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解放祭 異変と爆炎

 目を開けると、隠れ家としていた三等エリアの自分たちの宿のリビングに、クレマンとジュキは立っていた。


「戻ったか…ジュキ、大丈夫か!」


 クレマンの隣にいたジュキが肩で息をしていた。額からは汗が流れ落ち、全力疾走をした後のような疲れ具合がうかがえた。


「大丈夫です。ですが、すみません、少し休憩をもらわないと次、飛ぶのはキツそうです…」


 魔法の行使は身体の体力を奪う、これは身体にマナを流す際に負荷がかかるためである。

 強力な魔法の行使は大量のマナを消費するため、身体に流さなければならないマナの量も自然と増えてしまう、そのため、ジュキの息が上がっていたのだ。


「ああ、ゆっくり休んでくれ…」


 疲れているジュキの身体を支えてあげて、椅子に座らせてあげようとしたときだった。


「休みは無しですよ?」


「!?」


 驚いて声のする方を見ると、いつも食事をしていたテーブルの椅子に、一人の獣人の男が座っていた。

 金色の毛並みが薄暗い部屋の中でも鮮明に薄気味悪く輝いていた。


「あんたも、ドミナスの人間か?」


「答える必要はないね、なぜなら、お前にはここで死んでもらうからね」


 金色の獣人が静かに椅子を引いて立ち上がると、有無を言わさずこちらに向かって歩いてきた。

 迫りくる脅威の中、クレマンは今度は冷静に思考を巡らせる。


『落ち着け、まずはジュキが回復することを優先に考えろ、それまで相手を足止めできれば…』


 クレマンが近づいてくる金色の獣人の全体を見渡して、一瞬で判断する。


『獲物は腰にあるナイフだけか、ということは剣士ではなく、魔法…いや、相手は獣人族じゃないか、どう見てもフィジカルで攻めてくるタイプだ…となると、逃げ場のない狭い場所は危険だ…だったら…』


 覚悟を決めて、クレマンは自分の思いついた作戦を行動に移すことにした。


「なあ、待ってくれ、ギルってお前の仲間だろ?」


 まずは、時間を稼ごうとさっき会った男の名を口にした。

 しかし、彼はクレマンの陽動に全く反応せず、ただ、こちらを殺しに来るために近づいてくる。


『無反応か…まあ、いい』


「ジュキ、俺から離れないでね…」


 小声でささやき、彼女をそばに寄せた。

 両手を広げ、片方は金色の獣人に、もう片方は反対側の窓に、手の平を開いて向けた。その動作はジュキをそばに寄せてからスムーズに行われ、次の瞬間には…。




 *** *** ***




 三等エリアのおよそ中央に位置する宿に、リオは今日も四階の部屋で日課の監視を続けていた。

 この宿はイルシーの暗殺者たちを監視するために貸し切られている特別な宿であり、ここに寝泊まりしている者はみな、特殊部隊グレイシアの隊員だった。彼らは今回、イルシーの暗殺者を餌にドミナスの人間をつり出す作戦を遂行している真っ最中だった。


「リオさん、大変です、大変です!」


 リオが窓の隙間からボーっとイルシーの暗殺者の宿を眺めていると、部屋に、リオと同じグレイシアの隊員が慌てて入ってきた。


「なんだよ、急に…?」


「外にいた隊員からの報告なんですが、街の様子がおかしいんです」


「おかしい?一体何がおかしいんだ?」


 そう言うと隊員がリオのそばに駆け寄って来て窓の外を覗いた。


「リオさん気づきませんか?」


 リオも隊員と一緒に再び外を眺めてみるがさっきと何も変わらず、ただ、宿である建物が静かに佇んでいるだけだった。


「何も変わらないが、何がおかしいって言うんだ?」


「まだ、気づかないんですか?」


 必死な隊員とは裏腹にリオは首をかしげる一方だったが、隊員が次に放った言葉で気づくことができた。


「人がいないんです…」


「!?」


 言われてみれば、確かにこの朝をとっくに過ぎた時間帯に人がいないのはおかしなことだった。しかし、リオは大げさではないのかと思う気持ちもあった。

 なぜなら、今日は表彰式があり、みんなそちらに出向いている可能性も否定はしきれないからだった。


「いや、でもさ、今日は表彰式だろ?みんなそっちに行ってるんじゃないのか?」


「ええ、確かにロール闘技場には人がたくさん集まってるみたいなんですが、それでも、今、三等エリアの西側には、人がひとりもいないみたいなんですよ…」


「はあ、なんだそりゃ!?ありえねえだろそんなの…」


 あまりのばかばかしさに思わず、声を荒げてしまった。

 三等エリアは四つのエリアの中でも一番広く、西側だけでも、小さな街ほどの広さが確保できる場所だった。

 つまり、街から人がひとりもいなくなったのと同義であった。


「ええ、ですが、実際に巡回中の隊員があるとき、一斉に大通りから、人々が東に向かうのを見たと言ってました…」


 リオはわけが分からず、詳しい詳細を下の階にいるサムに聞きに行くことにした。


「ちょっと、待ってろ、俺がサムさんにどうなってるか聞いてくるから…ああ、そうだ、代わりに見張っててくれ…」


 その時だった。


 ボオオオオオオオオオオオオオオン!!!


「!?」


 外から爆発音が響き渡った。

 慌てて二人が窓の外に顔を出すと、先ほどまで静かに立ち並んでいた宿の一室が吹き飛んでおり、中から紅蓮の炎と黒煙が上がっていた。

 その部屋はイルシーの暗殺者がいた宿の三階の部屋であった。


「あれは…」


 その三階から飛び降りる影があった。

 ひとりは、イルシーの暗殺者、クレマン・ダルメートであり、もう一人は情報には無い幼い少女だった。

 リオが二人の姿を目に焼き付けていると、隣にいた隊員が慌てて肩を揺すってきて言う。


「リオさん、早く、報告に!!」


「!?」


 リオは我に返り、急いで、監視部屋を後にした。




 *** *** ***




 イルシーの暗殺者たちの隠れ家であった宿にジェレドは立っていた。

 部屋はジェレドの立っていた場所以外は焼け焦げており、辺りには炎が立ち昇っていた。


「なるほど、どこぞの元特殊部隊の人間だけはある、威力と発火速度が抜群だ…」


 燃え盛る部屋の中で、ジェレドは水の壁を張っていた。その水の壁は一定方向に高速で流れ続けていた。


「事前に聞いてなければ、俺もやばかったな…普通の水魔法じゃあ、今頃、黒焦げだ…」


 ジェレドは、クレマンの手のひらから放たれた灼熱の炎を、一定の方向に高速で流れ続ける水の障壁を作ることによって防御力を上げ相殺させていた。

 通常は炎魔法は、水魔法で簡単に防げるのものなのだが、それはあくまで原則であって絶対の法則ではない。魔法でも実力差が開きすぎると、例え水魔法と相性の悪い炎魔法でも、難なくその相性が覆ってしまうことがある。

 今回も、ジェレドが、普通の水魔法の壁より、一段階強力な水の魔法の壁を創らなければ、クレマンの炎魔法は、容易く彼を焼き払っていたことは間違いなかった。


「さてと、後を追う前に、印だよ、印。多分、もう機能しないと思うけど…」


 ジェレドは、水のドームを自分の周りに張って飛び交う火の粉を払いながら、二人が飛んできた場所の床を見た。そこに三つの勾玉模様の円形の印があった。すでに床は燃えており、その円形の印は形や模様を失っていた。


「一応、確認はしなきゃ、もし機能してたら面倒くさいからね」


 ぐちゃぐちゃになった円形の印に、手を当てジェレドは、印が機能しているか、いないかの確認をした。

 そして、手を当てても何も反応しないことを確認したジェレドは、すぐに立ち上がった。


「よし、急いで後を追いますか…」


 クレマンが炎で破壊していった壁があった場所に目をやって、そちらに足を進めた。


「久々に楽しい殺し合いができそうだぁ…」


 ジェレドは邪悪な笑顔とともに三等エリアの街に飛び出した。







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