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解放祭 罪悪

 カイの握っていた大剣が意にそぐわない方向に向く、それはフォルテがいる方向だった。


『待て、どうなってる、身体が勝手に…いや、違う勝手ではない?』


 身体は自由に動かすことができたが、気づいたらフォルテに向かって持っていた大剣の先を向けていた。


『…だが、何らかの魔法を掛けられてのは確かだな…』


 そう、カイが思考した瞬間、いつの間にかフォルテに斬りかかろうと走り出している自分がいたことに気づいた。


「なに!?」


 すぐさまその自分の行動を止めるために、カイは大剣を地面に突き刺した。


『どうなってる…?』


 そう思った時には、カイはもう一度すぐに地面から大剣を抜いて、走り出そうとしていた。


『気を抜くと俺はフォルテ剣聖に斬りかかろうとしている?』


 カイがそう思っていると、再びカイの意識しないうちに身体がフォルテに斬りかかろうとしていた。

 そして、このままではまずいと思い、カイがフォルテに声をかけようとした時だった。


「…………」


『!?』


 カイの世界から音がなくなっていた。フォルテの方を見ると、彼が自分の腕を全力で抑えている姿があった。


『フォルテ剣聖、俺に天性魔法を使ったのか、やはり、これはまずいことになった…ハッ!!』


 カイが意識をそらすと、いつの間にかフォルテのフランベルジュとカイの大剣は、お互いの剣を交えていた。


「カイ剣聖こいつはまずい、自分から意識をそらすと、あんたを殺そうとしちまう!」


 フォルテが天性魔法を解いたのかカイには彼の声が聞こえていた。


「俺も全く同じです、気づいたらあなたを殺そうと動いてる」


「この状況どうする、カイ剣聖!」


「お互い、いったん離れよう、距離をとって収まるまで様子を見よう」


 その時だった、二人に向かって炎の塊が飛んできたのは…それは、アモネによる炎魔法だった。


「まずっ!!」


 カイがそのとき警戒したのは迫ってきている炎の塊などではなかった。それは隣にいたフォルテも同じことを警戒していた。

 二人が恐れたことは、意識がそれたことによるカイとフォルテ、お互いの攻撃だった。剣聖クラスの剣技、魔法が相手から飛んでくることに警戒していた。

 そして、二人が予想した通り、カイとフォルテは自分から意識が逸れると飛んでくる炎を互いの水魔法で簡単に消すと、二人は無意識の中で殺し合いを始めた。


 カイが天性魔法の【撥】を行使して、不可視で純粋な物理的打撃を放った。その不可視の衝撃は確実にフォルテの全身を粉々に破壊する威力があった。

 その不可視の衝撃をフォルテは、自らの天性魔法で創り出した音の波で、事前に方向と規模を知り回避する。彼が作り出した音の波は周囲の状況を把握することに長けていた。音の波が届く範囲の状況を狩れは細かく感知することができた。

 そのため、突然、現れた不可視の衝撃にもフォルテには手に取る様に分かりあっさりと回避される。

 そして、次に仕掛けたのはフォルテの方だった。

 フォルテがカイに向けて手をかざす、今、フォルテが周囲の状況を把握するために使っている波を一点に集中させ、それをカイにめがけて解き放った。

 当然、カイにはその波は見えないため、もろにその波をくらってしまった。


「グッ!!」


 その時、カイの視界はグラグラと揺れはじめ、自分がどこに立っているのか、どうやって立っているのか分からなくなっていた。さらに、強烈な眩暈と吐き気にも襲われ、カイはその場に立っていられなくなり、倒れ込んでしまった。

 そこに容赦なく、フォルテは突っ込んで行き、手に持っていたフランベルジュでカイの肉を削ぎ斬ろうと襲いかかる。


「ううっ…」


 カイは天性魔法の【弓】という自分自身や自分が触れた人や物を弾いて吹き飛ばす力を使い、自分を弾いてフォルテの攻撃を回避しようとした。

 しかし、あまりの気分の悪さに天性魔法の発動はおろか、ろくに戦闘に集中することができなくなっていた。

 すると、カイは自分のことを認識することができ、意識の主導権が自身に戻ってきた。


「戻った…!?」


 カイの意識が最悪のタイミングで正常に戻る。なぜなら今まさにフォルテが剣を振り下ろしていたからだった。


「フォル…!!!」


 何をしても、もう防ぎようのない攻撃にカイは目を閉じて彼の名前を叫ぶことしかできなかった。


「…………」


 数秒経ってカイが目を開けると、フォルテの剣がカイの首の寸前のところで止まっていた。

 見上げると、フォルテが全身から嫌な汗を流し、息を切らせながら、剣を振るおうとした腕を必死に押さえている姿があった。


「ハァ…ハァ…」


 フォルテは息を上げながら全身の力を抜くと、カイの隣にしゃがみ込んだ。


「すまない、殺すところだった…」


「いや、それは俺も一緒だ…」


 二人はしばらくその場で黙って息を整えた。カイは先ほど受けたフォルテの天性魔法の影響を落ち着かせるために、そして、フォルテは肉体的な疲労ではなかったが、仲間を殺してしまうかもしれないという精神的な疲労が、彼を無気力にしていた。

 しかし、二人には今起こっている状況を正しく把握するために情報交換をしなければならなかった。


「…フォルテ剣聖、どうやって戻ってこれた?」


 寸前で剣を止めたフォルテにカイは尋ねる。


「分からないが、俺はとにかく意識がもどったら自分の動きを止めようとは事前に考えていた、それだけだ…」


「そうか、なるほど、確かに今はそれぐらいしか取れそう対策が無いな…」


「待て、カイ剣聖、喋るより早くお互い離れないとまた意識が飛んでいつ殺し合いを始めるか分からないぞ…」


「そうだった!?」


 そう思ってカイとフォルテがとっさにその場を離れようとした時に二人の目にあるものが映った。

 それはギルがアモネに支えられてぐったりとうなだれている姿だった。


「カイ剣聖、あれ…」


「ああ、どうやら体力が尽きて気絶してるようだな…」


「もしかして、俺たちにかかってた魔法も解けたんじゃないか?」


「そう考えるのが妥当だな、だが、念のためお互い距離を取っておこう、その方が安全だ」


「分かった」


 自分が仲間を殺そうとする悪夢から解放されたカイとフォルテは、その魔法を掛けた張本人を捉えるため、彼らに歩みを進めた。




 ***




 アモネは力尽きて気絶したギルの身体を支えていた。

 ギルはルナとの戦闘で消耗して限界だった身体をさらに天性魔法を使用したことで酷使したため、体力の限界を迎えていた。


「ギルさん…」


 心配するアモネだったが、二人にとって事態は全く何も好転していなかった。ギルが天性魔法を使用している途中、アモネは何度も瞬間移動の魔法を使おうとしていた。しかし、このお祭りの広域に突然張られた二つの結界の内の一つに瞬間移動の魔法の行使が邪魔されていた。


『誰が張ったか分からない二つの結界…人払いの方はすごい助かりましたが、先ほど張られた二つ目の結界こちらは最悪、私たちの瞬間移動だけを阻害する特殊な結界…それを数十キロ先まで規模が大きい上に一瞬で展開…複数人による大規模魔法か、でも一体誰が?』


 アモネが考えを巡らせていると、ギルが倒れたことで起こる当然の結末が待っていた。


「ハッ!」


 アモネの視線の先には、ギルの天性魔法が解けた二人の剣聖がこちらに向かって歩いてきていた。


「…クソッ」


 アモネは珍しく戦闘前に冷静さを欠いて感情をあらわにさせた。なぜなら、二人の剣聖の相手などアモネにはできるわけがなく、しかし、どうしても、ギルという人間を守り抜きたいと思う気持ちが強かったためだ。

 それは、数刻前あったドミナスの三大貴族であるドロシーという女性。彼女の友人であるギルを奪われるわけにはいかなかったからだ。

 組織への忠誠が絶対なアモネにとって、彼女のような最高峰の幹部は神様と同じような存在だった。そんな存在と友人であるギルも大事な人物に格上げされるのは当然のことだった。

「私がやらなくては、ドロシー様のためにそして組織にために…」

 アモネは決意を固めるとギルの掴んでいた自分の黒剣を返してもらった。そして、彼を地面に寝かせたあと、迫る剣聖二人に向き合って対峙した。


「せめて一人は持って行かなければ…」


 アモネは相打ち覚悟で必ず一人は仕留めようと考える。そうすれば、もしギルが目覚めたときの逃走が楽になるからと思ってのことだった。アモネは自分のことなど一切考えてはいない、この身はただ、組織のためにそう誓っていた。

 二人の剣聖がアモネを挟み込むようにして迫って来る。


『挟撃ですか…だったらレイドの剣聖から狙いますか…先ほど、アスラの剣聖に殺されそうになっていましたし、可能性があるとしたらこちらでしょう…』


 そう思い立ったアモネは黒剣片手にカイに向かって走り出した。

 しかし、改めて対峙して分かったことは、彼の圧倒的な威圧感だった。アモネは走り出した一歩目で後悔して、自分では勝てないと理解してしまった。相打ちどころか、傷一つ負わせられないそう自分の中で確信してしまった。


『それがどうした!?』


 それでも、アモネの身体に恐怖は無い、それは組織のためと決意したならどんなことでも遂行するまで諦めない鋼の意思が彼女には備わっていた。それは、ドミナスという組織の兵士として誰もが当たり前に持っているものだった。

 レイドの剣聖カイ・オルフェリア・レイに向けて剣を振るう、自らの全力の剣を相手に叩きこんだ。


 バキィ!


 しかし、気づいたときには、重い拳を腹に一発もらって、吹き飛ばされていた。地面に何度も叩きつけられながら、吹き飛ばされたアモネは、再びギルの倒れている場所に戻される。


「おえ…ううっ…」


 あまりの力に胴体に風穴があいたと錯覚してしまうほどの力で、痛みで立ち上がれなくなるほどだった。


「抵抗するならお前は殺してもいいんだぞ」


 ギルとアモネのもとに来たカイがこれ以上抵抗しないように脅してきた。


「…死など怖くない…」


 倒れているギルを庇うように彼女はへたり込んでいた。それは、どうしても、彼だけは守りたいという強い意思表示だった。


「そうか、だが、これ以上抵抗するとそっちの男にも危害が及ぶぞ」


 カイは倒れているギルに視線を向けた。そのことでアモネは酷く顔を歪ませ悪態をついた。


「剣聖とはそんな卑怯者だったんですね…」


「何とでも言え、俺は卑怯でもなんでも国と国民の安全が守れればそれでいい、そのためなら、あいつと同じで剣聖の地位から降りることになったっていいんだ」


 悠然と構えるカイに、アモネの言葉は全く効いていなかった。それほど、カイという人間の主義行動は徹底されていた。


「ならなぜ、私たちを狙うのですか?」


 アモネはふいに彼に疑問をぶつけた。


「それはどういう意味だ?」


「私たちはイルシーの暗殺者を始末しました。治安を守りむしろあなたたちに協力したのですよ?」


 そんなことかとカイは呟くと彼は答えた。


「分かってないようだから言っておくが、国が追い始めたのはお前たちじゃない、復活し始めてるお前らの組織そのものなんだ、俺も詳しくは知らないが、過去からの因縁ってやつだそうだ」


「過去から…」


 アモネはドミナスの歩んできた歴史を組織である程度知識として学んでいた。

 ドミナスは過去に、この大陸の多くの国や組織と裏でのつながり、実質的には表社会も裏から支配していた長い歴史があった。

 ドミナスはそのような強力な力を保持していたため、多くの戦争や事件を故意に引き起こすことができた。その最たる例として、五百年戦争という長期的な争いなどがあった。

 そのため、ドミナスが恨みを持たれる可能性は十分にあったが、普通に暮らし生きている時点で人々がドミナスという組織に行き着くことは決してなかった。

 しかし、その長い歴史の中で、確かにドミナスは一度壊滅しており、現在、復活最中だったのだが、そのことをなぜ大国の剣聖が知っているのか、疑問が残るアモネだった。

 ドミナスの存在は裏社会でもごく一部の人間しか知らない組織であり、それがこうして大国の表社会の顔である剣聖たちにまで知られているということは考えられないことだった。


『もしかして、彼らには協力者がいる…?』


 アモネが最後に考えられるとしたらそれしかなかった。

 ドミナスには敵対した組織が過去に二つあったと、アモネは組織の歴史から学んでいた。


『もし、そうなら可能性として高いのはリベルスだ…だってもう一つの組織は完全に無くなってるから、あの事件で…』


 必死に相手の言葉から情報を引き出して組織ために頭を働かせるアモネだったが、考えてる時間はもう無かった。


「おしゃべりはもう終わりだ、一緒に来てもらう、抵抗するなよ?」


「…………」


 カイが念を押してアモネにそう言った。彼女は反抗しようか迷っていたが、剣聖相手に武力では何をやっても自分に勝ち目がないことが分かり、他の方法でギルを救うことを考え始めていた。


「フォルテ剣聖はその男を頼めるか?」


 カイがそう言うと任せろと言ってフォルテがギルの身体を担ぎ上げた。


「待ってください、あなた達は私たちの組織の情報が知りたいのですよね?」


「ああ、まあ、そうだが」


「だったら、彼は何も知りませんよ、彼はドミナスに雇われているだけですから」


「そうか、じゃあ、あんたは知ってるわけだ?」


「ええ、ですから交換条件です。組織の情報は渡しますその代わり彼を解放までとは言いません、客人として扱って命の保証をしてくれませんか?」


 その提案をカイはきっぱりと却下した。


「ダメだな」


「どうしてですか?私は彼の上官なんです、部下を救いたい気持ち、上に立つあなたには分からないのですか?」


「部下を思う気持ちは分かる、だが、実際にあんたが彼の上官なのかもこちらは知りようがない、それに彼の能力は危険すぎる野放しにはできない」


『くそ、どうすれば、このままでは、言っても言わなくても彼を救い出すことができない…』


 アモネが必死にギルを救う方法を模索していると、カイが言葉を続けた。


「だが、今ここにお前たちの他に潜伏している仲間の居場所を言うならお前だけは解放の対象にしてもいいと思っている」


 アモネには彼が何を言っているのか全く分からなかった。


「他の仲間?」


「おいおい、いるんだろ、大勢?」


 フォルテが口を挟んだ。


「大勢?」


 するとアモネはますます混乱したが、彼らがこちらの情勢のすべてを知らないのは当然なのかもしれないと納得した。


『そうでした、他にも仲間がいると考えるのは当然のことでした。…でも…』


 そこで彼女は彼らに自分の疑問をぶつけた。


「なんで大勢いるって思ったんですか?」


 その疑問にカイとフォルテは呆れた顔を見せて、フォルテが代表してその疑問に答えた。


「なんでって、お前たちが張ったんだろ、あの結界」


「はい?」


「いや、だから、お前たちが大勢の魔導士を集って張ったんだろ、あの人払いの結界」


 その時、アモネも驚いた。てっきり、今までレイドとアスラ両国のどちらかの仕業だと考えていたからだった。


「…違います、あれを張ったのは私たちでもありません」


 その返答を聞いたカイとフォルテは今度は驚いて互いに顔を見合わせてしまった。


「…じゃあ、一体誰があんな大きな結界を張ったんだ?」


 カイが険しい顔をして言った。


「………」


 アモネ、カイ、フォルテの間で沈黙が流れた。



 その直後だった。



「あれを張ったのは僕だよ」


 突然、アモネ、カイ、フォルテの背後から声がして、三人とも一斉に声の方に振り返った。




 *** *** ***








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