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秘密結社ドミナスについて

 部屋に入って来た男女四人は、王たちの前まで来ると跪いて、頭を垂れた。


「彼らはいったい…?」


 カイが入って来た四人を見て呟いた。その四人は男女ふたりずつであった。見たところ軍の中でも誰も見たことが無かったが、アスラ帝国の騎士なのか?とカイは思った。


「彼らが今回の作戦を遂行してくれる実行部隊だ」


 アドル皇帝がそう言うが、カイもフォルテもまだその肝心な話の核となる部分を聞いていないので、彼らが何をするのか分からなかった。


「っと、すまなかった、まだ話しの途中だったな、彼らを紹介するのは先に話を終えてからの方がいいな、君たちも顔をあげて楽にしててよい」


 その四人は立ち上がって、それぞれ脇にそれた。男ふたりはアスラ側に、女ふたりはレイド側に移動した。


「それでどこまで話したかな?」


「ドミナスという組織が、なぜ、今回のこの解放祭に関係しているのかです」


 カイがアドル皇帝に答えた。

 そうだった、とアドル皇帝も思い出して彼は語り始めた。


「ドミナスの本質は支配だ。彼らは相手を支配するためならどんな手段を使ってでも服従させてきた。その過程で起こったのが、過去にあった五百年戦争という地獄にもつながった。それだけじゃない各国で起きた様々な悲惨な事件の後ろにはこのドミナスという組織が関わっていたとされている、それほど大きすぎる闇組織だったんだ」


 そこで一旦アドル皇帝は一息ついた。


「だが、ある時、彼らの組織に壊滅的な被害を与えた事件が起こった。君たちも知ってるように、この世からエーテルがなくなったとされる大事件【凶星の青い破壊光(ブルースター)】」


「機械都市マキナが消滅した事件ですよね…」


「そうだ、ブルースターがきっかけでドミナスという組織も消滅したかと思われていたが、彼らは生きていた。そして一度離れたこの大陸の主導権を再び取り戻そうとしているのだ。我々はドミナスという組織が完全に復活してしまう前にそれを阻止したいのだ」


「そのドミナスって組織が再びこの大陸中を支配しようとしているのは分かりました。でもいまいち今回の件と繋がりが……」


 そこでカイは頭の中で何かが結びつきそうになって口が止まってしまった。


『ドミナスもハルを暗殺しようとしてるのか?でもそしたらなぜ、イルシーの暗殺者たちが餌になる?ん?いや、待てよ…』


 カイが何かにひらめきそうになった時。


「四大神獣」


 ずっと黙っていたダリアスが一言呟いた。カイはダリアスの方を向いた。


「ドミナスは、全ての四大神獣が討伐されることを強く望んでいるんだ。この大陸の支配を悲願としている彼らにとって思い通りにならない四大神獣のような獣は邪魔なんだ」


 カイの頭の中で絡まっていたひもが解け、ひとつの考えが浮かんできた。


「ということは、もしかしてドミナスはハルの暗殺を食い止めようとしてるのですか?」


 四大神獣を倒せないドミナスが、ハルの暗殺を防ごうとしているのは納得できた。自分たちにできないことをハルがやってくれるのだから。


「そうだ、彼らはハルの暗殺を防ぐことに賛成なんだ。他の四大神獣も倒して欲しいからな、だからドミナスはイルシーのふたりの暗殺者を暗殺しようとしているんだ」


 しかし、その言葉を聞いてもカイはまだこの状況を飲み込むことができなかった。


『四大神獣に手が出せないほどの力なのは分かった。しかし、問題はドミナスとイルシーの人間はどっちがより脅威なんだ?力量がわからない。王たちはイルシーの暗殺者を容易く殺せると言っていたが、そんな暗殺者を事前につぶせないドミナスもまた間の抜けた集団としか思えない…』


 カイがそんなことを思う。全体的にまだカイはドミナスという存在がどれほど危険な組織なのか具体的にイメージで来ていなかった。


「ひとつ気になる点があるのですが、ドミナスが国々を従えるほどのすごい力を持っているなら、新参者のイルシーという暗殺組織なんかは容易くドミナスに潰されなかったんですか?その、暗殺者がこの祭りに送り込まれる前とかに。それともイルシーという組織が優秀なだけなのでしょうか?」


 カイは気になった点を質問した。


「ああ、そのことなんだが我々には【リベルス】という反ドミナスといった組織がついてくれているんだ。リベルスは、我々に情報を提供をしてくれている味方の組織だ」


『リベルス、また、知らない組織か…』


 カイは思った以上に軍の中で自分の知らないことが多いということに驚かされた。しかし、それと同時に彼は適材適所ということもわかっていた。知りすぎると厄介なこともあるというのは、大きな組織の中にいる人間にとって心得ておかなければいけないことだった。特に軍隊ともなるとそのようなことは頻繁にあるように思えた。


「リベルスはずっとドミナスと戦ってきた組織だ。彼らは多くのドミナスの危険な計画を阻止してきた言うなればドミナスの唯一の対抗勢力といったところだ。そのリベルスが今回、イルシーを監視して事前に潰されないように抑止となってくれているんだ。まあ、イルシーも役目を終えればきちんと潰すがな」


『なるほど、こちらにも心強い組織がいるってことか、なんとなく今回の全貌が分かってきた。要はイルシーの暗殺者をおとりにドミナスの人間を捉えるということだな』


 カイは頭の中を整理していた。解放祭は表向きには四大神獣の討伐を祝う祭りだが、裏では巨大な犯罪組織を潰すための舞台装置ということだった。


「待ってください、そうすると、ドミナスの人間を捕まえるまで、ハルはその間ずっと命の危険に晒されるということなんですね…?」


 黙っていたフォルテが口を開けた。


「そう言うことになるが、フォルテよ、ハル君を暗殺できると思うかね?」


 アドル皇帝はカイに向いていた首をフォルテの方に向けた。アドル皇帝は冗談だろう?といった顔をしていた。


「万が一の時があります、ハルも人ですので…」


 フォルテのその発言は弱々しかった。ハルが暗殺されるところなどフォルテも想像がつかなかったからだ。


「そうだな、だが安心してくれ彼の周りは一日中、アスラとレイドの特殊部隊が警護している。全員白魔法が使える特別な騎士たちだ、それに腕もたつ、だからハル君のことで心配することは無い」


「そうだったんですね…」


 フォルテの不安は小さくなったが、なくなったわけではなかった。彼も人でハルの友人なのだ。


「ところで彼らは誰なのですか?」


 そこでフォルテはさっき部屋に入ってきた男女四人を見回した。フォルテも彼らのことは一切知らなかった。そのためさっきから気になっていた。


「ああ、そうだった彼らがその特殊部隊の一員だ。隊長のふたりは前に出てきてくれるかな」


 アドル皇帝の指示で男女がひとりずつ前に出てきた。


「こちらはサム・フェルトル・アサイン。彼はアスラ帝国の特殊部隊【グレイシア】の実行部隊隊長だ」


 アドル皇帝は立ち上がって彼を紹介した。そして、そのあと、ダリアスも立ち上がるとサムの隣にいた女性を紹介した。


「そして彼女が、ルナ・ホーテン・イグニカだ。彼女はレイド王国の特殊部隊【インフェル】の実行部隊隊長だ。ふたつの部隊は今回ドミナスの人間を探してもらうために、協力して動いてもらうことになったんだ」


 グレイシアなんてアスラの軍で聞いたことが無いというのがフォルテの最初の感想だった。


「フォルテも知らないと思うが彼らは軍の中でも正式には公表していない秘密部隊といったところだ。主に表向きにはできないような仕事をしてもらっている」


「い、いいんですか、そんな部隊を、その…」


 フォルテが言いたかったことは、他国もいるのにそんな国の大事な部隊をさらけ出して良かったのかということだった。


「言いたいことはわかるぞフォルテ剣聖、だがこちらも同じだ。我が特殊部隊インフェルもそちらのグレイシアと同じで、軍の秘密の裏部隊なんだ」


 ダリアスが先にフォルテの不安を解消してあげた。


「ドミナスとはそこまでのものなんですか…?」


 カイが驚きの表情で言った。ふたつの大国が自国の秘密にしていた部隊を出してまで協力しなけらばならない存在。ここでカイは改めてドミナスという組織が、どれほど重要なのかを理解してきた。

 最初はたいしたことは無いと思っていたのだ。それはスケールが大きすぎるということもあったのかもしれない。現実味がなかったのだ。


「ドミナスは絶対に潰さなければいけない組織なんだ、それはみんなのためでもあるんだ」


 ダリアスのその言葉に、隣のアドル皇帝が深く頷き賛同していた。そしてダリアスは続けた。


「それとこの作戦は極秘なのは当然だが、特にハルにはこの作戦のことが絶対にばれないようして欲しいんだ」


「それはどうしてですか?」


 フォルテがハルに言った方がいろいろスムーズにいくのではないかと考えていた時に。


「ハルを裏の世界に引きずり込みたくないんだ、絶対にな…」


 ダリアスの暗く重たい言葉が響いた。そのときのダリアスの目は恐ろしいほどに据わっていた。その一瞬、部屋の中が凍り付いたように何もかもが静まり返っていた。




 それから、この会議でしばらく情報交換が行われたあと解散となった。特殊部隊の四人が外に出ていき、アドル皇帝も皇帝の直属の護衛たちとアスラの館に帰って行った。


 残ったダリアスがフォルテとカイに最後にこの作戦の内容を改めて確認した。


 作戦名は『サーチ』という名だった。

 この作戦の最終目標はこの祭りに来ているドミナスの人間を捕まえて組織の手がかりを掴むことであり。

 そのためには、暗殺組織イルシーから送られたふたりの暗殺者クレマン・ダルメートとティセア・マルガレーテを監視し、おとりに使うことだった。

 そして、これは極秘任務であり、誰にも話してはいけないということだった。


「と言った感じなのだが、この作戦で剣聖のふたりにやってもらうことはほとんどない!」


 ダリアスがきっぱりと言った。


「え!?」


 そこでカイとフォルテのふたりの息がぴったりあった。


「君たちには我々の護衛があるし、それに君たちは有名だからドミナスに顔が割れている。つまり君たちが動けば動くほどドミナスの暗殺者は姿を潜めてしまうということなんだ。彼らは用心深いそうだからね。だからふたりには緊急時以外この特級エリアから出ないで欲しいんだ」


「それは構いませんが、でしたらなぜ我々にこのことを伝えたのですか、相手国の特殊部隊まで知ってしまって…」


 フォルテがそう言うとダリアスは、ニッコリと笑顔を作った。先ほどとはまるで別人のように優しい表情だった。


「信頼してるからだよ、フォルテ剣聖のこともカイ剣聖のこともな」


 ふたりはしばらく呆然としていたが、すぐに跪いて感謝を述べた。それをみたダリアスはすぐに彼らを顔を上げさせた。


「おいおい、いいんだってほら、ふたりとも立ってくれ、俺もアドルの奴も申し訳ないと思ってるんだ。せっかくの祭りなのに、ふたりを外に出せないってことをさ」


 剣聖のふたりは、とんでもないと言った様子だった。


「でも、もしドミナスの暗殺者が剣聖に匹敵する強者だったらその時は頼むぜおふたりさん!」


「はい!!」


 カイとフォルテは息の合った返事をした。


 部屋を出たあとカイとフォルテは少しお互い挨拶をしてから別れた。


 カイが歩いている途中にふとあることを思い出した。


「そう言えば、あのルナって子、特名持ちだったな…それにホーテンって家名どこかで…」


 しかし、カイはその浮かび上がった疑問に答えを出すことができなかった。

















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