帝国の剣聖
巨大な橋は、馬車などがすれ違ってもかなりの余裕があるほど、幅は広いが、橋の長さはそれほど長くはなかったが、上を渡る者達には、美しい上からの景色も相まって、その橋は長く感じた。
ハルたちが橋の上を渡っていると、城門の目の前で仁王立ちする人影が見えた。
「なあ、あそこ、誰か立っていないか?」
エウスが、言うと、確かに誰かが立っていることをハルも確認できた。
しかし、近づいて行くとそのシルエットの全貌が見えてくる、それと同時にハルの顔色は曇っていった。
その姿は、白金色の髪の毛に金色の瞳をしていて、実用性のなさそうな豪華な装飾が施された黄金の鎧をその身に着けていた。
さらに、目につくのは、その人が持っている剣であった。ロングソードの剣身が波打つようにギザギザしているフランベルジュと言われる剣だった。
それをなぜか鞘からだして、自慢げに地面に剣先を突き立てて持っていた。
「あれ、フォルテ剣聖だよな」
「あんな、剣持ってんのあいつだけだよ」
ハルが嫌そうにエウスに言った。
「いや、それハルも人のこと言えないだろ」
エウスは冷静に返した。
そこに立っていたのは、帝国に二人いる剣聖の一人のフォルテ・クレール・ナキアだった。
通常の国は、剣聖の称号を一人にしか与えないが、帝国はずば抜けた実力がある者が二人以上いる場合は、二人まで剣聖をとることを採用している。
各国がこれをやらないのは、その国の歴史や考え方の違いもあるが、単純に剣聖へ支払う費用が増えてしまうからと金銭的面が大きかった。
剣聖一人に支払う金の量は国により違うが、どこの国も軍の中で一番高い報酬を支払っていた。
ハルの場合も剣聖をやめたが、それでもハルが死ぬまで現役の剣聖よりも多く、お金がもらえることは王国内でも決まっていた。
それほど剣聖の称号は凄まじいが、それと同時に剣聖になることの難しさはどの国も異常なまでに厳しかった。
「そのくすんだ青い髪!そしてその青い瞳、待っていたぞハル!」
ハルが馬を止める、後ろもそれに続いて止まっていった。
彼の大きな声で、後ろにいたハルの兵士たちがざわめきだしていた。
「さあ、ハル勝負しようじゃないか、俺は前よりも強くなっているぞ!どうだ手合わせしたくないか?」
「お前よく、隣国の軍事拠点の前で堂々と剣抜いて立ってられるな、後ろの門兵の人も困ってるだろ」
ハルがそう言うと、門兵から「もう慣れました」と平坦な声の返事がかえってきた。
ハルが一つ短いため息をつき、質問した。
「フォルテ、いつからこんなことしてるんだ」
「三日前からだ」
そしてフォルテは後ろにいる、エウスとライキルの姿に気づいた。
「エウスに、ライキルお前らにも会いたかったぞ、元気そうだな!」
「ご無沙汰しておりますフォルテ剣聖」
ライキルは丁寧にあいさつした。
「そういう、フォルテも元気そうだ」
エウスも嬉しそうに言葉を返した。
「ああ、ハルと勝負できるからな、早く俺の技を試したいのだ」
ハルがそんなフォルテに呆れていると、門の奥から歩いてくる兵士らしき姿があった。
フルプレートアーマーと言われる、全身を金属で覆った鎧を着ており、背中に棍棒のスタッフメイスを背負っていた。
さらにアスラ帝国の青い龍の紋章が鎧にあるため、王国の兵士ではないことが分かった。
しかし、その背丈の大きさは、近づいてくるほど一般の後ろのハルの兵士たちより大きく、その大きさは、人族のなかでも高身長のハルと同じくらいの身長だった。
「フォルテさん、おやつの時間なんですけど一緒にどうですか?」
驚くことに、その声色から、その全身に鎧を着た兵士が女性であることが分かった。
「おう、そうだな腹も減ってきたし、おやつの時間にしよう、ハルそういうことだ、俺は菓子を食べに行く。勝負は後でやろう、それではさらばだ」
突き刺さったフランベルジュをそのままに、フォルテは目にもとまらぬ速さで、古城アイビーの敷地内の中に消えて行った。
「あ、剣聖ハル様ですね、王国の人も帝国の人もあちらのお城で待っています」
おっとりした口調でお城の方を指さしながら彼女は丁寧に言った。
大きな城門からまっすぐ見た先にはお城のような建物が見られた。
「ありがとう、みんな先にあの城に進んでくれ、エウス頼む」
「はいよ」
そうするとハルの軍はエウスを先頭にぞろぞろと前に進みだした。
そのように指示を出した後、ハルが彼女を不思議そうに見る。
彼女はフォルテが刺しぱなしにした、剣を引っこ抜いていた。
その彼女に。
「ところで君はいったい…」
と小さい声でハルが声をかけると、彼女はこちらに振り向き答えた。
「はい!アスラ帝国の【エルガー騎士団】に所属するベルドナ・スイープと申します」
彼女はさっきのおっとりした声とは違い、少し緊張した声色に変わっていた。
「そうか、ありがとう、でもエルガーに君みたいな子がいれば絶対忘れないんだけどな」
「はい、今年一般の兵隊に入って、特別推薦で騎士団に入隊したので、ハル剣聖をお目にかかる機会は今までありませんでした」
「ん?今年一般で入って、エルガーに入隊って君かなり、ザアル団長に気に入られたみたいだね」
「そうみたいです」
そういう彼女は嬉しそうに言った。
「そうか、それじゃあ、ルルク副団長のことも知ってるわけだ」
「はい、今回、ここまで軍を引いてきたのは副団長です」
「そうか、副団長が指揮してきたのか、ありがとう、私も行くよ、待たせては悪いからな」
「はい!」
彼女も来た道を戻って行った。
「彼女、すごいですね」
ライキルもさっきの二人の会話を聞いていて短く感想を述べた。
「そうだな」
ハルとライキルがそのように、彼女の異例の存在に驚いていると。
「二人とも何しているんですか?」
軍の後方を任されていたビナが二人に声をかけるのだった。