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王からの呼び出し

 レイドの館をキャミルに連れられて歩き回った後、ハルたちは客間で紅茶と菓子をいただくことになった。

 落ち着いた客間は部屋の真ん中に高級なテーブルと三人用のソファがふたつ置いてあり人数もちょうどよく、そこでお茶会を始めていた。


「いいところだな、さすがは王族が住むだけはある、高級品ばかりだ、ビナ、紅茶こぼしたらきっとこのソファ弁償だぞ」


 エウスが意地悪そうに、隣で紅茶を飲もうとしていたビナに言った。すると案の定ビナの手が紅茶の入ったカップの前でピタリと止まった。


「はわわ…」


 ビナの顔から一気に血の気が引いていった。


「なにビナを怯えさせてるのよ!」


 キャミルが隣にいたエウスの背中を思いっきり叩いた。


「グへッ!」


 エウスはその勢いで前かがみになっていた。


「ビナ、エウスの意地悪なんか気にしないで、リラックスしてよね!」


「は、はい!」


 そんなエウスの背中越しからビナはキャミルの笑顔が見えた。キャミルはみんなにこの館を案内する前に、重いドレスから動きやすい服装に着替えていた。その姿を見ると彼女は普通の女の子に見えたが、それでもやはり彼女からは上質な気品のようなものが漂っていた。


「そうだぞ、ビナ、ガルナを見ろ、あの堂々とした姿を」


 エウスがゆったりと身体を起こし、ソファにもたれかかりながら言った。

 ビナの正面にはソファの背もたれに腕を回し、足を組んで紅茶を飲んでいる姿のガルナがいた。


「ん?この、お茶おいしいぞ、もっとないのか?」


 空になったカップをひっくりかえしていた。


「もちろんあるよ、まだそのティーポットの中に入ってるんじゃない、はい」


 キャミルがガラスのティーポットを持ち上げるとハルがそれを受け取った。


「ガルナコップ貸して」


「あい」


 新しい紅茶をハルが注いでガルナに渡すといい笑顔で礼を言って彼女はおいしそうに飲み始めた。


「うまい!」


「それは良かった、もひとついかが?」


「いるいる」


 すぐに飲み干すガルナにハルは紅茶を注ぎ続けてあげた。ハルは彼女にカップを手渡すときに穏やかに笑っていた。受け取るガルナもそんな彼の笑顔につられて幸せそうに笑っていた。


「ハルは飲まなくて大丈夫ですか?」


 その様子を見ていたライキルはハルに声をかけた。


「ん?ああ、大丈夫だよ、ありがとうライキル」


 ハルの優しい微笑が向けられる。そのときの彼の表情はとても幸せそうで、少しライキルは悔しいと思ってしまった。


『私もたくさん飲めばよかったな…』


 そうライキルが思っていると。


「はい、ライキルも紅茶はいかが?」


「え?」


 そう言うライキルのコップの中もいつの間にか空になっていた。


「も、もらいます!」


 ハルに紅茶を注いでもらった。彼はガルナに向けられていた表情と同じ幸せそうな表情の笑顔を自分にも向けてくれていた。


「あ、ありがとうございます!」


「いえいえ!」


 見つめられたライキルの顔を自然と赤くなっていた。それに自分でも気づいたライキルはすぐにカップの中の紅茶を覗き込んで彼にばれないようにした。


『なんかずるいな…いや、私が勝手なだけか、ハルは誰にでも優しい、そうでしょ…?』


 紅茶の中の自分に問いかけるが答えはもちろん返って来ない。


「失礼します、キャミル様」


 そこに客間の扉が開かれ、ひとりの騎士が入ってきた。その騎士は白と青の清涼感のある服を着ていた。とても服装からだけでは騎士と見えなかったが、なぜ騎士と分かったのかは、単純に腰にショートソードを身に着けていたのと、彼らが王族直属の護衛騎士だということをガルナを除いたハルたちは知っていたからだった。


「あら、何かようかしら?」


 キャミルの言葉遣いは丁寧なものに戻っていた。彼女はこうしたハルたち以外の周りの人にはしっかり王女らしく言葉遣いを選んでいた。


「王がハル・シアード・レイ様にお会いしたいと申しております」


「そう、他のみんなはどうか聞いている?」


「申し訳ございません、キャミル様、シアード様だけと王は仰っておりました」


「いいのよ、分かったわ、ありがとう」


 キャミルはそう言うとハルの方を向いた。


「ハル申し訳ないんだけど彼に着いていってくれる、多分この館の裏にある宮殿まで歩くことになると思うけど」


 ハル達はこのレイドの館をキャミルに案内されているときに、さらに後ろに宮殿があるのを確認していた。そこはアスラの皇帝とレイドの王などが、合同の会議などを開いたりする場所であり、このレイド王国の館と隣のアスラ帝国の館と繋がっていた。


「さっき裏で見た建物だね、わかったよ」


 ハルはみんなにいっときの別れを告げると、客間を出て行き、騎士の後ろをついていった。


「あ、そうだ服はこのままでいいのかな?」


 歩いている途中でハルが目の前の騎士に質問した。


「ええ、大丈夫ですよ、急いで来て欲しいとのことでしたので」


「…そっか」


 ハルは王族のいる場所に行くこともありそれなりにいい服を着てきていたが一応確認をしておいた。いくらハルがダリアス王と親しくても相手は王様なのだ会うときは少しは気を遣うのだ。


 レイドの館の裏にハルが出るとそこは立派な庭園になっていた。花は少なかったがその庭園はしっかりと手入れをされていた。


『庭園まであるんだもんな、すごいよ…』


 ハルと騎士がその庭園を抜けると宮殿が見えて来た。さすがにレイド王国の王都にある宮殿と比べると規模もつくりも見劣りしたが、短期間でここまでのものを建てたとなるとハルも感心するしかなかった。


 それから、その宮殿の中に入り、ひとつの部屋の扉の前まで来ると騎士が口を開いた。


「ハル・シアード・レイ様、こちらにダリアス王がおられます」


「ここまでありがとう」


 ハルが礼を言うと、その騎士は一礼してそっとハルの前から去っていった。


 そして、扉の前にいた、ふたりの使用人が部屋の扉を開くと、ハルはその部屋の中に入っていった。
















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