閑話 エルフの楽しいお茶会
スフィア王国の王宮の謁見の間に二人のエルフの男女がいた。二人は豪華な部屋の中で椅子に座って話しをしていた。目の前のテーブルには高そうなお菓子と銀のカップに入れられたおいしそうな紅茶が置かれていた。
「人は生まれながらに罪人である。罪には罰。されば神は罪人に罰を与えた。それはこの世の理である」
レキと言われるエルフが一冊の本の一文を声に出して読んだ。
「神の獣は神が罪人に与えた罰のひとつである」
レキは続けてページを飛ばして一部分だけを呼んだ。
「神書の罪と救済の二章四節と十六節の部分ですね」
「よく覚えてる」
「ええ、神書は暗記していますもの」
「相変わらず君はすごいな、僕には到底できないことだよ」
「嘘をおっしゃるんですね、ただレキ様は神書がお嫌いなだけでしょ」
レキと話す女性のエルフが悪戯ぽく笑った。
「ハハハ、そうかもしれない」
レキも楽しそうに笑った。
「罰当たりなんですから、レキ様は…」
「罰ね…」
レキは本を閉じて、窓の外の空を眺めた。外には気持ちのいい青空が広がっていた。
「罰なんていったい誰が与えるんだろうね…」
「そりゃあ神様ですよ、私たちはみな罪人ですから」
「神書によればそうらしいね」
「レキ様はやっぱり意地悪ですね」
「違うさその本が嫌いなだけだ」
「だからそれが私への意地悪になっているんですよ」
二人は顔を見合わせるとおかしそうに笑い合った。
「君は僕のこと嫌いじゃないのかい?こんなに君の信じるものを嫌いという人間が?」
「レキ様にはレキ様の私には私の考えがあります、それは仕方のないことです。それを言うならこの本好きな私をレキ様は嫌いじゃないんですか?」
「君は魅力的な人だよ…」
「フフ、ほらレキ様だって私のことお嫌いじゃないでしょそういうことです。別に考えが違っても人は愛し合うことができるんです」
「十番目ぐらいには」
レキがタイミングを計ったかのように遅れて言った。
「レキ様はほんとに最低ですね!」
レキのその言葉を聞いた女性のエルフは間髪入れずに言った。しかし彼女はどこか楽しそうな様子だった。
「正直なだけさ、それに見方を変えれば君は僕の人生の中で十番目ぐらいの位置にはついているんだ、すごいじゃないか!」
「全くレキ様は小賢しいですね」
「賢い君にそう言われると光栄だな」
「もう!」
二人は再び顔を向か言わせて笑い合った。
トントン!
そこに謁見の間の扉にノックの音が鳴った。
「ごめんなさいレキ様」
「しょうがないよ、本来君は忙しいんだから」
レキは紅茶を飲むと次はお菓子に手を伸ばしていた。
「どうぞ!」
彼女が返事をすると扉が開いた。
そこにひとりのエルフの騎士が入って来て膝をついて敬意を示して言った。
「女王陛下、そろそろ時間です」
「あら、もうそんな時間だったかしら」
彼女は自分の腕時計を見るとかなりの時間が経っていた。
「楽しい時間とはすぐに終わってしまうものね…」
「そんなことはないさ!またすぐにやって来るよ」
レキがお菓子を食べながら言った。
「ええ、そうね…」
彼女は目の前でおいしそうにお菓子を食べているレキを見て微笑んだ。
それからレキと彼女は分かれることになった。謁見の間の出口の前に二人は立っていた。
「わざわざ来ていただいたのにごめんなさい」
「いいよそれにまた今度近いうちにここに来るから」
「本当ですか!」
「ああ、でもその時は女王陛下の君に会いにだけどねジェニメアさん」
レキはそう言うとお菓子を包んだ袋を持って謁見の間から出て行った。
「待ってますから!」
ジェニメアが遠ざかるレキに声をかけると、彼は振り向かないまま軽く手を振って王宮の外に出て行った。
「女王陛下、お城に戻りましょう皆が待っております」
エルフの騎士が言った。
「そうね、すぐに準備します」
ジェニメアと言われるエルフの女性は控えていたエルフの侍女たちとともに王宮の奥に歩いて行った。
外にでたレキはお菓子をかじりながら遠くの空を見つめた。
「楽しみだな…」
レキは小さく呟いた。