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解放祭 表彰される者たち

 ロール闘技場の東側にある一等席に座りライキル・ストライクは表彰式が始まるのを待っていた。

 円形のこの会場の観客席にはすでに大勢の人たちが着席して、建物の中は熱気に包まれていた。

 そんな中、ライキルは昨日のことを思い出す。

 キャミルと話して気持ちに整理がつき自分の進みたい方向や目的がはっきりしたが、やはり、その日はまだ、ハルと二人きりになって彼の暗い部分を聞くことはできなかった。

 そもそも、次の日が輝かしいこの表彰式だったので、暗い話や真面目な話をするのはどうかと思ったのだ。いや、これは言い訳であり、やはり、ライキルとしては少し彼の暗い部分を聞くのが怖かったところがあるということを認めざる負えなかった。


「何、考えてたの?」


「え?」


 ボーっとしていたところに声をかけてきたのはキャミルだった。


「いえ、別になんでもありません」


「ハルのことなんじゃないの?」


 ぴったり当ててくるキャミルには敵わないなあと思う反面、常にハルのことしか考えていないから簡単に思考が読まれるのだと自分なりに分析した後、尋ねてみる。


「なんでわかったんですか?」


「だってライキルがボケっとしてる時って、ほとんどハルのことしか考えてないじゃない」


 当たってはいる、当たってはいるが、そこまではっきり言われると恥ずかしくなる。だから否定などしてみたくなるのだが、無駄なことも知っていた。キャミルにはもうほとんど自分のことを語り切ってしまったからだ。


「ずるいですね、キャミルは私のことをなんでも知ってる」


「ええ、ライキル、あなたが教えてくれたからね」


 ひょうひょうと彼女はそんなことを言う。


「何のお話しですか?お二人で楽しそうに」


 ライキルの後ろにいたニュアが尋ねてくる。座席は前にキャミル、ライキル、ガルナの順の三人で座り、後ろにニュアとリーナといった形で座っていた。


「ライキルの想い人の話しよ」


「あ、ちょっとキャミル!」


「ああ、ハルさんのことですね」


 ニュアが冷静に正確にいい当てる。さっきの話を聞いていたからではない。彼女たちには筒抜けなのは当然なのだ。何せレイドの王都にいたころから、ライキルのハルに対する好意はバレバレだったからだ。


「うう、やっぱり知ってるんですね…」


 あらためて口に出されると気恥ずかしかったが、事実なのでどうしようもない。


「当然です、私もリーナもライキルと長い間一緒にいた人ならみんな知ってますよ、いえ、一週間も一緒にいれば、気づきます」


「………」


 私はそんなに積極的だったのか?と自分の過去をライキルは必死に思い返す。


「ライキルは、いつもハルにくっついていたからな」


 リーナが言った。


「ライキルちゃんは、ハルのことが大好きだからな」


 隣のガルナまでそんなことを言ってくる。ライキルは、そこはガルナ、あなたはどうなんだと問いただしたくなったが、そんな無粋なことはやめておいた。


「ライキル、そう言うことよ」


 キャミルはニヤニヤしている。


「…キャミルのバカ」


 そう言うと、キャミルはごめんごめんと謝るのであった。


 そんな、女性たちにはすでにばれていたライキルの想い人の話しをしていると、ロール闘技場の会場に音楽が響き渡った。

 そして、その楽器の演奏とともに表彰式の参加者である各組織の代表者が、東の大扉から中央の広場に入場してきた。

 まず初めにレイド王国の国王のダリアス・ハド―・レイドと、レイドの剣聖カイ・オルフェリア・レイさらに、アスラ帝国の皇帝陛下であるアドル・フューリード・アスラと、アスラ帝国の第二剣聖フォルテ・クレール・ナキアの四人が入場してきた。

 両国の王と剣聖が入場すると会場は一気に盛り上がり、熱を帯びていた。

 その後に、他の表彰式の代表者が入場してくる形となった。王に剣聖という護衛がいるようにそれぞれ一人ずつ代表者たちにも騎士が付き添っていた。


「なんか、護衛の騎士が多いですね…」


 ニュアがそんなことを呟くと、ライキルがひとりの知り合いを見つけた。


「あ、エウスいましたよ、キャミル」


「え、どこどこ!」


「ほら、あそこにいますよ、見えませんか?」


 入場者の列を指をさしてライキルが教えると、キャミルも彼を見つけてご満悦そうに微笑んでいた。

 そんなキャミルをライキルが見つめていると、彼女はその視線に気づいたのか、こちらを向いた。


「どうしたのライキル?」


「いえ、嬉しそうだなと思っただけです」


 そんなことを言うとキャミルは少し顔を赤くして、自分と同じ言葉を吐いた。


「ライキルのバカ…」


「すみません!」


 ライキルとキャミルは互いに少し視線を交じり合わせたあと同じタイミングで笑い合っていた。




 入場者が全員座席に着くとダリアスが挨拶を始めた。

 その挨拶を聞きながら、ライキルがハルの姿を探すが彼の姿はどこにも見当たらなかった。


「ねえ、ねえ、ハルいなくないかぁ?」


 ガルナもハルを探していた。


「そうですね、見当たりませんね…もしかしたらまだ出番じゃないのかもしれませんね」


「そっか、早くこないかな…」


 ライキルは、盗み見る様に隣に居るガルナの顔を見た。彼女はつまらなそうに今行われている式を眺めていた。きっとそれはハルがいないからなのだろう。

 ガルナは、小さなため息までついていた。それはもう悩める乙女の様だった。


『なんだか、よく見ればガルナって変わったな…最初にあったときとは別人だ……』


「ハルのバカ…」


 ふと、そんな言葉が出てしまう。


「ん?ライキルちゃん、ハル見つけた?」


「あ、ううん、見つけてないです…」


 そっか、などと言うとガルナは再び辺りをあちこち見渡していた。




 レイドの王の挨拶が終ると、次はアスラ帝国のアドル皇帝が挨拶をしていた。

 中央に用意されたステージで話している人物の声は、フォルテの音に関する天性魔法によって人々の耳にしっかり行き届いていた。

 それは贅沢なことの様に思えたが、実際に他の方法に頼ろうとすればいくつか案があるのだが、どれも手間とコストがかかるものばかりなので、こうしてフォルテが発言者の隣に立って天性魔法を発動しているのだった。

 フォルテからは常に自身にしか見えない特殊な波が出ており、発現した者の言葉をその波に乗せて周囲の人々に届けていた。

 そのため、周囲の人から見たら、フォルテはただ、目を閉じて突っ立っているだけの様に見えるが実際は天性魔法を使用している状態だった。


 それから、両国の王たちの挨拶が終ると、すぐに表彰が執り行われた。

 一人づつ、名前が呼ばれると、座席からステージに上り王たちから感謝の言葉と勲章であるメダルが授与されていった。


「エリー商会会長エウス・ルオ」


「ハッ!」


 エウスの番が回って来ると、彼は堂々と返事をして完璧な所作でステージに上がり、ダリアスの王の前に来た。


「エリー商会会長エウス・ルオ。貴殿の商会は今回の四大神獣白虎の討伐に置いて、レイド王国だけに止まらず多くの国に多大なる助力を惜しみなく行った功績を称えここに感謝と勲章を与える。ありがとう」


 他の者たちならこのように組織の大まかな功績を称える定型文のようなもので終わって勲章のメダルをもらうのだが、この時、ダリアスは言葉を続けた。


「そして、エウス・ルオ、貴殿は大商人でありながら騎士であり、白虎討伐のため直接霧の森に赴き大いに活躍してくれたこと、我が国の誇りとしてここに改めて感謝を申したい、ありがとう」


 エウスは感激で一瞬言葉を失うが、すぐに騎士として跪き、レイド王国にダリアス・ハド―・レイドに改めて忠誠を誓った。


「わたくしエウス・ルオはこれからもよりいっそう国に貢献できるよう努めてまいります!」


 その行為に会場からは惜しみない万来の拍手が鳴り響いた。


「今日のエウスは立派ですね…」


 珍しくライキルが、エウスを褒めてやると、キャミルが嬉しそうに当然じゃないと口にしていた。

 キャミルは彼のことを食い入るように見つめていた。


『きっと私もハルを見てるときはこんな感じなんだろうな…』


 ひとりライキルは夢中になっているキャミルの隣でそう思ってしまうのであった。




 表彰式はその後もスムーズに続いて行き、多くの四大神獣白虎討伐に関わった者たちが表彰されていった。

 ダリアス王が表彰する分が終ると次はアスラ帝国のアドル皇帝が変わってステージに上がり、主にアスラ帝国の商人や冒険者を表彰して行った。

 そして、さらに入れ替わり、最後に他国の協力してくれた組織に代表してダリアス王が再び入れ替わり、感謝と勲章を手渡していた。そこにはハルたちと一緒に霧の森に同行してくれた、シフィアム王国のバハム竜騎士団の団長、ヨルム・ゼファーなどがいた。


 中央の広場にいた各組織の代表者たちのすべての表彰が終った。


 そこでダリアス王はステージの上から、中央にいる代表者たちに語り始めた。


「まずは四大神獣白虎討伐に助力して支えてくれた数多くの組織の皆に改めて感謝したい、諸君たち無しではこの作戦を実行に移すことができなかった。

 国境を越えてこうして協力できたのは我々の歴史から見ても奇跡に近い素晴らしいことだと思っている。残念ながら我々の間では多くの血が流れることがあった、だが、今こうして協力しあい、四大神獣討伐という大きな功績を残せたこともどうか忘れないで欲しいと、私それからアドル皇帝は、常に思っている。そして、私たち王もこの良好な関係がこれからも永遠に続いて行くように全力で務めるつもりだ。だからどうか、そのために、皆の力を貸して欲しい」


 ダリアスがそこまで言うと、代表者たちは全員が一斉に立ち上がって頭を下げ、付き添いの騎士たちは跪いていた。


「ありがとう、感謝するよ」


 ダリアスは皆の忠誠を受け取ると、次は周囲にいる観客に視線を移した。


「皆、聞いてくれ、私は今日ここにいる者、そしていない者、すべての者に感謝したい!!」


 ダリアスは辺りを見回す。


「四大神獣白虎を討伐できたことは皆の協力のおかげだ。私は本当に諸君と今日というこの日を迎えられたことを感謝している、ありがとう!!」


 ダリアスは大きな息を吸って皆に最後の言葉を伝えた。

 会場は大きな歓声に包まれた。誰もが今日この日を祝福していた。


「そして、最後に!!」


 そして、次のダリアスの言葉はこの会場にいた誰もが聞きたかった言葉だったに違いないのだろう。

 吸い込んだ息でダリアスは一気に言う。


「我々の希望である、ハル・シアード・レイと、レイド、アスラ両国の剣聖を表彰してこの式を終わりにしたいと思う!!」


 会場にはその日一番の熱狂的な大歓声が巻き起こった。その会場にいた誰もが歓喜の声を上げていた。


「さあ、ハル・シアード・レイの入場だ!!」


 ロール闘技場の東の大扉が再び開かれた。


















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