伝えるとのことで先に帰っていいとのことだった。

 ひとりになったハルは、それから古城アイビーの自室がある一階の東館に戻る。その間、今日覚えた新兵たちの顔と名前を忘れないように何度も繰り返し呟いていた。


 第一運動場の脇道を歩いていると、遠くに大きな大剣を持ったガルナが、歩いて行くのが見えた。彼女は適当な鼻歌交じりに元気そうに帰宅していた。


「………」


 そんなガルナを後ろから見ていたハルはふと立ち止まってしまった。


「あのことも早く切り出さないとな…」


 ハルはそれから足早にガルナの後を追って、声をかけ、すぐ近くだったが城まで一緒に帰っていった。


 そして、古城アイビーには、いつもと変わらない夜が訪れていくのであった。














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