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解放祭 最後まで生きる

 走った、息を切らして、死に物狂いで、走った。

 走る理由は、逃げるため…。


 でも、何から?


「ハァ、ハァ、ハァ!」


 ただ、あてもなく全力で走るから、とっても疲れて息が上がる。

 でも、足を動かすのは絶対やめない。

 草原の中を走って行く、まだ、祭りの街が見えるけど、そんなの関係なかった。

 きっと、逃げる場所、身をひそめる場所は、街に引き返せばいくらでもあるんだろう。

 けれど、走り始めてから、ずっと、方向は変えないで、真っ直ぐここまで走ってきた。

 なぜなら、そんなことを考えるより、走っていることの方が大事だから…。


「ヒィ、ヒィ…あああああああああああああああああああああ!!!!」


 違う、本当は何も考えたくないだけ、考えたら、きっと、足が止まっちゃうから…考えないだけ…。

 何かを考えそうになったとき、叫ぶの、そうすると、考えなくてすむ…。


「ハァ、ハァ、ハァ!」


 どこまでも、走る。逃げるために…。


 でもさ…何から…?


「あああああああああああああああああ!!…ああああ……ああ………あ………」


 このまま、どこまでも走って逃げて、その先に何があるの?


「ああ……ああ…あ………」


 本当は立ち止まって、戻った方がよかったんじゃないの?

 そうすれば、あなたは最後のときまで、彼らと一緒にいれたんじゃないの?


「………………ああ………」


 この先には、何もないよ?


「…………」


 少しづつ、歩幅の間隔が緩まって、やがて、ぴたりとその場で止まった。


「………」


 身体が、空気を求め、必死に息をしようとする、なんで?


 もういいのに…。


「もういいのに…生きててもしかたないのに……」


 膝から崩れ落ちて、うなだれる。そして、大粒の涙が、勝手に流れ始めて、視界がゆがむ。


「二人のいない世界なんて嫌だよぉ…もう…わたし…ひとりは嫌だよぉ!!」


 大声で泣き叫ぶ、そうすれば、優しい二人が助けに来てくれる。そう思った。


「会いたいよぉ!!クレマンとティセアに、会いたいよぉ!!!」


 周りには誰もいない、ただ、穏やかな風だけが、身体に吹きつける。

 そして、その風は、ひとりの、女性を連れてくる。

 その女性は、赤黒い髪で、幽霊みたいに無表情な顔つきで、手には黒い剣が握られていた。


「ああ、あ…逃げなきゃ…」

『どうして?』

「早く、逃げなきゃ…」

『なんで?』


 心の声を無視して、腰を抜かしながら、逃げるようにその幽霊から後ずさる。


「く、来るなぁ!!!」

『もう、いいんじゃない?』

「うるさい!!!」

『二人はこれから先ずっといないんだよ?』

「…嫌だぁ…………」

『あの人に連れて行ってもらおうよ?』

「………」

『あの人なら、二人のもとまで連れて行ってくれるよ?』


 幽霊は、ただ、静かに近づいてくる、黒剣を揺らして、近づていくる。


「クレマンとティセアのところに連れてってくれるの?」


「…………」


 幽霊は何も言わずに、足を速めた。


「私、会いたいんだ、二人に、もう一度…だから、連れていってくれる?」


「…………」


 幽霊は、無言で黒剣を構えるとこちらに駆け出してきた。


「私……」




 *** *** ***




 部屋にノックの音が響く。


『ジュキ?もう、お祭りに行くけど、準備できた?』


『………』


『ジュキ?ごめん、入るよ?』


 部屋の扉が開かれ、クレマンが入ってきた。


『…ジュキ?』


 私は窓から外の景色を見ていた。どこにでもある街並みが広がる景色を…。

 すると、隣にクレマンも、来て一緒にその外の景色を眺め始めた。


『………』


『………』


 二人でしばらく黙って、その外の景色を眺めていた。


『私、生きてていいんでしょうか…?』


 私はこの人の前だと子供でいれた。


『ジュキは生きてていいよ』


 彼は優しい笑顔で即答してくれる。


『私のせいで、クレマンや他のイルシーの人達にも迷惑をかけてしまってます…』


 本当にそう思った。


『そっか、でも、俺はジュキがいなきゃ、寂しいな…』


 彼は微笑ながらこっちを覗き込んで、そんなことを言ってくれる。


『そ、そんな、私たち、少ししか一緒にいないのに何でそんなことを言うんですか…?』


『うーん、それは、ジュキと一緒にいた時間が楽しくて、嬉しくて、幸せだったからじゃないかな?』


 照れくさそうに笑う彼は続ける。


『ジュキは俺とイルシーのみんなと一緒にいてどうだった?』


 私は、その質問にすぐに答える。


『ええ、みんなめちゃくちゃで最低でしたけど…』


 心の底から思ったことを言う。


『私、みんなといたとき、とても楽しかったです』


『そうか、ジュキがそう言ってくれてよかった』


 お互いに笑顔を向け合った後、クレマンは言った。


『ジュキ、生きてれば、何回でもこういう楽しい時間はやって来るんだ。辛い日を乗り越えて、生きるのを諦めなければ、必ず、君はまた自分の人生を楽しいって思える日に巡り合えるよ。その時も、きっと心の底から笑えてるよ、だからさ、一緒に生きてみよう最後まで!』


『…は、はい!私、最後まで生きます、クレマンと一緒に!』


『うん、これからもよろしくね、ジュキ』


 部屋の扉が乱暴に開かれて、がさつで荒々しい女性が入ってきて二人に声をかける。


『おい、クレマン、ジュキ、何やってんだ?もう行くぞ!』


『あ、ごめん、ティセア!行こう、ジュキ』


『はい!』


 遥か昔のように感じる記憶が遠ざかっていく。




 *** *** ***




「私、生きたい!!!」


 ジュキは声の限り叫ぶ、その時、彼女の全身に力がみなぎるのを感じ立ち上がった。

 しかし、それでも、ジュキの死は決まっているようなものだった。

 格上相手に、今から逃げても必ず追い付かれて殺される。だからといって戦闘をしようと試みても、ジュキの敵う相手などではないことは、彼女が一番よく分かったていた。

 それでも、ジュキは最後まであきらめない。

 愛する人たちがいたのだ。

 約束を思い出したのだ。


『最後まで生きる。私は、誰になんと言われようと私の人生を最後まで生きる。もう、クレマンもティセアもいないけど…!!』


 そこで、もう一度、涙が零れたが、ジュキは構わず叫んだ。自分ではこの状況をどうすることもできないから、大きな声で叫んで、助けを呼んだ。


「助けてえええぇぇぇ!!!」


 駆け出していたアモネが、目の前の少女の首を斬り飛ばそうとした時だった。


 空から降ってくる。


 赤い衝撃が、一筋の線になって、振りかざされた黒剣と少女の間に割って入る。


 その時、少女の命は救われる。


 ルナ・ホーテン・イグニカによって、救われる。










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