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解放祭 監視

 まだ星が輝く早朝の時間帯に、宿屋であるレッドブレスの館の玄関前に一台の箱馬車が止まっていた。

 レッドブレスは、主にハルを監視、護衛するために設けられた宿屋を装った軍事基地であり、宿泊客はレイド王国とアスラ帝国の軍の者しかいない。

 ハルの泊まる宿屋ブルーブレスのすぐそばに建っており、ブルーブレスの従業員も客も全て特殊部隊の者で構成されており、常に二つの宿屋では連絡が交わされている。


「サム、リオ、気を付けてくださいね。昨夜も言った通り、怪しい者がうろついていますから注意と連絡を怠らないように、何かあればすぐに私たちが増援を送りますから」


 早朝の朝日を浴びながら二人を見送っているのは、黒髪で赤い瞳を輝かせる高貴さ漂わせるルナだった。彼女は昨日、日が沈むと同時にこのレッドブレスに戻ってきていた。


「ありがとうございます、ただ、ルナさんの方こそ気を付けてください、あなたは目撃者なんですから」


 サムは馬車に乗り込む前にルナに忠言を残す。


「分かってる、心配ありがとう、サム」


 馬車にサムが乗り込むと、まだ外にいるリオが、ルナに向けて口を開いていた。


「ルナさん、俺も心配してますからね!なんならすぐに俺を呼んでください!すぐに駆けつけますから!」


「フフッ、はいはい、ほら、サムが待ってる」


 馬車にリオが乗り込んで来ると、彼はルナに手を振って扉を閉めた。さらにその後も窓からルナに懸命に手を振っていた。


「出してくれ」


 サムが背後についている小窓を開けて御者に告げると、二人を乗せた馬車は、すぐに走り出してレッドブレスを後にした。



 サムとリオを乗せた箱馬車が目指す場所は、三等エリアのイルシーの暗殺者が借りている宿屋の近くの建物だった。

 その建物は宿として一般客に利用されていたが、現在は全ての部屋が軍によって貸切状態となっており、彼らの監視に当てる基地となっていた。当然、イルシーの暗殺者に感づかれないように何人か部屋にグレイシアの人間を入れ、一般客を装うようにしていた。

 そのような建物が、イルシーの暗殺者が泊まる宿の周りに他にも数か所用意され、二人はその建物うちの一つに向かっていた。


「サムさん、どう思います?昨日ルナさんたちが言ってたこと、本当にドミナスの人間だと思いますか?」


 昨晩、いつも通り、サム、リオ、ルナ、ギゼラの四人で食事を取っていた際に、ルナとギゼラから闘技場であった出来事を聞かされていた。

 くすんだ金髪の壮年の男性と、金髪で金色の体毛の獣人族の青年。

 全く情報になかった二人であり、腕の立つ精鋭騎士相当の実力者で、ハルへの接触者。この条件だけではイルシーの暗殺者を暗殺しに来たドミナスの関係と断定するには根拠が弱すぎた。各国から人が集まって来ている以上、ハル・シアード・レイという人物を知る、腕自慢の者などいくらでもいるからだ。

 ただ、最後にルナから聞かされた、二人が突然路地の角で消えたということ、このことだけがサムには気がかりだった。


「可能性は高いと思うよ、最後のルナさんの言った消えたってのが本当なら」


 目の前から消えるという手段は、あり得ない話しではなかった。それはもちろん魔法。マナが漂い魔法が使用できるこの状況下では、自分の姿を消す手段は魔法が挙げられた。


『天性魔法か、特殊魔法のどっちかだと思うけど、ここはマナがあるから、どちらとは絞れないな。それにしても姿を消せる魔法か…』


 サムは考え込む。特殊部隊で培ってきた経験の中で、姿を消せる人間には何度か会っていた。

 そのような人間はだいたい自分だけの魔法である【天性魔法】に目覚めていた。

 サムが会った中では、景色や背景に溶け込むものや、術中の対象者の認識から外れるもの、幻覚をまき散らしてあたかも目の前から消えたかの様に見せるものなど、消え方は人それぞれであった。

 裏社会で活動しているとそんな珍しい魔法を見る機会はとても多かった。しかし、サムの場合そのような人物たちは、ほとんど、サムの暗殺のターゲットたちであったため最終的には死体になることが多かったのだが…。


「姿を消せる奴を探すって相当大変ですよね?」


「うん、そうだね。だから俺たちもそっちの怪しい二人を探すのを手伝いたいよね。リオも監視は暇でしょ?」


「まあ、そうですね、多分、今日もイルシーの奴らの動きは無いでしょうから…」


「イルシーの暗殺者たちの監視は、俺たち二人がいなくてもできると思うからさ、どうする?怪しい二人組を探すのを手伝いにいく?」


 サムはリオにひとつ提案してみた。彼もリオが体を動かす方が得意なことは知っていた。

 それに、アスラ帝国の特殊部隊グレイシアは、皆訓練された強者ばかりであり、隊員の誰もが部隊の指揮を執れるほど頭の切れた者達であった。

 そのため、サムも仲間たちには全幅の信頼を置いていた。


「ああ、いえ、ちゃんと監視します。結局ドミナスの人間の狙いは奴らなんですから、待ってれば捕らえるチャンスが来ると思うんで」


 リオは今まで辛抱強く続けてきた監視という作業をここでやめてしまうのはなんだかもったいないと思った。それにリオは、もし、その怪しい二人を探している間に、すれ違いでイルシーの暗殺者たちが襲撃されたら、それこそ虚しいだけだと思った。


「リオは真面目だね」


「そんなことないですよ、そっちの方が暴れる機会がありそうなだけです」


「ハハハ、そっか、リオらしい考えだ」


 二人の乗った馬車は広々とした一等エリアから、多くの宿やレストランが立ち並ぶ、二等エリアに入って行く、早朝にも関わらず、人々は何人かで歩いていた。

 朝の静けさを纏う二等エリアを何事もなく無事に抜けて、三等エリアに入ると、出店やお店の準備をしてる人たちがちらほらいた。

 さらに三等エリアには散歩をしていたリ、飲み潰れている人がいたりと、朝の解放祭はどこにでもあるただの街と何も変わらない平凡な風景を作り出していた。


「平和だなぁ…」


 サムは窓の外を眺めながら静かに呟いた。



 三等エリアの目的地の宿屋の近くで、サムとリオは馬車から降りる。早朝はあまり馬車が行きかっていないため、馬車の移動は目立った。そのため、降りてからは周りに注意を払って目的の宿屋まで徒歩で歩みを進めた。

 四階建ての質素な宿屋に着くと、建物の裏口から二人は宿の中に入った。そうすれば、イルシーの暗殺者がいる建物からは入ったところを見られはしない。

 建物の中にいたサムの部下たちが、サムとリオに気づき状況を説明するが、イルシーの暗殺者の動きは全くないとのことだった。


「いつも通りでしたね…」


「そうだね、まあ、でも、俺たちがいない間に問題が起こるよりはましだよ」


 サムはそれからいつも通り、二階の会議室となっている場所に向かった。リオも四階の部屋に向かうため、サムの後をついていった。


「それじゃあ、俺は四階にいるんで、何かあったらすぐに報告します」


「分かった」


 リオは二階に着くとサムと別れ、階段を上がっていった。


 リオが四階の監視するための部屋に着くと、仲にはすでに二人のグレイシアの仲間がおり、そのうちのひとりとリオが交代した。


「お疲れ様、ゆっくり休みな」


「そうさせてもらうよ」


 リオと交代したひとりの隊員が監視部屋を後にした。


「動きは無いって聞いたか?」


 部屋に残った隊員の一人がリオに尋ねてた。


「聞いたよさっき下で」


「退屈だよな、こうも動きが無いと」


「まあ、でも、女の方はちょくちょく外に出てるだろ?」


「ティセアってやつか?そうだけど、リオも知ってるだろ?あいつ近くの出店で食べ物買って帰るだけで、動きが無いのと一緒だよ。それに尾行しなくてもここから見える」


 ずっとカーテンの隙間から外を眺めているその隊員は不平不満を言っているが任務にあたる姿勢は真面目だった。


「やっぱりか…奴らいつ動きだすんだろうな…」


「さあ、分からないな、リオが本人たちに尋ねてきてくれよ」


 隊員はくだらない冗談を言っていた。


「やだよ、めんどくさい」


 リオも隊員が覗いてる同じ窓から、ハルを暗殺しようとしている暗殺者がいる建物を覗いた。暗殺者のいる三階の部屋の窓は、カーテンで深く閉ざされていた。


『まったく、どんな悪だくみをしているのやら…』


 リオには想像もつかなかった。そのため、考えることをやめて、隣にいた隊員と暇をつぶしながらも真面目に監視を続けていた。









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