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解放祭 深淵の魔法使い

 小さなエルフの身体から溢れだした闇を最後に、カイの記憶はそこで途切れた。



 ***



 真っ暗で深い底の見えない海の中に落ちる夢を見た。

 仰向けになって上を見上げると、遠ざかっていく海面に光が差し込んでいた。

 カイはその光に手を伸ばすが届かないと悟ると手を伸ばすのをやめた。

 静かに下へ下へと落ちていく、それが諦めた自分が受ける報いだった。


『死んだのか…俺は…』


 底に落ちていく中でカイが気がかりに思ったことはそれだった。


『もし、死んだんだったら、アーリには申し訳ないことをしてしまったな……』


 カイは真っ先に思い浮かぶ大切な人の名前を口にした。


『ひとりにしないって約束したのにな…』


 最後に王都にある自宅から見送ってくれた彼女の笑顔を思い出す。すると後悔と寂寥がカイを蝕み彼の心に痛みを走らせる。

 カイが現世にまだやり残したことがたくさんあったからなのだろうか?緩やかに海の底に落ちてゆくたびに彼のの心の痛みは次第にひどくなっていった。


『アリアの奴らを連れて来なくてよかった、俺でもこのありさまだ、あいつらが来ても無駄死にだった…』


 カイは自分の率いる騎士団のアリア騎士団のことを思った。腕が立つ気のいい奴らの集まり。カイはそんな自分の騎士団が好きだった。


『だが、それにしても、剣聖になってこうも簡単に幕引きとはな……』


 その時、カイの胸の辺りにいっそう強い痛みが走った。


『…ッ…なんだ…いや…これは……』


 覚えのある痛み、胸の奥に棘が刺さったような、小さいけれど自分の中にずっとある消えない痛み。

 その痛みはカイがある男に最初にあったときに感じた痛みだった。


『この痛みはあいつに最初に刻まれた痛みだ…』


 カイはその痛みが何か知っていた。


『そうだこの痛みがあったから俺は驕ることなく強くなれた…』


 胸に手を置きその痛みを握りつぶす勢いで拳を握りしめる。


『この痛みがあったから、俺は毎日本気で生きてこれたんだ』


 悔しい。カイの胸に強烈な痛みを刻んでいたものは悔しさだった。その痛みは決して彼を絶望させたりはせず、ただ、前へ前へと彼を引っ張ってきた。

 その痛みは時に嫉妬という感情にもなった。けれどそれ以上に彼の強さに憧れていた者のひとりが自分自身であったことを誰よりもカイは知っていた。


『あいつがこの場にいたら、きっとこんなところで諦めはしない…』


 光が差す海面を背にカイは闇が広がる海の底と向き合った。


『ハル、もし、お前がここにいたら、きっとこの奥に潜む化け物すら殺してしまうんだろうな』


 恐ろしくて目を背けた海の底。

 カイの落ちてゆく深淵には、得体のしれない大きな目玉の化け物が、ゆっくりと落ちてくる者を待ち構えていた。


『悔しいがお前はいつも俺の道しるべだった』


 カイは深淵に手をかざし、意識をその手に集中させる。身体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じ、カイはかざした手を一気に後ろに引くと、目玉の化け物に向けて、溜めた力を解き放った。


『ずっと、憧れていたんだ』


 闇が溢れる海中に巨大な衝撃が生じる。その衝撃は海中を進んで行き、深淵にいた目玉の化け物を簡単に粉砕した。そして、その衝撃が海の底に到達すると、深淵が裂け、大量の光が溢れ出した。

 カイはその光を見て微笑んだ。


 夢が崩壊した。



 ***



 気絶していたカイが目を覚ますと、真っ黒な水の中に倒れていた。すぐに上体を起こし周囲を確認した。


「なんだこれは…」


 そこには見渡す限り、漆黒の水が草原一面に敷かれており、まるで真っ黒な湖の水面の上に立っているかのような光景が広がっていた。

 その景色を見てカイが唖然としていると。


「うわあ、びっくりした!もう、起きたの!?早すぎだよ!」


 声上げたのはカイに近づいていたドロシーだった。


「おまえは!?クソ!」


 カイはドロシーの姿を視認すると、問答無用で炎魔法を放って焼き払った。彼は剣聖の称号を授かるだけあり、炎魔法の威力も普通の騎士たちとは当然比較にならない。そのため、巨大な灼熱の業火の球が一瞬でドロシーの目の前に出現した。


「おっと、危ない!」


 しかし、ドロシーはとても薄い膜の水魔法をドーム状に張って難なくその危機をやり過ごしていた。


『化け物め…』


 カイは、目の前の女が自分より遥かに格上の相手であることを認識して、そばにあった自分の大剣を握り立ち上がり駆け出すと、次に間髪入れずに天性魔法を叩きこんだ。

 カイから弾かれた力が、空間を伝って衝撃となる。


「君は優秀だね、もう僕の力を推し量ったのかな?それとも自暴自棄かい?まあ、どっちでもいいけど」


 全く動く動作を見せないドロシーの手前の空間から真っ黒な障壁が突然出現した。彼女の目の前に迫る不可視の衝撃はその障壁に衝突すると、まるで何事もなかったかのようにその真っ黒な闇の障壁に吸い込まれていった。

 当然、防がれることを想定していたカイは、フォルテの居場所を探るため周囲を見渡していた。すると、少し離れたところにフォルテが倒れているのを確認できた。


『あそこか!』


 カイはもう一度渾身の力でドロシーに向けて天性魔法を放ち時間を稼いだ。

 その隙にフォルテのもとに駆け寄ろうとするが、ドロシーがそれを許さなかった。


「もう、ちょっと君の力を見て見たくなった、相手してくれるよね」


 ドロシーが手首を軽く上に曲げると、カイとフォルテを隔てるように漆黒の壁がそびえ立ち二人を分かつ。

 カイはその壁に天性魔法を放ってみるも、先ほどの彼女の出した障壁と同じように、その壁と天性魔法が接触すると、カイの放った天性魔法が吸い込まれてしまった。


「これは闇魔法か…」


 カイが目の前にそびえ立つ闇の壁を見つめながら呟く。


「半分正解で半分はずれだね」


 声の方に振り向くと、ドロシーが無防備に近づいてきていた。


「これは僕の天性魔法なんだ。近しいもので例えると闇ってやつなんだろうね。光が全くないこの物体は僕の意思で自由に操れて形も変えられんだけど、まあ、天性魔法ってそういうものだよね。自分の身体の一部みたいに自由に使えて、不思議だよね。普通の魔法とは全然違う」


 ドロシーは漆黒の壁に触れながら自慢するように言った。


「なあ、あんたらって、ほんとに何者なんだ?何が目的なんだ?」


 カイは素直に疑問を口にした。大陸でもトップクラスの強さを誇る大国の剣聖を簡単にあしらう目の前のエルフの存在を知りたかった。


「その質問にはこう答えよう。個人が理解できる範囲には限界がある。君はただ今僕と必死に戦ってくれればそれでいい、今の僕の目的は君の力を見定めることに変わったんだからね」


 楽しそうに笑う彼女の顔には優しさは無かった。


「つまり、死にたくなきゃ、必死に抵抗しろってことか…」


「その線で間違ってないよ、頑張ってね、剣聖さん、僕の強さは破格だから」


 次の瞬間、カイの目の前に立ちふさがっていた闇の壁から強烈な衝撃が生み出された。


「!?」


 その衝撃はカイを一瞬で数十メートル先に吹き飛ばした。


「がああああああああああああああ」


 カイが激痛で絶叫しながら、ボールように何度も跳ね、全身に強烈な打撃を負っていくとようやく勢いが止まった。

 全身のあちらこちらの骨が折れていることが確認でき、立つこともできない激痛がカイを連続して襲い続けた。

 その中で、カイが今起こったことを必死に分析してだせた答えがあった。いや、それは分析するまでもなくカイ本人が一番よく知る魔法だった。


『今のは俺の天性魔法じゃねぇか…』


 その衝撃にぶつかった瞬間カイは自分の天性魔法だと感じ取っていた。天性魔法の特性である自分の身体の一部という奇妙な感覚がある。その感覚が衝撃をぶつけられた瞬間カイには理解するまでもなく感じ取った。例えるならば自分の拳で自分の顔面を殴られたそんな感覚だった。


『だ、ダメージが大きすぎる…立てねえ…』


 カイの腕や足に力は入らず、芋虫のように地面に倒れ伏せるしか、今とれる選択肢はなかった。


「あれ、君もしかして白持ちじゃないの?」


 虫の息のカイを見下ろすドロシーはつまらなそうな顔をしていた。


「そっか、そうだったんだ。じゃあ、もうちょっと慎重にやればよかった…ごめん、ごめん」


 ため息をつくとドロシーは退屈そうにあることを口にした。


「これじゃあ、もしかして、ハル・シアード・レイも対したことないのかな?」


 その時、カイの中で何かがぶちりと切れた。

 カイはハルのことが嫌いだった。

 突然、レイド王国に現れては、カイが手に入れるはずだったものを目の前でかっさらっていったからだ。

 神獣のレイド襲撃での功績。ずっと空白だったレイドの剣聖の地位。レイドの英雄の名。何もかもハル・シアード・レイはカイの目の前で手にしていった。


『俺はあいつが嫌いだ…ただな…』


 ただひとつだけ間違っていることがあるとするならば、カイはハルのことを尊敬していることだった。

 カイは誰よりもレイドという国を愛する愛国者だった。国と王家に忠誠を誓う忠義の騎士。

 カイにとってハルは、ライバルである以前に自分の愛する国を窮地から何度も救ってくれた恩人であった。

 誰もが諦める道を、誰もが避ける道を、ハルは平然と通って先に進む。

 そんなハル・シアード・レイは、レイドの光輝く希望。

 嫌いだけれど尊敬しているカイの永遠の目指すべき光。


「お前は知らないだろうが…あいつを本気で軽んじるなら、お前は俺よりもはるかに無知な赤子同然よ」


「…なに?なんて言った?」


 カイの聞き捨てならない言葉にドロシーの眉間に少しだけしわが寄った。

 カイは後の自分のことなど気にせず続ける。なぜなら、命乞いをしようとなど思ってもいないからだ。


「お前は、ハル・シアード・レイという男をまじかで見たことがないんだな…」


 全身から送られてくる激痛に耐えながらカイは自らの脚で立ち上がろうとした。すでに立てるような状態のケガではなかったが、彼は限界を超え、強靭な意志だけを頼りに自ら奮い立たせる。


「あいつはな、俺たち騎士の到達点、この大陸の救い主、そして希望の光だ。ハルがいる限りどんな闇も払われ悪も滅する」


 そして、カイは気力だけで痛みに耐え、その場に立ち上がった。


「覚えておけ闇なんて程度の低い存在、人々の未来を背負う光の前では何の意味もなさない!」


 肩で息をしながら、目前で君臨する闇にカイは悪態をつく。


「所詮、闇は光に照らされるものだ。お前らがいくら暗躍しようが光の中を歩いてる奴らに追いつくことは一生ない…」


 満身創痍でそれでも最後までカイはまっすぐ目の前の闇を見据えた。


「…君の言いたいことはそれだけ?」


「…ああ、そうだよ…」


「ふーん、そうか、なるほど、分かった、分かった。生かしてあげようと思ったんだけど計画は変更だ。君は弱すぎるうえによく吠える、僕は君が嫌いになったよ、残念…」


 すると辺り一面に広がっていた闇がドロシーの掲げた手のひらの上に吸い寄せられていった。辺り一面、漆黒の湖だった草原に青々しい色が戻っていく、が、それと反対にドロシーのもとに黒く邪悪な闇が集約していった。


「君には僕のとっておきを見せてあげよう、これは久しぶりなんだ、とくと味わってくれ」


 そう、ドロシーが嬉しそうに笑うと、その顔めがけて、炎魔法が飛んできた。巨大な炎の球体がドロシーに接近うする。しかし、彼女のもとに集まっている最中の真っ黒な流水が生き物のように意思を持って彼女の前に闇の壁を創ると簡単にその炎は相殺されてしまった。


「おっと?誰かと思えば君もお目覚め、そうか、なら一緒でいいかな!?」


 ドロシーの頭上にはすでに数十メートルの巨大な闇の球体が浮かんでいた。


 ***


「すまない、カイ剣聖ずっと気を失ってた…って、カイ剣聖、腕が変な方向に曲がってるぞ、大丈夫なのか!?」


「フォルテ剣聖それより、あれを見てくれ、俺たちが相手にしてたのは神獣よりやばい奴だったんだ、だから、あんただけでも逃げてくれ…」


「おいおい、ちょっと待ってくれ、俺もあんたを死なせたら、ハルに合わせる顔がねえよ、ここは一緒に撤退しよう」


「残念だが、ご覧の通り俺の脚はいかれてしまった…天性魔法を出す力も残ってない…」


「カイ剣聖…」


 フォルテがカイの姿をよく見ると、足首や膝の関節がおかしな方向に曲がっていた。立っていること自体が奇跡的な状況だった。

 それを見たフォルテはすぐにカイに肩を貸した。


「あんた足が…」


「…そう、だから、行ってくれ、俺がへましただけなんだ…それより、ハルを呼んできてくれ…あのエルフはあいつじゃなきゃ無理だ…格が違う…」


「………」


 フォルテは決断を迫られていた。目を覚ますとすでにレイドの剣聖であるカイが瀕死の状況で、目の前では圧倒的な力を蓄えているエルフがおり、その力である闇をぶつけられれば、こっちはひとたまりもなく肉ひとつ残らないといったまがまがしい魔力が闇の球体に集約していた。

 最善の策は、フォルテだけ逃げて助けを呼ぶことだった。

 カイを見捨てて。

 しかし。

 フォルテは一向に動こうとせず、依然としてカイを支え続けた。


「カイ剣聖、ひとこと言わせてもらうが、もう、俺も逃げきれないだろ、あの闇からは」


 今も膨れ上がり続ける闇の球体はとどまることを知らなかった。辺りに広がっていた闇を全て吸収してもなお留まることを知らないその勢いは、すでに限界を超えて膨張していた。


「…だが……」


「任せろ、策はある。この場で俺の天性魔法は役に立たないが…俺はガキのころからずっと魔法を鍛えてきたんだ」


 フォルテはそう言うと、ゆっくりとカイから離れて一歩前に進み出た。


「【守護】の特殊魔法だ。これであの闇をしのぎ切る」


 特殊魔法。一般魔法または属性魔法と呼ばれる魔法以外に分類される魔法。天性魔法と同じく種類は無数にあるが、天性魔法のように応用はなくひとつの魔法でひとつの効果を発揮してくれる魔法。しかし、適性さえあれば誰もが習得できる可能性を秘めているところは天性魔法とは異なるところだった。例として飛行魔法の光のリングなどがあった。


「待ってくれ、これは俺が招いたことだ…」


「カイ剣聖今更何言ってんだ。ドミナスの相手は二人でって約束だったでしょ」


「そうだが、相手は俺らより遥かに格上なんだ…あの闇の塊を一回防いだところできっと何発も次が来るんだぞ、それだったら、フォルテ剣聖だけでも後退して…」


「細かいことはあれを一回でも防いでから考えようぜ、カイ剣聖」


「しかし…」


「来るぞ!」



 ドロシーの頭上にあった巨大な闇の球体。彼女が二人に向けて手をかざすとその手から大量の闇が放出された。

 一瞬でカイとフォルテの視界すべてが闇に染まる。

 それと同時にフォルテが展開した守護の特殊魔法によって、大きな光の盾が展開された。

 膨大な闇と光の盾が衝突する。


 ミシミシ


 凄まじい勢いの闇の圧が、フォルテの展開する光の盾を襲い、その盾に亀裂を生む。


「フフッ…」


 フォルテが小さく笑うと、彼は大量のマナを高速で身体中に流し、その闇の圧に耐えられるように光の盾の強度を増強した。

 しかし、そんなことをしたフォルテの身体は重い負荷に耐えられず、全身の血管が切れ、一気に大量の出血をした。


「フォルテ…剣聖…あんた…」


 何もできないカイはただ彼を見守ることしかできなかった。


「大丈夫だ、これぐらい何ともない、あんたの方がまだひどい傷だ…」


 フォルテは血を流しながら言葉を続ける、それは感謝の言葉だった。


「それにな、あんたが最初にそんなぼろぼろになってまで時間を稼いでくれなかったら、俺はきっと目を開ける間もなく殺されてたさ」


 フォルテは両手で光の盾を支えて、強烈な勢いの闇を防ぎ続ける。だが、それも時間の問題であり、フォルテの出血は増していく一方だった。それはドロシーの闇の球体から放出される奔流の威力が強まり続けている証拠だった。


「待て、このままだと、フォルテ剣聖、あんた死ぬぞ!」


「ハハッ、この光の盾がなくなっても結果は同じだぜ!」


 支えていた光の盾が闇に押され始め、再び光の盾にひびが入った。フォルテの身体にも限界が迫っていた。


『クソ、このままじゃ、ほんとに、二人とも死んじまう…何としてでもこの闇だけは防ぎきって逃げる隙を…』


 しかし、フォルテは悟、そんな余裕などどこにもないことを。


『無理か、俺の命を使い切っても、この魔法は防ぎきれねえな…』


 その時、フォルテの隣に誰かが立っていた。


「!?」


 視線を少しずらすとそこには見覚えのある白髪のエルフが立っていた。



 そのエルフは無言で手をかざすと、魔法を放った。

 

 その魔法が、目の前の光の盾と闇を一気に吹き飛ばした。



 ***



 ドロシーが手をかざして、相手に球体に詰まった凝縮された闇をぶつけるだけの楽だが強力な魔法を放っていると異変感じとった。


「なんだ…僕の魔法が…うわ!?」


 次の瞬間にはドロシーの身体が衝撃に包まれ、後方に吹き飛ばされていた。


『な、なに、何が起きた!?』


「ドロシー様!?」


 ドロシーの後にはギルを抱えて戦闘を見守っていたアモネがいた。


「ああ、大丈夫だよ、それより、もうちょっと離れてて」


 ドロシーが支持を飛ばすと、アモネは短い返事のあとギルを抱きかかえてさらに後ろに下がっていった。


『ありえない、今のは確かにレイドの剣聖の天性魔法だった。でも彼はもう魔法を使うどころか立っているのだってやっとだったはず…』


 今起こった不可解なことにドロシーが困惑していると、土埃の中に三人の影があった。


「ん!?新手…」


 ドロシーが土埃が過ぎるのを待って、前方を注視する。


「…誰だ?」


 そして、土埃が去って、その三つの影の姿があらわになる。

 二つの影の正体は変わらずカイとフォルテだったが、最後に現れた者を見て、ドロシーは顔をしかめた。


「エルフ?」


 そこには真っ白な長い髪のエルフがひとり立っておりこちらを睨んでいた。


 そのエルフがドロシーに語り掛けてきた。


「ドロシー、こんなところでお前と出会えるなんて…」


 相手はドロシーと名前を呼んだ。


『僕を知っている?誰だ?』


 そのエルフの薄緑の瞳には静かな怒りが浮かびあがっていた。


「かたき討たせてもらうぞ…」


 そこに立っていたのはルフシロン・アイオラートというひとりのエルフだった。


 彼の止まっていた時間が動きだす。



























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