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解放祭 変化

 一日祭りを楽しんだライキルが、宿屋であるブルーブレスに着いたのは夕暮れで空がオレンジ色に染まるころだった。帰りの馬車には、一緒に祭りを回ったリーナとニュアがいた。二人は別の場所に宿をとっていたが、今夜の食事をブルーブレスでとることに決めていたため、帰りもライキルに同行していた。


「うーん、やっと着きました!みんな戻って来てますかね?」


 館の玄関の前で止まった馬車から降りたニュアが背伸びをする。後からリーナとライキルも馬車から降りてきた。


「どうでしょうね、部屋を訪ねてみましょうか」


 三人は館の中に入って、ライキルは自分の部屋の鍵を受付の人から受け取った。ライキルは三階に上がりみんなが戻って来ていないか確認するために、リーナとニュアを一階のロビーで待たせてひとりで階段を上がっていった。


「あれ?」


 しかし、階段を上がる途中でライキルは窓から見える景色に目を見張った。


「ハルとガルナ…?」


 窓からは館の後ろにある広場が見えた。その広場でハルとガルナが素手で手合わせをしていた。

 ライキルは慌てて一階に戻り、ニュアとリーナに報告すると三人で館の裏手にある広場に向かった。

 館の裏口からちょっとした通路に出て、そこをまっすぐ進むと広場にでた。


「やっぱり、ハルとガルナだ…」


 広場に到着すると先ほど階段の途中で見た二人が格闘の続きをしていた。

 ガルナの全力の猛攻をハルは的確に軽々防御していた。完全にハルに遊ばれてる状態だったが、彼女の表情は笑っており、目の前の戦闘を純粋に楽しんでいた。


「うわぁ!す、すごい、あの女の人尋常じゃないですよ!」


 はしゃぐニュアの横で、ライキルは信じられないと目を丸くしていた。


『ハル、ずっと避けてたのに、人と手合わせするの…どうしちゃったんだろう…』


 心配するライキルだったが、今、ガルナの攻撃を受け止めているハルの顔は幸せそうに笑っていた。


「………」


「お、ライキル戻ってたのか?」


 ライキルが横を振り向くとそこには、エウスとキャミルが立っていた。


「あ、エウス…ってキャミルまでどうしたんですか?帰らなくていいんですか?」


 エウスがいるのは特に何の問題もなかったが、キャミルはすでに自分の宿である特等エリアに戻っていなければいけない時間だった。エウスが勝手に連れてきたのかと疑おうとしたが、キャミルの性格上。


「お父様に言って、私もこの宿に泊めてもらうことにしたの、もちろん、もう荷物も運んであるわ」


「ああ、なるほどそうですよね…」


 やはりそこはキャミルの我の強さだったのかと納得した。よく考えればキャミルのことをよく考えてるエウスがすることではなかった。


「うああ!キャ、キャミル様、どうしてここに!?…ふぐぅ!」


 ライキルの後ろにいたニュアが驚きを隠せない表情で叫ぶと、リーナが彼女の頭を掴んで一緒に頭を下げた。


「キャミル様、お久しぶりです…」


「リーナも、ニュアも久しぶり会えて嬉しいわ。補給部隊、大変だったと聞いてるわ、二人も本当にお疲れ様でした」


「もったいないお言葉です」


 ハルたちと関わっていたリーナとニュアは、キャミルとの面識はもちろんあったが、補給部隊は常に動き回っているため、顔を合わせる機会は少なかった。それも神獣討伐ともなると補給部隊の忙しさは勢いを増していた。そのため、キャミルは王都ではずっとひとりだった。

 三人が、久々の再開を喜んでいる間、ライキルは広場で戦っている二人を見ながらエウスに質問をした。


「ハル、どうしちゃったんですか?ガルナと手合わせして…」


「ああ、なんかガルナが暴れたりないらしくて相手してあげてるんだって、珍しいよなあいつ、人を相手にするの嫌がってたのにな」


「ええ、そうですよ…」


 ライキルは広場の中心で戦っている二人を眺める。全力でハルにぶつかっていくガルナの顔はとても嬉しそうだった。二人だけの激闘の空間は、どこか完成されていて踏み込んではいけない空気が漂っていた。そこに自分が立っていなかったことにライキルは残念に思うと同時にガルナのことを羨ましいと思ってしまった。


「ねえ、そろそろ、みんなで食事にしない?」


「そうだな、おーい、お二人さん食事にしないか!」


 キャミルの誘いに応じて、エウスが広場で戦っている二人に声をかける。するとハルとガルナは動きを止めてこちらに歩いてくる。仲よさそうに何か話し合いながら、きっと戦うときのアドバイスか何かだと思うが、それにしては二人は仲睦まじい姿でよく笑い合っていた。

 ライキルの心の中にあったのは、ハルはどうしてガルナとは稽古をしてあげたのかという一点に興味が集中していた。ハルはそう簡単に人とは手合わせをしない、だから、彼を変えたのは何だったのか…。


「ハル、ガルナ、お疲れ様です」


「ライキル、帰ってたんだね、お帰り!」


「あ、はい、ただいまです…」


 ハルが笑いかけてくれる。それだけでライキルは嬉しかった。


「ライキルちゃん、お帰り!」


「ただいまです、ガルナ…」


 ハルの隣にいるガルナも嬉しそうに笑いかけてくれる。

 先ほどの二人の近寄りがたい空気は無くなっていた。


「あ、あの…ハル…」


「ん?どうした?」


「あ、いえ、なんでもないです…」


 なぜガルナと手合わせしていたのか?とは聞けず、言葉に詰まってしまった。

 ガルナがそばにいるからというのもあっただろう。彼女とは心を打ち明けた中であり、いうなれば恋のライバルといったところだったが、紛れもなく大切な友人でもあった。

 ただ、それが核となる原因ではなく、ライキルが何も言えなくなってしまったのは、二人が並んでいるところを見ていたら自然と言葉が出て来なくなってしまっていた。


「………」


「おい、そこの三人、早く食堂に行こうぜ!」


 エウスが呼びかけると、ハルとガルナが返事をして歩き出す。

 ライキルも二人の後を追おうとしたが、身体が動かなかった。変な汗が一筋頬を流れていった。


「………」


「ライキル?」


 背後から聞こえた一回目のハルの呼びかけにライキルは無言を通してしまった。全身がなぜか動かなかった。


「どうした、ライキル?食堂いこう?」


 ハルが顔を覗きこんでくると、魔法が解けたかのように全身が動き出した。


「は、はい!も、もちろんです、私、お腹空いてます、もう限界です!」


「フフッ、じゃあ、早く食堂行ってたくさん食べよ!」


 笑ったハルの顔を見る、いつもなら彼のその顔を見ただけで嬉しかったが、今はとても寂しく、苦痛に感じた。


『なんで…』


 決して本意を悟られないように「二人とも早く行きましょう、おいしい料理が待ってますよ!」と言葉を残して、ハルとガルナの間を走り抜けてしまった。


『なんでこんなに、もやもやするんだろう…』






























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