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解放祭 舞踏会 

 絢爛豪華な舞踏会の会場は二等エリアの南側にあった。

 馬車が会場の前にたどり着くと、御者が馬車の扉をあけて中にいるハルたちを降ろした。


「すごい大きい会場だ…それに豪華だな…」


 ハルが馬車から降りると、まずその会場の大きさに圧倒された。巨大なドーム状のガラスで蓋をされたような建物が佇んでいた。

 陽が沈み始めた夕暮れの街にそのガラスのドームの中からあふれた明かりが周囲に光を放っていた。そんな夜に抗うかのような光あふれる場所に、綺麗に着飾った人々が、次々と建物の中に吸い込まれていっていた。


「力を入れたみたいだぜ、この建物には」


 同じ馬車に乗っていたエウスが降りて来た。


「二等エリアっていったら貴族たちが多いだろ、彼らの息抜きの場所といったらこういう華やかな舞踏会みたいな場所ぐらいだろうからな」


「でも、誰でも入れるんでしょ?」


 ハルはドーム状の舞踏会場を見上げながら尋ねた。


「もちろん、金さえ払ってそれなりの格好してれば誰でも入れるぞ」


 ドームに入って行く人々は皆、華やかなドレスや正装に身を包んでいた。当然、ハルとエウスも私服ではなく、正装をしていた。

 騎士の場合は、騎士が戦闘時に身に着ける騎士服も正装になりえるが時と場所による。今回ハルとエウスは、騎士服ではなく一般の正装をしていた。


 ハルは黒を基調とした正装をしていた。上から下まで気品あふれる黒に包まれ、私服を着ているときの近寄りやすい好青年のような雰囲気は消え去り、ただただ、高貴さを周囲に振りまいていた。今の彼を見たら元剣聖というのも納得ができた。


 エウスは茶色を基調とした派手過ぎない仕上がりになっており、彼も品のある高貴な雰囲気を漂わせていた。


 そして、ハルとエウスと同じ馬車に乗っていた最後のひとりが降りてきた。


「お待たせ、二人とも」


 白と黒のドレスを身にまとった女性が馬車から降りてきた。


「どう?私ってわからないかな?」


 その女性の顔には黒のフェイスベールがついており、頭からも黒のベールが垂れ下がって、彼女の表情はおろか、近くで見ても誰だか判別は困難だった。

 白と黒のドレスに素顔をベールで隠した彼女はどこか神秘的なイメージを与えた。ただ、顔を隠すことによって、この人はとても高貴で特別な人物と自ら名乗ってるというものだったが、それが誰かが特定されなければ問題はなかった。


「ああ、大丈夫だ、誰もレイドの王女様なんて見抜けねえよ」


「よし、じゃあ、完璧だ!」


「でも、なんか逆に目立つけどな、その恰好はさすがに」


「大丈夫よ、中に入れば何人かは私たちと同じく顔を隠してる人はいるでしょ、たぶん」


「そうだな、いるといいよな」


 エウスと話す、黒いベールに包まれたその女性はキャミルだった。

 舞踏会には多くの貴族が出席している可能性があるため、王族で有名なキャミルが顔を隠すのは必須だった。


 そのため。


「あれ、ハルはあれつけないの?」


「え、ああ、忘れてた」


 キャミルに急かされ、ハルは服の内側から、黒い仮面を取り出して、取り付けた。おおよそ顔の半分が隠れ一目では誰だか見分けがつかなくなった。そして、近寄りがたさはさらに一気に増した気がした。


「うん、ハルすごい似合ってる素敵だわ、それに変装も完璧ね、誰もハルとはわからないでしょうね」


「ありがとう、キャミルも今日は君の綺麗な顔を外に出せなくて残念だね」


「分かってるわね、ハル!」


 バシィ!!バシィ!!


「あいたたた…」


 背中をバシバシたたかれる彼女の手には力が入っていた。


「おーい、いちゃつくのはいいがさっさと残りのみんなと合流しようぜ、たぶん建物の入り口の近くで待ってるはずだからよ」


 エウスに声をかけられた二人は「はーい」と返事をすると素直に彼の後に続いた。

 舞踏会の建物の入り口近くに移動すると、ハルたちはすぐに先に到着していたライキル、ガルナ、リーナ、ニュアの四人を見つけることができた。


「あ、いたいた、みんな、おまたせ!!」


 キャミルが先に四人の女性たちの方に駆け出し、ハルとエウスはゆっくり歩いて後を追った。


 キャミルが先に四人に合流すると彼女の黒いベールで盛り上がっていた。そこにハルとエウスも少し遅れて到着すると、注目はハルにも集まる。


「うああ、ハルさんですよね?そうですよね?あれ違う?いやそうですよね?」


「なるほど、仮面ですか、確かにハル団長もこういう場所では素顔を隠す必要はありそうですね」


 ニュアとリーナがハルの顔を覗きこんでくる。二人の反応からも仮面が変ではないことが確認できてハルはホッとした。


「ハル、今日の格好すごくいいぞ、なんかいつもと違っていい、あ、いつもだって、その…いいんだがぁ…」


 そう照れながら言って顔を見せたのはガルナだった。

 彼女も今日は真っ赤で華やかなドレスに身を包んでいた。彼女の戦闘しているときの苛烈さを身に着けているドレスの赤で表しているようでこれ以上になく似合っていた。


「ハハ、ありがとう、ガルナもやっぱりそのドレス素敵だよ」


 照れくさそうに笑う彼女を見てハルも笑った。館で女性たちのドレスは一度見ていたが何度見てもみんなそれぞれ自分に似合ったドレスを着ていると思った。

 みんなに仮面のことや服装のことをあれこれ言われている中で、ハルはライキルの姿を見る。彼女は少し後ろでニコニコと微笑んでいた。

 みんなの間を通ってライキルの前に出る。


「ライキル、遅くなったね」


「いえ、それほど待ってませんでしたよ、それにみんなで話してる時間は楽しかったので」


「そっか、それは良かった。で、どう、久しぶりの舞踏会だけどライキルは踊れそう?」


「もちろんです。踊りなんて簡単です。そういうハルはどうなんですか?」


「うーん、ちょっと心配かな、ライキルさあ、最初に俺に稽古つけてくれないか、昔みたいに…」


 ハルが王都で剣聖になって、あらゆる教育を受けていた時に、踊りの稽古もその中にあった。なんでも剣聖は社交界に出る機会もあるため踊れなければ話にならないとのことだった。

 そこでライキルと一緒にダンスの稽古をした経験があった。ライキルは踊りのコツを掴むのが上手く、ハルはどんどん置いて行かれたが、踊れるようになるまでそばでコツを教えてくれていたことを思い出していた。


「…ええ、もちろん、いいですよ」


「ほんと、ありがとう、ライキルは踊るの上手いからね!」


「ありがとうございます…そう言ってもらえると嬉しいです」


 いつもと変わらない穏やかな表情で、ライキルがニッコリと微笑んでいた。



 その時、ハルとライキルの二人が仲よさそうに話している方にエウスはふと目をやった。


「…え?」


 全員が楽しく会話している中で、エウスはたったひとり、意外なことに直面して身体が固まった。


『あいつ……なんで、泣いてんだ……』


 ライキルはハルの隣で楽しそうに笑っていた。


「皆さん、そろそろ中に行って踊りませんか!?」


 ニュアの掛け声でエウスを除いた全員がその意見に賛同して建物の中に歩き始めた。

 そこでついてこないエウスに気づいたキャミルが彼のもとまで戻って手を取った。


「どうしたの、エウス、行こう?」


「あ、ああ、ごめんキャミル、行こうか…」


 エウスの視線の先には賑やかに話しながら歩いていくみんなの姿があった。































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