魔獣狩りを終えて
数十人の兵士たちは、王道から少しだけ外れた場所で、穴を掘っていた。
なぜ兵士たちがそんなことをやっているかというと、魔獣の灰と持っていけない魔獣の骨を埋葬するためだった。
さらに、他の兵士たちは、王道の脇で、火打石を使って、大きな焚火を焚いていた。
これも、運べない魔獣の肉を灰にするためだ。
肉は灰にしないと、他の肉食動物や魔獣を寄せ集めてしまう可能性があるからだ。
魔獣の肉は人族には毒であり、使役魔獣など、食用動物以外の肉食動物のエサに使われる。
アストルが勝手に飛び出し襲われそうになってハル達に助けられたその後、軍全体で警戒を続けていたが、魔獣の気配や音が一切しなくなった。
そこで伏兵が潜んでいないか、ハルが索敵することで、その場の安全が確認されたため、こうして兵士たちは、魔獣の処理に当たっていた。
ライキルは一か所に積み上げられた、魔獣の死体を解体をしていた。
短いナイフで毛皮をはぎ取り、ハルが適当に肉を手ごろなサイズに切り分けていき、エウスが切り取られた肉を、兵士たちと一緒に袋に詰めていく、余っていた袋がなくなり、あとは処分するしかなかった。
「ハル、もう肉はいっぱいだ」
「わかった」
そういわれた、ハルは、毛皮をはがれた魔獣の肉体を灰にしやすいように、小さく砕いていった。
それらを、兵士たちは焚火まで運び、炎の中に投げ入れていく。
エウスも骨のついた肉の塊を焚火の中に放り込む。
「………もったいね」
仕事柄、魔獣の肉はいい値段になると知っていたため、エウスからそんな言葉がこぼれた。
エウスが作業を繰り返していると、ビナがアストルにお説教をしている姿があった。
血を布巾で拭い、二人のもとに向かう。
「わ、わかっているのですか?せ、戦闘中に兵士が勝手に行動してはいけないのですよ」
ビナが一生懸命に説教しているのだが、そこに全く迫力はなかった。
しかし、それでも、アストルの落ち込んでいる表情から、ビナの説教がアストルの心に響いているようにエウスは見えた。
「ビナそれぐらいにしてやってくれないか」
エウスが二人の間にわって入った。
「でも…」
ビナも困った顔をしてしまう。ビナは戦闘については経験を積んでいるため、軍での団体行動の大切さを十分に知っていた。
「俺の指導不足だったところもある」
「そんなことは絶対にありません、これは私の意地が招いた結果です、エウス隊長のせいではありません」
アストルが強く焦った口調で自分の過ちを認める。
「本人も反省しているみたいだから、ここは怒りを抑えてくれないか?」
エウスが自身の過ちのときよりも、申し訳なさそうな声で言った。
そのエウスのいつもと違う感じにビナも調子を狂わされてしまった。
ビナがアストルをジーと睨みつける。
アストルのしおれた表情に、ビナも諦めがついたのか、アストルを睨むのをやめた。
「わかりました、次にこんなことが無いようにするのですよ、これはあなたが戦闘で無駄死にしないようにするために、言っているんですからね」
ビナは、そう言ったあと、ハルとライキルの方に走って行った。
「エウス隊長すみませんでした、自分の勝手な行動でエウスさんまで危険な目に遭わせてしまって」
「ああ、そうだな、俺もあの状況は、ハルがいなかったら、重症か死のどっちかだったかもな」
アストルは自分の犯した愚かな行動で人の命を危険にさらしてしまったことを深く反省して、その場でじっと固まっていた。
「でも、なにか理由があったんだろ」
「強くなりたかったんです、早く成長したかったんです」
エウスの質問にアストルは即答した。
「その…強くなりたいのには、何か他の人とは違う特別な理由か何かが?」
「そ、それは……」
アストルはもごもごと口ごもらせていた。
「いや、言いたくなかったら言わなくていいんだ…」
軍に入るひとは、悲しい過去を持っている者もいる、みんなが望んで王国のためだけに、軍に入るわけではない。軍に入る理由は人それぞれなのだ。
「王都にいる許嫁と結婚するためです!!!」
理由は人それぞれだが、アストルの理由は悲しいものではなかった。
「立派な男になって、彼女を迎え入れたいのです!」
「アハハハハハハハハ」
その答えにエウスは笑ってしまった。それはさっきの死にそうになった緊張が、今やっと解かされたみたいな感覚にエウスは襲われた。
それと同時にエウスの頭の中には、キャミルの顔が浮かんだのだった。
「すみません」
「いや、立派だよお前は純粋すぎる、ハルより何倍も純粋な奴だ」
エウスは笑うのをやめて、アストルの顔をみる。
「彼女の名前なんて言うんだ?」
「アリスです」
「そうか、アストルそしたらアリスのために強くならなくちゃな」
「は、はい」
エウスはアストルの背中をバシバシたたきながらもう一度笑った。
それから魔獣たちの埋葬が終わり、ハル達は貿易の中心地都市といわれるパースに足を踏み入れるのであった。




