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解放祭 武器エリア

 三等エリアには大通りが一本、街の中に通っており、半円状の三等エリアをぐるりと一周することができた。

 道の真ん中には祭りが運営する馬車が走るスペースも確保されているため、人込みを嫌う人たちは馬車を利用した。馬車を使うほとんどが貴族や商人などお金を持っている人がほとんどだった。

 その大きな道の脇には出店が集中するため自然と人々が集まり、三等エリアの表通りに人々の大きな流れができていた。

 出店は基本的に木で組まれており、屋根の布は様々なカラフルな色の布を使っていた。外に立ち並ぶ出店はそれだけでも視覚的に楽しませてくれた。が、そこから漂う甘い匂いや出品されている商品がさらに行きかう人々の興味をそそらせていた。

 三等エリアを街という外見にしている建物のほとんどはレストランや宿泊施設であり、その建物たちの前に出店が立ち並んでいるという形だった。

 出店も、歩きながらでも食べられる料理などを売っているお店が主であった。焼き菓子、クレープ、菓子パン、一口サイズの肉、飲み物になると果物を絞った甘い飲み物やお酒が振舞われていた。

 しかし、もちろん出店には食事ができるものだけではなく、武器屋、アクセサリー屋、本屋、服屋、化粧品屋など、多くの種類のお店が並んでもいた。

 さらに、商品だけではなく、ところどころの大通りで音楽を奏でる者、物語を話す者、吟遊詩人、旅芸人などがパフォーマンスを披露しており、そこにはより多くの人々が集中していた。


 そんな賑わう三等エリアでハルたちは祭りを満喫している真っ最中だった。


「見てビナちゃんあんなところに美味しそうな焼き菓子があるよ!」


「本当です!いい匂いがします、朝ご飯は食べましたが、甘いものは別腹です、行きましょう!」


 キャミルとビナが出店に突撃して行く、二人は歳も同じでありすっかり仲良くなっていた。それは間にエウスが入ったことも大きかったが、キャミルの持ち前の明るさと人懐っこさがビナの警戒心を解くことになった。それにキャミルのいい意味で王族っぽさが無いところも素早く彼女と距離を縮める要因のひとつだった。


「仲いいですね、二人とも」


「まあ、なんとなくあの二人は仲良くなると思ってたよ、キャミルがお姉さん的な立場でビナが妹みたいに、相性いいだろ?」


「まあ、そうですね、ビナは妹みたいで可愛いです、私より年上ですが、そう思ってしまうほどにはほんとに」


 ライキルが出店で焼き菓子を選んでいる二人の姿を穏やかな瞳で見つめていた。


「お前もはしゃいでいいんだぜ?」


「はしゃいでますよ、ただ朝ご飯食べたばかりで今、あの焼き菓子が入りそうにないだけです」


「ハハッ、言われてみれば確かにそうだ、キャミルは食べてきたか知らないが、ビナはほんとに大食いだな」


 エウスも出店にいる二人を見た。キャミルがビナと楽しそうにしているのを見て、エウスも温かい眼差しで二人を見守った。


「ハル、闘技場ないな」


 ガルナが辺りをきょろきょろ見回していた。


「まだ、先だと思うよ、ここら辺は出店を中心に出してるっぽいからね」


「そうだったのか、通りでないわけだ」


 そこでガルナが何かを見つけたのかハルの肩に手を置いてある出店を指さした。


「ああ、見て見て武器が売ってるよ、あそこ見に行きたい!」


「いいね、二人が戻って来たら見に行こう」


 ビナとキャミルが焼き菓子を買って戻ってくると、ハルが武器屋に行かないか?とみんなに提案した。もちろんみんなは特に行く場所も決まってなかったため、賛成して武器の出店に行くことが決まった。


 武器を出している出店はひとつだけではなく、ある程度固まって武器を売っているお店が並んでおり、そこは武器エリアとなっていた。

 その武器エリアとなっているお店の周りには冒険者らしき人たちやどこかで騎士をやっていそうな屈強な肉体を持った人達などが集まっていたが、大きな祭りなこともあって、家族連れの普通の庶民たちも数多くいた。


 ハルたちも武器エリアに入って並べられている数多くの商品を眺めた。武器や防具の中古の物から新品の物、骨董品のような古い武器や防具、さらにはもう使えなくなったエーテル石が埋め込まれた杖である、【魔法の杖】というものも売っていた。

 昔は【魔法使い】と呼ばれた者たちがその杖を使い自分の魔法を使うときの補助や実力以上の威力の魔法を行使するときに使われ、魔法使いにとって必須の持ち物だった。が、世界からエーテルという力が消えたと同時に、エーテル石の力もなくなり、魔法の杖はただの透明な石ころが埋め込まれた杖になってしまっていた。


 魔法使いは、現在、魔導士という名前に変わっており、その二つの違いはほとんどなく、呼び方が違うだけである。


「これ魔法の杖ですよね、昔、使われてた」


 ライキルが出店で杖をひとつ手に取って眺めていた。彼女が手に取ったのはしっかりと加工された木の杖だった。その木には透明なガラスのような石が埋め込まれていた。


「そうだよ、よく知ってるね、特に今あなたが持っている杖は現役だったものだからちょっとお高いよ」


 店の女主人が答えた。


「てことは二百年も前の物ですか?」


「そうなるね、どうだい持っていればそれなりに自慢できる骨董品だよ」


 木には特殊なコーティングがされており木が腐るのを防いでいた。


「でも、私は剣の方が好きなので、そっちの短剣の方が気になっちゃったりします」


「フフ、そうかい、好きなものがあったら言っておくれ」


「すみません、このナイフって魔獣用ですか?それとも獣用ですか?」


 エウスが女主人に尋ねていた。

 キャミルはエウスの隣でそのやり取りを焼き菓子を食べながら眺めていた。ビナはライキルと一緒に短剣を見ており、彼女の手にはもう焼き菓子の姿はなかった。


「ガルナ、見てあそこに大剣がたくさん並んでる行ってみない?」


 一方、ハルは大剣だけを専門に取り扱っている出店を発見していた。


「ほんとか!?行く、行く!」


 ハルはみんなに少し離れた出店を見てると告げるとガルナと大剣の専門店に向かった。

 その大剣の出店には屈強な男たちが集まっており、女性と言ったらガルナだけだったが、彼女の露出している腕や足の筋肉と深い傷だらけの姿を見ると自然と周りの男たちが道を開けていた。正直ガルナの外見はかなり周りの人々に衝撃を与える見た目をしているが本人にその自覚は無かった。


「おお、すごい新品だ、しかもかっこいいものばっかだ!えへへ」


「ガルナはいつもどういう基準で大剣を選んでるの?」


 ハルはガルナの隣でたくさんある大剣を眺めながら彼女に質問した。


「私は、重くて頑丈なものだ、それが一番最強だからな、ンフフ」


 ガルナは目の前にある大剣たちにうっとりしながら答えた。


「なるほど、シンプルでいいね、それに頑丈さは確かに重要だよな」


 ハルは自分の愛刀である弐枚刃のことを思い浮かべた。異常に頑丈な不思議な刀のことを。


『他の武器はもろすぎるんだよな、弐枚刃以外ならまともに振れそうなのは大剣ぐらいかな?でもやっぱり弐枚刃は二つで一つなんだよな…』


 ハルは無くしてしまった片方の刀【皮剥ぎ】の代わりに大剣で代用しようかと思っていたが、実際に大剣を持って見ると重さは全く問題なく軽々と持ち上げることができたが、大太刀という独特なものに慣れたのか大剣は全くハルにはしっくりこなかった。


『もし見つからなかったら首落とし一本でいくしかないか…』


「ハル、いいものは見つかったか?それ?」


「ああ、俺は大剣はいいかな、それよりガルナは何かいいもの見つかった?」


「また今度だ、ここに私を満足させるものはなかった!」


「そっか、それは残念」


 祭りの出店と言っても今目の前に並んでいる物は決して悪いものではなかった。人が集まるこの祭りに力を入れるのは当然だった。それは多くの人の目に留まる絶好の機会だったからだ。しかし、それでもガルナのお気に召すものはなかったようだった。


 ハルとガルナが店を離れると、ちょうどライキルやエウスたちも買い物を終えたらしく、六人は再び合流して歩きだした。


「そっちは何も買わなかったんだな?」


「エウスたちは何か買ったの?」


 ハルが尋ねた。


「おう、俺は魔獣用のナイフを新調したよ、霧の森でダメにしちまってな新しいのが欲しかったんだ」


「私も新しい短剣を買いました」


 ライキルがハルに短剣を見せるとその短剣はシンプルで機能美溢れる物だった。


「いい買い物をしたね」


「はい!」


 ライキルが満足そうな笑顔だったので、ハルも自然と笑顔になっていた。



 ハルたちは再び武器エリアを歩き始めた。途中、何度かまた別のお店を覗いてみてはみんなで盛り上がっていた。武器とは無縁そうなキャミルもビナが得意そうに語るのを楽しく聞いていた。

 そうしてハルたちが、武器エリアを抜けようとした時、ある出店で見覚えのある人物をハルは見かけた。


「あれ…」


 ハルが見たのは一人の男性だった。大柄な体格に厳つい顔だが威圧的な印象は彼の優しい笑顔で相殺されていた。長い黒髪を後ろで一本でまとめており、腰からは長いロングソードを下げていた。彼の全身からは勇ましさが溢れていた。


「レイゼン卿だ!」























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