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街のなか

 ハルたちの乗っていた馬車が動きを止めると、外から御者が扉を開けてくれた。ハルが馬車の外に出るとひとつ背伸びをした。周りには多くの馬車が止まっており、ここが馬車の乗り降りする場所だということが分かった。

 周りには馬のいない車体だけの馬車も多く止めてあり、遠くには厩舎のような施設も見えた。馬たちの食べ物には草原に建っているだけあって困ることは無さそうだった。


『あんな短い期間ですごいな…』


 ハルが感心して見ている先には二十メートルを超える壁がそびえ立っていた。


 馬車の窓から解放祭の会場を見た時は大きな建物が立ち並ぶ美しい街が見えたが、途中から大きなのっぺりした壁が現れ、殺風景な景色になってしまったのはなんだかもったいないと思っていた。しかし、エウスが言うには王族や上級貴族が泊まる宿泊施設も存在するため、彼らの安全を配慮して壁を建てたとのことだった。

 そのため楕円形に広がったこの祭りの会場のちょうど半分が高い壁に囲われていた。そのためもう半分は美しい街がむき出しになっていた。


「ハル、どうしたんですか?早く行きましょう!」


 ライキルが壁を見上げていたハルに声をかけた。いつの間にかみんなが荷馬車に積んでいた荷物を取り出し終わっていた。


「あ、うん、すぐに」


 乗って来た馬車のほかに荷物を積む馬車も一台借りていた。荷物には生活用品や衣服などもあったが、もちろん自分たちの武器も積んでいた。その中でひときわ目立つのはやはりハルの二メートルを超える大太刀の首落としだった。もう一本皮剝ぎという同じ刀を持っていたが、霧の森で白虎との戦闘中にどこかにいってしまい探してもらっている途中だった。

 ハルが荷物を取り出して、待ってくれていたみんなに追いつくと会場に出発した。

 みんなが壁の近くを沿ってしばらく歩いて行くと、先ほどみた美しい街並みの祭りの会場が見えて来た。


「あ、見えてください!門が見えてきました!」


 ビナが目を輝かせるさきには飾りつけされた豪華な門が現れた。彼女は興奮のあまり足取りが早くなりどんどん前に進んで行った。


「おい、ビナあんまり離れるなよ、手続きがあるんだ」


 エウスがビナに呼びかけた。


「分かってますよ!!ふん、ふふん!」


 まだ朝が早い方であり、いつもならあくびをして二度寝をするようなビナも祭りという場所を目の前にすると元気いっぱいでご機嫌な様子だった。

 ビナの後をみんながついて行くような形で門の前にやって来た。

 門の前にはレイド王国の獅子の紋章が入った腕章をつけている騎士が立っていた。そこにエウスが声をかけて招待状がどこで使えるか聞いた。


「その招待状でしたらこの門をくぐって、一級エリアお進みください、まっすぐ行けばこの会場の地図があるのでそれをご活用ください」


 みんなが彼らに礼を言って門をくぐった。

 門の先には美しい石造りの建物が会場の中心に向かってずらっと並び立っていた。足元には石畳の道が広がっていた。そこには馬車が走る専用のスペースもしっかり確保されていた。


「これ、祭りの中も馬車である程度進めたんじゃないか?」


 ハルがエウスに尋ねると彼はばつが悪そうな顔をした。


「確かにそうだな、朝早いから誰もいないし御者も知らなかったんだろうな、しょうがないさ、でもこうして歩くのも悪くないだろ、前の女子三人は楽しそうだぞ!」


 ライキル、ビナ、ガルナがどんどん前に進んでいっていた。


「ハハッ、たしかにそうだね、祭りは歩かなきゃだね」


 ハルも楽しそうな三人を見れて自然と笑顔がこぼれた。

 会場の街の中にはまだ全然人がおらず空いていた。いるとしたらこの解放祭の運営をしている人たちや出店の準備をしている人たちぐらいだった。

 そんな人たちを通り過ぎていくと、道の脇に大きな看板が見えてきてそこにはその看板いっぱいに広げられたこの会場の地図が載っていた。


「地図ありましたよふたりとも!」


 ライキルが手を振ってハルとエウスに呼びかけていた。


 ふたりが地図を見るとそこには細かく詳細な地図が張り付けてあった。

 この街の全体像は楕円形であり、その中を蜘蛛の巣のように道が入り組んでいた。街の真ん中には巨大な円形上の建物があるらしくそこが表彰式の会場というのがなんとなく想像できた。


 そして今、最初にハルたちが目指していたところは、これからこの祭りの間に泊る宿だった。どうやらハルたちがもらった宿泊券は一等エリアにある高級宿であり、その一等エリアに行く必要があった。

 地図には三つのエリアが載っており、それぞれ三等エリアから一等エリアに分けれていたが、特等エリアはどこにも記載されていなかった。


 招待状がないと入れない一等エリアは、壁に囲われた一番東側の場所にあった。壁のだいたい半分ぐらいまでが一等エリアであり、その次に壁が終わる辺りまでが有料の二等エリアになっていた。あとの壁の無い広い街の部分は全て無料の三等エリアになっておりこのエリアが一番広かった。


「なるほど、じゃあこの一等エリアまで行こうか、最短の道より、最初は迷わない方がいいから広場の真ん中に行ってから一等エリアに向かうか」


「賛成!」


 エウスの意見に同意したみんなは再び歩きだした。


 街の中心に着くと巨大な円形の建物があり、周りでは出店の準備のためさっきの出口付近の道よりも人が行きかっていた。それでもまだお客がいないため祭りというには寂しい風景が続いていたがまだ朝が早いのだ。


「この建物を中心に街が広がってるから、迷ったらこの建物を見つければいいわけだ」


 エウスがそんなことを呟いて、二等エリアと一等エリアが広がる方を向いて歩き出すとみんなも後ろを付いて行った。

 みんなが立っていた場所は、街の中心にある円形の建物の六時の方向だった。そこを反時計回りに歩き三時の方向まで行きそこから東にまっすぐ歩いて行くと二等エリアと一等エリアが広がる場所があった。



 三等エリアと二等エリアの間には壁で遮られており、四か所の関所のような大きな鉄の門がありそこに騎士が立っていた。

 その騎士は龍の紋章が入った腕章をつけていた。二か国の共同で開催された祭りであることもあり何も不思議なことは無かった。


「みんな宿泊券を出してくれそれで通れるらしい」


 門番と話していたエウスがみんなに呼びかけると、全員が招待状の封筒から宿泊券を取り出して持っていることを証明するとすんなりとタダで通してくれた。


「ここってたしか有料ですよね?」


 ライキルがこの祭りに詳しいエウスに尋ねた。


「通行券が売ってるんだよ、この宿泊券はその通行券を兼ねてるんだ」


「そうなんですね納得しました」


 二等エリア街は三等エリアの街の景色はあまり変わらなかった。建物の外装に力を入れる時間がなかったようだった。それでも十分綺麗な街並みだったが、建物に入ってるレストランなどのお店は有名な看板が立ち並んでいるのが分かった。

 二等エリアはレストランが多かったがどれも落ち着いた雰囲気のお店で、出店などの外にある店はひとつもなかった。


「ここら辺のお店って全部高そうですね」


 ビナがキョロキョロ看板を見渡しながら言った。


「まあ、実質ここが最後の店があるエリアだからな、一等エリアはたぶん宿泊施設しかないぞ」


「そうなんですね、ちょっと残念です」


「まあ、多少一等エリアにも店があると思うけど、やっぱり二等エリアと三等エリアの方が娯楽が合って楽しいと思うぞ」


「確かに私には三等エリアの方がワクワクしました!」


 二等エリアは大人な雰囲気が漂っていたが、三等エリアには子供でも楽しめるお店がたくさんあった。

 一等エリアにあるお店となるとかなり堅苦しいことは目に見えていた。


「だよな、俺も三等エリアの方が雰囲気は好きなんだよな…」


 エウスが少し微笑んで答えた。大人になっても自分の興味を沸かせるものは変わらないなとエウスは思うのだった。


「エウスっておこちゃまですね」


 呆れた顔をエウスに向けながらビナが言った。


「おい…なんでそうなる?一緒の意見だったじゃん!?」


 ふたりの会話に他の三人はクスクスと小さく笑っていた。


 ハルたちが二等エリアをまっすぐ歩いて行くと、豪華な建物群が遠くに見えて来た。そして、その前には再び鉄の門が設置されていた。その門は一等エリアに続く門であり、ようやく目的地の近くまでたどり着くことができたハルたちであった。














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