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解放祭 三等エリアへ

 気持ちのいい青空の下、ハルたちを乗せた馬車は、高級宿泊施設が立ち並ぶ一等エリアから、高級レストランなどの一流のお店が立ち並ぶ二等エリアを抜けて、祭りの中心といっていい一般公開されている三等エリアに到着した。

 エリアをまたいで移動していくごとに賑やかになっていくのを馬車の中にいても感じることができた。


「皆さん、三等エリアに着きました」


 御者が馬車の扉を開けて、中にいた六人に声をかけた。


「わーい!!」


「やったー!!」


 ビナとガルナが勢いよく馬車の中から飛び出して行った。


「おいおい、二人とも飛び出すな危ないぞ」


 エウスがやれやれといった表情で、馬車から下りようとすると、彼を押しのけてキャミルが馬車から飛び下りていく。


「うわーい!!」


 キャミルは満面の笑みで外にいる二人に抱きついていた。


「キャミルさんあなたもですか、まったく…」


 そういうエウスだったが、彼の顔はとても嬉しそうに微笑んでいた。

 次にライキルが先に馬車を下りると、ハルに手を出した。


「はい、ハル、手をとってください、足元に気を付けてくださいね!フフッ」


 ライキルが眩しい笑顔で、馬車から下りてくるハルの方を向く。


「ハハッ、ライキルは紳士だな」


 ハルもライキルの手をとって下りると笑顔で返した。

 馬車から下りるとそこには石造りの美しい街並みが広がっていた。そこは祭りのためだけに短期間でつくられたとは思えないほど、歴史があるような街のように見えた。

 そんな美しい街は、多くの人々でごった返していた。主に人族が多かったが、エルフ、竜人族、獣人族がおり、そして、珍しくドワーフと思われる人々の姿もあり、各国からいろいろな人が遊びに来ていた。


「それじゃあ、さそっく行こうぜ」


「最初はどこに行くの?」


 キャミルがエウスに尋ねた。


「そうだな、最初は適当に歩いて何があるか見て回ろうと思うんだがそれはどうかな?」


 エウスの意見にみんなが賛成した。全員で固まって離れないように人の波の中を進みだした。

 元剣聖のハルとレイド王国の王女のキャミルがいたが、案外ばれないものであった。キャミルはよく国民に顔を見せる機会があったが、常に豪華に着飾った姿で表に出てくるため、まさか私服でそれも庶民が着るような服で出てくるとは誰も思っていなかった。

 ハルに関しても元剣聖であるためかなり有名だが、国民に顔を見せる機会は以外に少なかった。それに彼も表に出る時は正装をだったり、騎士たちが戦闘用に着る騎士服などで姿を現すため、私服姿のハルなど想像がつかなかった。


「あそこに美味しそうなお菓子屋さんがありますよ!」


「なあ、闘技場はどこにあるんだ?」


「見てください、本屋さんがあります!なぜこんな場所に!?」


 左からはライキルが、右からはガルナが、前からはビナがハルを引っ張っていた。みんなが左、右、前からそれぞれ自由に各々話しかけてくるため、そんな彼女らにあたふたしながらハルは対応していた。


「ハルの奴、両手に花どころか前にも小さな花とは元剣聖様はモテるねぇ」


 エウスが困っているハルを後ろから見ながら言った。


「元剣聖だからじゃないでしょ、ハルだからモテるのよ」


 エウスの隣にいたキャミルが言った。


「違いないなぁ、二回の王都救出、四大神獣の白虎討伐、財や地位もあって、それなのにあいつは純粋で決して思い上がったりしない」


「相変わらず、ハルのことになると、べた褒めね」


「当然、というよりは事実を言ってるに近い、二回、神獣の群れから王都を救っただけでもすごい地位と財だ。あの活躍で剣聖を引退して隠居する選択も十分にありだった」


 ありえたかもしれない未来をエウスは語った。


「そうね、レイドにさえ所属してくれていたらお父様もそれを許したでしょうね」


「だろ、けどあいつは四大神獣を討伐することを選んだ。それはみんなの安全を広げるためで、自分を犠牲にしてまで…」


 エウスはそこでキャミルの方を向いて彼女の顔を見た。真摯に真剣な表情で聞いてくれている彼女がいた。


「っと悪い、祭りだってのに、暗い話に突入するところだった…」


「別にいいよ、エウスの話なら私なんでも聞くよ?」


 覗き込んでくる彼女の瞳は、綺麗な虹色の輝きを放っていた。


『ああ、相変わらずキャミルはいい女だな、なんで王女様なんだろうな…』


 その瞳を見て思う。彼女が王女じゃなければ、きっとすぐにでも手なんか繋いだりしていたんだろうなと…。

 普通の女の子に見えてもキャミルは大国の王女であり、特別な存在なことには変わらなかった。

 エリー商会という大きな力を持っているエウスだったが、相手が六大王国の王族ともなると大商会の会長という肩書だけではまだまだ全然足りなかった。せめて特名ぐらいあればもっと深い関係も築けたのかもなとエウスは思った。


「どうしたの?エウス?」


 黙ってしまったエウスの様子をキャミルがうかがった。


「いや、なんでもないさ」


 キャミルはそこで一瞬エウスの寂しそうな顔を見た気がした。が、すぐに彼は笑顔を取り戻していた。


「それより、ククッ、もっとあいつを困らせてやろう」


 エウスは一度、にやりと笑う、その笑顔はいつもよからぬことを考えているときの顔だった。そして、エウスは駆け出し、ハルの背中に飛びついていった。とてもエウスのような大人がやることではなかったが、彼の場合悪ふざけをするときはいつも全力だった。

 飛びついてきたエウスをハルは反射的にキャッチすると軽々と彼の体を支えた。するとその光景を見ていたライキルがエウスとすぐに喧嘩しだしていた。


「エウス!なんでハルの背中に乗っているんですか!?ず、ずるいですよ、というかなんでハルも受け止めちゃうんですか!?」


 ライキルがハルの背中からエウスをどけようと彼の顔を押しのける。


「いででででで」


「………」


 その光景をキャミルは遠くから見ていた。


『みんな霧の森で戦ってきたんだよね、それなのに本当に楽しそうで幸せそう…』


 今、目の前でバカ騒ぎしている、みんなは騎士であり、霧の森で命を落としてもおかしくはなかった人達だったと考えると、キャミルは塞ぎこんでしまいそうになった。まだ四大神獣のうちの一角を倒したに過ぎず、すぐにまたみんなは危険な場所に行ってしまう、それは分かっていた。

 しかし、だからこそ今を楽しまなければとキャミルは思った。


『この時間は貴重な時間だ…』


 キャミルが前を向く。すると、まだハルの背中へばりついていたエウスが手招きをしていた。


「フフッ、バカ、だなエウスは…」


 キャミルが駆け出す。そして、彼女もハルの背中に飛び移った。


「んああ!?キャミルまで!ハルの背中は私のものですよ!?」


 ライキルが叫ぶ。


「んなわけないだろ、ハルの背中はみんなのものだぜ!」


「違うけど、ていうか二人とも恥ずかしいから下りておくれ」


 二人も背負って、さらに左右に女性を付き添えているハルには自然と通り過ぎる人たちの視線が刺さっていた。キャミルならまだなんとなく見栄えが良かったが、エウスのような青年もいるとなると目立つのは当たり前だった。


「そんなこと言わないで、私、乗ったばっかだよ?」


「ええ?キャミルさんそれはどういうことです?」


 キャミルのよくわからない理由にハルは困惑していた。


「アハハハハハハ!」


 ハルの左には怒っているライキルと、右には自分も構って欲しそうなガルナが、前には、そのハルたちを見ておかしそうに笑っているビナが、後ろには仲良く笑い合うエウスとキャミルがいた。


 出店や出し物が多く祭りの中心といわれる三等エリアに足を踏み入れたハルたちの解放祭は幕を開けた。





 三等エリアを歩くハルたちの後方には、ルナとギゼラが彼らの後をつけていた。


「ハルさんたち楽しそうっすね、というか人多いな…」


 ギゼラがルナの隣で屋台の焼き菓子を食べながら小さな声で言った。食べながらしゃべるのでぼろぼろと常に菓子の屑を地面に落としながら歩く姿はとても誰かを尾行しているようには見えなかった。


「ギゼラ、食べるのもいいけど警戒も忘れないでね、目が一つあるだけでも違うから」


 周りに聞こえないように小さな声でルナが囁く。


「分かってますよ、でも、そんなに気を張らなくてもいいんじゃないんですか?はい、これ、美味しいですよ?」


 ギゼラが抱えていた箱の中から、焼き菓子を一個取り出してルナの口もとに運んできた。


「まあ、そうだけど、それでもよ…」


 ルナとギゼラが、ハルたちについているのは、イルシー以外の新たな脅威が現れた時の対応などがあったが、基本的に彼らを監視することが目的だった。

 実際にハルたちを裏から護衛することも任務のうちだが、護衛の役目は、現在ハルたちを陰から守っている王族直属の護衛騎士たちの仕事だった。彼らは人ごみに上手に紛れ込みながら、ハルたちの周辺を警戒していた。

 彼らは、もちろん、ルナたちのことを知っており、協力者となっている。


「それにしてもルナさんの私服とっても可愛いっすね!」


 ギゼラは完全に任務より友達と祭りに遊びに来ているような感覚だった。その方が人々に紛れるには都合が良かったが、ルナは彼女が楽しむ方に傾きすぎてるような気がした。そんなルナだったが、いざ着ている服を褒められると嬉しいもので彼女に甘くなってしまうのだった。

 ルナの服装は、上品な暗い赤色のゆったりとした上着に、真っ黒なスカートを履いていた。銀のイヤリングに、手にはいくつか指輪がしてありどれも高そうな宝石が埋め込まれていた。


「そう、ありがとう、でもギゼラの服も可愛い似合ってる」


 ギゼラの服装は、クリーム色の服に、橙色の大きなぶかぶかの上着を羽織っており、かなり短いズボンを履いていた。そのため、まるでズボンを履いていないように見えて、ギゼラの綺麗な生足がはっきり見えた。


「えへへ、素直に褒められると照れるっすよ」


 そんな彼女たちは武装もしっかりしていた。

 ルナは腰に双剣をベルトでとめており、ギゼラはショートソードを一本腰から下げていた。

 祭りの中も、基本自分の身は自分で守らなきゃいけないため武装を許可されていた。

 唯一の武器の持ち込み禁止エリアは特等エリアだけだった。

 しかし、周りにはアスラとレイドが用意した騎士がごろごろいるため治安はそこらの街よりはよっぽど安全と言えた。

 しばらく、そんなお祭り気分で二人は歩いていたが。


「ルナさん、ひとつ聞きたいんですけど」


 ギゼラが少しキリッとした顔つきでルナを見た。


「なに?」


「ほんとに来るんですかね?そのやつら…」


 ギゼラが言っているのはドミナスの人間のことだった。実際に彼らがこの祭りに来るとは限らなかった。暗殺者の暗殺をドミナスの人間が直々にする確率は低かった。どこか別の組織の人間を雇って暗殺させることも可能だった。


「来てると思う、実際にあっちの方をドミナスが直々に襲撃してるわけだし」


 あっちの方とは暗殺組織イルシーのことをさしていた。


「彼らかなりハルさんのことを重要視してると思う、そうじゃなければあっちを攻撃するとき自分たちの組織の人間を送る必要が無いわ、彼らは裏から操るのが得意なんだから」


「なるほどです、確かに言われてみれば…」


「というかここで、こんな話しさせないで」


 周りはかなりの騒音で賑わっていたが、誰が聞いているか分からない場所での詳しい話は避けたかった。


「ああ、ごめんなさーい!」


 ギゼラの顔がへらへらした顔に戻った。


「あ、ルナさん、あんなに遠くにみんなが!」


 気が付くとハルたちが遠く離れて歩いていた。


「急ぎましょう、見失う前に」


「はい!」


 人込みの中を二人は駆けて行った。








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