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最後のお祭り

 ハルがブルーブレスの館の一階のエントランスに少し遅れて入る。すると、その一階のロビーには一足先に入って行ったエウスと二人の帰りを待っていた女性たちがいた。

 女性たちは、ライキル、キャミル、ガルナ、ニュア、リーナの変わらない四人。彼女たちはみんなで最後のお祭りを楽しむために待っていてくれたのだ。

 ハルもその輪の中に入ってみんなに挨拶をする。


「みんな、ただいま、今、戻りました」


 彼女たちは一つのテーブル席を五人で囲って紅茶をたしなんでいた。昼食を一緒に食べる約束をしていたのできっと空腹を紛らわすためなのかなと思ったら少しだけ申し訳ないことをしたと思うハルだった。


「あ、ハル、お帰り、お疲れ様」


 最初にキャミルが挨拶を返してくれると、みんなが続いて返してくれた。ガルナは手を振って、ニュアは元気よく、リーナは短くクールに、ただ、ライキルだけは…。


「ハ、ハ、ハ、ハ、ハル、おおお、お帰り、なさいませぇ!?」


 急に立ち上がって、変な音程で返してくれたライキル。その声はロビー中に響き渡ってロビーにいた人々の注目を集めた。


「…ライキル、急にどうしたんですか?」


 リーナに冷静につっこまれていると、キャミルは俯いて顔を隠してクスクスと笑い、エウスも笑いをこらえて顔を手で隠していた。

 恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしたライキルは何事もなかったかのようにすっと椅子に腰かけて、紅茶を啜っていた。


「ただいま、ライキル」


 ハルはそんな彼女を愛おしく想い、優しく個別に挨拶を返してあげると。


 ブフォ!


 ライキルは啜った紅茶を吹き出しそうになっていた。


「…フフッ…アハハハハハハハハハ!」


 たまらなくなったキャミルとエウスは大きな声で笑い出して、ニュア、リーナはそれを不思議そうな顔で見て、ガルナに関しては構わず菓子を紅茶で流し込んでいた。


「え、え、みんなどうしちゃったんですか?急に笑い出して」


 ニュアが困惑しながら言った。


「いやあ、ごめんなさいね、なんでもないの。それよりみんなそろったし、さっそく最後のお祭りに行きましょう」


「ああ、キャミルに賛成だ、行こうぜ!」


 緩んだ表情のキャミルとエウスが話しをそらす。

 そこでキャミルにはライキルが昨日の告白のことを言ったのだろうと予想がついた。そして、ガルナがいるからキャミルとエウスが察してくれているのもありがたかった。さらに、この調子だとニュアとリーナにはまだライキルは伝えてないことが分かった。しかし、それも当然かと思う。結婚のことはまだ先の話し、その時が来たらみんなに少しづつ打ち明けていけばいい。それにニュアとリーナはライキルのことをとても気に入っていたから、この最後の解放祭ぐらいはライキルは彼女たちと楽しんでもらいたかった。それにライキルもそこらへんはちゃんと理解していたから何も問題はなかった。


 みんながロビーから立ち上がり祭りにいく準備を始める。といっても女性たちはみんな準備完了していたため、宿のカウンターに行って馬車を出してもらうように頼んでいた。

 ハルとエウスだけが、一度、三階の自室に戻って騎士服から私服に着替え、身だしなみを整えて、みんなのところに戻った。


 馬車は四人乗りの物を三台出してもらいそれに乗って三等エリアに向かった。ちなみに、三台目には当然キャミルの王族直属護衛たちが乗っていたためである。


 馬車の振り分けは、一台目がエウス、キャミル、ハル、ガルナ。二台目がライキル、ニュア、リーナになった。



 ***



 馬車の中、ハルは少しだけ緊張していた。それはガルナが隣にいるからだった。いつもなら、何も緊張することは無いが、まだ想いを伝えていない状況で変に意識してしまっていた。

 そわそわしていると、キャミルとエウスが微笑ましくこちらを眺めてくるのがなんだかとても腹が立つのだが、きっと、これは贅沢な時間で幸せなのだ。だから、ハルはもう、この際、変な気持ちはそこらへんに投げ捨て、いつも通りの自分を貫き通すことにした。その方が祭りも心から楽しめるものだ。さらにもし、上手くいかなかったとしても、彼女は仲間であり、友人として支えてあげればいい。それでいいのだ。


「ねえ、ガルナ?」


「なんだ?」


 窓の外を眺めていたガルナを呼びかけると彼女は、ハルの方に振り向いた。相変わらず、へそ出し半袖に半ズボンと派手な格好で、傷だらけの小麦色の肌と屈強な筋肉が輝いている。身体は傷だらけで、普通の人が見たらちょっとは怖いと思ってしまうかもしれない。しかし、ハルからしたら、そんな彼女も守ってやりたい女の子の枠に入ってしまう。


「何か最後に祭りで見ておきたいものとかない?」


 そう質問すると彼女は何か考えるそぶりをした後、肉が食いたいと笑顔で応えた。


「わかった、じゃあ、屋台で何か美味しいもの買ってあげるよ」


「ほんとか、ありがとう!優しいなハルは!」


「いいよ、ガルナのことだからね…」


 ハルは我ながらずるいと思った。ガルナを食べ物でつって好感度を上げにいってると、そう思った。


『…でもな…ガルナからもいい返事が欲しいからな…』


 そんな、邪だがハルなりに小さな努力を重ねていると…。


「ハル、俺も何か美味しいものが食べたいな…」


「あ、私も美味しいものが食べたくなってきちゃった…」


 ニヤニヤしている悪魔が二人、ハルの目の前で邪悪に微笑んでいた。きっとここで二人の願いを断れば、執拗にいじって来るのは目に見えていた。『あれ、ハル、俺たちにはおごってくれないのか?ガルナにはおごってあげるのに?』『なんで、ガルナちゃんにだけおごってあげるのかな?』なんて、二人はまくしたててくることは確実。なんとも邪悪でこすいんだとハルは思うが、自分もガルナを食べ物でつって仲を深めようとしている時点でなんとも言えない。


「どうだハル?いいだろ?」


「私たちじゃダメかな?」


 二人の悪乗りは続くし、案の定といった感じだった。


『く、覚えてろよ…特にエウス!!』


「ええい!いいだろう、二人にもおごってやるよ!いや、みんなにおごってやるよ!お昼は俺持ちだ!」


 やけくそになったハルは、みんなにおごることを決めるのだった…。



 ***



 それから、三等エリアに到着したハルたちは、ニュアとリーナに勧められたアスラ帝国で人気のレストランに入った。二人は大陸中を移動しているため、このように見聞が広かった。移動を制限されていたハルからしたら彼女たちのそのような側面は少し羨ましくはあった。


 店内は人々で大賑わい、その中の一つのテーブル席を確保してみんなで囲んで食事をした。

 その最中はみんなでこの解放祭での一週間の出来事の話題で盛り上がった。その間はハルも、そして、ライキルもいつも通りに素の自分たちがいて、変に意識することもなく、楽しい時間を過ごせていた。

 食事が終ると、エウスとキャミルが先ほどのことを謝り、代金を支払おうとしたが、ハルは気前よくみんなの分の食事代を無理やり支払い、お昼を終える。


 それから、ハルたちは大通りを歩いて、以前に見て回れなかった店などを見回った。といっても最後ということもあり、特定の場所にあまり時間はかけず、祭りの雰囲気だけを最大限楽しんで歩きながらみんなでおしゃべりするのがメインだった。


 そんな中、ハルたちが大通りを歩いていると、再び、屋外で劇をやっている広場に来ていた。


「ここは相変わらず人が多いね…」


 ハルが周りを見ながら呟く。それもここは大通りのちょうど折り返し地点、さらに劇を見に来た人々が足を止めるので自然と人が溜まっていくのだ。


「劇やってますからね、今は何をやってるんでしょうか?」


 隣に顔をだしたライキルが言った。


「そうだね…今は……」


 ハルは背伸びをして、劇をやっている舞台を眺め、耳を澄ます。しかし、そこでハルたちは、舞台から飛んできたセリフがとんでもないものだったことに気づく。


「我が名はハル・シアード・レイ。四大神獣を討伐する者だぁ!!」


 舞台に立っている役者がそう叫んだ。


「え?」


 というのも、今、舞台の上で繰り広げられている物語は、ハルを題材にしたものだった。


「………!?」


 これにはハルたち一同驚愕した。


「おい、ハル、あいつ、今、ハルのこと呼んでなかったか?」


 ガルナが舞台上の役者を指さして言った。


 他のみんなはビックリしすぎて声も出ていなかった。そして、本人であるハルも唖然としていた。

 舞台上の役者は白塗りされた鎧に身を包んで白いマントを羽織っていた。それはハルが表彰式で着ていた衣装に似ていた。さらに手に持っているものも二本の大太刀ではなく、太いロングソード一本だけだった。そんな感じでところどころ違う部分はあるが、劇の内容は確かにハルのことについてだった。


「…おい、すげえな、ほんとにハルは伝説になりそうだな…」


 こういう時、エウスは茶化してくるのだが、彼は冷静にそう呟いていた。


「…………」


 ハルもまだ舞台上で演じられる自分の姿を呆然と眺めていた。演じている者たちは素人ではなくちゃんとした劇団員、見入るのは当然で、これは王都で子供たちが剣聖の真似をして遊んでいるのとは違う。多くの人々に伝えるためにつくられた作品であった。


「ちょっと、見て行こうぜ…」


 エウスの一言にみんなが賛成していた。

 そのため、ハルたちは最後までその劇を見ていくことになった。

 そうして見ていった結果、分かったことがあった。それはやはりハルのことについて語られた劇であったということ。そして、どうやら、まだ未完成で劇と劇の間に行う短い劇であるとのことだった。これらのことはそのハルの劇が終り、劇の進行を進める劇団員の人が説明していたから判明したことだった。


 ハルについての演劇が終ると、次はいつも通り定番で人気の剣聖レイの物語が幕を開けていた。

 ハルたちはその劇はすでに見終えていたので、再び大通りを適当に歩き回ることにした。しかし、当分はそのハルが主人公の劇のことで話題は持ちきりだった。


 みんなが歩きながら、あれは違うこれは違うと、舞台のハルと現実のハルを比べて会話に花を咲かせていた。


「あれがハルなのか?全然、似てなかったぞ?」

 ガルナが不服そうな顔で言う。


「確かに、ハルはあんなにきっちりしてない、もっとだらしないよな?」

 エウスが続く。


「そうね、ちょっと誇張されている姿ではあったかもね!」

 キャミルが賛同する。


「でも、話しは面白かったですよね?」

 リーナが劇の感想を述べる。


「途中からだったからあんまり分からなかったな…」

 ニュアがそんなことを言う。



 そんなみんなが大通りを歩きながら話しているなか、ハルとライキルは少しだけ彼らのうしろを歩いて、その賑やかなみんなの後ろ姿を眺めていた。


「みんな、さっきの演劇のことに夢中ですね」


 ライキルが嬉しそうな表情でつぶやく。


「そうね…」


 ハルは気の抜けた返事をする。


「きっと、みんなハルのことが好きなんでしょうね」


「そうかなぁ?たまになんか好き放題言ってる人たちもいない?エウスとかキャミルとか?」


「アハハハハハ!そうですね、でも、それも含めてハルは人気なんですよ。だって、演劇になってしまうほどですからね」


「そうだね、ありがたいことだ…」


 舞台の上には、清らかで、真面目で、華やかで、勇敢で誰もが憧れるような自分がいた。でも、ハルもどこかで分かっていた。自分は素晴らしい人間じゃないと…。


『俺は…あんなに立派じゃないよ……』


 霧の森での凄惨な光景が蘇る。真っ赤な血と肉にまみれた地獄を。そしてその地獄を生み出したのは紛れもなくハル自身だった。


「ハル?どうかしましたか?」


 少しだけ俯いたハルに、相変わらず綺麗で整った顔立ちをしているライキルが覗き込んで来た。そのしぐさは、可愛らしいの一点に尽きるのだが、彼女はそれと同時に凛々しさも兼ね備えているから完璧に見える。多くの人に愛されるのなら彼女のような人間であるべきなのだとハルは思う。


「ううん、なんでもないよ、それよりさ、きっとあの劇さ、俺が次の四大神獣を討伐すれば続きの物語が見られるのかな?」


「そうかもしれないですね!きっとハルが次の神獣も簡単に倒して………」


 そこでライキルが少し、言葉を濁し戸惑い出した。どうしたのだろうかと思い声をかけようとする前に彼女が先に口を開いた。


「あ、えっと、ごめんなさい、なんか、軽々しくそんなこと言ってしまって…」


 自分の言ったことに配慮が無かったことを自身で責めたのかライキルの輝かしい表情がかげってしまった。


「いや、そんな、いいよ謝らないでライキル。大丈夫、次の神獣もすぐに討伐するから。見ててよ、君の将来の伴侶ができる男だってところをさ!」


 安心させようとハルは彼女に笑って見せる。


「…はい、ですが、私もハルのこと支えさせてもらいますからね…頑張ってついて行きますから…」


 いくらかライキルの暗い顔もましになる。それにそんな嬉しいことを彼女が言ったおかげで、ハルはひとつ決めていたことを思い出した。


「ああ、そうだ、帰ったらライキルにも稽古つけてあげるよ」


「稽古ですか?」


 何ですかそれといった感じでライキルは首をかしげる。


「そう、うん、稽古だよ…?」


「な、なんの稽古ですか?」


 戦闘以外に何があるのだろうかと思ったが確かに今までハルが稽古をつけてあげることが無かったため、自分の口からその言葉が出てくるのにライキルは違和感を覚えるのは当然だとハルは思った。


「戦闘の稽古だよ」


「ええ!?ほんとですか!」


「うん、帰ったらできる限りみんなにつけてあげようと思って…だから、ライキルにもって思ったんだけど嫌だった?」


「いえ、とっても嬉しいです。ですが、ど、どうしてですか!?急にそんなこと今までずっと避けて来たじゃないですか…」


「…うん、だけど、そろそろ、俺も前に進まなくちゃなって思ったんだ。それに今度の相手は広範囲に広がる恐れがあるから、みんなにも危害が加わる可能性があるから、少しでもその神獣たちの危険を回避できるようにみんなを鍛えなくちゃなって思ってね…」


 ただ、いくらハルでも剣聖でもない普通の騎士たちを、一人で神獣を倒せるほどの実力まで上げさせることは不可能だったがそれでも、そんな脅威から身を護るために、神獣と戦ってきて得た経験がハルにはあるためそれを教えることはできた。


「そうでしたか…じゃあ、ぜひ、お願いします。ハル先生!」


「…なんかその呼び方嫌だな、それだったらハル師匠の方が俺は好き」


「じゃあ、ハル先生で!」


「全然変わってないんですけど…」


 そのように、ハルとライキルが仲睦まじく話していると、いつの間にかみんなに置いて行かれていた。


「おーい、ハル、ライキル、早く来いよ、こっちに面白いお店があるぞ!」


「何、二人でいちゃついてるよ、早く来て、来て!」


 エウスとキャミルに呼ばれると、二人は仲良くそろってはーいと返事を返してみんなの元に戻って行った。



 その後も解放祭をぶらぶらしたハルたち一行は、夕暮れまで祭りを堪能した。そして、宿に帰る前に夜の食事を済ませると、みんなで馬車に乗って帰ることになった。ニュアとリーナは、明日、また最後に会うことになっていたので、今日は三等エリアで別れることになった。彼女たちと別れたあと、ハル達は六人乗りの馬車をひとつ借りて、ブルーブレスに帰宅する。その馬車の中は、みんな、やっぱり、この一週間の楽しかった思い出を語っていた。


 ブルーブレスに着く頃には辺りも薄暗くなり、星も出て、月も輝きを増し存在感を強めていた。結局、気温が上がった日中のこの解放祭の街も今では心地のいい風が吹く過ごしやすい涼夜となっていた。

 エウス、キャミル、ハル、ライキル、ガルナの順でそれぞれ馬車から降りて行く。そして、みんなは、手に少しばかりのお土産なんかを携えて、ブルーブレスの玄関の扉を開けて中に入った。


「ふう、やっと、着いた…」


 もはや我が家の様に感じていたこのブルーブレスも明日でお別れかと思うとハルも少し寂しい気持ちになった。


「ハル様、お帰りなさいませ」


 そこで、カウンターにいたこのブルーブレスの使用人が声をかけてきた。


「ああ、どうも、ただいまです」


 すっかり、顔を覚えてもらっていたハル。やはり、少しだけここを離れるのは寂しいなと寂寥を感じた。と、同時に、わざわざ、そばに来てくれてまで挨拶してくれたということは何かあったのだろうか?とハルは頭をひねる。


「ハル様たちにあちらでお客様がお見えになっておりますよ」


「え?」


 使用人が示した方向に視線を動かすと、そこには子供ぐらいの小さな背に真っ赤な髪の女の子がロビーのテーブル席で、燭台の明かりを頼りに、本を読んでいた。


「ビナ!!」


 そこにいたのは、ビナ・アルファ、だった。


 ***


「あ、ハル団長!それにみんな!」


 白い半袖に赤いスカートを身に纏った、あどけない赤髪の少女が手に本を持って駆け寄って来た。

 そこに女性たちはビナのもとに集まって来て、おかえりと話しかけたり、撫でたり、抱きしめたり、好き放題していた。エウスも彼女に挨拶代わりにひとつからかっていると、さっそく一発腹に拳をもらって地面に倒れていた。

 そんなみんなにいじられ大人気な彼女に、ハルもかがんで目線を合わせて声をかける。


「お帰り、ビナ、どうだった家族とゆっくりできた?」


「ふぁい、おふぁ、おか、おかげさまでゆっくりできました!ハル団長ありがとうございました!」


 ライキルに撫でられ、キャミルに抱きつかれ、ガルナに頬をつつかれているなかビナは答えていた。


「そっか、それは良かった。ビナ、これからもよろしくね!」


「は、はい!ハル団長!」


 ビナの瞳に映っていた優しい青い瞳は、短い挨拶を終えるとその場から消えて、先ほど自分がうち滅ぼしたバカ(エウス)の方に行ってしまった。


 ビナはそんな行ってしまった彼の後姿を見て、表彰式で煌々と白い輝きを放っていた英雄の姿を思い出す。今はいつもの自分の頼れる団長のハルだったが、表彰式で見た彼は紛れもなく、英雄そのものだった。万人を救い、万人から愛される完璧な存在。穢れなき心。揺るぎなき正義。改めて彼への尊敬の念が強まり、ビナは彼への憧れから自分の目標にしようとしていた。

 表彰式で見た純白の騎士。ビナにとって大歓声の中のあの彼の姿こそ、自分にとっての理想の姿で一生かけてでも目指すべきものだと思ったのだった。


『私もいつか、ハル団長みたいに強く、みんなを守れる存在になりたい』


 新たな決意を胸にビナは前を向いてこれからの戦いの日々に身を投じていく覚悟だった。


 そして。


「みんな、ちょっと、くすぐったいですよ、アハハハハハハハハハ!」


 また、みんなとこうして笑っていられることに、幸せを感じるのだった。



 ***








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