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元剣聖ハル・シアード・レイの神獣討伐記  作者: 夜て
神獣白虎編
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神獣討伐 彼のこと

 夜の監視塔の広場では大量の炎があちらこちらで揺らめいて煙を上げていた。

 大量の白虎の死体は翼竜たちの餌になったが、それでも処理しきれない死体は解体したあと、燃やして灰にした。

 その炎の周辺では今日の戦いの勝利を喜ぶ人々であふれていた。


「長年ここにいるが、あんな数の魔獣が襲って来たのは初めてだよ」


「そうだな、久しぶりに大弓も使ったしな!」


 この監視塔に元からいる騎士たちがそんな会話をしていた。

 そんな横をライキルが通りすぎていく、焚火の周りにいる明るい雰囲気の人たちとは違い彼女の顔は浮かない表情をしていた。

 それは大切な人が今も危険な場所で戦っているかもしれないと思うと気分が晴れないのも当然ことだった。


『ハルが戻ってこなかったら私はどうすればいいんだろう…』


 ライキルの頭の中に考えたくないことが浮かんでは消えて行った。

 不安と孤独が広がる夜にライキルは監視塔の塔に向かっていた。そこでガルナと待ち合わせをしていた。目的は一緒にただ彼の帰りを待つこと。

 ライキルが塔の暗い階段を上ると下で焚いている炎の明かりがわずかに差し込んで来た。

 階段を上っている途中でライキルは考える。


『ダメだ…私は騎士に向いてないな、ハルのことになると覚悟もできない…』


 暗い階段が終わり、気持ちもすっかり暗くなったライキルが塔の頂上のドアを開けた。塔の頂上は涼しい夜風が吹いており、月明かりに照らされた夜の森を見渡せた。

 ライキルがガルナを見つけると、彼女は頂上の石の柵に手を置いてずっとハルのいる霧のある方向を眺めていた。


「ガルナ、お待たせしました」


 ライキルの声に彼女が振り向く。


「ライキルちゃん待ってたよ、さあ一緒にハルを待とうか!」


 ガルナは嬉しそうに笑う、その笑顔にライキルの暗く重たかった気分が少しだけ軽くなった。誰かと一緒にいるだけで、孤独は消え、取るに足りない言葉を交わすだけで不安が和らいでいく、たった一人でも誰かと一緒にいるだけで、救われる。


 二人は塔の頂上の地べたに座ってただジッと待った。石の柵の隙間からは裏門と森の入り口が見え、彼の帰りを待つにはいい場所だった。


「聞いてもいいですか?」


 ライキルが言った。


「ん?いいよ」


「ガルナはどうしてハルのこと好きになったのですか?」


 ライキルが前に聞けなかった質問を投げかけた。あの時はハルの話しかしていなかった。


「え、えっとね…」


 するとガルナの頬が少し赤くなったように見えた。


「えっと…」


 ガルナは明らかに動揺していた。


『ガルナもやっぱりこういうところがあるんだな…』


 ライキルは少し驚きつつ、そんな彼女が愛らしく見えた。


「一緒にいて楽しいところかな!」


 ガルナが照れて言うがかなり無難な答えだった。


「分かります、ハルといると楽しくて時間がすぐなくなってしまいますからね!」


 ライキルはその無難な答えでもちゃんと納得した。人を好きになる理由など人それぞれなのを知っていたからだった。それでもライキルはガルナのことをちゃんと知っておきたかった。


「ライキルちゃんはどうなの?」


「わ、わたしですか!?」


 当然のようにライキルはカウンターをくらうと、顔がじわじわと赤くなっていった。


「私は小さいころハルに魔獣から助けてもらったことがきっかけでした」


「うへえー、そうなんだ」


「十年前くらいですかね、出会った時がちょうど私が六歳とかだったので」


「うへえー、いいな私も、もっと早くみんなに会いたかったな」


 ガルナは変な相槌と共に羨ましそうにライキルを見た。


「でも、最初は私ハルのこと好きじゃなかったんですよ」


「うえ!何で?」


「フフ、だってハル、エウスと一緒に私のいた道場に殴りこんで来たんですから」


 ライキルは昔を思い出して楽しそうに笑った。


「そうなの!?」


「ええ、その時の道場に門下生が何十人もいたのに全員ハルに倒されちゃって」


「やっぱり、昔からハルは強かったのか!?」


 ガルナもハルの過去に興味津々だった。


「そうですね、力は強かったですが、それでも最初ハルは剣や武器の扱いがダメダメでしたね」


「へええ、そうなんだ、ライキルちゃんもっと話して、話して!」


「フフ、いいですよ、思い出はたくさんありますから…」


 ライキルは嬉しそうに微笑んだ。



 それからライキルがガルナに思い出話を聞かせていると塔の頂上のドアが開いた。


「やっぱり、ここにいたな、探したぜ」


 二人が声の方を振り向くとそこにはエウスがいた。


「あ、エウスだ、道場破りのエウスだ」


「え?どういうこと?」


「アハハハハハハ!」


 ライキルがおかしそうに笑った。


「さてはライキル、昔のことガルナに話したな」


 察しのいいエウスはすぐに気づいた。


「ええ、そうです」


「まったく、変なこと言ってないだろうな?」


「無理ですよ、ハルとエウスはずっと変な行動してたんですから」


「おいおい、失礼だな…」


「フフフ、だって本当のことじゃないですか」


 楽しそうに笑うライキルを見てエウスは少し安心した。


「そうだな…」


 エウスも一瞬過去の思い出が溢れて懐かしさで笑みが零れた。エウスが懐かしさに浸っているとライキルが尋ねた。


「それでエウス、何かあったんですか?」


「ああ、そうだ、明日、霧の近くまで偵察に行くんだが…」


 そこでエウスは言葉を詰まらせた。


「どうしたんですか?」


「いや、実は今日、南に偵察にでた部隊が神獣を見たって言うんだ」


「本当ですか?」


「ああ、それで監視塔で残りたい奴は残っていいってことになってな、お前たちはどうする?」


「偵察に出ますよ、もしかしたらハルが戻って来るタイミングと重なるかもしれないので」


「今度は危険かもしれないぞ…」


 エウスが心配そうに言った。


「そんなのはいつもじゃないですか、それにエウスも行くんですよね、だったら私も行きますよ」


 ライキルはエウス目を見て言った。その黄色い瞳が力強く月明かりで輝いていた。


「分かったよ、ガルナは…」


「もちろん行くぞ、私も早くハルに会いたいからな」


 ガルナがエウスの言葉を待たずに言った。


「ハルに会えるかはわからないが、分かった伝えておくよ」


 それだけ言うとエウスが塔の頂上からでて行こうとした。


「あ、エウス、ちょっと待ってくれ」


 ガルナがエウスを引き留めた。


「ん?どうしたんだ、ガルナ?」


「エウスからもハルの昔のこと話してくれないか?」


「………フッ…」


 エウスはその言葉を聞くと少し口角を上げて戻って来た。


「しゃあないな、ハルのあんなことやこんなことを語ってやるか!」


「あ、でもハルを侮辱したら許しませんよ」


 ライキルがエウスを睨んで言った。


「バーカ、ハルの一番の親友であるこの俺様があいつを貶めるようなこと言うと思うなよ」


「ならいいんですよ」


「お前だって知ってるだろ、俺とハルが喧嘩したこと無いほど、ずっと仲良しだってこと!」


「ガルナ今のは嘘ですよ、食事のときハルとエウスはしょっちゅう肉の取り合いで喧嘩していました」


「アハハハハハハハハ!」


 ガルナが二人のやり取りを聞いて大笑いした。


 そのあと、三人は夢中になってハルの話をした。その時間は彼がいない不安と孤独を完全に忘れさせてくれた。
























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