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解放祭 闘技場

 ギゼラが馬車から下り地に足をつけるとそこで待っていたのはなんとも度し難い光景が広がっていた。レイドの英雄を愛してやまない自分の上官ことルナ・ホーテン・イグニカが、哀愁漂わせて監視の対象であるハル・シアード・レイのことを見ていた。

 闘技場エリアに入っていく彼は女性と手を繋いでいた。その女性は調べがついているガルナ・ブルヘルだということだから監視の上で問題はなかった。

 ルナがショックを受けたと言われればそうなのだろう。

 誰だって自分が想いを寄せている人が他の相手と親し気にしていたら心中は穏やかではない。どんな境遇の人間だろうが人である限り、そんな感情が湧いてくることは必定のようなものであった。


「ルナさん…」


「なんだギゼラ?」


 ルナの憂鬱な表情は、いつの間にか、いつものクールで気高い表情に戻っていた。


「あ、いえ、その……」


 ギゼラは励ましの言葉を紡ごうとしていたが、すぐにいつもの表情に戻っていることに少し驚いた。

 ギゼラとて人を愛する気持ちはわかる。だから本気でルナがショックを受けたと思ったときは同情するし、何か役に立ってあげたいと思うが、自分もまた何かしてあげれるほどの力はなかった。


「…どうしたの?」


 ルナは、ギゼラの伏し目がちな仕草や少し焦っている様子が気になった。しかし、ルナは、ギゼラのその表情やしぐさから彼女が何を考えているかの答えを得た。


「もしかして、気遣おうとしてくれたの?」


「え、まあ、そうです、だってルナさん悲しそうな顔をしてましたし…」


「確かに彼に手を繋いでもらうなんて、羨ましい限りだと思ったけどさ、でも、私そんなに悲しそうだった?」


「まあ、私が見た限りでは絶望してる様に見えましたね」


「あれぐらいでそこまでいかないよ、だって私、何番目でもいいと思ってるもん」


 ルナが気高く自信満々な表情でそう言ったあと「それより、ちゃんとやることやらなきゃ…」などルナは続けて任務のことを気にしていた。


「………」


 ルナの姿がギゼラにはなんだか可哀想に見えてきてしまった。まだルナはハルという人間と知り合ってもいない一方的な関係なのだ。そんな彼女は健気に機会をうかがって待って踏み出せないでいた。今までずっと。そして、もしくはこれからも…。

 ルナが彼のことをとても愛していることはよくわかったっていた。が、それと同時に、自身の立場も彼女はしっかり理解しているようだった。


『ルナさん、ずっと自分が裏社会の人間だからって、躊躇している部分があるんだろうな。汚れ仕事を続けてきた人間が幸せになってはいけない、闇の中にいる人間が光の中にいる人間と幸せになってはいけないってそう思ってるんだろうな…』


 これはギゼラの憶測であったが、そのような節が彼女にあったのを何度か過去に見ていた。


『でも、それは間違ってるよ、ルナさん、もし、そうだったら、この世の誰もが幸せになってはいけないことになっちゃいますよ…』


 隣にいる気高く可憐なルナをギゼラはそっと盗み見た。彼女の視線は闘技場エリアに入っていくハルの姿を目で追っていた。


『私、頑張ろう、どうにかしてこの祭り中にルナさんとハルさんの距離を少しでも縮めてあげよう…リスクは承知のうえだぜ…』


 ギゼラは決心した。


「行きましょう!ルナさん!」


 ギゼラはルナの手を掴むとズカズカと前に進みだして闘技場の入り口の門を目指した。


「え?え?急にどうしたギゼラ!?」


 突然の彼女の行動に困惑しつつルナも一緒に歩き出していた。





 ハルとガルナが、闘技場エリアの入り口の門をくぐると、まず最初に目に入って来たのは出店だった。どれも酒や食べ物を提供しており、試合を見ながらの飲食が可能といったところだった。

 広大な敷地を活かした闘技場エリアの真ん中には、闘技を行う正方形のリングがあった。それをいくつもの段々状の座席が周りを囲っているため、門をくぐっただけでは試合の様子を見ることができなかった。

 その試合を見るためにはどうやら入場券を購入する必要があるらしくハルは入場券を売っているテントまで足を運んだ。


「すみません、入場券二枚もらえますか?」


「はい、二枚ですね」


 受付の人から入場券を二枚、お金を払って受け取った。ハルが闘技に参加するためにはどうしたらいいかと尋ねると受付の人が少し離れた場所のテントを示してくれた。

 ハルが礼を言うとガルナを連れて闘技に参加するための別の受付テントに向かった。


 闘技参加者の受付テントの周りには屈強な戦士たちが集まっていた。そこに女性を連れたハルはいささか場違いに見えたが、ガルナの屈強な傷だらけの肉体は引けを取らないどころかその場にいた誰よりも筋骨隆々だった。

 強面の人々をかいくぐって二人は闘技参加の受付テントに入って受付をした。


「はい、ガルナ・ブルヘルさんの参加を受諾しました。それではこちらをお受け取りください」


 そう言って受付の人がガルナに数字が刻まれたコインが渡された。


「これはなんだ?」


 受け取ったガルナが首をかしげた。


「こちらは名前を呼ばれてリングに上がった際に審判にお渡しください、本人確認の代わりとなりますので、なくさないようにお願いします」


 メダルの説明を終えた受付の人は続けた。


「参加の際の注意事項は隣の看板に書いてありますので必ずご自分でお読みください、分からないことがあれば係りの者にお伝えください」


 受付の人が説明をし終わると看板のあるテントの右手を示した。


「分かりました、ガルナいこうか」


 テントを出た二人は注意事項の書かれた看板の前まで来た。


「ハル、なんて書いてある?」


「そうだな、まず魔法は全部禁止だって、一般魔法も特殊魔法も天性魔法も全部、それから、武器の使用も禁止、武器は己の身体のみってことだね、あと防具は指定のを着用と、勝敗は相手を戦闘不能にするか、相手が降参をしたらで…」


 ハルは看板に書かれている続きを呼んでいく。


「負けたら試合の参加権を失い、再び参戦したい場合は再登録と参加費が必要。なるほど、一回負けてもお金を払えば何度でも再戦できるのか、逆に勝ち続ければずっと戦っていられる、戦闘好きにはいいね」


 この闘技は、娯楽と経済を重視されたものであり、強者の頂点を決めたりする神聖なものなどでは全くなかった。つまり安全で集客さえできれば何でもいいといった軽いものだった。それでも闘技とは人気な催しものであり、人は多く集まっていた。


「あとは、十連勝以上した人は任意に休息が取れ、リングから離れても再び試合に参加できる。つまり負けない限り何度でも試合に参加できるってことだね。そして、最後に審判や係りの人には絶対に従うことだって」


 説明をし終わったハルはガルナが理解できたか様子をうかがった。


「魔法なし、武器無し、審判には従うだな、分かった」


 大まかな部分をおさえていたのでハルは良しとしたが、ひとつだけ一番大切なことを忠告しておく必要があった。


「あと、白魔導士がリングの近くに控えてるみたいだけど、やりすぎはダメだよ」


「うん、力の扱いは任せて!」


 自信満々のガルナにハルは良しと深く頷いた。


 そして、二人が闘技場の観客席に移動しようとした時、誰かが二人に声をかけてきた。











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