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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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神獣討伐 彼の元へ

 森の中の景色が次々と移り変わっては後ろに過ぎ去っていく、それでもまだ足りないとエウスは使役魔獣に加速するように手綱で合図を送る。


「今だけだ、一番早く走ってくれ…」


 その馬型の使役魔獣もエウスの思いにこたえるように全力で脚を動かす。

 動物とは比べ物にならない、その脚力は、さらに景色を早く移り変えた。

 どんどん加速する中でエウスはその使役魔獣をやさしく撫でた。

 そして思うことはたったひとりの親友のことだった。


『ハル…俺は…お前を、本当のお前を見つけられなかった…ずっとそばにいたのに…』


 エウスの目からは自然と涙が流れていた。その涙は頬を伝い、後ろに流されては消えていった。


『どこかで本気で腹を割って話しておけばよかった…こんなことになるなら……もっと早くとめておけばよかった…』


 そう思うが今エウスにとって何もかもが手遅れのことばかりで、できることはハルのいる場所に向かうことだけだった。エウスはそれが悔しくてさらに涙があふれでた。



「エウス!!」


 エウスは風を切るなか後ろを振り返ると、遠くからライキルが追い付いて来ていた。


「待ってください!どういうことですか、ハルが危ないって!!」


 エウスが使役魔獣を少しだけ速度を緩めるとライキルが隣まで使役魔獣を走らせた。


「ライキル…」


「説明してください、どういうことなんですか!?」


 ライキルは怒っているというよりは、その顔は泣きそうだった。それは失うという不安からくるものだった。危険な場所に大切な人が二人も駆け出してしまうのは彼女は耐えられなかった。

 エウスが集団を乱して使役魔獣で駆けだしたとき、ライキルはショックだった。彼がそんなことを冗談でもするような人物ではないことを知っていたからだった。

 だからエウスの口からハルが危ないということを聞いたときは信じるに値した。

 その行動はハルを助けに行く行動だと理解するのは容易かった。


「ハルは…」


 エウスは重い口を開く。ライキルには伝えたくなかった。エウスも彼女の気持ちを知っていたから。それでも伝えないとエウスの心が折れそうになった。この問題をひとりで抱えるにはエウス一人では荷が重くなっていた。

 エウスはボロボロに泣いている顔で隣にいる幼いころからのもう一人の大切な人を見つめる。


「ハルは…?」


 ライキルはエウスの言葉を復唱したが、彼のボロボロになった泣き顔を見て、彼女も不安になり、その復唱した言葉は震えていた。


「ハルは死ぬつもりだ…」


 エウスが一番言いたくなかったことを言い、ライキルは一番聞きたくなかったことを聞いた。


「なんで…」


 その言葉と同時にライキルの目からも大粒の涙がひとすじ流れ落ちた。


「ウウッ、なんで…」


「でも、まだだライキル、まだ間に合う!」


 嗚咽を漏らすライキルにエウスは確信が持てなかったが、それでも力強く声をかけた。彼も泣いていたしもっと泣きたかったが、ライキルの方が辛いと思ってしまったのだ、紛れもなく自分も辛いのに。


「だから、二人で一緒にハルのところに行こう…」


 エウスはこの選択があっているのか間違っているのか分からなかった。ハルのところまでたどり着けるかもわからない、途中で死ぬかもしれない、そんな危険な場所にライキルも連れて行く、それは間違ってるように思えたけど、ここで自分が止まっても彼女は絶対にひとりでもいってしまうのだけは分かっていた。


「……はい…」


 ライキルはそのエウスの言葉を素直に聞いて、すぐに流した涙を腕で拭って前を向いた。悲しくなくなったわけじゃなかった。ただ、ここで泣き崩れて止まってしまうよりも、前に進んで少しでもハルに会える可能性を探りたかったのだ。



 二人が使役魔獣を進めていると霧が見えて来た。その霧は大きくどこまでも森に広がっていたため白い壁の様に見えた。


「見えた、霧の壁だ…」


 エウスが正面のゆっくり漂い動く白い霧の壁を見て言った。


「でも、どうするんですか…あんなに霧が深いとこの子たちじゃ進めませんよ?」


 ライキルが自分の使役魔獣の首をさすりながら言った。


「分かってる…」


 ただエウスは助けたいという思いだけで駆け出してしまった彼には、この霧を突破する手段がなかった。いくら鍛えられた軍の使役魔獣でもここまで深い霧の中を進むのは不可能だった。


「………」


『あの奥にハルがいるのに…どうすれば、いや、考えろ、あきらめるわけには…』


 エウスが考えこんで少し下を向いたその瞬間だった。


「エウスあれを見てください!」


 ライキルが正面の霧を指さしており、エウスが顔上げて正面を見た。


「嘘だろ…」


 ゴオオオオオオオオオオ!


 目の前にあったどこまでも高く漂っていた霧の壁が一気に崩れて辺りに拡散し始めた。その霧がエウスとライキルの目の前に凄まじい速度で迫り、視界中が何も見えなくなるほどの濃霧が押し寄せた。その霧は二人の間を一瞬で通り過ぎると、辺りには再び静寂と森が広がっていた。


「………」


 あまりに一瞬の出来事で二人は呆然としていたが、すぐに霧の晴れた道を使役魔獣で駆けだした。

 特別危険区域である霧のあった場所に二人が入った。そこは少し変わった大きな木などがあるほかは、後ろの森とたいして何も変わらなかったが、ひとつ違うところがあるとすれば、森の奥に進むのが気おくれするほど張りつめた空気が漂っていた。


「エウス…ここは嫌な予感がします、何かは分かりませんが…近くに何かいます…」


 エウスもライキルと同じようなことを思っていた。まるで何かに睨みつけられているような背筋が凍るような視線を感じていた。


「ああ、さっきから敵意みたいなものを向けられてる気がする…」


 しかし、過ぎ去っていく景色に魔獣はおろか生き物一匹も見当たらなかった。


 そこで突然、


 ブフォオオオン!


「………!」


 ライキルとエウスの乗っていた使役魔獣が同時に動きを止めた。


「どうした…?」


 二人の使役魔獣は何かに怯えている様に見えたが、先ほどと同じように辺りには何もおらず何に怯えているのか分からなかった。


「ダメだ…何かに怯えてる…」


 使役魔獣はそこらの軍馬よりもずっと肝が据わっており、滅多なことでは決して怯えたり動揺したりはしなかったが、その二頭は完全にその場から動けなくなってしまっていた。


「私の子もダメです、震えて前に進まなくなりました」


「…ライキル、ここからは走るぞ」


「分かりました」


 エウスとライキルは使役魔獣から降りて、監視塔に帰還するように放してやった。軍に利用される使役魔獣は全て訓練されてから実戦に投入されるのがほとんどであり、指示通り使役魔獣は来た道を帰って行った。


「急ぐぞ」


「はい」


 二人は使役魔獣が行ったのを確認するとすぐに森の奥に走り出していった。


















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