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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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宴もたけなわ

 うたげの盛り上がりが欠くことはなく、夜の帳が下がったラーンムの町の片隅に建つビスラ砦からは、笑いの声が絶えない。


 下にいる兵士たちの食欲はとどまることを知らなかった。それはこの先、決しておいしくはない保存食しか食べれないことを思って、だったのだろうか、会話と同じくらい、ごちそうを口に放りこんでいた。


 それは、二階で食べている、ハルとビナの思考にもピッタリ当てはまっていた。


 ビナは夢中で、次から次へと出てくる料理の数々をそのお腹に詰め込んでいく。


「お、おいしい」


 食べながらもビナの心の声が漏れていた。


 それをまねするように、ハザーナも食べていたが、ビナの食べっぷりには敵わないようだった。


 そんな二人を見守りながら、ライキルとグレースは仲良さそうに話していた。


 ハルも、ビナほど激しくはないが、エウスがハルの皿を見ると、さっき出されたはずの料理が消えていることに気づく。


 レイゼン卿とその夫人と会話しながら、その品を崩さないハルの大食いっぷりは、毎度、エウスの呆れた表情を作り上げるのに困らなかった。


「ハル剣聖は、ここにいつまで、滞在してくれるのかな」


 レイゼン卿がハルに質問する。


「それが、明後日には、もう出ようと考えています」


「そんなに早く出るのかね」


「はい、パースに人を待たせてしまうかもしれないので、ゆっくりするわけにはいかないのです」


 ハルは、飲もうとしていた、ワインのグラスを置いた。


「明日まで、私たちの兵士をここに置いてもらえますか?」


「もちろんだ、私はもっと滞在してくれると思っていたのだがな」


「とても助かります」


 ハルは、そこでグラスのワインを一気に飲み干した。


「レイゼン卿、食料の貯蔵の方は大丈夫なのですか、この人数ではありますが、みな大食いです」


 口を挟んだのは、エウスだった。


 商人であるがゆえに、そのようなことが気になった。


 ハルとビナの体がエウスの発言に『ビクッ』と体が一瞬止まる。


「ハハハ、確かにみないい食べっぷりだな、いつの間にか、皿が積み重なっておるな」


 ビナの横には大量の皿が積み重なっている。


 ライキルとハザーナの分も積み重なっているが、圧倒的にその皿に貢献しているのはビナであった。

 ハルはちょくちょく使用人に皿を持っていってもらっていた。


「エウス君、しかし食料に関しては問題ないのだよ、知らないかい?この町に商人や冒険者が増えてね、今、この町は潤っている状態なんだ、それもエウス君のおかげだがね」


「私がですか?」


「そうだとも、君の商売が王都で繁盛しているおかげで、帝国や北方の国々からの商人の数が増えたんだ、そのおかげで、町の宿屋、食料、護衛業などに金が落ちているんだ」


「なるほど、確かに来る途中、商人や冒険者をよく見ました」


「そうだろ、人が多いんだ、王道沿いは」


「やはり外は見回らなきゃだめですね、最近は書類に目を通して、サインをするだけで、商人らしいことができていませんでした」


「フフ、分かるぞ、上に立つものは、基本的に机での作業も増えるというものだ」


 レイゼン卿は何杯目かわからないワインを飲み干し、繊細な装飾をされたグラスを置いた。


「今や、王道沿いの町は君に感謝をしているだろう」


「それは、ありがたいですね、でもエリー商会は私の力だけで、大きくなったものではありません、ともに協力してくれた商会の仲間のおかげでもあります」


「さすが、素晴らしい、君のような男が王国を代表する商人でよかったよ」


「もったいない言葉です」


 ハルは二人の会話を聞きながらも、使用人を呼んで、小声でお代わりを頼んでいた。


 アハテルも新しいワインボトルを使用人に開けてもらい、グラスに注いでもらっていた。


「ああ、そうだ、それでな、最近このあたりにも魔獣が出るようになったんだ」


「ラーンム周辺にですか?」


「そうだな、だが数か月まえに町のすぐ近くで、見回りをしていた私の私兵が殺された」


「本当ですか!?」


 それを聞いたハルも食事の手が止まる。


「ここは、言ってもまだ旧国境、内ですよね」


 ハルが言う。


「そうだ、ここらへんで魔獣が現れるなど、夢にも思わなかった。だがここ数年で生態系か魔獣たち自身に何か変化があったのかもしれない」


 魔獣は本来、森の奥深くや、マナが多く存在する場所に生息していた。そして、【王道】という国が整備した大きな街道には、人々が頻繁に行き来しているため、魔獣は近寄らない。

 なぜなら、魔獣の大半は臆病で、人間を襲うときは、目の前に偶然対峙した時ぐらいであり、基本的に大型動物の熊などと変わらない。が、違うのは力の強さや俊敏性にある。

 個体の能力に大きく左右されるが、強い魔獣は国の精鋭の騎士を、難なく殺す個体もまれにいた。


「魔獣見つけたら、必ず討伐しておきます」


「ああ、頼む、君なら朝飯前だ」


「………」


 少しばかり、三人の間には静寂があった。


「…皆さま、このご時世、昔よりはるかに平和になったと思いませんか?」


 そう言葉を紡ぐのはアハテルだった。


「二百年前の戦争を後に、レイド王国は、一回も戦争をしていないのよ」


「北方の国々に援軍を送ったという記録はあるのだがな」


「もう、細かいですわ」


「フフフ」


 レイゼン卿は楽しそうに笑う。


「それでも、悲しいことは起こるわ、でも、私たちは生きてる限り、その命を、死んでしまった者達の分まで、しっかりと生きていかなきゃいけませんわ、あなた達ならわかるでしょ?」


「はい、その通りです」


 エウスが一回、軽く頷き言う。


 そこにレイゼン卿が唐突に口を挟んだ。


「要するに、宴のときぐらい、暗い話をするなということだろ、悪かったよ」


「フフ、わかってくださった?」


「そうだな、そういう話はあとでいくらでもできるからな、すまないボトルを持ってきてくれ」


 レイゼン卿がそういうと使用人からワインボトルを渡され、それをそのまま、じかで飲み始めた。


「ちょっと、それは、はしたないんじゃありません」


 その飲みっぷりは、酒豪以外の何者でもないほどの飲みっぷりだった。


『ぷはー』と空気を吸う音がもれ、残りのワインを飲み干してしまう。


「さあ、悪かったな、ここからは楽しくいこう、ん?」


 下では、いつの間にかこの宴に乱入していた、レイゼン卿の私兵たちと、ハルの兵士たちとで飲み比べをしていた。


「若い者には負けねえ!」


「おじさんにはまけられねぇな!」


 下では、ハルとレイゼン卿の互いの兵たちの声援が飛び交っていた。


 使用人たちも集まってきて、ノリノリでお酒を注いでいる。


 どうやら、レイゼン卿の私兵が勝ったらしく、大いに盛り上がっていた。


「ふむ、かなり面白いことをやっているじゃないか、あいつらめ、どこから聞きつけてきた」


「これは、代表が勝負しなければなりませんな!」


「当たり前よ、剣聖さんよ、お前ら、ボス同士の勝負だ!席を開けな!」


 そう、叫ぶと、レイゼン卿が二階のバルコニーから飛び降りる。


「ふん!」


 ハルも続いて飛び降りる。


「よーし!」


 それを見た兵士たちの場の熱気が最高潮に高まる。


「ハル団長お願いしますよ!!!」


「レイゼン卿、剣聖を倒すチャンスですよ!!!」


 両方の声援の激しさはます。


「レイゼン卿、相手でも手加減しませんよ」


「剣聖として尊敬しているとはいえ、若造には負けんぞ」


 両者が互いに、にらみ合っていると、使用人が二人それぞれに強いお酒を注いだ、小さいグラスを用意して、二人の前に置いた。


「それでは、互いにいいですね?」


 ハルとレイゼン卿はグラスを手に取る。


「おうよ!」


「はい!」


 兵士たちと使用人たちは、勝負の行く末にわくわくしている。


「よーい、スタート!」


 二人は酒を一気に飲み干し始めた。








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