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解放祭 君の寝顔・ある組織の会談

 ライキルが朝の身支度を終えて部屋から出た。彼女の格好は私服であり、へそが見え全体的に露出の高い服を着ていた。そこから見える鍛えられた彼女の筋肉は引き締まっていて美しかった。そんな服を着ているのも今日が祭りだからだった。

 階段を上がって来たエウスと出会った。彼も私服を着ていたが、少し堅い印象を与える、落ち着いた服装だった。


「おはようございます、エウス」


「おはよう、今日は珍しく遅いんだな」


「ええ、久々に寝坊しました…」


「そうか、まあ、別にまだ寝てても、キャミルを連れてくる時間があるから、構わなかったんだけど」


 みんなと一緒に祭りの三等エリアに行く約束をしていたキャミルは特等エリアにいた。ハルたちが泊まっている宿ブルーブレスは一等エリアにあった。特等エリア、一等エリア、二等エリア、三等エリアの順番でつながっているため、一回キャミルを迎えに行って戻って来るという手順を踏む必要があった。


「キャミルを迎えに行くのはいつ頃ですか?」


「今もう出ようとしてたんだけど、特等エリアの通行許可書忘れててな、部屋に取りに戻ってきたんだ」


「そうでしたか、すみません、任せてしまって」


 いつもはふざけているエウスだが、ライキルは彼がしっかりしているということもちゃんと知っていた。だから長く一緒にいても彼を心の底から嫌いにはならないのだろうとも思った。


「いいって好きでやることだ、それよりハルがまだ起きてないんだ、起こしてやってくれないか?」


「え!?まだ起きてないんですか?」


「らしいよ、一階の食堂にいるビナとガルナも見てないって」


「分かりました起こしてきます」


「頼んだ」


 ライキルは急いでハルの部屋のドアの前まで行った。いつも早起きの彼がまだ起きていないことに少し焦りを感じた。それは彼がたまに変な夢を見るせいで苦しそうにしている姿を何度か見てきたからだった。

 ハルの部屋の前まで来るとドアにノックをした。


「ハル、起きてますか?」


 中から返事はなかった。


『まだ寝てるのかな、でも、もしまた苦しんでたら…』


 迷うよりライキルは行動に移した。


「開いてる…」


 宿の部屋にはみんな鍵がついているが、ハルの部屋に鍵はかかっていなかった。

 部屋の中に入ってハルのベットに直行した。


「ハル…?」


 するとそこにはすやすや眠っているハルの姿があった。横向きになって気持ちよさそうな寝息を立てていた。


「良かった、ただ寝てるだけですね…」


 ライキルはそこでひとまず何事もなかったことに安堵した。

 普通にハルのことを起こそうとしたが、ライキルはすやすや眠る彼の寝顔をそのまま眺めていたくなってしまっていた。

 ライキルはしゃがんでハルの顔に目線を合わせてジッと彼を見つめた。


「いい夢でも見てるんですか?」


 眠っているハルの頭を軽く撫でながら質問してみる。当然返事は無い。

 そして、自分の夢を見ていてくれたらな、なんて少し恥ずかしい想像をしてみたりした。しかし、実際にライキルは、以前より自分に自信を持てなくなっていた。それは霧の森での出来事が大きく尾を引いていた。あのとき、ハルにすがるだけで何もできなかった自分は本当に彼の隣にいていいのかと悩むときがあった。そんなふうに悩むことは何回か会ったが、霧の森でのことはかなり響いていた。

 ハルにはもっと適した人がそばにいるべきなんじゃないか?と思うことが何度もあった。例えばもっと強い女性とかが、そう思うと真っ先に思い浮かぶのはガルナだった。最近、ハルはガルナのことを気にかけていることは知っていた。


「ハルはガルナのことが好きなんですか?」


 眠っている彼からの返事は当然なかった。

 別にそれでもいいと覚悟はできていた最終的にハルが誰を選ぶかは彼にしか決められないのだ。しかし、ライキルの本音は。


「私じゃダメかな…?」


 ハルの頬に手のひらで軽く触れて小さな声で言うが彼には聞こえない。


「…ん?」


「!?」


 その直後、眠りから覚めたハルに、ライキルは驚いて固まってしまった。


『もしかして、聞かれてた…!?さっき言ったこと全部聞かれてた!?』


 顔を赤くしながらライキルは、ハルを見つめることしかできなかった。


「あれ、おはよう、ライキルどうしてこんなところにいるの?」


 ハルは寝ぼけ眼の目をこすって、自分の頬に触れているライキルの手にそっと手を重ねた。


「ああああ、ああの、そそそ、その私は…」


 ただ心配して起こしにきただけだったが、ハルが寝ている隙に好き放題していたので、その後ろめたさがあった。それに加えてハルが手を握ってくれたことで慌てっぷりに拍車がかかり、ライキルの思考は乱れに乱れていた。

 上体を起こすとハルはライキルの握っていた手を引っ張って自分の方に彼女の体を引き寄せた。


「もしかして、悪いことしようとしてた?ねえ?ねえ?」


 互いに顔は近づき、ハルの青い瞳がライキルの黄色い瞳に映った。思考が乱れていく。


「そ、そのわ、わたし…」


 もう心臓が鳴りっぱなしで、真っ赤に紅潮したライキルはどうしていいか分からなくなってパニックになっていた。


「…フフッ」


 そこでハルが少し笑った。


「アハハハハハハ!なんてね、起こしに来てくれたんでしょ、分かるよ、ありがとね!」

 起きてライキルが部屋にいる時は決まって自分が寝坊したときだとハルは知っていた。それは長く一緒にいたから分かることだった。


「あれ?どうしたのライキル?」


 魂が抜けたように放心状態になったライキルに声をかけた。


「バカ、ハルのバカ…」


 気を取り直したライキルの口からはそんな言葉しか出てこなかった。


 ハルの身支度が終え部屋の外に出てきた。彼は伝説の魔獣である四大神獣を討伐した英雄とは思えないほどの平凡で庶民的な普通の格好で出てきた。しかし、人目に付く場所なら確かにその恰好は理にかなっていたし、そっちの方がなんとなく彼には似合っている気がした。


 それからハルとライキルは朝食をとるために一階の食堂に向かった。するとちょうど食堂で話しているガルナとビナの姿があった。ふたりも、もちろん私服であり、ガルナはいつも通り短いズボンに肩まで出てるスタイルの薄着で肌を見せる格好をしていた。

 ビナは白いレースの上着にひらひらした赤いスカートを履いていた。

 そんなふたりはすでに朝食を食べ終わっており、ハルとライキルが食べている間は、今日の予定など話し合っていた。

 ハルとライキルが朝食を食べ終わると、ちょうどいいタイミングでエウスがキャミルを連れて戻って来た。

 キャミルの姿はかなり庶民的な姿をしており、一目でレイド王国のキャミル王女だと気が付くのは至難の業だった。豪華さも華やかさも捨てて身を隠すことにすべてを注いでいる様に見えたが、ハル、エウス、ライキルの三人は彼女らしいと思うのだった。

「さあ、みんな準備はいいか?出発するぞ」

 エウスが呼びかけると、六人乗りの馬車に全員が乗り込んで出発した。


 楽しい祭りの時間が目の前まで迫っていた。




 *** *** ***




 とある場所のとある会議で七つの席に七人の男が座っていた。彼らの前には円状の巨大なテーブルがあり、等間隔に座っていた。その座席には番号が振り分けわれていた。


「本当に二人だけで大丈夫なのか?」


 一番の座席の男が言った。


「ええ、問題はありません。彼らは非情に優秀です。特に今回ギル・オーソン、彼が動いてくれるので問題ないでしょう。それに私の予想ではハル・シアード・レイは殺されません、というより彼を暗殺するなど…フフッ」


 七番の男が笑った。


「どうした何がおかしい?」


「すみません、ですが正直、彼は化け物中の化け物なんです。人間の皮をかぶった死神ですよ。今回の件に関わってないみなさんにはまだお伝えしてませんでしたが、霧の森を覆いつくすほどの巨大な魔法陣が観測されたことご存じでしたか?」


「!?」


 五、六、七番以外の人間は驚愕した。


「それはほんとうか!?」


 一番の男が言った。


「はい、そのとき現れたと思います…神話クラスの魔獣が…」


 七番の男が言った。


「ということは彼は…」


「そうです、ハル・シアード・レイは神話神獣を討伐しています」


「ありえん」


「実際に百メートル超えの死体も出ています」


「嘘だ…」


「事実です、我々の協力者がすでに戦闘後の森に潜入して現場を確認済みです」


「しかし、そうなると全四大神獣の討伐も夢ではないな」


 二番の男が声を上げた。


「ええ、ですが、その後が大変です。彼の排除は非情に困難を極めます」


 七番目の男が言う。


「待て、待て、そんな大物なら排除より勧誘がいいだろ、その方が賢明だ」


 一番の男が言った。


「いや、勧誘より脅した方が早い、いくら最強と言っても大切な人間を人質にとって言うことを聞かせて操ればいい」


 四番の男が言った。


「なるほど、じゃがそんなことしてこの大陸がまっさらに消えないことをわしは祈るけどな」


 三番の男が言った。


「どういうことだ」


「お前さんは若いし入って来たばっかだから分からないと思うが、神話クラスの魔獣の出現は人類滅亡までのカウントダウン開始と同義じゃ、つまりそれを殺した彼は人類を滅亡させるのも容易いということじゃ」


「だったら、先にハルを殺した方がいいだろ」


「おぬしは話を聞いておらんな?それでよく幹部まで上り詰めた物じゃ」


「そんなに褒めなくても」


「褒めておらんわ!いいか四大神獣がもう動きだしているんじゃ。黒龍は近年暴れすぎじゃし、山蛇の活動も活発化しておる、朱鳥はエルフの森におるから現状を把握できておらんが動き出しておるじゃろう。奴らが一斉に神話神獣を呼び出してみろ、この大陸は奴らの縄張り争いでお終いじゃ、だからどっちみち奴らを倒さなきゃこの大陸の人間の未来はないということじゃ、昔のわしらの先輩方でも無理だったんじゃから今の我々などでは手も足もでん」


「そうか、そう考えるとイルシーって組織はバカだな」


「あそこは金で雇われればなんでもする過激派の集まりじゃ、主義も正義もあったものじゃないただの人殺しの集まりじゃよ汚らわしい!早々に潰したかったが、あんなつわものがおるとは想定外じゃった…」


「上手くいかないよな爺さん」


「ああ、まったくじゃよ、このままじゃ総帥に顔も見せれんわい!」


「やっぱり【凶星の青い破壊光(ブルースター)】事件以前の戦争を管理している時代の方が楽そうですよね」


 二番の男が呟いた。


「全くじゃ、わしは戻りたいよあの頃に」


 三番の男は深いため息をついた。




 *** *** ***











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