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いつもの日常

 ハルが古城アイビーの西館からエントランスを抜けて東館の一階にある自分の部屋の前に着いた。相変わらず鍵のかけられない壊れたドアを開けて中に入った。

 時刻はまだお昼あたりで過ごしやすい午後の真っ只中だったがハルは精神的な疲れからか身体が重く昼寝でもしようかとベットに飛び込もうとした。


「え?」


 しかしハルはベットの前で飛び込むのを思い止まった。


「ガルナなんでここにいるんだ?」


 ハルの部屋のベットの上には先にガルナが眠っていた。彼女はすやすや気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「危機感なさすぎじゃないか?」


『俺も男なんだが…』


 眠っているガルナに声をかけるがもちろん返事はなくいい夢を見ているのか彼女は嬉しそうににやけていた。


「うへへ…捕まえた、逃がさないよ…」


 ガルナが寝言を言いながら体をくねらせていた。


「まあ、いいか…」


 起こすのもなんだかかわいそうだと思い、ハルはそのままそっと静かに部屋の外に出た。


『もしかしてこの一週間ずっと俺のベット使って昼寝してたのか?』


 この一週間ハルはずっと日が出ているうちは西館の談話室にこもっていたため外の様子を知ることはできなかった。

 ハルは自室のドアの前でどこに行こうか考えたが行く場所はほとんど決まっていた。


『屋上にでも行くか…』


 ハルは東館の階段を登って屋上のドアを開けた。

 屋上から城壁内の街を見下ろすと街には人や馬車が大量に行き交い、賑わい見せていた。


「もとの街に戻ったって感じだ、それにしても賑わってるな」


 霧の森に行く前は静まり返り冷めていた街も今では多くの人の熱気に包まれていた。それは白虎が討伐されて大きな脅威がなくなったことが最大の要因だった。安全が増せばそれだけ街の価値は他の街よりも上がるのは必然だった。そのため以前より人の行き来が多くなったのは気のせいではなかった。


 ハルは景色を眺め終わるといつも通りそこら辺に座って目を閉じ、自分だけの思考の世界に落ちていった。


『解放祭にダリアスが来るってことはキャミルも来るってことだよな、二人は喜ぶだろうな…』


『次は優先度的に黒龍になるよな…竜か…やっぱりそう考えると王都に帰るのはまだまだ先になりそうだからやっぱり祭りにみんな来てくれるといいなリーナさんとかも来るかな?』


『やっと落ち着いたし今日はみんなと食事がしたいな…あ、帝国のみんなは一旦帰るんだっけか、一日遅らせてもらえば良かったかも、まあ、祭りで会えるか』


『あれ、でも解放際は大国の王が二人も集まるからいろんな国の要人が来そうだよな…』


 ハルの頭の中の情報が整理されていった。まだまだ問題や悩みがたくさんあったがそれでもハルは。


『楽しみだな…』


 そう思った。


 そして、ハルはその後も自分の思考の中を彷徨い続けた。


『あ、そうだ…霧の森で失くした刀見つかるといいな…』


「ハル!」


 外の世界から声がした。ハルが目を開けて後ろを振り向くとそこにはライキルがいた。


「ライキル…」


 気が付くといつの間にか夕焼けが街全体をオレンジ色に染めあげていた。その夕焼けの光の中、ライキルが立っており、彼女のよく手入れされたさらさらの美しい金髪が屋上に吹く風で揺れていた。


「デイラス団長と会って聞きましたよ、今日で面会も一段落着いたんですってね、お疲れさまでした。休みもなく疲れませんでしたか?」


「ああ、うん」


「どうしたんですか?」


 ライキルが近づいて来てハルの顔を覗き込んで来た。整った顔立ちはかなり中性的で男女どちらからも好かれるような顔つきをしていた。実際にライキルは王都にいた時も男女どちらからも人気があった。

 ハルもそんなライキルが『成長していくに連れて美人になっていくな』などとは思っていた。


「いや、ライキルも成長したなと思って」


「フフ、大丈夫ですか?偉い人たちに会いすぎて疲れましたか?」


「そうかも」


「でしたら自室でお休みになればよかったのに…」


 そのことでハルはガルナが自分の部屋で寝ていることを思い出した。


「あ、俺の部屋に寄った?」


「はい、最初にハルの部屋にノックしたんですけど出なかったのでこっちに来たんですけど、それがどうかしましたか?」


『まだ寝てるのかな?それとも起きてどっかいったのかな?』


「いや、実は…」


「わあ…!!」


 その時ライキルは瞳を輝かせてハルの後ろを見つめていた。


「ん?」


 ハルの後ろには夕焼けでオレンジ色に染まった美しい街が輝いていた。

 ライキルはその美しい景色を見るためにハルの横を通り過ぎていった。そんな彼女のことをハルは微笑ながらその姿を目で追った。


「やっぱり、ここいい景色ですよね、自宅を思い出しますね」


 ライキルが言いているのはハル、ライキル、エウスがレイド王国の王都で一緒にシェアして住んでいた大きな館のことを言っていた。さすがに王都にある館の方が景色が良かったが夕暮れのここはなかなかの景色を見せてくれた。


「そうだね、特に夕暮れは本当にここは綺麗だよ」


 ハルもライキルの隣に来て一緒に街を眺めた。


「私この街が好きになりました。おいしいものもたくさんあるし、素敵な人が多いですし」


「俺もだよ第三の故郷って感じだよ」


「第一と第二は、道場と王都ですか?」


「せいかーい!ライキルは分かってるねー!」


 ハルは屋上のふちの柵に肘をつきながら笑った。


「もちろんです。ずっと一緒にいたんですから」


 ライキルもハルと同じように柵に肘をついて笑顔を見せた。

 ハルは笑顔のライキルを見つめていたが、途中から彼女から視線を外して街を見下ろした。


『でも、ここは四番目なのかも…』


 ハルは森の中にある白い花が咲き乱れた木造の家のことを思い浮かべていた。それはどこにあるか分からない記憶の中だけにある景色だったが、そこも確かに大切で懐かしい場所だった。


「………」


 そんなことを思っているハルだったが、隣ではライキルがずっと彼の横顔を見つめていた。


「………」


『やっぱり、欲しいなぁ…ハルが…』


「…ライキル?どうしたの?」


 気づいたらライキルはこっちを再び向いていたハルと完全に目が合っていた。体の奥から熱がこみあげて来て彼女の顔は赤くなってしまった。


「ああ、な、なんでもないです、いや違います、そうだ、用事があってハルを探してたんです!」


 ライキルは赤くなった顔を隠すように手を振りながら慌てて言った。


「なんの用事かな?」


「えっと、みんなで食事しませんか、久しぶりに?」


 ハルはその言葉を聞いて気分が上がった。


「あ、いいね!俺もそう思ってた!」


「エウスも今日やっとエリー商会の仕事が落ち着くって言ってたのでみんなで集まりましょう!」


「賛成賛成!よし早速行こう!」


「フフ、そうですね!」


 ハルが屋上の出口に歩きだすとライキルも彼の後を追った。











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