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面会

 *** *** ***




 四大神獣のいっかくである白虎はレイド王国の元剣聖ハル・シアード・レイによって討伐された。

 討伐にかかった期間はわずか二日であった。さらにこの作戦の参加者でけが人は出たが、死者はひとりもでないという異常な成果だった。

 神獣というだけでも国を脅かす脅威そのものだったが、四大神獣となるとこの大陸を脅かす可能性があるほどの化け物だった。

 そんな四大神獣の白虎を二日で犠牲者なしで討伐したという情報は、六大国と周辺国家にすぐに知れ渡った。

 あまりにも信じがたいその情報は最初誤情報だと思われたが、アスラ帝国とレイド王国の王がそれぞれ正式に霧の森は四大神獣の脅威から解放されたと表明を各国に出すと大陸中が歓喜に包まれた。

 しかし、それでも他の六大国や複数の小国などはしっかり事実を確認するために霧の森に騎士や専門家を送り調査を開始した。

 広大な霧の森を空や地上から隅々まで探索したが、白虎の死体ばかりで生きた神獣はおろか魔獣すらいなかった。そこで初めて四大神獣の白虎が討伐されたことを各国が認めた。

 その情報が真実だったと知れ渡るとハルのその成果を賞賛する国もあれば、ハルが新たな脅威だと非難する国も出てきた。

 だが、それでも四大神獣の初の討伐として大陸の各地がお祭り騒ぎとなった。

 そして、そこでレイド王国とアスラ帝国が中心になって開く大規模な祭りが【解放際】と名付けられて、レイド王国のパースの街の北にある【リーベ平野】でその祭りが開催されることになった。


 そしてその解放際でハルは表彰されることが決まっていた。




 *** *** ***




 ハルが四大神獣の白虎を討伐してから一週間が経った。

 ハルは霧の森からパースの街の古城アイビーに戻って来ており、忙しい日々を送っていた。


「それではこれで私は失礼させていただきますハルさん」


「いえいえ、帰りはお気を付けください」


 聞いたこともない国の使者がハルに礼を言って古城アイビーの西館にある談話室から出て行った。


「ふう…」


 ハルが使者を見送るとふかふかの椅子に腰を下ろした。

 あれから各国の使者が絶えず古城アイビーに訪れてはハルと面会しに来ていた。どの使者も国の重要人物でハルは一時も気が抜けなかった。

 基本的にはハルと友好的な関係を築くために訪れて来ていた。

 ハルも自分が脅威ではないと伝える一番の方法として、こうしていろんな人に会ってハル・シアード・レイという人物を知ってもらうしかないと思っていたので好都合だった。

 しかし、どちらかというと他の国々の方が本気でハルと敵対したくないと思っていたため訪れる使者はみな力が入っていた。それもそのはずであった。四大神獣の白虎を単独でしかも二日で討伐した者などと関係を悪くするわけにはいかなかった。

 そのため、各国から使者が大量に押し寄せるのは仕方のないことだった。


「お疲れですなハル剣聖」


 ハルの隣にいたデイラスが言った。


「ええ、さすがに一日で何十人も各国の要人と会うのは疲れます」


「ハッハッハッ、それほどハル剣聖がしたことは偉大なことなのですよ」


「…自分の使命を全うしただけです、それにみんながいなければ俺はここにいません…」


「謙虚ですなハル剣聖は」


「そんなんじゃないですよ…」


 ハルは少しでもリラックスしようと談話室にある窓から外を眺めた。そこには雲ひとつない青空が広がっていた。


『綺麗な空だな…』


 そんなことを思いつつもハルは切り替えてデイラスの方を向いて彼に尋ねた。


「デイラス団長、次は誰が来るんですか?」


「ふむ、次は…」


 デイラスが持っていた資料をめくり次に面会する人物を確認した。


「誰です?」


「次はアスラ帝国のガジス・デルヒア・アマリス宰相ですな」


「え?」


 ハルが聞き返そうとすると談話室の扉がノックされた。


「ああ、ちょうど来たね、どうぞお入りください!」


 デイラスがそう言うとハルは慌てて椅子から立ち上がった。


「邪魔するぞ」


 そんな言い方をして入って来たのはフォルテだった。


「あれ、なんでフォルテが…」


 すると後ろからガジスが顔を出した。


「ご無沙汰しております!」


 ハルは背筋を伸ばして緊張した面持ちで言った。そして少し声が上ずってしまった。四大神獣を倒した者と言えど苦手な人や物はあるのだ。


「ふぉふぉふぉ、久しぶりじゃのハルさん」


「………!?」


 ハルはガジスの雰囲気が全く違うことに驚いていた。


『あ、あれ?こんなに穏やかな人だったっけ?』


「今回の四大神獣の討伐見事でありましたな」


 ガジスがゆっくり部屋の中に入ってきて言った。


「あ、ありがとうございます…」


 それからガジスはデイラスとも挨拶を交わしていた。

 そこでハルはこっそりフォルテに近寄って尋ねた。


「ガジス宰相ってあんな感じなのか?」


「ああ、そうだ、いつもあんな感じだが」


 フォルテが首をかしげて言った。


「本当に?」


 ハルが疑い深く尋ねていると。


「さあ、みなさん立っているのもなんですから座って話しましょう」


 デイラスがみんなに呼びかけると四人はそれぞれふかふかの高そうな椅子に座った。

 その直後にヒルデが談話室に入って来て全員に紅茶を淹れていってくれた。

 ヒルデが談話室を出て行くときに、ハルがヒルデの方を見ると彼女はニコッと微笑んでくれた。


「ハルさん」


「ああ!はい!」


 ハルは慌てて視線をガジスの方に移した。


「前の会議では無礼なことをしてすまなかった。君の本心を聞きたくてついああいった態度をとってしまった」


「いえ、いいんです。私も帝国にはこの作戦に協力して頂いて感謝してるのですから」


「ふぉふぉふぉ、感謝するのはこちらですな、アスラ帝国から四大神獣白虎の脅威を取り除いていただいたのですから」


 ガジスがそう言うと隣でフォルテも深く頷いていた。


「わがアスラ帝国の皇帝陛下もハルさんに感謝しておりました」


「それはとても光栄なことです」


「きっとこれからハルさんは陛下にも会う機会があるでしょうな」


「…と言いますと?」


「解放際に陛下もご出席されます」


「本当ですか!?」


 ハルは解放際という祭りが開かれることは知っていたが、アスラ帝国の皇帝が来るとは知らなかった。


「そうです、そしてそちらのダリアス王も解放際にご出席されますよ」


「ええ!知らなかったです…」


 そしてハルは自分の国の王様のダリアスが解放際に来ることも知らされていなかった。


 ハルがデイラスを見ると彼もそのことは知らなかったという様子だった。


「この情報は内密でしたからな、まだアスラとレイドの三大貴族と大団長たちしか知らないですから当然ですな」


「言って良かったのですか?」


「かまわないよ、ここにいる者はみな信頼に値するからな、それに祭りが始まればみんな知ることだしな」


 ガジスはニッコリと笑った。その表情から帝国の宰相というよりは近所の優しいおじいちゃんのような親しみやすい雰囲気がでていた。


「それじゃあ爺さん、俺は一旦帰らなきゃいけないのか?」


 フォルテが言った。


「ああ、そうじゃったフォルテたちは一旦、帝国に帰還じゃ陛下の護送があるからな」


「そうだよな、シエルは帝国の防衛があるし…わかった、そんでいつここを出るんだ?」


「今日じゃ」


「今日かよ!?」


「なあにハルさんたちとはまたすぐに祭りで会えるじゃろ」


「そうだけど、いきなりすぎるぜ」


「ふぉふぉふぉ」


 それからフォルテとガジスは、城壁内にある帝国が泊まるホテルに帰ることになった。


「ハル、しばしの別れになる、みんなにもよろしくと伝えておいてくれ」


「わかった、それじゃあまた祭りで会おう!」


「ああ、そうだな!」


 ハルとフォルテは握手をした。そのあとガジスともハルは握手をした。


「ハルさん何か困ったことがあったらわしやフォルテたちに相談してくださいその時は帝国が力を貸します」


「ありがとうございます、俺も帝国が困ったときは力を貸しますよ」


「ありがとうハルさんにそう言ってもらえると心強いのぉ」


 そしてデイラスとも挨拶と握手を終えた二人は談話室から出て行った。


「ハル剣聖、お疲れ様です。彼らで最後の面会でした」


 隣にいたデイラスが言った。


「そっか、やっと終わったか」


 ハルの顔には少し疲れが出ていた。


「もう、予定は入ってないのでお休みいただいて結構ですぞ」


「デイラスさんありがとうございました。この一週間デイラス団長がいてくれていろいろ助かりました」


「とんでもない私もハルさんのおかげで多くの人に出会えて楽しかったです」


「そうでしたか、それなら良かったです…」


 デイラスはこの一週間ハルをサポートしてくれていた。そのことをハルは感謝していた。

 ハルに面会するために大量の手紙が届いたのを処理してくれたり、スケジュールを組んでくれたりしていた。そのスケジュールはかなりぎゅうぎゅうだったが、そのおかげで一週間でさばけたのだからハルにとってはその激務も悪くはなかった。


「それじゃあ失礼しました」


 ハルは談話室を出ると一回背伸びをした。


『部屋で休むか…』


 そう思ったハルは東館にある自分の部屋に帰って行った。















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