闇組織
「暗殺ってどういうことですか!?」
フォルテの口調は驚きのあまり強まっていた。尋ねている相手はダリアスとアドル皇帝どちらも国のトップなのだが、ハルという親しき友人のことなので焦るのも当然だった。
「………」
カイはフォルテとは違い頭を限界まで使って自分なりに何か考えて仮説を立てている様子だった。カイとてハルとは過ごした時間は短くない、ハルという人間をカイ自信、他人という枠には当てはめられない存在にはなっていた。しかし、カイは感情的にはならないこれは冷徹と言うよりは状況が状況なのだ。まだ時間には余裕があると王たちを見ての判断だった。
「フォルテ、落ち着いて聞いてくれ、ハル君がこの解放祭中に狙われていることは本当だ。彼に隙ができるのはこの祭りの間だけだからな。だが、暗殺されるといってもまだ時間もあるし、それに暗殺についてはそこまで重要な話ではないんだ」
アドルが興奮して隣にまで来たフォルテをなだめるように言った。
「暗殺が重要じゃないってどういうことですか?ハルの命が狙われているんでしょう!」
フォルテは気持ちを抑えようと努力していたが、一度膨れ上がった感情は納得させられるまでとどめておくのは難しかった。
『なんかさっきから会話に違和感があるな…暗殺が重要じゃないとはどういう意味だ?』
カイも先ほどのアドル皇帝の言葉を聞いて、その透き通った白い肌の顔をしかめていた。
「フォルテ剣聖、落ち着いて欲しい、そもそも暗殺とは何かな?」
そこでアドル皇帝に詰め寄るフォルテに、ダリアスが質問をした。
「暗殺って、暗殺というのは秘密裏に対象を殺すことです…」
フォルテは簡潔に述べた。
「その通り、秘密裏に対象の相手を殺す、秘密裏に、秘密に、誰にも知られないように相手を殺す」
「はい…あれ……?」
感情的になっていたフォルテはそこでやっと冷静になったのか、頭を使って考え始めた。
『ハルが暗殺されるってことなんで、もう知ってるんだ…そもそも暗殺って事前に知れるものなのか?何か変じゃないか?もしかして…』
フォルテは一瞬、アスラとレイド自体が敵なのではと思ってしまった。
そんな抜け出せない思考の沼に浸り始めたフォルテに、ダリアスが救いの手を差し出す。
「たいていの人が暗殺の計画をことを知ることができるのは、それが実行された時か、実行する人たちだけと想像する。が、今の状況はそのどちらでもない。言っておくが、我々はハルの味方であり彼を全力で守るつもりだぞ」
「では誰が、ハルを殺そうとしているのですか?」
フォルテが話の核心だと思うところを質問した。
「その質問なんだが、ふむ、そうだな、実のところハルを暗殺しようとしている組織も、人物も、もう分かっているんだ」
その事実にフォルテもカイも驚くばかりだった。
そして、ダリアスは続けた。
「その暗殺組織の名前は【イルシー】で、送り込まれた暗殺者はふたりだ。【クレマン・ダルメート】という男と、【ティセア・マルガレーテ】という女だ。それに彼らの居場所も素顔もすでに把握しているんだ」
『居場所も顔もか!?じゃあなぜ…?』
カイがそう思うと口を開いていた。
「そこまでわかっているならこちらも刺客を送るだけでよろしいと思うのですが…」
もっともな意見だった。居場所も何もかもわかっているならば、すぐにその不安の芽を摘み取ってしまえばいいのだ。と思うのだが、どうもそんなに簡単なことではないらしく、王たちの顔は険しい表情を保っていた。
「カイ剣聖の言う通りそのふたりを消すことは非常に容易いことなのだが、殺せない理由があるんだ、いや、生かしておく必要があると言った方がいい」
アドル皇帝がボードゲームの王の駒をひとつ摘まみ上げた。
「その理由をお聞きしても?」
「ああ、もちろんだ、一言でいってしまうと彼らは餌なんだ」
「餌ですか?」
「そうだ、でっかい魚を釣るための大切な餌なんだ」
「なるほど、なんとなく分かりました。それで具体的にどういったことなんでしょうか?」
分からないことだらけのカイはどんどん聞きこんでいった。
「ふむ、簡潔に言うと我々は【ドミナス】という組織を追っている。イルシーのふたりの暗殺者は、そのドミナスという組織の人間を、釣り上げるための大事な餌なんだ」
カイとフォルテのふたりにまた全く知らない組織の名前が登場した。
「そのドミナスという組織はどういった組織なんですか?」
フォルテが尋ねた。
「ドミナスは裏から国をも操る大きな組織だ。さらに昔からあるがその実態は未だにつかめない正体不明の組織だ。秘密結社と言っていい」
アドル皇帝は摘まんでいた王の駒をぎゅっと握った。
「待ってください、そんな大きな組織が、この解放祭やイルシーの暗殺者たちとどういった関係があるのですか?」
カイもだんだん話しの行く先が見えなくなってきていた。
「そうだね、そのことを今から話そう」
アドル皇帝陛下がそう言ったとき。
トントン!
部屋の扉からノックの音が鳴った。
「おや、ちょうどよく彼らが来たようだね、入ってくれたまえ!」
アドル皇帝が呼びかけると、部屋の扉が開き中から四人の男女が入って来た。