神獣討伐 歴代最強の元剣聖
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ハルは目覚めた時から力が強く体も丈夫だった。最初はそれが普通だと思っていた。しかし、エウスと出会ってから自分の力がみんなとは違うことが分かった。
だがそれは道場では良いこととされた。そこは力があればあるほど活躍できる場所だったからだ。
しかし、ある日、突然ハルは自分の力が体の奥底から無限にあふれるような感覚に襲われた。そしてそれは日を追うごとに体に現れ、彼は大切な……を壊してしまった。
そのときから、ハルはこの力をコントロールするために死に物狂いで修行した。その最中にハルはアザリアの夢を見始め、天性魔法が発現した。
そしてハルが天性魔法を発現させてからは、力が暴走することは無くなっていた。
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朝焼けの中、破壊しつくされた森の中で、ハルが数キロ先にいる百メートルを超える白い巨獣に近づくために駆けていた。
その間に白い巨獣は空に高くそびえる光の柱のような光線を何発もハルに打ち込んだが、そのすべてをハルは手に持った刀を振った衝撃だけで簡単に破壊してしまった。
そしてハルが白い巨獣の前にたどり着く。
凄まじい殺気を纏うたったひとりの人間によって白い巨獣は完全に身動きが取れなくなってしまった。
その人間の体の周りには真っ白な何か、光のような無数の粒子のようなものが漂っているのを、白い巨獣はその目に捉えることができた。その漂っている真っ白い光は波動の様に周囲に広がっては消えるを、その人間の周りで繰り返していた。
そしてその人間が睨みつけるとその波動が一斉に白い巨獣に向かって飛んで来た。その波動を受けた白い巨獣は視界が真っ暗になった。そして次第に音や匂い、体の感覚、全ての外と繋がる存在というものが次第になくなっていった。そして恐怖という感情だけが白い巨獣を支配した。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
だがそこで白い巨獣は感情を爆発させて咆哮した。すべての感覚を白い巨獣は取り戻していた。
「やっぱり、お前は特別なんだな…」
ハルが呟く。
白い巨獣は怒りの眼差しをハルに向けた。そして自分の体中に漂っていた白い電を全身に流し始めると、白い巨獣は体に溜まったその電を一気に四方八方に放電した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
バリバリ!!
強力な電流が荒れた大地をえぐりながら進んでいく、しかし。
バン!!
ハルが刀を振るうと同時にその電は透明な衝撃に弾かれあっけなく霧散してしまった。
さらにその衝撃は白い巨獣の体を遠くに吹き飛ばした。巨大な木々をいくつも折って倒してようやく止まった。
バッ!!
すぐに白い巨獣は宙がえりをして飛び上がって周囲の様子を確認した。その巨体からは想像できないほど身軽に高く飛んでいた。
そしてすぐ目の前にハルが接近していた。たった一本の刀を持って迫って来る。
白い巨獣は再び体の全体から雷を放電しようとしたが、ハルの刃が先に届いた。
そのちっぽけな人間の姿からはあり得ない力で地面に叩き落とされた。
ドオオオオオオオン!!!
白い巨獣は首が斬り落とされそうになったが、全力で斬られている際に体をひねって刃の位置をそらし続けた。
それでもいつの間にか半分以上刃が首に入っていた。
白い巨獣からは大量の血が流れ落ち、首の下は赤い滝のようになっていた。
「捉え損ねたのか…」
ハルはとどめを刺せなかったことに驚いていた。
そして次の瞬間白い巨獣が怪我をしている首回りが光輝き始めた。
「白魔法…!」
白い巨獣から流れ出る血が一瞬で止まり、再び戦闘態勢に入っていた。
すかさず光の柱を放って白い巨獣はハルから距離を取ろうとした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
ハルの前に巨大な白い光の柱が迫って来る、その最中、ハルは冷静に呟く。
「…すぐに終わらせるよ、長引くほど苦しむだけだから……」
ハルは当然のように光の柱を破壊すると駆け出す。
白い巨獣は迫る人間を視界にとらえるが、次の瞬間その姿が目で追えなくなるほど速くなり見失ってしまった。
この巨体で小さな敵を見失ってとる行動は、全方位攻撃をして索敵することが一番だった。そして飛ぶのは危険だった宙に浮かべば逃げ場がなくなる恐れがあったからだった。
そのため白い巨獣はその場で最高出力で放電して体全体を雷で全て覆いつくした。外から見たら白い巨獣は光の柱そのもののようになっていた。
そして。
バキバキバキキキィバリバリ!!
その光の柱を中心に剥がれるように雷の輪が周囲に広がり始めた。その雷の輪は辺りの巨大な木々を薙ぎ倒し、焼き払って行った。
もはや誰も近づくことができないこの雷の大嵐の中、隠れていたハルは焼き払われた倒れかかった巨木の後ろから一気に飛び出した。
数十メートルある壁のような雷の輪を軽々飛び越えると光の柱が迫ってきた。ハルが空中にいる最中はもう辺りには雷しかなかった。どの雷も触れれば一瞬で即死するような量の雷が上下左右で踊り狂っていた。
そしてハルが向かっている光の柱は触れる前に焼き尽きるような密集した雷が下から上に流れ続けていた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
全てを拒むその光の柱の壁をハルは刀を振るって簡単に穴をあけた。そしてハルは地面に着地すると勢いをつけてその穴に飛び込んでいった。
光の柱に穴が開いたことに気づいた白い巨獣だったがその時にはすでに遅かった。
白い巨獣が開いた穴を見た瞬間にハルが迫っており顔面を蹴り飛ばされた。まさにハルはそのまま百メートルを超える怪物を軽々と蹴り飛ばしていた。
その瞬間周辺で渦巻いていた雷が一瞬で散っていった。
白い巨獣は何が起こったか分からなかった。分かるはずがなかった。
そのまま身を任せて白い巨獣が何キロも吹き飛ばされていると先回りしていたハルにさらに蹴り上げられた。
ドゴン!!!
白い巨獣は宙に浮いたことで逃げ場がなくなった。真下にはひとりの人間がいた。たった一本の刀を持った人間が。しかし白い巨獣にとってもはや人間ではなく死そのものだった。
死を悟った白い巨獣は放電する、さきほどの光の柱よりもさらに強力な出力で放電をする。つまり限界を超えて放電を始めた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
まるで白い太陽の様な球体の雷の塊が出現する。その雷はもはや自爆そのものだった。自身の体も焼き切るほどの雷がたったひとりの人間を道連れにすべてを無に帰そうとしていた。
「死んでくれ…」
ハルが刀を構えて小さく呟いた。そしてそんな彼の目からは少しだけ涙がこぼれていた。それはきっとまだあの理想がハルの中に残っている証拠だった。彼はそう言う点ではまだまだ甘かった。
しかし彼の甘さはその強さで強引に補われた。
バー―――ン!!!
空に向けて振るわれたその刀は、太陽のような雷球をそのまま全て上にはじき返して、白い巨獣を焼き尽くす、そしてその後に遅れて飛んできた衝撃で白い巨獣の体は真っ二つにねじり切れた。白い巨獣の体がハルの左右に落ちると、鮮血が土砂降りのように降り注ぎ、流れ出た血は濁流の様に広がった。
再びハルの周りに血の海が広がった。
「………!」
ハルは急いで白い巨獣の頭を斬り落としてとどめを刺した。さらに念入りに調べてちゃんと絶命したかを確認するためにしばらく走り回った。しかし、すでに白い巨獣は最初の衝撃で即死していた。
「…………」
ハルは確認を終えたあと、しばらくその白い巨獣の近くに立ち尽くしていた。
「眩し…」
朝の光がハルを照らした。
ハルが深い青空を見上げるとまだ星が出ており、月も見えた。さらに朝の陽の光で黄金色に輝く雲が気持ちのいい風に吹かれていた。
「帰るか…」
ハルは神獣白虎の討伐を終え、霧の森を解放した。